20

10月になり、代表決定戦が始まった。
稲荷崎高校は順調に勝ち進んでいたが、治の調子はまだ戻っていなかった。
代表決定戦の準々決勝、セットカウントは2対1で稲荷崎高校が勝ったが、侑とのコンビミスやスパイクのミス、そしてサーブのミスがいつもの試合よりも多かった。

「ほんならこれで解散や。次、準決勝やけどこのままやったら勝てるもんも勝てへんで」
「ハイ」
「気合入れ直しぃ!」
「そしたら信介、次の準決勝のことで話があるから大見と先に職員室で待っといてや」
「わかりました」

大見と北が職員室に向かった後、黒須は治を体育館の外に呼ぶと「治、次の準決勝の結果次第でそん次はベンチスタートや」と伝えた。

「…うっす」
「おまえ、最近どないしたん?何かあるんやったら相談にのったんで?」
「…大丈夫です」
「ホンマか?」
「はい…」

何も言おうとしない治を見て、黒須はあきらめてため息をついた。

「せやったらええけど…。春高でもおまえの力が絶対必要になるんや。そこ、わかっとるな?」
「はい…」

そう言うと、黒須は職員室に戻って行った。
体育館の中に戻ってきた治に、部員の1人が声をかける。

「治、今日アカンかったなー!だいぶドヤされとったな」
「まあそういう日もあるわ」
「どんまい」
「俺らみんなへたくそや。せやから練習するんやろ!」
「熱」

そこに侑が合流すると「このポンコツ」と治のことを罵る。

「…」
「あのセッティングでスパイク決められんポンコツはさっさとポジション空けえや」

それだけ言うと、侑はロッカーに戻ろうとする。

「治くん…大丈夫かな」
「…せやな…」

そんな2人を、名前と中山は体育館の隅から見守っていた。

「…」
「侑、言い方あるやろ。治が一番身に染みてんねやからー」

治は、そう言う銀島の横を駆け抜けると、侑に跳び蹴りをした。

「この暴言クソブターッ!!!」
「!!!」
「!!!」

治の跳び蹴りを受けた侑はそのまま体育館の床に倒れ込むと、治が間髪入れずに馬乗りになって侑の胸倉をつかむ。

「てめえが絶好調でもこっちがそうやない時もあんじゃろがい!”なんかダメ”な時は”なんかダメ”なんじゃクソボケがあ!!」
「身も蓋もない」
「侑クンは失敗しないですかアー!?アアー!?」

それに対して侑も言い返す。

「ポンコツにポンコツ言うて何が悪い!!」
「人格ポンコツ野郎に言われたないんじゃ!!」

2人が大声でケンカをしていると、外にいた他の部活動をしている生徒たちが体育館に集まってきた。

「宮兄弟のケンカや!」
「体育館でケンカやて!」
「バレー部名物、双子乱闘や」
「どっちが勝つか昼飯賭けよ!」
「北どこや!?」
「まだ職員室に…!」

どんどん人が集まってきて、収拾がつかなくなってきたカオスな体育館に遅れてやってきた北。

「…何しとんねん」
「き、北さん!」
「双子のケンカです。北さんなんとかしてくれませんか?」
「あの2人なにやっとるん…」
「今日の試合のことでちょっと…」
「…わかった」

北はそう言うと、侑と治の名前を呼んだ。

「侑、治」
「!!」
「き、北さん!?」

北の声に気付いた2人は、ケンカをやめた。

「おまえら何しとんねん。準決勝あるのわかっとるやろ?ここでケガして試合に出られんくなったらどうすんねん」
「うっ…」
「おまえらのケガのせいで俺らが迷惑すんねん。そんなにケンカがしたいんやったら全部終わってからにせえ」
「す、すんません…」

その後、騒ぎを聞きつけた黒須が2人を職員室まで引っ張って行った。

「あ、嵐のようだったね…」
「双子乱闘久しぶりに見たな」
「よくケンカしてるけど、ここまですごいのは初めて見たかも」
「中学ん時のがよく殴り合いのケンカしとったみたいやな。最近乱闘が少ないんは、誰かさんのおかげかもしれんな」

中山はそう言って名前を見る。

「私は何もしてないよー」
「ほーん。ま、双子も大人になってきたっちゅうことやな」



侑と治の2人は説教の後、2人で家に帰った。
侑は名前のことを送ろうと思っていたが、名前に「治くんと、ちゃんと仲直りしてね」と言われてしまい、しぶしぶ角名に名前のことを頼んだ。
2人は無言のままベッドに寝っ転がっていたが、侑の方から治に声をかける。

「………ウイイレやるか?」
「……………やる」

ゲーム機を起動させると、2人は無言でゲームを始めた。

「…サム」
「あ?」
「…なんかあるんやったらええ加減話したらどうなん?」
「…こっちにもタイミングがあんねん」

試合が始まると、画面に夢中になりながら話は続く。

「何ごちゃごちゃ考えとるんか知らんけど、それのせいでプレイに影響出してんちゃうぞ」
「そんなんわかっとるわ」
「俺ら最強のツインズやろが」
「…」
「あ?」
「…そうやな」







兵庫県の春高代表決定戦も今日が最終日。
準決勝では、スターティングメンバーとして治が出場するが、やはりまだ本調子ではなかった。
しかし、試合自体はセットカウント2対0で稲荷崎のストレート勝ち。
黒須の宣言通り、決勝戦では治はスターティングメンバーから外された。

「治くん…」

そんな治の姿を、名前は応援席から見ていた。
当の本人は落ち込んではおらず、どこか吹っ切れた様子だったので、名前は少し安心していた。
決勝戦、セットカウント2対0で稲荷崎高校が勝ち、3年連続31回目の春高出場が決定した。



学校に戻った後、いつも通りミーティングを終え、侑は名前と帰るために名前を呼ぼうとした。

「名前」
「治くん?」

が、侑が名前のことを呼ぶ前に治が名前を呼ぶ。

「どうしたの?」
「ちょっとええか?」
「うん」
「ちょいちょいちょい!」

名前と治の間に割って入る侑を、めんどくさそうな顔で見る治。

「なんやねん」
「”ちょっとええか”やないねん!名前に何の用や?」
「…おまえもや」
「はあ?」

治はそう言うと、角名と銀島にも声をかける。

「角名、銀、おまえらもちょっとええ?」
「ええよ?」
「中山さんは?」
「おん」

角名は中山を呼ぶ。

「何?」
「治が呼んでる」

治は、侑、角名、銀島、名前、中山の5人を呼ぶと「あんな…」と言いにくそうに話し出す。

「なんやねん、うじうじして気持ち悪い」
「侑はちょと黙ってて」
「どないしたん?」
「治くん?」

治は少し伏せていた顔を上げると「俺、バレーは高校までにしようかと思ってんねん」とハッキリ言う。

「…は?」

5人は驚いた顔をしたが、その中でもいち早く侑が反応を見せる。

「おま、何言うとるん?」
「…ずっと考えとってん。バレーを続けるか続けへんか…」
「それで最近調子悪かったんだ?」
「迷っとったんやな」
「そっか…」
「治が決めたんやったら、それでええんやん?」

4人は納得したような返事をするが、侑だけは「な、なんやねんそれ!」と反対した。

「おまえそんなこと一言も言うてへんかったやん!」
「迷っとった言うたやん」
「俺と一緒に死ぬまでバレーやるんやろ!」
「いつでもやったるよ。時間のある時やったら。まあ、プロに行ったおまえのが忙しくてそれどころやないと思うけどな」
「そういう”一緒”ちゃうわ!」

侑は治の胸倉をつかむと「俺は、認めへん!」と怒鳴る。

「おまえに認められへんでもええわ」
「なっ!」
「それに、まだ迷っとんねん。大学まで続けるか、それとも別の道に進むか…」
「…」
「俺かてやりたいことあんねん。ちゃんと考えとるわ」
「…ウソやん…」
「ウソちゃうわ」
「…俺の横にはいつもおまえがおったやろ」
「ツム…」

侑は「最近ポンコツやったから迷いが出ただけやろ!さっさと余計な邪念払ってバレーに集中せい!」と言う。

「…ツム、逆や」
「あ?」
「迷いが出たからポンコツになってん」
「…」
「バレーは好きやで。けど、多分俺とおまえの好きの度合いはちゃうねん」
「…」
「…おまえに言えて、ようやく考えがまとまりそうやわ」
「…クソサム!!」

侑はそう叫ぶと、体育館から出て行った。

「侑くん!」
「…名前」
「ん?」
「ツムのこと、頼むわ」

名前はコクッとうなずくと、出て行った侑を追いかける。

「…こうなるってわかってたでしょ」
「せやから言いたくなかったんや」

角名に言われて治は頭を掻く。

「せやけど、これ以上ぐるぐる悩んどったらプレーに身ぃ入らんで、中途半端になるんが嫌やってん」
「まあ、最近の治見とったらそうやな」
「ホンマにプロ目指さんのか?勿体無い」
「そう言うてくれるんわ嬉しいけどな、多分俺はツムとはちゃうねん」

そんな治を見て、角名は「ま、今すぐ決めなくてもいいんじゃない?」と言った。

「まだ2年なんだし、結論出すのはまだ早いんじゃない?」
「…せやな。春高終わるまでに結論出すつもりや」
「ちゃんと侑納得させてよ。来年も2人には頑張ってもらわないといけないんだし」
「わかっとるわ」



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