「おう!お疲れさん!」
「結構かかったね」
「あれは2人でやる量やなかったわ」
「だから俺も手伝う言うたのにな!」
「クラス違うんだから先生も良しとは言わないでしょ」
「ほな帰んで!今日は俺が名前送ってくるから、お前らは先帰っとってええで」
侑はカバンを持って立ち上がるとそう言った。
「ま、まだ早いから送らなくても大丈夫だよ!」
「俺が一緒に帰りたいんや!」
「俺もー」
「サム!おまえ邪魔すんなや!」
「帰るところ一緒やろが」
「空気読めや!」
「名前ちゃん、早く帰ろう」
「せやな!双子はほっといてはよ帰ろか!」
「おいコラ!」
結局、この日は5人で名前を送ることになり、侑の思惑通りにはいかなかった。
しかし治の言っていた通り、次の日から侑の名前へのアプローチが今まで以上にわかりやすくなっていったため、1組では「(はよくっつけや!)」とみんなが思うようになるのだった。
9月後半、稲荷崎高校では体育祭が実施される。
「9月っていっても、まだ暑いよね」
「残暑だねー」
今年は、奇数クラスが紅組で、偶数クラスが白組で分かれている。
「倫太郎くんも治くんも、出る競技多いよね」
「運動部は何かと出されがちだよね」
「別にええねんけどな」
開会式が終わり、全校生徒が応援席に向かう。
それぞれの応援団が配置につくと、白組の応援団の中に赤木がいることに気付く。
「赤木さん、応援団の姿めっちゃ似合う」
角名はカメラをかまえながらオッホホと笑う。
「本当だね!紅組の応援団は尾白さんがやるのかと思ってたけど」
「アランくんはどっちかっていうと応援される側やな」
最初の種目は二人三脚。
男子と女子に分かれて、それぞれ10レースずつ行われる。
「2人とも頑張ってね!」
「おん」
「ほどほどに頑張ってくるよ」
治と角名がスタート地点に向かう。
1年生のレースが終わり、次は2年生の番になる。
最初は、1組と2組の対決だ。
「絶対負けへんで!!」
「当然やろ!!」
侑と銀島のペアは、隣に立った治と角名のペアを睨みながら気合を入れる。
「勝負前にイキリすぎや」
「ラクに勝てる相手がよかった…」
角名はめんどくさそうな顔をしながらそう言った。
「侑は勝たなアカンな!」
「どうせ名前にええとこ見せたいんやろ」
「え、ええやろ別に!」
「気合入ってる侑ってめんどくさい…」
「スタートからブッチぎったんで!!」
「俺が合わせたるから全力でいけや!!」
審判役の先生が「位置についてー!」と声をかける。
「今からは双子のつもりで息合わそか、倫」
「え?嫌だけど」
「よーい…スタート!!」
パン!と音が鳴ると、2組は一斉に走り出す。
「白組ー!」
「侑走れー!」
「治負けんなー!」
周りの声援もあり、レースは白熱した展開を見せる。
「どけやコラ!!」
「おまえが寄ってきとんやろ死ねや!!」
「右利きやから右寄るやろドアホ!!」
「関係ないやろ、トラックは左回りやんけボケカス!!」
そんな風にぶつかり合いながら走る侑と治の2人。
「ちょ、ちょっと!これ二人三脚だからね!わかってる!?」
「おまえら2人だけで勝負しとる気やろ!!」
そんな2人に引っぱられるように走る角名と銀島。
そんな4人を応援席から見ていた名前は「カ…カオスだな…」と思った。
「治もめっちゃ言うなー」
「本当だね。やっぱり治くんも、なんだかんだ熱い男だよね」
「苗字さん、治やなくて侑応援したってな!」
「え!?」
クラスメイトの言葉に、名前は驚いた顔をした。
「侑くん白組だよ!?」
「それはわかっとるけど、恋する乙女(男)は応援したなるやん!」
「ホンマやな〜。苗字さんのおかげで珍しい侑見れて嬉しいわ!」
「あいつ、イケメンやけど恋愛初心者やから見てておもろいな」
「イケメンで、背も高くて運動もできる奴やけど、うまくいかんこともあるんやなって愉快愉快!」
「そ、そっか」
そう言って面白そうに笑うクラスメイトを見て、名前もつられて笑う。
レースは終盤、侑と銀島のペアが僅差で先にゴールテープを切った。
「ぐうっ…!!」
「俺の…勝ちや!!」
「俺のやなくて俺たちのやろ!!」
「治、早すぎ…」
「こいつに負けたんが腹立つわ!」
「負け犬の遠吠えやな!」
3年生の紅組の席で2年生のレースを見ていた大耳は「双子はどこにおっても目立つなァ」と言った。
「アホやっとるだけやん」
間髪入れずに北が答える。
「ええなあ…!オレも体育祭のヒーローになりたいでぇ!!」
そこに、尾白が合流した。
「ここ7組やぞアラン」
「同じ紅組やんけ。細かいこと言うなや」
「悪目立ちはヒーローとは言わんで」
「3年最後の思い出やで!良しも悪しも振り返れば思い出やんけ!」
「それもそうか?」
「信介、多分ちゃうわ」
3年生のレースも終わり、応援席に戻る治と角名の後を侑も追う。
「なんでおまえもこっち来んねん!」
「ええやん」
「いやいや、おまえ白組でしょ」
「俺も紅組が良かったんや!」
「だろうね」
侑と銀島が1組の応援席に来ると、周りが「なんでおんねん」とツッコむ。
「まあまあ気にすんなや」
「いや、さすがに気になるやろ」
「俺は連れて来られただけや!」
「かわいそうになあ」
侑は名前の姿を見つけると、後ろから駆け寄った。
「名前!」
「侑くん?なんでここにいるの?」
「細かいことはええねん。さっきの二人三脚見とったか?」
「うん!治くんたちが負けちゃって悔しかったー」
「なっ!?」
名前の言葉にショックを受ける侑。
「まあ、そらそうなるやろ。名前は俺らと同じ紅組やで」
「だよね」
治と角名がそう言うと、周りのクラスメイトが「苗字さん!」とニヤニヤしながら名前の名前を呼んだ。
「ほ、本当にいいの?」
「ええよ!」
「苗字さんにしかできんことやしな!」
名前は侑に「でも、侑くんが1位ですごかったよ!次も頑張ってね!」と言った。
「名前…!」
「え、名前ちゃんなんで侑の応援してるの?」
「敵やぞ!?」
「え、えっと…」
「名前が個人的に俺を応援するんはええやろ!めっちゃやる気出たわ!」
そう言って、侑が締まりのない顔をしていると、それを見たクラスメイトたちが吹き出しそうになっていた。
「ほっんまおもろいな!」
「あの顔!イケメンが台無しやで!」
「アホ面やん!」
そんな風に小声でコソコソと話しながら面白がっているクラスメイト達に気付いた治は「そういうことかい」と笑った。
「治も、侑のあんな顔初めて見たやろ?」
「せやな」
「年相応って感じでええやろ」
「ホンマやな」
角名は「だからって面白がりすぎじゃない?侑にバレたら怒られるよ?」と言った。
「面白がっとるわけやないで!微笑ましく見守っとんねん!」
「せやせや!」
「ま、別にいいけど」
「…ツムはなんやかんや愛されとるな」
「愛されてるって言うの?アレ」
3年生の二人三脚が終わり、玉入れや綱引きなどの競技が続き、次は午前中最後の競技の借り物競争が始まる。
「お、次の借り物競争、理石が走んで」
バレー部1年の理石がスタート位置についたことに気付いた治。
「位置について、よーい…スタート!」
スタートの合図と同時に走り出す理石。
「(1位やなかったら侑さんにボロクソ言われてまう!簡単な借り物頼んますで仏様!)」
そう思いながら地面に落ちている紙を拾うと、広げてお題を確認する。
「…」
そこには”尊敬してる人”と書いてあった。
「何引いたん!?パンツでもなんでも貸したるから言うてみ!!」
「脱ごうとすんなやボケ!苗字もドン引きやで!」
「なっ!ウソやん!引かんといて!」
「ひ、引いてないよ…」
「ドン引きやん!?」
「侑くんらしいなーって思っただけ」
「俺らしい!?」
名前の言葉に、またしてもショックを受ける侑だったが、理石が駆け寄ってきたのでお題の内容を確認する。
「侑さん…これです」
理石のお題を確認すると、理石の手をつかみ「なんやしゃーないな…ほな行こか」と言って走り出そうとする。
「待てや」
そこに治が待ったをかける。