11年目の片思い

おれが7歳の時に隣に引っ越してきたクロ。
初めて会った時は、クロのお父さんの後ろに隠れておどおどしてて、人見知りで引っ込み思案を絵に描いたような性格だったから、今のクロを見ると、本当成長したなって思う。

「?何だよ」
「よくしゃべるなあと思って」
「とつぜんのパンチ」

おれがそう言うと、クロは真顔でそう答えた。

「ねえ、勝っていいところ見せないとね」

クロは少し驚いた顔をしたけど、すぐに笑顔を見せると「おう」と答えた。

応援席で見てくれてる名前さんに、いいところ見せないと。







「おしいおしい!手はこう!ここに当てるとちゃんと飛ぶから!」
「(このひとでっかい声出るんだな)」

クロに誘われて河川敷でバレーボールに初めて触れたおれは、こんなにめんどくさいスポーツがあるんだって思った。
ボールは思った方向に飛ばないし、疲れるし、腕は痛いしで最悪。
これならゲームしてたほうが楽しい。
おれの投げたボールをクロがレシーブするけど、ボールは変な方向に飛んでいく。

「…ちゃんと飛んでないじゃん」
「!!!」

水たまりに落ちたボールを見て、思わず2人で吹き出した。
普段だったら汚れたボールを触るのは嫌だったけど、なぜかこの時はそれが不快じゃなかった。

「うわあ!?何このブツブツ…!?」
「ああ、ただの内出血だよ。すぐ消えるし、続けてれば出なくなるよ」
「!?」

いつの間にか夕方になっていて、おれとクロは家に帰ろうと河川敷の上に上がった。

「バレーできる人探せば。シロウトとやってもつまんないでしょ」
「つまんなくない!覚えるの早い!!頭いい!!」
「そ、そう…?」
「前はチーム入ってたけど引っ越しちゃったから」
「ふーん。こっちでも探せばあるんじゃない?」
「…」
「(新しいトコヤだよね。わかる)」
「…なあ土曜日空いてる…!?」
「!?」
「い、一緒に行かない!?」
「どこに?」
「バレー教室!」

そんな話をしながら家に帰ろうと歩いていると、後ろから声をかけられた。

「あれ?研磨くん?」
「名前さん」
「!!」
「研磨くんが外に出てる!?それにバレーしてた!?」
「そんな驚くこと?」

振り返ると、そこにいたのは名前さんだった。
名前さんは、近所に住んでいる9歳年上のお姉さん。
高校1年生で、音駒高校のバレー部に入ったって、たしか母さんが言ってたな。

「研磨くんのお友達?」

隣のクロを見ると名前さんのことをじーっと見てるだけで、質問に答えようとしない。
仕方ないからおれが答える。

「隣に引っ越してきたクロ」
「クロくん?」
「く、黒尾鉄朗!!」
「(こえでか)」
「鉄朗くんか!研磨くんと同い年?」
「う…あ…」
「ううん。クロのが1個上だよ」
「そっかそっか。私は研磨くんの家の近くに住んでるんだ。だからこれからもちょくちょく会うかもね」
「は、はい!」

名前さんはクロが持っているボールを見て「鉄朗くんもバレーするの?」と聞いた。

「うん!」
「じゃあお姉さんと一緒だ!私もバレーやってるんだ」
「!バレー、楽しいよね!」
「うん!」

そう言って2人で笑ってる姿を見て、バレーボールってそんなに面白いのかなって思った。
ただ、2人して楽しそうにバレーの話をするから、ちょっと興味が湧いた。
土曜日のバレー教室にも一緒に行ったし、なんやかんやバレーボールには触り続けてた。

クロに言われて中学もなんとなくバレー部に入った。
人数は、試合できるギリギリだったからおれも試合に出れたし、ちょっと楽しいなって思った。
試合の時は、おれの家族も見に来てくれたし、たまにだけど部活の練習が休みの時は名前さんも見に来てくれた。
クロは名前さんが見に来てくれた試合は、めちゃくちゃテンションが上がって、逆にから回ってた。
そんなクロを見てて、クロは名前さんのことが好きなんだなって思った。
多分、初めて会ったあの日から、クロは名前さんのことが好きなんだろうな。

「研磨くん!鉄朗くん!お疲れ様ー!」
「名前さん!」
「名前さん、今日も来てたんだ」
「もっちろん!休みもぎ取ってきたよ!」

クロが中学3年生になるころには、名前さんは社会人になっていた。
忙しい時でも時間があれば、昔と変わらずおれたちの試合を見に来てくれた。
多分、クロが父子家庭ということもあって、さみしい思いをしてるんじゃないかっていう名前さんの優しさ。
クロも、多分それに気づいていて、知らないふりしてここぞとばかりに名前さんに甘えてた。

「鉄朗くんが卒業する前の最後の試合だったね!すごい楽しそうだったよ!」
「まあねー」
「鉄朗くんは、高校はどこに行くか決まったの?」
「音駒だよ」
「え!そうなんだ。私の後輩じゃん!」
「猫又監督がもう少しで復帰するかもって噂もあるし、名前さんの高校生活が楽しそうだったからね」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない」

そう言うと、名前さんは少し背伸びをしてクロの頭を撫でた。
クロは中学の3年間でかなり背が伸びた。
元々、バレーボール選手としては小さめだった名前さんの身長は、あっという間に抜かされてた。
でも、身長の差は埋まっても年齢の差は埋まらない。
そこを、クロはずっと悩んでるんだと思う。



「クロってさ、無茶するように見えて実は現実的だよね」
「急になんですか。さっきからなんで切り掛かってくんの」

おれは、できるなら汗かきたくないし練習よりゲームしたい時もあるし、バレーはやるより見る方が好きかなって思う。
だけど、少なくとも今は、クロと一緒にバレーをしてることは悪くないって思う。
クロが楽しそうにバレーをして、その姿を名前さんが応援席から見て笑顔になる。
そんな連鎖は、悪くないって思うよ。

笛が鳴って休憩が終わり、第3セットが始まる。

「しんどい時間は越えてきた。ごほうびタイムだ」

クロの掛け声に思わず吹き出す。

「フゥーッ!!!」

疲れてるのによくやるよ。
応援席にいる名前さんを見ると、おれたちと同じようにテンションが上がってた。



結局、おれたち音駒と烏野の試合は、セットカウント2対1でおれたちの負け。
これでクロと一緒にできるバレーは最後になったけど、後悔はない。
クロの表情を見ても、悔しいというよりはやり切ったって感じだったから良かったかな。

「ねえ、クロ」
「ん?どした?」
「伝えなくていいの?」
「この、負けたタイミングでか?」

おれがそう言うと、クロはあきれた顔をした。

「だって、クロって昔から名前さんに甘えてるじゃん。慰めてもらうついでにいい加減そろそろ伝えたら?」
「俺を昔の甘えたちゃんみたいに言わないでくれますー?」

クロは怖い顔してそう言うけど、多分おれたちは名前さんからしてみたらまだまだ子どもだよ。

「タイミングとかあるでしょうよ。ただでさえ弟みたいとしか思われてないのに、これ以上甘えらんないよ」
「そう?」
「そう。俺、名前さんに声かけてくるけど研磨はどうする?」
「邪魔しないよ」
「変な気を遣わなさんな」
「じゃあ俺たちが一緒に行くか!な!海!」
「そうだな」
「なんでだよ!てか2人はついてくんな!」

俺は遠慮したのに夜久くんと海くんが、嫌がるクロと一緒に上に上がって行っちゃった。
クロ、ドンマイ。

「黒尾さん、あの人のこと好きなんだろ?」

おれが着替えていると、虎が聞いてきた。

「まあ、見てれば気づくよね」
「そうなんですか!?たまに差し入れ持ってきてくれたりする人ですよね!」

リエーフも話に入って来る。

「そう」
「名前さんでしたっけ?黒尾さん、あの人来るとすぐに飛んでいって関わらせてくれないんでズルいです!」
「クロは、ああ見えて独占欲が強いからね。自分の大事な物は人に見せたくないんじゃない?」
「へー!意外です!」
「進展あるといいな!」
「…どうだろうね。名前さんからしてみたら、クロはまだ子どもだからね」

おれがそう言うと、虎とリエーフが「覗きに行こうぜ!」と言って、おれの腕を引っ張る。
試合後なのに、みんな元気すぎない?

「面白がってるとクロに怒られるよ」
「夜久さんと海さんも行ってるじゃないですか!」
「ほら!研磨も早く!」
「ハイハイ」

クロが名前さんに片思いをし始めてから、今日で何年が経ったんだろう。
8歳の時からだから、10年?
11年目に突入かな?
そこまで一途に想い続けられるのは、もはや才能だと思う。
最悪、結ばれなくてもいいから、クロの気持ちが報われる日が来るといいかな。



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