05

あっという間に夏のインターハイ間近。
侑と治の双子は、インターハイの前にバレー部のレギュラーになった。

「宮くんすごいね、おめでとう!」
「ありがとー。ツムと一緒ってのは気に入らんけどな」
「そんなこと言って、本当は嬉しいんでしょ?」
「まあ…せやな」

治は嬉しそうにユニフォームを見つめると、名前もつられて一緒に笑う。

「だいぶ慣れてきたなー挙動不審やった最初のころが懐かしいわ」
「3ヶ月以上一緒にいるからね、さすがに慣れたよ!」
「やっぱり苗字さんは笑顔でいた方がかわええ」
「あ、ありがとう」

治の言葉に、名前は顔を赤くする。

「でも、そういうのは簡単に言ってはいけません!」
「本心やん」
「治が苗字さん口説いてるー」
「角名くん、それに宮侑くん」

隣のクラスから角名と侑がやって来た。

「サム!おまえ女にうつつを抜かしとる場合か!」
「抜かしとらんわ」
「もうすぐインハイやで!」
「わかっとるわ」

角名と侑がそれぞれ治と名前の隣に座ると、ご飯を食べ始めた。
今までは治が侑たちのクラスに行くことが多かったが、最近は半々になってきた。

「そういえば、ずっと気になってたんだけど苗字さんの、侑フルネーム呼びは何?」
「え?」
「わかるわ。俺もずっと気になっとった」
「あ、そ、そうかな?」

名前自身も、侑のことをフルネームで呼んでいるのはどうかと思っていたが、宮が2人いるので仕方ないとも思っていた。

「宮くんって呼ぶと、どっちの宮くんかわからないかなって…」
「だから侑がフルネームなんだ。ウケるね」
「ほんなら俺のことは治で、侑のことは宮って呼べばええやん」
「はあ!?なんで俺だけ苗字やねん!!」
「怒るとこそこなんだ」

治の提案に、名前は「(お、男の子を名前呼び!?)」と思った。

「俺らのこと名前呼びは普通やで?学校中のみんなが名前呼びやろ?」
「た、たしかに…?」
「はい、じゃあ呼んでみよか」
「え、…お、治くん?」

控えめな感じで名前を呼ばれた治は「ええな。苗字さんからの名前呼び」と喜んだ。

「えー、だったら俺も名前で呼んでほしい」
「え!?」
「はい、呼んでみて」
「う…り、倫太郎くん」
「たしかにいいね。じゃあ俺も名前ちゃんって呼ぼ」
「ええ!?」
「せやったら俺も名前って呼ぶわ。苗字にさん付けやったら距離感じんねん」
「あ、あの…」

治と角名のフレンドリーさについていけなくなる名前。

「じゃあこれからはツムのことを宮って呼んでや」
「え、あ、うん」
「はあ!?うん、やないやろ!!なんで俺のことだけ苗字やねん!」
「なんやツム、おまえも名前で呼んでほしいんか?」
「べ、別にそんなこと言うてへんやろ!!」
「じゃあ苗字でいいじゃん」
「うっ…!!」

侑は名前の方を見ると「べ、別におまえに名前で呼んでほしいなんて思ってへんわ!!」と叫んで、そのまま教室から出て行った。

「…私、なんでこんなに宮くんに嫌われてるんだろう…」
「あれは嫌いっていうか」
「意地悪やな」
「意地悪?」
「素直になれへん子どもやねん、あいつ。名前は気にせんでええよ」
「本当、子どもだよねー」

2人はそう言いながら、気にせずお昼ご飯を食べ続けた。







1年目のインターハイは3位で終わった稲荷崎高校。
夏を過ぎると、名前もだいぶマネージャー業に慣れてきて、侑もそんな名前の姿を見て、少しずつ警戒心を解いていった。

ある日の練習中、侑がサーブ練習をしていると、その近くでボール拾いをしていた1年生部員がボールに躓き、侑がボールを打つタイミングでぶつかった。

「なっ!」
「あ!」

変な力が入ってしまったため、侑の打ったボールはコートではなくコートの外で記録をつけていた名前に目掛けて飛んでいく。

「おい!!」
「名前!」
「え?」

ノートに書きこんでいた名前は、名前を呼ばれて顔を上げる。
その瞬間、右腕に大きな衝撃が走った。

「っ…!」

名前の腕にボールがぶつかり、持っていたノートとペンが吹っ飛んでいった。

「苗字さん、大丈夫!?」
「ん…大丈夫…」

中山が名前に駆け寄って声をかける。

「す、すまん…!」
「サーブ打つ時にこんな近くでボール拾うやつがおるか!!何考えとんねん!!」
「ツム!そんなん言っとる場合やないやろ!」

治に呼ばれ、侑は名前に駆け寄った。

「おい!」
「あ、み、宮くん…ご、ごめん…備品のノートが…」

そう言って、名前は吹っ飛んでいったノートを拾いに行こうとするが、その手を侑が掴んで止める。

「アホか!ノートなんて今どうでもええねん!!腕、大丈夫なんか!?」
「え?」
「ミスったとはいえ俺のボールやぞ!痛いに決まっとるやろ!」

侑が名前の体操服の二の腕の部分をめくると、真っ赤になっていた。

「うわー、痛そう…名前ちゃん大丈夫?」
「あ、うん…見た目ほど痛くはないよ」
「冷やしてきたほうがええんちゃう?」
「ん…そうしようかな」
「一緒について行こか?」
「大丈夫だよ!腕だし」
「…俺が行く」
「え?」

侑はそう言うと、主将とコーチに一言伝えに、その場を離れた。

「…今の聞き間違い?」
「聞き間違いやないな」
「侑が行くの?珍しいー」
「え、私怒られるかな?」
「責任感じとるんやろ」
「宮くんのせいじゃないのに…」

そんな話をしていると、侑が戻って来た。

「保健室行くで」
「あの…」
「なんや?」
「な、なんでもないです…」

これ以上何か言っても無駄だと悟った名前は、大人しく侑の後をついて行く。

前を歩く侑、そしてその後ろを歩く名前。
2人の間に会話はなく、名前はなぜ侑が一緒に行くと言い出したのかわからなかった。

「(き、気まずい…)」

何も話さず、ただただ歩いている2人。
その沈黙を破ったのは、侑だった。

「…すまんかった」
「…え?」
「せやから、すまんかった」
「あ…う、ううん、大丈夫」
「なんや?」
「…み、宮くんって、謝れるんだなって思って…」
「おま、俺のことなんやと思っとんねん!」
「ごめんなさい!」

侑は立ち止まって後ろを振り向くと、失礼なことを言う名前に怒鳴る。

「でも、これは宮くんのせいじゃないから。むしろ練習時間奪っちゃってごめんね」
「…そこは”あんたのせいやー!何してくれとんじゃボケ!”でええねん」
「え?」

侑の言葉に、名前は思わず笑ってしまった。

「あはは、そんなこと言わないよ!だって、宮くんは何も悪くないもん」
「っ!!」

名前の笑顔に、固まる侑。

「宮くん?」
「…わ、笑えるんやな!!」
「え、うん。そりゃあ人間だもん、笑いますよ」
「笑えるんなら最初から笑えや!初めて会うた時から仏頂面ばっかやったやん!」
「あ、ごめんね。私、人見知りで…最初は関西弁も怖くて慣れなくて…感じ悪かったよね」
「っ!す、素直やないかい!!」

侑は少しだけ赤くなった顔を隠すように前を向き、そのまままだ歩き出した。

「(なんやんねん!笑えるやん!)」

保健室に入ると誰もいなかったので、名前は自分で氷を準備した。

「あの、もしあれだったら先に戻っても大丈夫だよ?」
「別にええやろ」
「…私の代わりはたくさんいるけど、宮くんの代わりはいないと思うんだ」
「…それやったら同じやろ」
「え?」
「…俺の代わりはおらんけど、おまえの代わりもおらん。おまえにはおまえにしかできん仕事があるやろ」

まさか侑にそんなことを言われると思っていなかった名前は、驚いた顔で侑のことを見る。

「いつも頑張っとるんは見てて知っとる。せやから、あんま自分のこと下げる発言すな」
「…宮くん…。ありがとう」
「おん。せやからはよ氷準備せい!」
「うん」

名前が氷を袋に入れて、持っていたタオルで包む。
そして、それを腕に当てて「これで大丈夫だよ」と侑に声をかける。

「…なあ」
「ん?」
「…部活始まった最初のころ、俺のこと見て泣いとったやろ?」
「…」
「あれはなんやったん?」
「…見てたの?」
「た、たまたま顔上げたら見えたんじゃ!」

名前は恥ずかしそうな顔をすると「う〜〜〜恥ずかしい…」と言った。

「俺のことが怖いんか?」
「え?まあ…最初のころはちょっと怖かったけど、あれは違うよ!あれはね、宮くんのサーブを打った時の動きというか動作がとっても綺麗で、すごく感動したの。だから、思わず、私も気づかないうちに涙が出ててびっくりしちゃった」
「…な、なんやそれ」

名前の言葉を聞いて、侑は勘違いをしていた自分を殴りたくなった。

「って、ちょっと気持ち悪いよね、ごめん」
「そ、そんなん言うてへんやろ!」
「え、あ、うん」

名前はふふっと笑う。

「私、ちゃんとバレーを見たのはあの日が初めてだったんだけど、初めて見たバレーが宮くんのバレーですごくラッキーだったなって思ったよ。ありがとう」



>> dream top <<