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恋、こい、コイ…。
今、私の頭の中は”こい”という単語でいっぱいだ。
家に帰って来てから、ご飯を食べている時も、お風呂に入っている時も、今、こうして部屋でくつろいでいる時も、ゆっこちゃんの言っていた言葉が頭の中をぐるぐるしている。

「恋してる顔かー…」

そんなことを思っていると、携帯が鳴る。

「治くんだ」

メッセージアプリを開いて、治くんからのメッセージの内容を確認する。

『今日はありがとな。帰り道、ボケーっとしとったけどなんかあったん?』
「とんでもない。ボケーってしてた?」
『しとった。悩みがあるんやったら聞くで?』
「悩み…」
『これはホンマにありそうやな。電話大丈夫か?』
「うん」

私がそう返信を返すと、すぐに治くんから電話がかかってきた。

『寝るとこやった?』
「ううん、部屋でゆっくりしてただけだよ」
『さよか』
「治くんは外?」
『ツムと同じ部屋やからな。うるさくてゆっくり電話もできん』
「そっか。夜遅いから気を付けてね」
『コンビニ行くから大丈夫やで』

外を歩く治くんの足音が、電話口からかすかに聞こえてくる。

『ほんで?なにがあったん?』
「…治くんは、恋してる?」
『恋?してへんなー』
「じゃあ恋ってしたことある?」
『まあ、昔はな』
「恋をするって、どんな感じ?」
『今日の名前はずいぶん乙女やな』

治くんが笑ったような気がして、私は少しだけ恥ずかしくなった。

「今日ね、ゆっこちゃんとそういう話してたの」
『ガールズトークやん』
「うん。でね、私、ずっとゆっこちゃんが侑くんのこと好きなんだと思ってたんだ」
『いや、そらないやろ』
「ゆっこちゃんにも言われた…」

私は、ゆっこちゃんに言われたことを思い出す。

「友達としては良い人だって思うけど、恋愛感情は一切ないって」
『良い…人…?』
「そこに疑問持つんだ」

治くんの反応に思わず笑ってしまった。

『ほんで、そう勘違いしとった名前は、中山とツムをくっつけようとしとったん?』
「うーん、くっつけようというか、あんまり侑くんと仲良くしたらダメかな?とは思ってた」
『だからか。球技大会の時とか、なんか変やったもんな』
「治くんにもバレてる…」
『ウソつくん下手やもん、名前』

治くんはそう言うと『で、誤解が解けた今は何に悩んどるん?』と続けた。

「ゆっこちゃんに、侑くんのことどう思ってるのって聞かれたの」
『ほう』
「恋したことがないから自分の気持ちがわからないって答えました」
『…さよか』

私がそう言うと、治くんが少し残念そうな反応をしたような気がするけど気のせいかな?

「それで、恋ってなんなのかなーって悩んでたの」
『なるほどな…』

治くんは少し黙って、何やら考えているようだ。

『例えば、何かされてドキドキしたり』
「ドキドキ」
『はよ会いたいなーってなったり』
「会いたいなー」
『ふとした瞬間にむっちゃかわええ!ってなったり』
「か、かわええ!」
『自分の感情を揺さぶられたんなら、それが恋やない?』
「なるほど…」

治くんがそう言うと、電話口から侑くんの声が聞こえてきた。

『サム!おまえどこ行っとったん?あ、電話しとるん?』
『うっさいわ、何時やと思っとんねん』
『誰と電話しとるん?』
『誰でもええやろ。すまん、ツムおるから続きはまた明日な』
「うん、また明日ね」
『今の名前の声やろ!?なんでおまえが名前と電話しとんねん!』
『ツム、近所迷惑や』
『説明せ…』

2人の声が聞こえなくなったと思ったら、そこで電話が切れいていた。

「…心が揺さぶられたら、か」

そう思うと、私は侑くんのバレーに恋をしているのかもしれない。

「…侑くんのバレー、好きだなぁ」

正直、まだ全然恋がなんなのかわかっていないけど、確実に言えることはただ一つ。
私は侑くんがサーブを打つ瞬間が好き。
トスを上げる瞬間が好き。
キラキラとした笑顔で、楽しそうにバレーをしている姿を見るのが好きだな。







あの後、いつの間にか眠ってしまったらしい。
気付いたら朝になっていた。

「ゆっこちゃんおはよう!」
「おはよう」

更衣室に入ると、ゆっこちゃんがすでに着替えを終えていた。

「今日も暑いねー」
「ホンマやなあ。こう暑いとうちらもちゃんと水分補給せな倒れそうやな」
「気を付けようね」
「やな」

私の着替えが終わると、ゆっこちゃんは「行こか?」とドアを開けてくれた。



「名前!!」

体育館に入ると、侑くんが私の元にやって来た。

「おはよう!」
「おはよう!って、そんなんええねん!」
「挨拶は大事やろ」
「名前!!昨日サムと電話しとったやろ!?」
「し…してないよ…!」
「なんでウソつくん!?俺がおまえの声を聞き間違えるわけないやろ!」

侑くんの勢いに、思わずウソをついてしまった。

「なあ!なんでサムと電話しとったん!?おまえ、あいつのことが好きなんか!?」
「あ、侑くん、ちょっと落ち着いて…」
「これが落ち着いてられるか!」
「侑、あんた暑苦しいわ。気になるんならあんたの片割れに聞けばええやろ」
「もうとっくに聞いとるわ!」

そう言うと、侑くんは隅の方でストレッチをしている治くんを指さした。

「関係ないやろ〜って、いつものアホ面で誤魔化されたわ!」
「同じ顔やろ」
「ほんで、名前!?どうなん!?」

侑くんの顔が至近距離にあると、さすがに照れる。

「あ、あの…少しだけ離れてもらえると…」
「あんた近いねん」
「す、すまん!!」

私たちにそう言われて、ようやく侑くんが一歩後ろに下がってくれた。
近くで見ると、やっぱり侑くんはかっこいい。
女の子たちに人気の理由がわかる。

「私、治くんのことは友達として好きだよ」
「友達としてなんやな?」
「うん。昨日は、ちょっと相談というか、話を聞いてもらってただけだから深い意味はないよ」
「サムに相談ってなんや?」
「それは、まあ、色々?」
「なんかあるんやったら俺に相談したらええやろ!サムよりも役に立つで?」
「どう考えても治のが役に立つやろ」
「さっきからうっさいねん!」

侑くんはゆっこちゃんにそう言うとゆっこちゃんに向かって手をシッシと手を払う。

「はよ行けや」
「ホンマ腹立つやっちゃな」
「侑くんも早くストレッチしたほうがいいよ?北さん来たよ」

私がそう言って体育館の入り口の方を指さすと、侑くんもそっちを振り返る。

「ヤバ!」
「はい、頑張れ!」

侑くんはダッシュで治くんの横に戻ると、座ってストレッチを始めた。

「うちらも準備しよ」
「うん!」

私とゆっこちゃんは、1年生マネージャーの子たちと合流してドリンクやタオルの準備をしに外に出る。

「ほんなら1年はタオルとビブス持ってって、スコアボードの準備頼むで」
「わかりました!」

ゆっこちゃんに指示を出された1年生の2人がビブスを取りに向かう。

「うちらはドリンクやな」
「だね!今日も暑くなりそうだから多めに作っておこうか」
「せやな」

2人で水道でドリンクを作り始める。
黙々と作業をしていると、ゆっこちゃんが話しかけてきた。

「…恋がなんかわかったん?」
「うーん…恋かどうかはわからないけど、私は侑くんのバレーが好きだなって思ったよ」
「バレーだけなん?」
「…ほら、私、初対面の時に侑くんに色目使うなって言われてるし、あんまり好かれてないんだろうなって思ってるんだよね」

私の言葉に、ゆっこちゃんは目を丸くして驚いた。

「それ…本気で言うてる?」
「え?」
「…あんな、侑がそう言ったんは色々理由があんねん。中学ん時の話やし、本人の許可なく話すんは違うと思うから詳しくは本人に聞いてほしいんやけど」
「理由?」
「あの時から比べて、侑変わったやろ?」
「そうだね。1年の時と比べたら、だいぶ話してくれるようになったね」

1年生の最初のころは、本当怖かったなーとしみじみ思う。

「名前はそのことが気になっとるん?」
「ん、そうだね。理由はどうあれ、侑くんに嫌な思いさせちゃって申し訳ないなって思って」
「申し訳ないって思わなアカンのはあいつやから、名前はぜんっぜん気にせんでええよ!」
「ゆっこちゃんありがとう」
「ホンマ、あいつ…」

呆れた顔をしたゆっこちゃんを見て、思わず笑ってしまった。

「とにかく、いっぺん侑と腹割って話たって!あいつ、人でなしやけど悪人ではないんよ。名前に誤解されたままやとさすがにかわいそうやわ」
「ゆっこちゃんって、侑くんのお母さんみたいだね」
「ホンマやめて」

ゆっこちゃんが本気の嫌そうな顔をした。

「なんか、侑応援隊みたいになってるんが気に入らんけど…」
「なんだかんだ、ウチのバレー部はみんな侑くんのこと好きだよね。やっぱり人を惹きつけるオーラがあるよね」
「なんか嫌や!ホンマに嫌や〜!」
「ふふふ」

まだ恋がなんだかわからないけれど、侑くんのバレーが好きだ、という気持ちは大事にしていきたいなと思う。



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