「今日はうちのOBがいる大学生チームと練習試合だからね!」
「大学生かぁ…」
「パワーやばそう」
及川がそう言うと、部員たちは少しざわつく。
が、及川が手を叩くとすぐに静かになる。
「今回はレギュラー陣もそうだけど、1年や2年にも出てもらおうと思ってるからそのつもりでいてね」
「はい!」
大学生チームが来るまで、アップをすることになった部員たち。
名前とマネージャーたちもいつも通りの仕事を始める。
「今日は絶好の洗濯日和だから、一気に洗濯機まわしちゃおう」
「わかりました!」
「あ、みんなはドリンク作りと、おにぎりの準備をお願いしようかな」
「名前先輩一人で大丈夫ですか?」
「力仕事は任せて」
「了解です!」
名前は大量の洗濯物を洗いに、体育館を出ようとするが、扉を開ける前に勝手に扉が開いた。
「おっ、名前ちゃんじゃん」
「先輩方、お久しぶりです」
大学生チームが到着し、青城のOBが名前に声をかけた。
「どうよ、今年の青城は?」
「強いですよ。過去一って言っても過言ではないくらい完成してます」
「それは楽しみだ」
「でも、結局インハイ予選は白鳥沢に負けたんでしょ?」
「…そうですね」
「なら青城も大したことないんじゃない?」
「おい、やめろよ!」
見たことがない顔だから知らない人だ、と名前は思った。
「大したことがないかどうかは、今日の練習試合でわかるんじゃないでしょうか?」
「…へえ」
「ちょっと!マジでやめて!及川と岩泉に怒られるから!」
「誰?」
「主将と副主将!」
「まあ、有意義な練習試合になることを祈ってるよ」
その人物はそう言うと、手を振って体育館の中に入って行った。
「名前ちゃんごめんなー。あいつ県外出身でウチの強さ知らないんだよ」
「でしょうね!宮城の人間ならあんなこと絶対言わないと思いますので!」
「おお、名前ちゃん怒ってるね。ごめん」
「いいんですよ。試合で及川と岩泉たちがボコボコにするんで」
「それって俺までボコボコにされるってことだよね!?」
「先輩も試合出るんですね?」
「出るよ!」
「楽しみにしてますね」
「その笑顔が怖い…」
名前はそう言うと「じゃあ、私は洗濯に行くので。あっちです」とベンチを指さす。
「ありがとう」
「また後ほど」
本来の目的である洗濯室に向かう名前。
「…確かに青城は一度も全国に行けてないけど…今年こそは…絶対行けるもん…」
「だな」
「!」
独り言に返事が返ってくるとは思わなかった名前は、驚いて後ろを振り返る。
「一!」
「何してんだよ」
「それはこっちのセリフだよ。そろそろ試合始まるでしょ?」
「さっき入り口んとこでもめてたろ?」
「別にもめてないよ。相手さんがウチの悪口言ってきたからイラっとしただけ」
「それをもめてるって言うんだよ」
「大丈夫!一と徹が試合でボコボコにするって宣言しておいたから!」
「ボコボコにすんのは俺らなんだな」
そう言うと、岩泉は笑う。
「変に落ち込んでるわけじゃねえんだな」
「心配性だなー。大丈夫だよ」
「それならいい」
岩泉は名前の頭を軽く撫でると、体育館に戻って行った。
洗濯から戻って来た名前は、すでに始まっていた練習試合をコートの外から見る。
1セット目は青城が獲ったようだ。
「やっぱりウチは強い」
名前がニコニコしながら試合を見ていると、コートの中にいた岩泉が名前に気付き、吹き出した。
「岩ちゃん!?試合中に何笑ってるの!」
「別になんでもねえよ」
「もう!ちゃんと集中してよね!」
「わかってるっつーの!」
そのまま試合は進み、青葉城西が勝ちで第一試合は終了した。
「くうううう!やっぱおまえら強いな!」
「いやーそれほどでも」
「ほら、強かったろ!」
「…そうだな。さっきは悪いこと言ったな」
「さっき?」
「及川ごめん!さっきこいつが名前ちゃんに変なこと言ったんだ!」
「…そうですか」
「ちょ、真顔やめて!及川のその顔怖いんだって!」
OBにそう言われると及川は表情を戻す。
「まあ、何を言ったかは知らないですけど、その時に言った気持ちと変わりましたか?」
「変わった。おまえたちは強いな」
「それならいいです」
そう言って、及川は笑顔を見せる。
「せっかくだし、メンバーを入れ替えてもう一回試合しませんか?」
「え?」
「シャッフルするってことか?」
「というか、俺がそっちのチームに入ります。代わりにそちらのセッターがウチに入ってくれませんか?」
「いいけど」
「なんでおまえだけなんだよ」
「…ちょっとね」
「あ?」
岩泉の質問には答えず、及川は大学生チームのコートの中に入っていく。
「及川でーす!よろしくお願いします」
初めて会う人が多いので、及川は挨拶をした。
「始めんぞー」
「青城の主将、なんかチャラいなー」
ピーッと笛が鳴り、セッターを入れ替えた練習試合が始まった。
名前はスコアボードにいる金田一と国見に近寄ると「2人は見学?」と聞いた。
「あ、ハイ!」
「外から見てると、また違った意味で勉強になりますね」
「だよね」
名前は及川を見ながら「ほーんと、及川徹ってすごい選手だよね」とつぶやいた。
「楽しそうですよね」
「初対面の人が多いのに、なんであんなに相手のことを100%想ったプレーができるんだろうね」
「意外と尽くしますよね」
「意外か?苗字さんによく尽くしてるから、元々尽くす人じゃね?」
「え、私って及川に尽くされてるって思われてるの?」
金田一の言葉にショックを隠せない名前に、逆に金田一と国見が困惑した表情を見せる。
「え…っと、俺たちにはそう見えます…」
「うそでしょ…」
「そんなショック受けますか?」
「私、自分で言うのもなんだけど尽くすタイプだと思ってたから」
「それはないです」
「ハモるな」
名前はしくしくと泣きまねをした後「もういいもん。洗濯物回収してくる…」と言いながら体育館を出た。
体育館裏を通っていると、体育館の壁に張り付いている人間がいることに気付く。
「ふ、不審者?」
相手に気付かれないようにゆっくり近づくと、その人間は烏野の影山だということに気付く名前。
「なんで飛雄くんがここに?」
名前は影山に気付かれないよう、ゆっくり背後から近づく。
そして、後ろから影山の目を手で隠すと「だーれだ!」と言った。
「!!??」
驚いた影山は声にならない声を上げて、名前の手を掴んてそのまま勢いよく後ろを振り返る。
「わっ!」
「ッ!!」
いきなり後ろを振り返った影山に名前は驚き、体勢を崩すと尻もちをついた。
そして、名前の手を掴んでいた影山も名前に引っぱられるように体勢を崩し、名前に覆いかぶさるように地面に片手と足をつく。
「名前さん!?」
「飛雄くん、何してるの?」
「あ、イエ!これはその!」
「…まあいいや。まずは落ち着いて、手を離してどいてくれるかな?」
「…うわああああ!すんません!!!」
影山はいわゆる名前を押し倒しているような体勢になっていることに気付くと、名前からどく。
「あんまり大きい声出すと及川たちにバレるよ?」
「うっ…ス…」
名前も立ち上がるとお尻についていた砂を落とし、影山に向き合う。
「で?何してたの?」
「あ…あの…」
「偵察?影山くんやらしー!」
「そ、そんなんじゃないっス!!」
「わかってるよ。冗談だって」
「…及川さんたちを…代表決定戦前にどうしても見ておきたいって思って…」
影山がそう言うと、名前は「なるほどね」と言った。
「やっぱり及川さんはスゲーってなりました…」
「当たり前でしょ。及川だもん」
「でも!!その及川さんの3年間を全部詰め込んだ今の青城を、俺たちはチームで絶対勝ちます!」
名前はその言葉にピクリと反応した。
「…バレーは6人で強い方が強い」
「?」
「…そうだね。ウチも絶対負けないよ。勝つのは青城だ」
「代表決定戦で当たったら負けません!」
名前は「はいはい。そんな天才セッター飛雄くんは、こんなところで時間を無駄にしてていいのかなー?早く帰って練習するなり休息とるなりしなさいよ」と言った。
「ス!名前さん、なんか最近及川さんに似てきましたね」
「なんて!?」
「それじゃあ、ありがとうございました!」
「ちょっと言い逃げ!?」
影山は名前にお礼を言うと、そのまま駆け足で体育館裏から去って行った。
「まったく…本当みんなバレーが好きだねえ」
名前はそう言うと、洗濯室に向かう。
洗濯物を回収し、畳んだり戻したりをしていると、あっという間に夕方になる。
名前が体育館に戻った時には、すでに大学生チームは帰っていて、各自の自主練が始まっていた。
「あ、名前ちゃんやっと戻って来たー!」
「及川、どうだった?」
「バッチリ!いい試合ができたよー!」
「それならよかった」
名前がそう言うと、及川が「へっぶしょーい!!」と大きなくしゃみをした。
「ちょっと!汚い!」
「え、ひどい!」
「どうしたの?」
「う〜悪寒…」
「風邪なんかひいたらブットバスかんな!」
「それは散々すぎる!!」
「今日は早く帰ろう」
「そうだね…風邪ひいたら岩ちゃんにぶっとばされる…」
及川はそう言うと、自主練を切り上げた。