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審判がアウトのサインを出すと、会場がざわついた。

「ミスった!!」
「及川がサーブミスった…!!」

次の日向のサーブは綺麗にセッターに返り、岩泉がスパイクを決める。

「これでチャラな。どっちだって同じ1点だ」
「!!」
「(岩泉さんカッケー!!)」
「岩ちゃんに負けた気分…!」
「おまえは今までのいつ俺に勝ったんだ」
「全体的にいつも俺が勝ってる!アダッ」

ベンチで見ていた名前は、及川がサーブミスを引きずっていない様子で安心した。

「もう岩泉が主将でいいと思います」
「良いバランスだな。岩泉の1点と一言でチームが崩れるのを免れた」
「お互い、自分に足りない部分を補い合ってて、良い関係ですよね」

そして、その後は一進一退を繰り返し31対31と、30点を越えた。
次は及川のサーブの番。

「及川」

岩泉は、サービスゾーンに向かう及川に声をかける。

「おまえ、試合中にウシワカの顔チラついてんならブットバスからな」
「!!(たしかにさっきのサーブの前にちょっと過ったけども)…」
「目の前の相手さえ見えてない奴が、その先にいる相手を倒せるもんかよ」
「ふ…ふっふふ…」

及川は金田一からボールを受け取ると「そうだね」と吹っ切れた顔で答えた。
その様子をベンチから見ていた名前は、次のサーブは大丈夫だと確信した。
及川のサーブは、今日イチ勢いのあるサーブで、澤村はなんとかボールを上げるが、そのまま青城コートに返る。

「返ってくる!チャンスボール!」
「オーライ!」

及川のトスは国見に上がる。
国見のスパイクを辛うじて影山が上げるが、ボールはもう一度ダイレクトで青城コートに戻ってくる。

「チャンスボール!」

「よし!国見!動け!」

国見に上がったボールを、フェイントで烏野コートに落とすと、今度は青城のマッチポイントとなる。

「よし!国見ナイス!」

コートの中で集まった6人、及川は「ちょっとこのまま聞いて」と話し始めた。

「次、烏野に速攻を使えそうな場面があったら飛雄は必ず”神業”の方を使ってくる。頭に入れといて」
「マジかよ」
「うん。だから、ちゃんと見ててね」

及川がサービスゾーンに立つ。

「…ああ嫌だなぁ…ホント厄介」

ボールを両手で扱いながら及川は思っていた。

「(…飛雄、急速に進化するおまえに)俺は負けるかもしれないね」

ピーっという笛を合図に、及川はサーブトスを上げる。

「(でも)」

及川のサーブは前に落とす軟打で、澤村は急いで前に出てボールを拾う。
影山のトスは東峰に上がるが、青城は3枚ブロックでスパイクを防ぐ。
吹っ飛ばされたボールを、渡が拾い、及川は岩泉にトスを上げる。

「繋げ繋げェ!!」
「岩ちゃん!」
「一!!」

田中がレシーブしたボールはダイレクトで青城コートに返ってきて、金田一がそれをそのまま叩く。
しかし、西谷が拾い、影山が急いでボールの落下地点に入る。

「金田一、国見!」
「!ハイ!」

及川の予想通り、影山は神業速攻で日向にトスを上げる。
岩泉、金田一、国見のブロックで、日向のスパイクは綺麗に止められて、ボールはそのまま烏野コートに落ちる。

「(でも、それは今日じゃない)」

「うおっしゃああああああああ!!」

第3セットが終了し、セットカウント2対1で青葉城西高校の勝利。

「監督!溝口くん!やりましたね!」
「うん」
「よっしゃあああ!!」

整列するタイミングで、岩泉は及川に問いかけた。

「どうして最後のが”神業速攻”だってわかった?」
「飛雄が烏野のあの面子の中で”進化”したからだよ。アイツは初めて信頼を覚え始めた。そして、デュースが続いて身も心も疲労のピーク。本当に追い詰められた土壇場、そこへ与えられた貴重なチャンス。その時、今の飛雄の選択肢はひとつしかないんだよ」
「…なるほどな」

両チームが整列をして、あいさつをすると、それぞれ応援席の前に向かいあいさつをする。



「お疲れ様でした」

名前はボトルを及川に手渡す。

「ありがとう」
「ギリギリだったんじゃない?」
「なかなかいい試合だったよね」
「次準々決勝だろ。フルセット、最終セット30点越えはきついわ」

名前はタオルを配りながら「汗拭いて、着替えてね。軽食も用意してるから食べてから、少し休んでよ」と言った。

「おー」

試合に出ていた7人は汗を拭いてから着替えを取り出すと、その場でユニフォームを着替える。

「”一人だけ上手くても勝てないんだよドンマイ☆”って言ってやるんじゃなかったっけ?」
「…一人だけ強いワケじゃなかったじゃん烏野は」
「おまえめんどくせーな」
「酷いな!」

岩泉にツッコミを入れる及川。

「2セット目のラストで岩ちゃんのトスを読まれた時、飛雄が独裁の王様からマトモな王様になろうとしてるとわかった。もし飛雄が昔の”独裁者”のままだったとしても、ラストはチビちゃんに上げたかもしれないけど、その場合は”可能性がある”ってだけで”絶対に上げる”とまでは思えなかった」

及川はそう言うと「俺の攻撃を読んでみせたことが、今度は俺に攻撃を読まれることになっちゃったワケだ」と続けた。

「あの影山が、今やっと他人への信頼を覚え始めたわけか…」
「ホント…厄介この上ないよねぇ…」

そんな2人の会話を聞いていた名前は、2人に近づくと軽く背中を叩く。

「名前ちゃん?」
「次に戦う時は、もっと面白くなりそうだね」
「…うん、そうだね」



休憩時間を挟み、青葉城西の準々決勝が始まる。
結果は青葉城西の勝利で、準決勝に駒を進めた。
そして、次の準決勝も勝ち進み、月曜日の決勝戦を迎えることになる。







男子決勝、青葉城西高校VS白鳥沢学園の試合当日。

「名前ちゃんは?」
「トイレに行きました」
「了解!」

名前はトイレから出ると、前から牛島が歩いてくることに気付く。

「…」
「…」

牛島は顔を上げると名前が見ていることに気付く。

「…名前」
「やっほー牛島くん、調子はどうですか?」
「問題ない。いつも通りだ」
「そうですかーそれは良かった。今日こそは負けないよ」
「ああ。期待している」

牛島の反応に苛立つ名前だったが、怒りを隠して笑顔でその場から離れようとする。

「あれ、苗字さんじゃないですか」
「…白布…」

そこに、白鳥沢学園2年の白布がやって来た。

「今日もわざわざお疲れ様です」
「んー?それは私たちが負けにわざわざ来てお疲れ様ってことかな?」
「え、わかるんですね、さすがです」
「あんたは本当かわいくないねー」
「苗字さんにかわいいと思ってもらわなくて大丈夫なんで」

白布の嫌味に名前は「ほんっとかわいくない!牛島!あんたんとこの2年、まっじでかわいくない!」と牛島に八つ当たりをする。

「?それはすまない」
「思ってないよね!何言ってんだこいつって思ってるよね!」
「早く戻った方がいいんじゃないんですか?あなたの大事な大事な及川さんと岩泉さんが待ってますよ」
「…絶対潰す!」
「マネージャーのあなたがどうやって?」

白布は鼻で笑うと「牛島さん、行きましょう」と牛島に声をかけてその場を後にした。
名前は怒りを隠せないまま青城ベンチに戻ると「及川!岩泉!」と2人を呼んだ。

「名前ちゃん?ご機嫌ななめだね」
「どうした?」

名前は2人をまとめて抱きしめると「ぜーったい負けないでよ!!」と伝えた。

「なんだ?なんかあったか?」
「よくわかんないけど、今日こそは絶対勝つよ!」
「頼んだ!!」

白鳥沢学園との決勝戦が始まる。
主将の及川と牛島がコートの中で向かい合うと「今日こそ凹ましてやるから覚悟しなよ、ウシワカちゃん」と及川が挑発をする。

「その呼び方をやめろ及川」

そうして始まった決勝戦。
青葉城西は決して弱くない。
及川徹を中心としたバランスの取れたチームで、選手たちが常に考えて、試合の中で臨機応変に対処していく。
どんな相手にも一定以上のパフォーマンスをすることができる”安定性”と”柔軟性”のあるチーム。
完成度の高い時間差攻撃を主体とした、”練り上げられた強さ”があるのが青葉城西だ。
そして、反対に白鳥沢は力尽くで点を奪っていくパワースタイル。
今までの練習や経験、策略などを全部力だけでへし折っていく。

「…本当…ムカつく…」

「まあ、勝利までの過程なんて関係ないよね。コートにボールを落とした方が負け」

セットカウント2対0。
1セットを獲ることが、こんなにも難しいことだなんて、誰が思っただろうか。

インターハイ宮城県予選の優勝は、今年も白鳥沢学園だった。



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