昼休みになると、角名は侑の席まで行き、侑の前に座った。
「侑ってさー」
「ん?なんやねん」
「なんで苗字さんに対してあんな態度とってるの?」
角名は持ってきた弁当を広げて食べながら、侑に対してそう聞いた。
「別にええやろ!」
「いやいや、これから部活も一緒なんだから困るでしょ」
「せやな、俺も困るわ」
「治」
いつの間にか隣のクラスからやって来た治が、侑の隣に座る。
「初めましての時から態度悪いねん」
「えー、そうなの?」
「ああいう大人しそうにしとるやつが一番たち悪いやろ!」
「苗字さんに失礼やろ」
そう言うと、治は侑の頭を殴る。
「いった!!もうすでに毒されとるやないか!」
「今までおまえの周りでギャーギャー騒いどった喧し豚と一緒にすんな」
「喧し豚って」
「中学ん時のこと引きずるんのはしゃーないけど、苗字さんはあいつやないんやで」
「何?何かあったの?」
「昔、こいつのファンでツムの顔だけ狙いのヤバい奴がおってん。そいつがたまたま清楚な感じで、悪いことなんも知りませんみたいな子やったんよ」
「それで苗字さんも清楚系だからって警戒してんの?ヤバ、ガキじゃん」
「うっさいわボケ!!」
「似てるところなんて髪が黒いと性別女、だけやで?」
侑は机を叩いて大きな声を出す。
「そんなんわからんやん!!ホンマはやなやつかもしれんやん!」
「やなやつやないかもしれんやん。おまえ言ってることめちゃくちゃやで」
「おまえかてそうやろ!」
「本当はやなやつだったら演技してるってこと?もしそうだったら俺は苗字さんに主演女優賞を贈るよ」
「バレーに興味ないのにマネやる時点でなんか企んどるやろ!」
治はめんどくさそうな顔をして「ちゃんと話したこともないのによう言えるな。昨日、本屋で見たやろ」と言った。
「ぐっ…!!」
「本屋?」
「昨日な、苗字さんが帰りに俺らと別れて本屋に行っとったんやけど、バレーのルールブック買うててん」
「え、めっちゃ真面目じゃん。超良い子」
「せやろ?真面目にバレーと向き合おうとしてくれとるんやってわかったやろ」
そう。
2人は名前が本屋に行った後、侑が「何買うんか監視したる!」と言い出し、名前の後をついて行っていた。
その時、たまたま出会った北と尾白に相談をしながらバレーのルールブックを買っているのを見ていたのだ。
「おまえや俺のこと狙いのミーハー女たちはみんな辞めてったやろ。残ったんは中山と苗字さんだけや。ええ加減認めろ」
「ぐぬぬ〜!」
「ぐぬぬって言う人初めて見た」
治にそう言われたが、なかなか納得できない侑は「ま…まあ、これからの仕事次第やな!」と言う。
それに対して、治は心底あきれたような顔をして、大きなため息をついた。
「あんま意地悪しとると苗字さんに嫌われるで」
「べ、別に嫌われたって困らんわ!!」
「なんでこいつ、こんなに上から目線なの?」
「知らん」
侑は心の中で「(絶対化けの皮剝がしたる!)」と思っていた。
部活の時間になる前に、名前は先輩マネージャーに入部届を渡しに行った。
こうして、名前は正式に稲荷崎高校男子バレー部のマネージャーになった。
「苗字さん、一緒に部活行こか」
「うん」
放課後になると、治に声をかけられる。
「そや、正式入部おめでとう」
「あ、ありがとう!」
「これからは部活でもよろしくなー」
「こ、こちらこそだよ!誘ってくれてありがとう」
隣のクラスの前を通ると、ちょうど侑、角名、そして中山が教室から出てきた。
「あ、苗字さん」
「中山さん!」
「丁度良かった。一緒に行こ」
「うん!」
5人は一緒に体育館に向かった。
「2人とも、ドリンクとタオルの準備はええ?」
「はい!」
「大丈夫です」
名前と中山は、作り終わったドリンクとタオルを体育館の中に運び入れる。
体育館の中に入ると、練習している部員たちの声と、ボールの音、そしてスパイクで床を踏み込む音が鮮明に聞こえてくる。
「す、すごいねー…」
2面あるコートの中で、試合形式での練習をしている。
「男子のバレーは迫力あるやろ?」
「う、うん!私、バレーってほとんど見たことなかったけど、すごい迫力と熱気だね」
名前は、コートの中で動き回っている選手たちを見て胸が熱くなるのを感じた。
「(これが、みんなの好きなバレーボールなんだ…)」
コートではあと1点で試合が決まる場面。
サーブは侑の番だった。
「侑のサーブん時は静かにせなアカン」
「え?」
中山がそう言うと、ちょうど侑が腕を挙げた。
その瞬間、侑のコートにいるメンバーがピタッと黙った。
ボールを上に高く投げて、助走をしてサーブを打つ。
たった、それだけの動作にも関わらず、名前は侑から目を離すことができなかった。
「(なんて…綺麗な動きなんだろう…)」
名前は、侑が真剣な顔でバレーと向き合っている姿を見て先ほど感じた胸の熱以上の何かを感じた。
ドンッ!という大きな音と共に、侑の打ったボールがそのままコートに落ちる。
ノータッチのサービスエースで試合が終わり、笛の音を合図に、コートの中にいた選手たちが一斉に整列をする。
侑がふっと顔を上げると、コートの外にいた名前に気づく。
「なっ…!」
「ん?どうしたんツム?」
「〜っ、な、なんでもあらへん!」
「は?いつもおかしいけど、いつも以上に頭おかしいな」
「うっさいわボケ!」
治は変な態度をとる侑を怪訝そうな顔で見る。
「さ、休憩に入るで!苗字さんと中山さんは、1年生と2年に配ってな」
「わかりました。苗字さん、配るでって…どうしたん?」
「え?」
「涙出とるで?」
「え!?」
名前は慌てて目を触ると、いつの間にか涙が流れていた。
「あ、ご、ごめんなさい!」
「目にゴミでも入ったん?」
「あ、う、そう!」
「大丈夫なん?」
「ぜ、全然大丈夫!は、早く配ろう!」
「せやな」
名前はドリンクの箱を置くと、ドリンクを配り始めた。
「苗字さん、ドリンクちょうだい」
「あ、うん!お疲れ様!」
角名に話かけられて、名前は持っていたドリンクのボトルを渡した。
「苗字さん俺にもくれ」
「はい、宮くん!」
名前は他の1年や2年にも手早くドリンクを渡すと、最後に侑に近づいていった。
「あ、あの…」
「な!なんやねん!」
「え、これ…ドリンク」
「っ…!」
侑は名前からドリンクを受け取ると、何も言わずに治と角名の元に向かった。
「お礼くらいちゃんと言いなよ」
「ホンマや。苗字さんは奴隷ちゃうぞ」
「わかっとるわ!!」
「さっきからなんやねん」
「何?調子悪いの?」
「べ、別になんもあらへんわ!」
侑はもらったドリンクを一気に流し込む。
タオルで顔を拭いていると、先ほどのことを思い出す。
「…なあ…俺って泣くほど怖いんか…?」
「はあ?」
「なんて?」
「…だから!俺のバレーしとる姿は泣くほど怖いんかって聞いてんねん!」
「いや、だからその質問の意味がわかんないんだけど」
「そのまんまの意味や!」
「別にこわないで。味方にいる分にはな」
「たしかに。相手コートに侑が居たら怖いなとは思うけど」
「…そういう意味やない…」
「だったらもっとわかるように言えや」
「もうええわ!」
そう言うと、侑は顔をタオルで隠した。
「(なんで泣いとんねん、意味わからんわ…)」
侑は、先ほど名前が自分のことを見て泣いていたことに気づいていた。
侑のバレーをしている姿に感動して、思わず流れてしまった涙だったが、侑はそれを、自分のバレーをしている姿を見て、怖がって泣いていると勘違いしているのだ。
「(たしかに真剣な顔はちょーっと怖いって言われることもあるけど、だいたいのやつが俺のバレー見たらすげー!ってなんねん!なのに、なんで泣いとんねん!)」