18

昼休み、名前と岩泉のいる教室に集まる及川、花巻、松川の3人。
名前の席に集まってそれぞれ椅子に座ると、持参したお弁当や購買で買ってきたパンを開けて食べ始める。

「珍しいな、名前が月バリ買ってんの」
「ああ、これ?」

花巻の問いかけに、名前は広げていた月刊バリボーを閉じる。

「何何?今回こそは及川さん載ってた?」
「取材もされてないのに載ってると思う?」
「だよねー!」
「誰目当てで買ったんだよ?」

名前は、もう一度雑誌を広げるとお目当ての特集ページを開いて4人に見せる。

「これ!稲荷崎高校の宮侑くんの特集」
「…はああ!!?」
「及川うるさい」

及川は名前から雑誌をひったくると、宮侑の特集ページを食い入るように見つめる。

「ちょっと!変に折ったりしないでよね!」
「こいつって、確かセッターだったよな?」
「そう」
「本当、名前はセッター好きだねー」
「なんでこんなの見てるの!!」
「こんなのって…。普通に宮くんのセットアップが気になるから読んでただけ」

名前はそう答えると、及川から雑誌を取り返した。

「えー!名前ちゃん浮気しちゃダメだって言ってるじゃん!」
「浮気じゃないから」
「岩ちゃん!名前が浮気してるー!!」
「うるせえ!」

教室の中で騒いでいる及川に、周りの視線が集まる。

「ねえ、ちょっとうるさい。目立ってるよ」
「及川さんが目立つのは今に始まった話じゃないからね!」
「そういう意味じゃないだろ」
「名前のセッター好きはどうにもならないから仕方ねえだろ。及川、おまえがあきらめろ」
「うっ…!」

名前は、もう一度雑誌を広げながら「はあ〜やっぱいいよね宮くん。体幹もしっかりしてるし、迷いなくボールの落下地点に入って綺麗なトスを上げるところが良い!一度でいいから実際にトスを上げてるところを見たい!」とうっとりした顔で言った。

「な!俺の方が体幹しっかりしているし、落下地点に入るのも早いし、スパイカーが打ちやすいトス上げられるよ!」

そう反論する及川に、名前は「え?そんな当たり前のこと、なんで焦った感じで言うの?」と聞いた。

「え?」
「徹のトスが世界一なのは私が一番よく知ってるよ。一も、花巻も松川も、多分徹のトスを打ったことある人みんなが知ってるよ」
「〜〜っ!」
「世界一かは知んねえけどな」
「まず比べるのが間違ってるよね」
「も…もう!!急に褒めるのやめてよ!」
「褒めても怒るってなんなんだよ」
「褒められ慣れてないんでしょ」

名前にハッキリとそう言われてあたふたしている及川を見て、3人はあきれた顔をしながら笑った。

「て、そうだ。こんなことしてる場合じゃなかった」

名前は、残りのお弁当を一気にかきこむと、席を立った。

「どこ行くの?」
「1組」
「俺のクラスに用事あった?」
「違うわよ。2年1組」
「2年?」
「京谷か?」

岩泉が聞くと、名前はうなずく。

「そ。今日から戻ってくるんでしょ?一応声かけておこうと思って」
「いるか?」
「京谷だって、久しぶりの部活なんだし、緊張してるかもしれないじゃない?」
「まあ…たしかに?」
「あいつが緊張なんてするかよ」
「狂犬ちゃん昼休みに教室にいるタイプかな?」
「あー…いなそう」
「無駄足になりそうだからやめとけよ」
「先輩たち薄情ね」

名前はもう一度椅子に座り直す。

「…まあ、京谷は自分の力でなんとかするか」
「過保護すぎるのも違うだろ」
「だねー」







放課後になり、部活が始まるが、京谷はなかなか姿を現さない。

「…本当に来るんだろうな?」
「って、監督も言ってたよ」
「一度逃げたやつはそこまでってことなんじゃない?」
「来ないなら来ないで仕方ないな」

4人がそんな風に話していると、体育館の扉が開く。
そこにはコンビニで買ったホットスナックを頬張りながら体育館の中を睨む京谷の姿があった。

「買い食いしてんじゃん」
「ウケる」
「ウケてる場合か!」

京谷に声をかけようと及川が動くが、その前に矢巾が京谷に怒鳴る。

「オイ!久々に来たんならマトモに挨拶くらいしろよ!」

そんな矢巾の後ろから及川が声をかけた。

「まあまあまあ矢巾、落ち着いて」
「!及川さん」
「久しぶり〜待ってたよ〜」
「…」
「オカエリ、狂犬ちゃん」

そう言って及川は京谷に笑いかける。

「え、誰すか?なんすか”狂犬”て」

初めて見る顔に、金田一は矢巾に問いかける。

「2年の京谷賢太郎。”狂犬”は及川さんが勝手につけた。中学ん時結構有名だったろ、ホラ南三中の」
「!ああ…!いました確かに!南三中はあの代だけ強かったんですよね…!」
「あいつ、協調性とか皆無だけど実力は俺たちの学年ではズバ抜けててさ。入部早々練習試合に出るチャンスもあったんだけど、イキナリ当時の3年と衝突してさあ。言うことはともかく言い方がな…」

矢巾はそう言うと、当時のことを思い出した。

「その後も当時の3年とは険悪だし、そのせいで同じ1年からは煙たがられるって感じでそのうち来なくなったんだよ」

京谷は「何だよ、まだ3年いんのかよ」と言い出した。

「インターハイ予選で負けてもう引退したかと思ったのに」
「!!?」

その京谷の言葉に金田一や矢巾は顔を青ざめた。

「ムッフフ!!相変わらず狂犬ちゃんは面白い!」
「変な呼び方しないでほしいんスけど」
「”ああっ!及川さんがいる代に同じチームでプレーできて良かった!”」
「?」
「って、思えるようにしてあげるね」

及川がそう言うと、京谷は及川から距離を取った。

「(本能で及川さんを警戒している…?」と国見は思った。

「よし!じゃあ練習再開しようか!」

及川の言葉を合図に、部員たちは練習に戻る。

「京谷」

名前が声をかけると、京谷が振り向く。

「…」
「あんたちゃんと動けるんでしょうね?そんなチキン食べて」
「…お節介ババア」
「よし、一発殴るから歯ァ食いしばれ!」
「こらこら名前ちゃんやめなさい!」

及川が名前の後ろから両腕を持って止める。

「狂犬ちゃんも大事な戦力だからね」
「戦力になるかどうかは、今からの練習を見て判断するわ」
「それもそうだね。じゃあ狂犬ちゃん、よろしくね」
「…」

そうして京谷を含めた練習が再開する。
名前は、記録をつけながら京谷の練習風景を見ていた。

「…なんだ…ちゃんとバレー好きじゃん」

いまいち納得のいかない矢巾は、及川たちに聞きに行った。

「あの、及川さん…。本当にあいつのこと使うんですか?」
「矢巾は何が気になるの?」
「だって!あいつ、久しぶりに練習に来て、態度が前と変わってないですし…それこそ他の部員から不満が出るんじゃないのかって…」

矢巾がそう言うと、全員で京谷のことを見る。

「…まあ態度はねえ…」
「問題起こしたワケでもないし、試合で使えるなら別にいいんでない?」
「コミュニケーションも含めてだけどな!」
「ちゃんと練習ついて来られんのか?ブランクあんだろ」
「…まあ、あれは練習してない奴の動きじゃないね」

そんな3年たちの様子に、矢巾は何も言えなくなった。

「まあ、私のことをお節介ババアって呼んだことは一生許さないけどね」
「お節介ババアって…ぷっ」
「おま、やめろよ!」
「松川、花巻…」

名前は松川と花巻を静かに睨む。

「名前ちゃーん、そんな怖い顔してるとかわいい顔が台無しだよー」
「松川が及川みたいなこと言ってる」
「ちょっとまっつん!真似しないでよ!」
「もううるさい!さっさと練習戻りなさいよ!」
「はーい!」

名前にそう言われると、その場にいた4人と矢巾は急いで練習に戻った。



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