21

名前は体育館から出て行った侑を探していた。

「(あ、侑くん…どこにいるんだろう…)」

校内を見て回っていたが、なかなか侑は見つからない。
下駄箱を見ると、侑の靴が替わっていることに気付いた名前は、自分も靴を履き替えて外に出た。
そして、中庭に行くと、機嫌が悪そうな顔でベンチに座っている侑を見つける。
名前が侑の座っているベンチに向かって歩いていくと、途中で足音に気付いた侑が顔を上げた。

「名前…」
「急に走って行っちゃうから」
「…すまん」

名前は侑の隣に座る。
2人は無言のままベンチに座っていたが、侑がポツリと話し始めた。

「…なんでなんやろな」
「え?」
「…俺は、ずっとサムと一緒にバレーやるもんやと思っとった」
「…」
「けど、サムはそうやなかった。そうやない道もあるって、前々から考えとったっちゅうことやん」
「そうだね」
「…そんなん考えもせんかったわ…」

侑はベンチの上に両脚を乗せるて両腕で膝を抱えると、ベンチの上で窮屈そうに体育座りをした。

「侑くんは、治くんとするバレーが大好きなんだね」
「…そんなんちゃう」

名前の言葉を否定した侑だったが、その姿はどう見ても治と一緒にバレーができなくなることが嫌で拗ねているようにしか見えなかった。
名前は思わず侑の頭を撫でる。

「なんやねん、子ども扱いせんといてや」
「よしよし」

名前が頭を撫でていると、侑は顔をムスっとさせて顔を下に向けて隠す。

「私も、侑くんと治くんが2人で楽しそうにバレーしてるの好きだったから、もし治くんが本当にバレーを辞めるって選択をしたら、少し寂しいなって思うけど、それでも2人がバレーをやってたいう事実は消えないよ」
「…」
「今は納得できないと思うけど、治くんとちゃんと向き合ってあげてね」
「…せやな」

名前がそう言うと、侑は顔を上げる。

「ま、まだ本決まりやないしな。やっぱバレーのがええなってなるかもしれんしな!」
「うん」
「…帰ろか」
「治くんと帰らなくていいの?」
「ええねん!家でも顔見るんやし、名前と一緒におりたいねん!」
「ん、わかった」

侑と名前はロッカーに荷物を取りに行き、2人で帰途に就く。

「名前」
「ん?」
「…ありがとうな」
「私何もしてないよ?」
「…こういう時に、傍におってくれるだけでええねん」
「そっか」

侑は名前の前に手を出すと「…繋いでもええ?」と聞いた。

「侑くんって、甘えん坊だよね」
「そんなんちゃうわ!ただ、今日はちょーっとだけ凹んどるから甘えたいねん!」

そう言って焦る侑を見て、名前はクスっと笑うと差し出された手を握った。

「今日は特別ね」
「おん」



春高出場が決まり、バレー部はテレビや雑誌の取材が増えてきた。
中でも、侑の特集が組まれることも多くなり、侑は高校No.1セッターとして人気と実力が確立していく。
昼休み、珍しくクラスメイトからお昼ごはんに誘われた名前は、治と角名とは別でご飯を食べていた。

「なあなあ苗字さん、最近侑の人気もさらに上がってきとるやん?」
「そうだね。この前テレビ見てて特集されててびっくりしちゃった」
「他の学年の女から嫌がらせとかされてへん?」
「大丈夫なん?」

クラスメイトから心配そうに聞かれた名前は、笑顔で「大丈夫だよ?」と答えた。

「うちの学年やったら侑からの矢印がデカイことわかっとるけど、他の学年やとそうはいかんやん?だから心配しててん」
「みんな本当優しいよね」
「当たり前やん!侑と苗字さんの恋は応援したいやん!」
「ポンコツやけど、苗字さんには一途な侑なら見てて微笑ましいやん」

真剣な顔でそういうクラスメイトに、名前は思わず笑ってしまった。

「ありがとう。でも、まだ付き合ってるわけじゃないよ?」
「でも苗字さんも好きなんやろ?」
「うっ…!」
「見とったらわかるわ!」

そう言われた名前は少し顔を赤くする。

「ま、まだ言わないでね。侑くんには春高に集中してほしいから」
「うんうん、愛やなぁ」
「ええな〜」
「1年前はこんな風になるなんて想像もしとらんかったなぁ」

そんな名前たちを少し離れた席で見ていた治と角名。

「平和だね」
「せやな」
「あれから大丈夫だったの?」
「あ?」
「侑」
「…まあ、あんま納得しとらん顔やったけどな」
「そっか」
「俺は思考の整理もついたし、またいつも通りのプレーができると思うで」
「治はいいけど、今度は侑がポンコツになるかもよ」
「ならんやろ」
「どうして?」
「…あいつは、バレーボールを愛しとるからな」







11月中旬。

「なんか治、今日は調子ええな」
「せやな」

侑に話したことによって、スッキリとした治はいつも通りの調子を取り戻した。

「スッキリとした顔しとるやん」
「ホンマですか?」

北や尾白にそう言われて、治は少し恥ずかしそうにする。

「北さんたちにもだいぶ迷惑かけましたね。すんません」
「謝らんでええよ。治が何かに悩んどることは気付いとったけど、力になれんくてすまんかったな」
「北さんのせいちゃいますよ。これは、俺自身の問題やったんで」
「さよか」
「でも、心配してくださってありがとうございます」
「春高では期待してんで」
「任せてください」

いつものように練習をしていると職員室から黒須がやって来た。

「集合」

北の号令を聞いた部員たちは、練習を中断して集まった。

「お疲れさん」

黒須はそう言うと「侑、ちょっとええか」と侑を呼んだ。

「はい?」
「あんな、おまえに全日本ユース強化合宿の招集がかかってん」
「全日本!?」
「ユース?」
「すごいやん!」

傍で聞いていた名前も驚いた。

「ユースって、たしか19歳以下の日本代表だったよね?」
「せやな。大したもんやなー」
「侑くんって、本当にすごいんだね」

黒須は「今回招集されるメンバーん中から2年後のユース代表選手として戦う奴が選ばれるんやて」と続ける。

「日本中から侑みたいなバレー馬鹿が集まってくるんだ」
「馬鹿とはなんやねん!」
「実際に選ばれんくてもその合宿に呼ばれるだけですごいわ」
「ホンマやな!ジャパンやん!」

侑は「…それは、呼ばれたんは俺だけですか?」と聞いた。

「そうや。合宿は12月の頭で、日程は5日間や。春高前やから強制やないらしいけどどないする?」

黒須にそう言われ、侑は一瞬治のことを見るがすぐに黒須に視線を戻し「行きます」と言った。

「北さん、行ってきてもええですか?」
「何を当たり前んこと言うとんねん。行くべきやろ」
「日本のトップに揉まれてこいや!」

赤木はそう言うと侑の頭を乱暴に撫でた。

「おまえのセットアップで周りをビビらしたりい!」
「ういっす!」
「知ってる人もいそうだけどね」
「佐久早とか?古森も呼ばれてそうやな」

黒須は「ほんなら先方には参加って伝えとくから、頼んだで」と侑に声をかけて、職員室に戻って行った。

「ユースとはやりよるなあツム」
「…悔しがれサム!!」
「悔しいわ」

侑は、自分だけが今日が合宿に選ばれたにも関わらず、何も気にしていないような治の態度が気に入らない。

「あんま悔しいと思てへんことが悔しい。ツムはがんばっとるからな」
「何やねん、自分ががんばってないとでも言うんちゃうやろな」
「多分、がんばってるプラス、ちょっとオカシイ奴が呼ばれたんとちゃうかなと思う」
「ア!?」

治の言葉に侑は苛立つが、治は気にせずそのまま続ける。

「俺とおまえの実力は変わらんけど」
「いいや俺の方がうま「一通り聞けや」

侑の反論に治がかぶせる。

「ツムの方が、俺よりちょびっとだけバレーボール愛しとるからな」
「…」
「だから、ツム。自分を信じで突き進んでけ」
「…言われんでもわかっとるわ」

そんな2人のやり取りを見ていた名前は、少しだけ泣きそうになった。

「ほんなら練習再開しよか」
「ハイ!」



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