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12月、今日から全日本ユース強化合宿が始まる。
侑は新幹線に乗って、東京の合宿会場に向かう。
席に座ってメッセージアプリを開く侑は、締まりのない顔をしていた。

「(かわええなぁ〜)」

昨日の夜、そして今日の朝、名前から届いたメッセージを見てにやけそうになる顔を手で隠す。

『次は終点、東京ー。東京ー。お降りの方は忘れ物に注意してください』

東京に到着するアナウンスを聞いた侑は、携帯を仕舞って降りる準備をする。

「(5日間会えへんのはさみしいわな。…ま、サムに名前のこと頼んだし大丈夫やろ)」

東京駅から乗り換えて、北区にある味の素ナショナルトレーニングセンターに到着する侑。

「今日から5日間…気張るで!」



バレーボール専用体育館の中に入ると、広いコートにスクリーンがある。

「ほーん…(すぐにプレー確認できるんわ便利やな)」

「あれって、稲荷崎の宮侑だよな」
「だな」
「本物でけー」
「そうか?」

侑の話をしているが、本人は特に気にせず体育館の中を見て回る。

「ええなー、楽しみやなー!」

「集合ー!」

号令を聞いた生徒たちが一か所に集まる。

「じゃあ監督、一言お願いします」
「はいはい」

そう呼ばれて出てきたのは、全日本男子代表チームの監督、雲雀田吹だ。

「えーっとオジサン達の話聞き飽きてると思うんで手短に」

雲雀田はニッと笑うと「”日本、高さとパワーの前に敗れる。”なんて決まり文句はもう古い」と言った。

「あらゆることは”備わっている”ものではなく”発揮”されるものだ。世界を相手に暴れてくれ。バレーボールはもっと面白いと証明しよう」





稲荷崎高校では、侑のいない5日間が始まった。

「静かやなー」
「そうやな」
「前に侑が風邪ひいて練習休んだ時も同じこと言ってたよね」

名前は治にタオルとドリンクを渡すと「やっぱりさみしい?」と聞いた。

「んなわけないやろ。うるさいのがおらんから清々するわ」
「ふふふ、そう言って、物足りなそうな顔してるよ?」
「アホ」

治はめんどくさそうに返事をする。

「上手くやってるんかな?」
「知らん人もおるやろうけど、侑なら大丈夫やろ!」
「そういう意味やない。あいつ人でなしのポンコツやから心配やって意味」
「猫被ること覚えたから大丈夫やろ」
「外面だけはいいよね、侑」
「み、みんな言いたい放題だね」

侑についてあれこれ言う4人を見て、名前は苦笑する。

「名前はさみしくないん?」
「え?」
「5日間会えへんやん」

中山にそう聞かれて、名前は少し考えてから「さみしくないって言ったら嘘になるけど…でも、侑くんが頑張ってるからね!」と言った。

「健気やな〜」
「ほんと、侑にはもったいないよね」
「ホンマや」
「まあ、プロになったら遠征もあるんやから、今のうちに慣れとかんとな」
「…え!?」

中山の言葉に名前は驚いた顔をする。

「なんで驚くん?」
「だ、だって」
「侑と付き合いはじめたら名前は一生侑から離れられへんと思うで?」
「たしかに、侑はそういう奴やな」
「名前ちゃんのこと大好きだしね」

名前は思わず治に助けを求めるが「せやな、ツムは好きなもんには一途やからな」と3人に同意した。

「み、みんな気が早くない?」
「ツムの性格考えたらそうなるわな」

治は名前の肩を軽く叩く。

「ツムのこと、頼んだで」
「うん」

「おまえら、いつまでだべっとんねん」

そこに北と尾白がやってくる。

「練習再開すんで」
「ハイ!」





合宿1日目が終わり、侑は食堂に来ていた。

「お!臣くんやーん!それに古森くんも!」

ご飯を受け取った侑は、どこに座ろうかとキョロキョロしていると井闥山の2人を見つける。

「おう、お疲れ!」
「…話かけんな」
「ホンマ臣くんはトゲトゲしいな〜ツンデレかっちゅうねん。190近い男のツンデレは需要ないっちゅうねん」
「黙れ」

佐久早は侑を無視してご飯を食べる。

「ここ座ってもええ?」
「いいぜ!」
「いいわけねえだろ」
「失礼しまーす!」

侑は古森の前に座ると、ご飯を食べ始める。

「やっぱ2人も呼ばれとったな。挨拶無視されて俺は悲しかったで」
「無視したっけ?今日の練習はポジションごとだったから喋る機会なかったなー」
「…」

侑は「春高予選優勝やったな。おめでとう」と伝える。

「おう!おまえらもだろ」
「せやで!」
「ビデオ見たけど、治の方は出てなかったよな?ケガでもしたか?」
「いや。ただ考えすぎてポンコツやったから決勝には出とらんかっただけや」
「ポンコツ?意外と繊細なんだな」
「誰かさんと違って」
「誰のこと言うてんねん」

佐久早に間髪入れずにツッコむ侑。
そんな侑を見て、佐久早は嫌そうな顔をした。

「おまえ静かに食べろ。唾を飛ばすな」
「はあー臣くんはいちいち細かいねん!人はみんな菌と一緒に生活してんねんで?気にしすぎやって!」
「おまえは気にしなさすぎなんだよ」
「古森くんも苦労するなー」
「俺はもう慣れたよ」

そんな話をしていると、侑の携帯が鳴る。
ポケットから携帯を取り出して、メッセージアプリを開くと侑はニヤニヤと笑う。

「…キモ」
「うっさいわ!」
「何?彼女?」
「か、彼女ちゃう!!…まだ」
「まだ?」

侑は悔しそうに顔をしかめながらそう言った。

「まだってことは、いい感じなんだ?」
「古森くん聞いてくれるん?」
「俺も一応男子高校生ですからね」
「嬉しいなぁ!古森くんボーイズトークしよしよ」
「ぶりっ子すんな気持ち悪い。180オーバーの男のぶりっ子なんてどこに需要あるんだよ」
「さっきの仕返しやめてくれへん!!」

佐久早は顔をしかめながら「俺は部屋に戻って風呂に入る」と言って席を立った。

「臣くんいけずやなー」
「まあまあ、俺が代わりに聞いてやるからさ!」
「古森くんホンマええ人やな」
「で、相手は誰なんだよ?」
「当ててみい?」
「ごめん、そういうのはめんどいわ」
「つれないやっちゃな!!」

侑の反応に少し引いた反応を見せた古森。

「どうせ俺の知らない奴だろ?」
「知っとる奴やでー」
「マジ?ってことは、苗字か中山か!それとも1年生マネ?」
「名前や」
「マジか」
「おん!」
「あー、そうなんだ」
「ん?なんやその反応?もしかして古森くん名前のこと狙ってたん?」

侑が怖い顔で古森を睨むと「違うって!俺じゃない!」と慌てて否定する。

「俺やないって、じゃあ誰や?」
「別に狙ってるとかじゃないけどさー」
「…え、まさか臣くん?」
「俺の勝手な想像ね!練習試合とかインターハイとかの大きな大会でしか会わないけど、佐久早って苗字と会うと結構話しかけにいってたからさ。あいつから話しかけるってなかなか珍しいから、どうなのかなーって思ってただけ!」
「そうなん!?」
「別に本人から何か聞いたわけじゃないし、俺の勘違いかもしれないから気にしなくていいよ!」
「せやったら知りたくなかったわ!」
「ゴメンって!」

古森の話を聞いて、少し複雑な気持ちになった侑。

「…本人に聞いてくるわ」
「やめて!俺が殺される!」
「殺されへんやろ!モヤモヤしたまま過ごすんわ性に合わん!」
「だよなー…そうなると思った」

古森は、やってしまったという顔をしたが「まあ、俺もたしかめたいって思ってたからいいや」と言って、侑と一緒に部屋に向かう。



お風呂から出た佐久早を待っていたのは、同室の古森と侑だった。

「…なんでおまえがここにいるんだよ」
「臣くんに聞きたいことがあってん!」
「あ?」
「臣くんって、名前のこと好きなん?」
「どうしてそんな勘違いが生まれたか吐け」

佐久早はそう言うと、ジロッと古森のことを睨み「おまえか」と聞いた。

「だって!佐久早って、普段人に興味なさげな態度とってるのに苗字と会うと、自分から話しかけに行くじゃん!」
「殺す」
「わー!ごめんって!」

佐久早は古森に詰め寄ろうとするが、その前に侑が佐久早と古森の間に入る。

「ちょいちょい!まだ話終わってへんから、殺すんやったら終わってからにしてくれ」
「俺は殺される確定なの!?」

侑は古森を無視して「で、どうなん?」と佐久早に聞く。

「好きじゃない。人間としては好意的に思っているけどな」
「それって好きってことじゃないの?」
「ちげえ。恋愛感情はないって話だ」
「そうなん?」
「少なくとも、おまえを好きになるような女を俺は好きにならない」
「名前は俺の外見やなくて中身で好きになってくれたんやけどなー!」
「そうか、良かったな。俺は寝る」

佐久早は侑を部屋から追い出そうとする。

「古森、あいつを早く追い出せ」
「ホンマに好きやないんやな?」
「当たり前だろ。勝手な勘違いして俺をおまえのライバルにすんのはやめろ」
「わかった。信じるで臣くん!」
「わかったらさっさと出ていけ」

侑を部屋から追い出すことに成功した佐久早は、日課のストレッチを始める。

「…本当に好きじゃないんだ?」
「…おまえもいい加減にしないと追い出すぞ」
「…なーんだ!せっかく聖臣にもいいなって想う子ができたのかなーって思って嬉しかったのに」
「勝手な勘違いやめろ」
「はいはい」
「おまえもさっさと風呂に入れ」
「了解!」

全日本ユース強化合宿の1日目が終わった。



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