青葉城西でも、期末試験が始まった。
「名前ちゃんはいいよねー!頭いいんだし、試験勉強すこーしすれば大体解けちゃうでしょ」
「まあ、授業聞いて、教科書読めば大体わかるよね」
「言ってみてえな、そんなセリフ」
試験中は部活動が禁止されているので、5人でファミレスに来ていた。
「名前、ここ教えて」
「どこ?」
「この問題。なんでこの接続詞になるの?」
「ああ、これは」
松川に英語の説明をしていると、岩泉が「まじで言語得意だよな」と言った。
「語学と言って。文法なんて法則だからね。一度覚えちゃえば簡単だよ」
「進路決めたか?」
「みんなは?」
名前が逆に質問をする。
「俺は、普通に大学進学だな」
「だよね。私も進学だよ」
「まあ無難に進学だよね」
「だろうな」
松川と花巻も続いてそう言うが、及川だけは何も答えなかった。
「徹?」
「ん?」
「おめえは、また変なこと考えてんじゃねえだろうな」
「酷いな!俺はいつでも真面目に考えてるよ!」
「どうだか」
及川はそう言うと「ドリンクバー取ってくるねー!」と、席を立つ。
「…徹は、バレー続けるよね?」
「だろ。あいつからバレー取ったら何が残んだよ」
「そうだよね…」
及川がドリンクバーから戻ってくると、5人は勉強の続きを始めた。
期末試験も終わり、夏休みまであと数日となった月曜日。
青葉城西男子バレー部は、月曜日がオフだ。
「名前ちゃん今日暇?」
「暇じゃないけど、何?」
「今日さー猛をちびっこバレー教室に連れて行かないといけないんだけど、一緒に行かない?」
「えー…てか、徹って猛の面倒見るんだね」
名前は及川が子どもの相手をしている姿を想像して笑う。
「あ!酷いな!姉ちゃんがどうしても連れてけってうるさいんだもん!」
「面白そうだからついてく!」
「一緒に行けるのにあんまり嬉しくないー!」
「まあまあ、そんなこと言わずに」
名前はニヤニヤしながら及川の背中を押す。
「あ、一も一緒に来る?」
隣にいた岩泉に声をかける名前。
「貴重なオフをなんでこいつと過ごさなきゃいけねえんだよ」
「それもそうか」
「2人とも酷くない!?」
「じゃあちびっこバレー教室にレッツゴー!」
「名前ちゃんが楽しそうならいいけどさ!」
及川と名前は、途中で及川の姉と合流し、甥っ子の猛を預かると3人バレー教室の会場に向かう。
「プロが教えるって、誰が来るんだろうね?」
「さあね。若い選手なんじゃない?」
「徹、名前ちゃん!早く行こうぜ!」
「あ、猛!走っちゃダメだって!」
体育館の中に入ると、猛と同い年くらいの子どもたちが何人かいて、プロのバレー選手に楽しくバレーを教わっていた。
「じゃあ俺たちはここにいるから、猛も教えてもらってきなよ」
「わかった!」
及川と名前は保護者の見学エリアに座ると、猛がバレーボールを追いかけている姿を眺める。
「楽しそうだね」
「バレーは楽しいよ」
「徹を見てたらバレーやりたくなるよね。猛がバレーに興味を持つのは当然だよね」
「そうかな?」
及川はそう言うと、猛のことを見ながら「…あんな風に、純粋に楽しいって気持ちだけでバレーができるのはいつまでなんだろう」とつぶやいた。
「…徹は、バレー楽しくない?」
「…楽し…くないって言ったら嘘になるけど…それでも今は…苦しいかな…」
「そっか」
「…俺は、ウシワカみたいに圧倒的なパワーがあるわけじゃないし、トビオみたいに天才じゃない。練習と努力と知恵でなんとかここまでやってきたけど…それも限界なのかなって」
「…」
「ごめんね、主将なのにこんなこと言って…」
「主将だからって、弱音を言っちゃダメってことはないから。むしろ、私は徹が主将やるって聞いた時反対したから」
名前の言葉に及川はショックを受ける。
「そうなの!?名前も賛成してくれてるんだと思ってた!」
「だって、徹はそういうの向いてないじゃない?プレッシャーとか責任とか、そういうのに縛られたらまた中学の時みたいに自分1人で背負いこむんじゃないかって心配だった…」
「あの時は、心配かけてごめんね」
及川はそう言うと苦笑いをした。
「でも、あの時はちゃんと吐き出したから吹っ切れたじゃない?」
「そうだね。岩ちゃんのおかげだ」
「今は、あの時以上のプレッシャーと戦ってるのかなって思ってたから、徹の弱音が聞けて私は嬉しいよ」
そう言うと名前は及川の頭を撫でる。
「私は徹のバレーが好きだよ。どこで、どんなプレーをしてても、それだけは変わらないってことは知っててほしいかな」
「名前…」
及川は顔を伏せると、小さな声で「…ありがとう…」と言った。
「楽しかったねーっ!帰って練習しよ!」
「猛!そしたら私としよ!」
「わーい!名前ちゃんとバレーやる!」
そう言って駆け出した猛に「あ!こら、ちゃんと前見なさい!」と名前は呼び止める。
「じゃあ手繋いで!」
「あ!ダメだよ!名前と手を繋いでいいのは俺だけだからね!」
「ええー!あ、徹!サーブ教えてくれよ!」
「あのさ!まず呼び捨てをやめようか!」
「今更じゃない」
及川が顔を上げると、そこに見知った顔があった。
「アッ?」
「ゲッ!!」
「え?」
「及川さん…それに名前さん」
「飛雄!!」
「飛雄くん」
「?」
そこには影山が立っていた。
「…お、及川さんたちは何してるんスか」
「甥っ子の付き添い」
「の、付き添い」
「オス!」
「部活は?」
「ウチは基本月曜はオフなの」
「しゅ週1で休みが!?もったいない…!」
「”休息”と”サボり”は違うんだよ、じゃ。名前も行こ」
及川はそう言うと、名前の手を取って歩き出す。
「!!おっ、及川さん!あの」
「嫌だね!バーカバーカ!」
「(まだ何も言ってねーよ!)」
影山は頭を下げると「…お願いします。話を聞いてください」と言った。
「!」
「…徹、少しだけでも話聞いてあげたら?」
「なーんでわざわざ敵の話聞いてやんなきゃいけないのさ」
「…まあそれもそうね」
「名前さん!?」
影山は2人にそう言われたがあきらめず、腰を90度に曲げたまま2人の前に回り込むと「お…お願いしアアアアス!!」と大きな声で言った。
「わぁああ!?」
「と、飛雄くんやば!」
そんな影山を見て、及川はひらめいた。
「猛」
「なに?」
「写真撮って。こう持って…ここ押してー。飛雄、動くな」
「?」
「…徹…」
猛は言われた通りカメラをかまえて写真を撮る。
「イエーイ。飛雄、及川さんに頭が上がらないの図!」
「…」
「徹、こんな写真嬉しいのか?ダッセー!」
「はぅううぐう!?」
「徹、小学生じゃないんだから恥ずかしくないの?」
「名前まで!?」
及川は影山の方を向き直すと「で。何。俺忙しいんだよね」と言った。
「カノジョにフラれたから暇だってゆったじゃん!」
「猛ちょっと黙ってなさい!」
「及川、あんた彼女いたの?」
「い、いないよ!!」
「え?この前ゆってたじゃん!カノジョできたーって!」
「ふーん」
「ちょ、ち、ちが!いや、違くはないんだけど、あれ、猛に見栄を張ったって言うか!」
「お幸せに」
「あー!もう本当に違うんだって!猛!おまえ余計なこと言わないの!」
「えー」
「…」
名前は及川を冷めた目で見た後に「ほら、ちゃんと聞いてあげなよ彼女にフラれた及川さん」と言った。
「名前ー…」
「あの…いいっスか?」
「おまえもすごいね!はいどうぞ!」
及川がそう言うと、影山が話始めた。
「…あ〜あの、もし大会が近いのに、えーと…あっ、岩泉さんが無茶な攻撃をやるって言い出したら」
「チョット。何か相談したいならヘタクソな例え話やめて直球で来なよ」
及川の言葉に腹をくくった影山は、ハッキリと日向が何をしようとしているかを及川に話す。
「…今までボールを見ずに打っていた速攻を、日向が”自分の意思で打ちたい”って言い出しました」
「へーできたら凄いじゃん、やれば」
「そんな簡単に言わないでください!日向には技術なんてないんですよ!」
「たから”俺の言う通りにだけ動いてろ”っての?まるで独裁者だね?」
「!」
「おまえは考えたの?チビちゃんが欲しいトスに100%応えているか、応える努力をしたのか」
及川は続ける。
「現状がベストだと思い込んで守りに入るとは、随分ビビりだね?勘違いするな、攻撃の主導権を握ってるのはおまえじゃなくてチビちゃんだ」
そう言うと、及川は名前の手を取る。
「それを理解できないならおまえは独裁の王様に逆戻りだね」
そして「行くよ、猛」と猛を呼んで、そのまま階段を下がる。
「フンヌフーン♪」
「ゴキゲンか徹」
「思ってた以上に飛雄がポンコツで嬉しいね〜!」
及川は、携帯を取り出すと、先ほど猛に撮ってもらった写真を確認する。
「!!写真俺だけブレブレじゃんか!!」
「ゴキゲンなとこ悪いけど、名前ちゃんはフキゲンだよ」
猛にそう言われた及川は、名前を見る。
「あー…名前ちゃん?まだ怒ってる?」
「怒ってないよ」
「怒ってるときに言い方だねソレ!!」
及川は携帯をポケットにしまうと名前の両手を握る。
「あれはさ!猛についた嘘なの!本当違うから!俺はいつだって名前一筋なの!」
「もうわかってるって」
及川の必死の形相に、思わず吹き出す名前。
「徹が見栄っ張りなのなんて昔からじゃん。彼女がいたことがないのも知ってるから、必死すぎ」
「なんか複雑だけど、誤解が解けたようで良かったよ!」
「さっさと帰って猛とバレーしよ」
「うん!」