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青葉城西の待機場所に戻る3人。

「あ、及川たちやっと来た」
「何してたのー?」

戻って来た3人に花巻と松川が声をかけるが、機嫌の悪そうな名前を見てめんどくさそうな顔をした。

「何だ?ずいぶん機嫌悪そうだな?」
「別になんでもないよ!」
「なんかあったでしょー」
「何もない!」

そう言うと、名前は試合前の準備をするために他のマネージャーたちの方に向かった。

「何?」
「さっきウシワカとばったり会っちゃったんだけどさ」
「うわー最悪」
「ウシワカはいいとして、その後あっちの2年生セッターも来て」
「ああ、なんだっけ?白布だったっけ?」
「そう。白布くんと仲悪いからバチバチだったよ」
「去年の練習試合の時だっけ?及川のことバカにされてガチギレしてたもんなー名前」

その時のことを思い出すと、4人は白布と仲が悪いのは仕方ないと思った。

「名前がガチギレしたのって、あの時が最初で最後?」
「及川がケガしてんのに隠して練習しようとした時もキレてたな」
「それを言うなら、岩ちゃんが熱出てるのに無理して練習来た時も怒ってたよね」
「あれな」
「…名前が怒るのって、及川と岩泉がバカにされた時とか無理してる時だよなー」

松川がそう言うと、及川は「本当、俺たち愛されてるよねー」と嬉しそうに笑った。

「デレデレすんな及川」
「岩ちゃんだって嬉しいくせに!」
「俺たちじゃなくても、おまえらがバカにされてたり無理してたら名前は怒ると思うぞ」

そんな岩泉の言葉に、花巻と松川は一瞬驚いて固まったが、すぐに笑い出す。

「たしかにな!あいつ、青城のバレーが好きだもんな!」
「よし!それじゃあ、名前の好きな俺たちのバレーを、誰よりも長く見せてあげよう」

Bコートでは青葉城西の第1試合が始まる。

「及川さん、アップ始めましょう!」
「オッケー」

金田一に呼ばれて、及川は返事をする。

「それじゃあ、行こうか」
「おう」



第1試合は青葉城西がストレートで勝利。
試合が終わったレギュラーメンバーは、クールダウンをした後着替えをして、観覧席に移動して軽食を取る。

「次の相手は伊達工になりそうですね」
「だな」

名前は観覧席から試合を見ていた。

「第3試合の烏野対条善寺はどっちが勝ちますかね」
「そうだな…どちらも面白いチームではあるから、試合が楽しみだな」
「はい」

第2試合が終わり、こちらもストレートで伊達工が勝利した。
そして、第3試合の烏野対条善寺は、途中で影山が顔面ブロックをして鼻血を出し、一時交替のハプニングもあったが、常にポイントをリードしたまま、セットカウント2対0で勝利。
準々決勝に駒を進めた。

「Bコートも終わった?」
「うん。和久谷南が勝ったみたい」
「へー、あそこの応援すごいよね」
「家族応援団だっけ?」

帰り支度を始めながら、Bコートの方を見る名前。

「及川もお姉ちゃんに来てもらう?」
「絶対やだよ!」
「昔はあんなに仲良かったのにね〜」
「姉ちゃん来たら、猛も来るじゃん!うるさくて集中できないよ!」
「そんなこと言って、試合中は周りが見えなくなるくらい集中してるくせに」
「さすがにこの歳で家族が観に来るのは恥ずかしいだろ」
「そう?」

名前は荷物を持つと「よし、それじゃあ帰って軽くミーティングしてから解散かな?」と及川に聞く。

「だね」
「行くぞー」



学校に到着すると、部員は一度体育館に集まる。

「1日目、お疲れ様」
「お疲れ様でしたー!」
「明日は勝てば2連戦だ。伊達工、そして烏野か和久南か…どちらにしても厄介な相手であることには変わりない」
「疲れ残すなよー」
「ハイ!」

入畑、溝口がそう言うと、今度は及川が話し始めた。

「そしたら明日だけど、まずは伊達工。3年生が引退してるから2年生と1年主体のチームになってると思うけど、元々ブロックは2年の2人がメインだったからあんまり変わらないかもね」
「だな。背の高い奴も入ってるみたいだったしな」
「ホント、ブロックが厄介なチームだよね」
「いつも通り、ぶち抜くだけだ」
「さっすが岩ちゃん、頼りにしてる!」

及川はそう言うと、真面目な顔をして「よし!明日も勝って、絶対優勝するよ」と宣言する。

「おう!」

解散になり、名前は及川と岩泉に声をかける。

「帰ろ」
「うん!」
「腹減ったなぁ」
「買い食い禁止」
「わかってるっての!」

ダラダラと体育館を出ようとする3人。

「花巻と松川は?」
「あそこ」

名前は振り返ると、花巻と松川を呼んだ。

「花巻!松川!さっさと帰ろ!」
「おー」
「3人水入らずで帰らなくていいの?」
「何それ。あんたたちの戦いはまだまだ続くんだから、そんな気分になるのはまだ早いでしょ」
「それもそうだな」

そう言って、花巻と松川も一緒に体育館を出る。
帰り道、歩きながら5人は何も話さなかった。
何も話さなくても、お互いが何を考えているのか手に取るようにわかる。
3年間、目標としていた”青葉城西高校全国出場”の夢を叶えるラストチャンスが迫る。

「…そんじゃあ俺はこっちだから」
「俺もー」
「おう」
「また明日ね!」
「気を付けてね」

花巻と松川と別れて、3人はまた静かに歩き出す。

「…徹」
「ん?」
「一」
「あ?」
「…勝ってね」
「…名前さあ…」
「え?」

名前がそう言うと、及川と岩泉が少しあきれた顔をした。

「”勝ってね”って、他人行儀じゃない?」
「…そう?」
「そうだよ!名前だって、俺たちと一緒に戦ってる青城のメンバーの1人だよ!」
「コートに立ってるのは俺たちだけどな、おまえだって俺たちを支えてくれてんだろ」
「…うん」
「だから、こういう時に言うのは”勝ってね”じゃないでしょ」
「…勝とうね!」
「大正解!」

そう言うと、及川は名前のことを抱きしめた。

「勝つよ…俺たちは強いからね」
「当たり前だボゲェ!つーか名前のこと離せ!」
「イヤだねー!」
「おいこらクソ及川!」

いつもと変わらない2人の姿に、名前は堪らず吹き出した。







春高決定戦、2日目が始まる。

「今日は第2試合か」
「白鳥沢の後だねー」
「白鳥沢とどこだっけ?」
「白水館」
「軽く外でアップ取ってくるから、名前はここで荷物見ててね」
「了解」
「…」
「…」
「…」

名前が返事をしたにも関わらず、及川はその場から動かない。

「…え、何?早くアップ行きなよ」
「やっぱ名前も一緒に行こう!」
「やだよ寒いもん」
「なんで!1人にしておくと何があるかわかんないじゃん!」
「大丈夫だってば」
「うぅうううう!」
「妖怪みたいだからソレやめて」
「酷いな!」

名前は岩泉を呼ぶと「さっさと及川連れてって」と言った。

「ホラ、とっとと行くぞクソ及川!」
「岩ちゃんだって心配じゃないの!?」
「こいつは自分で断れんだろ。いざとなりゃ拳で解決すりゃいいだろ」
「俺たちが出場停止になっちゃうやつね、ソレ!」

岩泉が握った拳を見せると及川がツッコミを入れる。

「はいはい、こんなことしてる時間ないんだから早く行きなさい!」
「名前ー…」
「烏野の試合も見てたいし、早く行かないと溝口くんに怒られるわよ?」
「話しかけられても絶対返事しちゃダメだからね!」
「ここにいるのは真面目にバレーしに来てる人たちばっかりだから安心しなさい」
「って言って、この前ナンパされてたんでしょ!」
「あれは天童くんの見間違いだから」
「本当?」
「本当」
「…はぁ、まあいいや。とにかく大人しくしててね!」
「あんたじゃあるまいし」
「ホラ!さっさと行くぞグズ及川!」
「岩ちゃんのボキャブラリーってクソとグズしかないの!?」
「いってらっしゃい」

岩泉に引きずられるようにして観覧席から移動する及川に手を振る名前。
荷物を整理しながら、烏野対和久南の試合が始まるのを待つ。

「さぁて、どっちが勝つかな?」



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