16

侑の言葉に名前が答える前に昼休みが終わるチャイムが鳴った。

「…戻るか」
「そ、そうだね」

2人は少し照れくさそうにしながら立ち上がると、一緒に教室まで戻った。

「じゃ、じゃあ、またね」
「名前」
「な、何?」

1組に向かおうとする名前を呼び止める侑。

「今日、部活オフやろ。一緒に帰んで」
「え?」
「今、押さなアカン気がした」
「え!?」
「今日のことで俺んこと少しは意識したやろ?チャンスはものにせんとな」

そう言ってニッと笑う侑。
先ほどの笑顔に、少しどころではなくちゃんと侑のことを意識している名前は顔を赤くしながら「きょ、今日は一緒に帰らない!」と叫んで自分の教室に戻った。

「…な、なんでやねん!」

侑は名前の後を追って1組に入る。

「おいコラ逃げんなアホ!」
「お、治くん!」
「お?」

名前は急いで治の後ろに隠れる。

「おま!いくら片割れとはいえ他の男の後ろに隠れたらアカンやろ!」
「ひ、ひえっ」
「ちょ、なんやねん」

治を挟んで攻防戦を繰り広げる侑と名前。
そんな2人を見ながら角名は無言で携帯を取り出すと、動画を撮り始める。

「やば、おもしろ」
「なんやあれ?」
「とうとう付き合いだしたん?あの2人?」

角名の周りにクラスメイトが集まってきた。

「さあ?あの感じだとまだじゃない?なにかしら進展があったっぽいけど」
「侑の恋が実る日も近いんかな?」
「どうやろ?苗字さん、侑にまったく興味なさそうやったやん」

チャイムが鳴り始めると、名前は「あ、侑くん!早く教室に戻ったほうがいいよ!」と言った。

「戻ったるから放課後教室で待っとれ!」
「お、お断りします!」
「なんでや!」
「きょ、今日はもう無理です!キャパオーバーです!」
「だから余計今がチャンスなんやろ!」
「おまえらええ加減にせんと先生来んで?」

治がそう言うのと同時に先生が教室に入ってきた。

「あ?なんや?ウチのクラスやない方の宮もおるやん。はよ自分の教室戻り」
「う、う〜す…」

侑は返事をすると、もう一度名前を見て「絶対帰んな!」と圧をかけてから教室に戻って行った。

「おまえらもはよ席につかんかい」
「はーい」

生徒たちが席に座ると、授業が始まる。
名前も席に座って教科書を広げて授業を聞いていると、隣の席の治からの視線を感じた。
名前が、前を向いて、というジェスチャーをすると治は少しだけ笑って前を向いた。







授業が終わり、チャイムが鳴る。
チャイムが鳴り終わってから少しすると、侑が隣のクラスからやって来た。

「名前!」
「や、やっぱり来たー…」
「まあ来るやろうな」

侑は名前の席の前まで行くと「ほな、帰んで」と言った。

「侑くん」
「ん?」

名前が続きを言う前に、担任の先生が名前と治のことを呼ぶ。

「そや、宮、苗字。おまえら今日日直やったろ?」
「はい」
「そーです」
「今日は部活もオフやったな?ほんならちょっと仕事手伝うてや」
「え、先生ちょっと待ってくださいよ!」

そこに侑が入る。

「俺、あいつにホンマ大事な話があるんです!」
「今日やなくてもええやろ?」
「今日やないとアカンのです!」
「わがまま言うてる場合か」
「うっ!」

治は「ツム、子どもやないんやから先生困らせんな」と言った。

「…先生、俺も宮なんです」
「そのことを先生が知らんとでも?」
「俺が一緒に手伝いますからー!」
「おまえはウチのクラスの宮やないやろ!…角名、はよこいつ引き取ってや」
「先生、そこで俺にパスするのは違うんじゃないんですか?」

角名はあきれた顔をしながら侑に近づくと「ほら、これ以上邪魔すると名前ちゃんの帰る時間がどんどん遅くなるよ」と言った。

「せやったら待っとる」
「え!せっかくのオフなんだから、侑くんも早く帰った方がいいんじゃない?身体休めないと」
「ええから!」
「名前があきらめた方が早いで?」
「う…じゃあ、遅くなりそうだったら連絡するから、その時は先に帰って大丈夫だからね」
「おん!」

侑は笑顔で答える。

「(絶対帰らないだろうな)」
「(絶対帰らへんな)」

治と角名は、心の中で同じことを思った。



担任に頼まれた名前と治は、空き教室で資料のホチキス留めの作業をしていた。

「なあ、ツムに何言われたん?」
「え!?」

名前は治の質問に驚いて持っていた資料を落とす。

「なんか嫌なこと言われたんやったら片割れがすまんなって思ったんやけど、その顔やとそうやなさそうやな」
「ど、どんな顔してる?」
「恋する乙女って顔やな」
「ううう…」

拾い上げた資料で思わず顔を隠す名前。

「恋がなんかわかったんやな」
「…心揺さぶられました」
「良かったやん」
「…なんで侑くんが私なんかを好きなのかが理解できない…」

名前の言葉に、治はホチキス留めをしていた手を止めてまっすぐ名前のことを見る。

「それ、ツムに言ったらアカンで」
「…ごめん」
「名前なんかって、言われたらツムはブチギレるやろな。”俺の好きなもんを侮辱するやつは、たとえ本人でも許さん!”て」
「そっくり…」

治はいつもの表情に戻すと、ホチキス留めを再開する。

「この前までは侑くんのこと、バレー頑張っててすごいな、努力しててかっこいいなって思ってたんだけど」
「ツムのバレー見とる時の名前は、確かに楽しそうやな」
「わ、私のこと…す、好きだって言って、笑う侑くんの顔見たら…」
「見たら?」
「胸がキューってなって、なんてかわいいんだろうって思っちゃった…」
「かわええか?」
「あの時の侑くんは、本当にかわいかったんです」
「さよか」

真面目なトーンで返されて、治は少し引いた顔をしたが、すぐに表情が柔らかくなった。

「…名前がツムと出会ってくれて良かったわ」
「…え?」
「ツムが中学ん時、女の先輩のせいで変なトラウマができてから心配しとってん」
「…そっか」
「ツムはほんっま人でなしやし、ノンデリやしアホな奴やけど、バレーに対してはホンマ一途やねん。俺よりもバレーボールを愛しとる。そんなツムのことをわかってくれる人が絶対おるはずやって思っとった」
「治くん…」
「それが名前で良かったわ」

そう言って笑う治を見て、名前は思わず泣きそうになる。

「治くん、本当に侑くんのことが大切なんだね」
「まあ、これでも生まれたときから双子やっとるからな」

治に話したことで、名前は自分が侑のバレーだけではなく、侑自身にも惹かれていることを確信する。

「もうすぐ春高の代表決定戦が始まるでしょ」
「そうやな。ウチはシードやから10月からやけどな」
「…そんな大事な時期に、侑くんをバレー以外のことで煩わせたくないな」
「…それは名前が気にする必要ないやろ」
「そう、かな?」
「…名前はどう思っとるん?」

治にそう聞かれて、名前は少し考えてから口を開く。

「…侑くんのことは、好きだなって思うけど、侑くんの一番はバレーだから、今はバレーに集中させてあげたいなって思う。侑くんは、このチームが大好きなんだなって、本当に伝わってくるから」
「それやとツムと名前は一生付き合えんかもなー」
「え!?」
「ツムは…この先もずっと色んなチームでバレー続けんで?誰よりも、長くコートに立ち続けて、いろんなスパイカーたちを手玉に取って楽しむ男や」
「…たしかに」
「せやろ?せやからあんま気にせんと、名前もツムのことが好きなんやったら、早う応えてやるんがツムにとっては一番ええんやない?」
「…治くん、さすがだね」
「まあ、これでもオカンのお腹ン中にいた時から双子やっとるからな」

治は先ほどと同じようなセリフを言うと、ニヤッと笑う。

「とりあえず、春高が終わったら侑くんにちゃんと伝えようと思う」
「春高終わったらなん?」
「うん。私も、侑くんと治くん、倫太郎くんと銀島くんたちが、北さんと尾白さん、大耳さんと赤木さんたちと楽しむ最後のバレーをイチ観客として見ていたいから」
「…名前がそれでええならええよ」

ホチキス留めが終わった資料をまとめながら、治は続けた。

「まあ、これからツムの猛アピールが続くと思うから、大変やと思うけどなあ」
「…治くん助けて」
「頑張りや」
「酷い!」



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