「和久南の1番くんはスパイクの打ち込む角度がえげつないなー」
「ほんと、ブロック泣かせだよな」
「見えてるよねー」
「お、おかえり2人とも」
外に出ていた岩泉と及川が戻って来た。
「お疲れ様」
「10月も後半になるとさすがに寒いねー」
「そろそろサブアリーナ移動して本格的にアップ取んぞ」
「了解」
及川は自分の荷物の中からジャージを見つけて羽織る。
「岩ちゃんも着といたら?汗冷えるよ」
「おう」
「徹も一も、水分補給も忘れずに」
「はーい」
名前と及川がコートに視線を戻すと、ドガガッ!という大きな音がした。
「大地!!」
「大地さん!」
「澤村!!」
「う…」
コートの中では澤村が倒れている。
「え…」
「?なんだ?」
私の声に反応した岩泉が顔を上げる。
「接触した。ラストボール返した直後、5番のボースくんと主将くんが激突。けっこうな勢いで顔打ったように見えたけど」
「だ、大丈夫かな…」
「え、まじか」
澤村はゆっくり起き上がると、烏養と武田が駆け寄った。
「うわー…痛そう…」
「…」
「主将くん、場合によってはこの試合、もう無理な可能性あるね。…監督の判断次第だけど」
「もし脳震盪起こしてたら怖ぇからな」
「脳震盪起こしたのにそのまま試合続行したら、夜になって意識不明って話も聞いたことあるしね」
「そうだよね…」
「軽いバレーボールが当たるのとはワケが違う」
「まあボールも当たり所によるけどな…」
澤村にぶつかった田中が、謝ろうとしたところを澤村が遮る。
「す「すまん田中」
「!」
「おまえがカバーに入ってんの見えたのに身体が勝手に突っ込んじゃったんだよ。でも見ろ」
「?」
「おまえの返した今の1本でこっちは20点台だ!」
そう言うと、澤村は田中の手を叩いて笑顔を見せる。
「こんな時でも澤村くん主将やってるなー、さすが」
「…烏野のボーズくん。試合中のメンタルの強さは相当なモンだけど、それは”自分”がプレー的に追い込まれた場合。自分が原因で大黒柱を折っちゃった今は、どうだろうね?」
「まあ、そりゃあいたたまれないわ」
「ね。これで負ければ主将くんには最後の試合なんだろうしね」
澤村は東峰に一言声をかけた後、コートを出て烏養と共に医務室に向かう。
「…足取りもちゃんとしてるし、まあ大丈夫なんじゃねーか」
「そうだね」
「でも問題は、この試合あの”大黒柱”の代わりを誰が務めるか、か」
「…烏野はまだ人数も少ないもんねー」
「ツーセッターとか?」
「普段から2人体制の練習してるとか、攻撃も守備もWSに勝るセッターがいるとかでない限り、ぶっつけでやるのは微妙でしょ。彼に代わるWSが烏野に居るのかはしらないけどね」
そんな話をしていると、菅原の「おまえしか居ない、頼むぞ!」という声が聞こえてきた。
「?」
烏野のコートに入ったのは、2年生の縁下だ。
「…?」
「練習試合に出てたコだね。どんなだっけ?」
「あんま覚えてない。…まぁ”そつなく熟す”って感じだったと思うけど」
「ちゃんとしたコだったよね。まだ2年生だから、澤村くんと比べたら穴はあったと思う」
「まあ、名前も言ってたけど烏野は人数多くないし、他に人居ないのかもね」
烏野の選手交替を見届けた3人は、サブアリーナに向かう。
「おせーよ」
「ごめーん!」
「烏野と和久南、どんな感じだった?」
「澤村くんが交替になっちゃった」
「え?何かあったのか?」
「接触した」
「思いっきり顔ぶつけてたけど、まあ大丈夫なんじゃないかな」
「そうか」
溝口がやって来て「よし、アップ取るぞー!ボール出すから準備しろ!」と声をかける。
「はーい!」
隣のコートでは次の対戦相手である伊達工業もアップをしている。
「うーん、相変わらず大きいねぇ」
「伊達工と試合するのは久しぶりですよね」
「そうだね。新体制の伊達工か…どんな試合になるか楽しみだね」
名前は隣のコートを見ると「(あの大きいコ…新しいセッターかな?)」と思った。
伊達工には、以前までいなかった背の高いセッターがいて、名前は興味を持った。
「(動きがまだまだだから1年生かな?これからが楽しみだね)」
名前が見ていることに気付いた、伊達工業の2年生二口は「おい、黄金川。向こうのマネージャーに見られてんぞ」と言う。
「ええ!?俺っスか!?」
「おまえ以外に黄金川はいねえだろ」
「うおおおお!俺も見られる選手になったってことっスね!」
「いや、あれはおまえの素人くさい動き見て、まだ1年か〜って思われてるだけだろ」
「な!?」
二口がそう言うと、黄金川はショックを受ける。
「俺は…先輩たちと比べたらまだまだ赤子同然っス!けど、高さなら負けないっス!」
「黄金川くん、頑張ってるね」
「ハイ!まだまだ頑張ります!」
アップを取っていると、青城と伊達工の1年生がそれぞれやって来て「前の試合、白鳥沢があと5点です」と互いのチームに伝える。
「行くか」
「うっす」
「烏野・和久南は長引きそうな感じになってます」
他の生徒がそう言っているのを聞いた花巻は「主将がいない烏野はどうなってるかね」とつぶやいた。
「目立つスーパーレシーブだけが良レシーブじゃないからねぇ…今まで当然の様に上がっていたボールが上がらなくなるとすれば、そういうのは地味にじわじわと効いてくる。それを実感してる頃?」
「澤村くん、レシーブ本当に上手だもんね。後ろにいると安心感がある」
「あれだろ、”まともにレシーブできないと攻撃できないねドンマイ☆”だろ」
「いつの話してるのさ!」
青城と伊達工がそれぞれ移動して、コートの中に入る。
「お願いしまーす」
「…しァス」
主将である及川と二口が握手をする。
「まあまあ、そんな気張んないで!君らは来年だってあるんだし?」
「関係無えっスよ、立場とかそういうの。コートに入ったら関係ない」
「だよね、知ってる」
及川の言葉に二口はムカッとして顔を歪める。
「(3年だろうが1年だろうが、強い方が強く、ただボールを落とした方が負ける)」
「表が青城、裏が伊達工です」
「(シンプルな話だ)」
伊達工との試合が始まる。
「一本、ナイッサァー!」
及川のサーブから始まった試合は、終始青城ペースで進む。
時折、伊達工のブロックに捕まることもあるが、それでも青城がリードしていた。
「二口!」
「ふぐっ!」
及川の強烈なサーブを二口がなんとか上げるが、ボールはそのまま青城コートに返ってくる。
「返ってくる!!チャンスボール!」
「クソッ」
「叩け!金田一!!」
金田一がダイレクトで叩いたスパイクを、青根が1枚ブロックで止める。
「!!」
「ウェーイ!」
「次、1本ー!」
「金田一ドンマーイ!」
試合の終わった烏野の部員たちが、クールダウンをしながら隣のコートから見ていた。
「3年が残ってる青城は正に集大成。正直、新しいチームになったばっかの伊達工は分が悪いと思ってたが、新しくデカイのも入ってるみたいだし、こりゃわかんないかもな…」
そう言うと、烏野の部員たちはコートから観覧席へと移動する。
試合はそのまま進んでいき、まずは第1セットを青城が獲る。
「お疲れ様」
「名前ちゃんありがとう」
「はい、岩泉」
「サンキュー」
ベンチに戻って来た選手たちに、名前はタオルとボトルを渡す。
「どう?新体制の伊達工は」
「まあまあだね」
「3枚ブロックにつかれると厄介だけどな」
「いやー、でっかいねー」
「まあ、イケるだろ」
「よし!第2セットもきっちり獲ってきてね」
「任せろ」
ピーっと笛が鳴り、第2セットが始まる。