及川のサーブを澤村が辛うじてレシーブし、影山が東峰にトスを上げた。
岩泉がブロックに跳ぶが、東峰のスパイクが決まる。
「ッシャアアアア!!!」
「及川のサーブ切った…!」
「!うわ〜烏野、1点でもミスればおしまいなのに、ここでリベロ不在か」
月島のサーブの場面で、烏野は月島と菅原を交替する。
「スガさんナイッサーブです!」
菅原のサーブは岩泉と渡の間という絶妙な場所に跳んで来る。
「(インかアウトか!?俺か岩泉さんか!?)」
岩泉がオーバーでレシーブをすると及川は京谷にトスを上げる。
京谷のスパイクは、後からブロックに跳んだ日向の手に当たり、そのまま青城コートの奥に落ちる。
「うおおおお!!止めたあああ!!?」
「烏野追いついた!」
スコアは24対24のデュースになる。
「サーセン」
「次次ィー!」
「(止めに行ったと言うより、とにかくボールに飛びついたと言う感じか)」
「(日向くんの反応の速さ、やっぱりすごいな)」
「(毎度、あのチビちゃんの反応の速さには舌を巻くね)」
菅原の2本目のサーブは、今度は前を狙う。
「ニャロッ」
「(今度は岩泉の揺さぶりか)」
「(爽やかくんのくせに、サーブは全然爽やかじゃねーな!!)」
及川は後ろから走ってきた花巻にトスを上げた。
花開のスパイクは白帯に当たって、そのまま烏野コート側に落ちていく。
「(落ちろ!)」
「前前前ーっ!!」
「!」
「俺がとるっ」
菅原がレシーブすると、影山がツーアタックでボールを青城コートに落とす。
「!!!」
「!!?」
「かっげやまアアア!!!」
「クッソガキ共…!!」
このツーアタックで烏野が逆転し、マッチポイントになる。
ここで青城は2回目のタイムアウトを取る。
「くっそ腹立つ!!!」
「さすが及川の後輩だな…」
「あの土壇場での強気も、セッターの資質ってやつだな…」
「まあ確かに」
「分けてほしいわ…」
「…」
ベンチに戻ろうと歩いている及川は、春高予選前に会いに行ったホセ・ブランコの言葉を思い出していた。
「…才能開花のチャンスを掴むのは、今日かもしれない」
「?」
「若しくは明日か、明後日か、来年か。30歳になってからかも?」
及川は「体格ばかりは何とも言えないけど」と言いながら日向を見る。
「無いと思ってたら、多分一生無いんだ」
「…やっぱ及川さん、最近変わったよな…?」
矢巾は、及川の言葉を聞きながらそう思った。
「さっきくらい前に落とされたらもう俺がとる。後ろは任せた」
「ハイ」
「油断すんなよ。またこっちに落としてくる可能性もある」
花巻がそう言うと、京谷はうなずく。
「目の前の1点な」
「ハイ!」
「獲り返す!行くぞ!」
「オス!!!」
タイムアウトが終わり、菅原のサーブは先ほどと同じように前に落ちる。
「前だ!」
「岩泉さん!」
岩泉が綺麗にレシーブをすると、及川は京谷にトスを上げる。
「ッシャアアア!!」
「チッ」
京谷のスパイクを田中が根性で上げると、菅原と影山が位置を入れ替わり、菅原が東峰にトスを上げる。
東峰のスパイクは、花巻が反応して拾う。
「花巻ナイスレシーブ!!」
「花巻さアアアアアア!!」
「乱れた!!」
「頼む及川!」
「チャンスボォオル!!!」
及川はコートの外に上がったボールを走って追いかける。
そして、コートの中にいる岩泉を指さすと、コートの外からタイミングの早い超ロングトスを上げる。
「!!」
「!?」
「!?」
「(徹…!)」
「4番が入って来てる!?」
及川のトスは、レフトの位置に完璧に上がる。
「(俺は、及川を高評価しているつもりが、見くびっていたのかもしれない)」
入畑は、及川による完璧なトスを見てそう思った。
「ぐえっ」
「徹!!」
及川はそのままコートの外に置いてあるパイプ椅子と机に突っ込むが、すぐに立ち上がってコートの中に戻る。
名前は、及川を心配そうに見たが、すぐにコートの中に視線を戻す。
「(完璧なレフトの位置!徹と一の、最高のコンビネーション…!)」
「(ドンピシャ!!)」
岩泉はスパイクを打ち抜き、澤村の腕を弾き飛ばす。
「よォっシャアアア!!」
決まったと思ったボールは、田中が辛うじて拾う。
「繋げえええ!!!」
「チャンスボオオォル!!!」
東峰は上がってボールをスパイクする。
渡が東峰のスパイクを拾うが、ネットに引っ掛かる。
しかし、それを京谷が上手く片腕で上げる。
「ふっ!!」
「!京谷!!」
京谷の上げたボールは烏野コートに返る。
「叩け影山!!」
影山のダイレクトを金田一がうまくブロックで防ぐ。
「!!」
菅原が額で辛うじてボールを上げると、影山がボールの落下地点に入る。
「寄越せエエエエ!!!」
日向が助走のためにいったんコートの後ろに下がる。
「(来い。おまえの最強の武器で来い。飛雄!!!)」
岩泉、金田一、京谷の3人がブロックに跳ぶ。
日向のスパイクは金田一の指先に当たってボールの軌道が変わり、後ろでかまえていた及川の腕をはじくと、そのままコートの外へと落ちて行った。
「…」
「よっしゃああああああ!!!」
烏野高校が26点目を取り、セットカウント2対1で烏野高校の勝利。
青葉城西は、準決勝で敗れることになった。
コートの中の選手たちがエンドラインに整列をして挨拶をする。
「ありがとうございましたー!!!」
ネット際まで来るとネットの下から握手をする及川と澤村。
特に言葉を交わすことなくその場を立ち去ろうとするが、及川は影山と目が合う。
「…」
「…これで一勝一敗だ。チョーシ乗んじゃねーぞ」
「…乗れません」
そう言うと、及川は烏野のベンチに向かい、全員揃って挨拶をする。
「…」
ベンチに戻ってきた選手たちに、入畑が声をかける。
「…何を言おうとも、結果は結果のまま。悔しさが薄まることも無い。後悔の残るプレーもあるだろう」
そう言うと、岩泉は悔しそうな顔をした。
「それでも、先ずは言わせてもらいたい。よく戦った」
その言葉を合図に、金田一や渡は涙を流した。
名前は何も言わず、心の中で「(…お疲れ様…みんな)」と呟いた。
応援席に向かって歩き出した7人。
「…(あれを決められずに…何がエースだ!!!)」
岩泉は溢れ出る涙を隠すように下を向くと、悔しそうに唇を噛む。
その岩泉の背中を、及川は思いっきり叩く。
「!?」
及川に続くように、花巻、そして松川も岩泉の背中を叩く。
「!」
3人の喝のおかげか、岩泉の涙は止まり、しっかりと前を向いて応援席に挨拶をする。
「ありがとうございました!!!」
及川たちはベンチに戻り、クールダウンをしながら帰る準備を始める。
「おまえら最高だった…!!強かったっ…!!」
クールダウンをしている及川たちの前に、3年生の温田が応援席から降りてきて開口一番にそう言った。
「もう優勝でいい!!優勝だった!!」
温田は号泣しながら7人を褒めちぎる。
「温田、何言ってる!?」
「おちつけっ」
「くそぅ…温田っちを見ると冷静になってしまう…」
「それな」
及川は周りを見ると「名前は?」と聞いた。
「苗字ならさっき応援席に上がって来てたよ」
「そっか」
「呼んでこようか?」
「ん、大丈夫」
「そうか?」
「うん」
名前は応援席で帰るための指示を出していた。
「名前先輩…」
「ん?」
名前は2年生マネージャーに声をかけられる。
「…ここはいいんで、及川さんたちの方に行ってあげてください」
「…大丈夫だよ」
「でも…!」
「まずは先に撤収作業しちゃおう」
「…はい」
及川はバスの到着を確認すると、近くにいた1年生に指示を出す。
「バス来たから荷物積んでくれる?まだ来てない奴ら呼んで来るから」
「ハイ!」
及川は体育館の中に戻ろうとすると、前から来る牛島に気付く。
「!」
及川は嫌そうな顔をするが、何も言わずに牛島の前を通り過ぎようとする。
「忠告だ、及川。もう道を間違えるな」
そんな及川に牛島が声をかけると、及川は立ち止まる。
「おまえは道を間違った。もっと力を発揮できる場所があったのに、取るに足らないプライドの為におまえはそれを選ばなかった」
「それは、青城じゃなく白鳥沢に入るべきだったってことでOK?成功が約束されたチームなんか無いだろ」
及川がそう答えると、牛島は「少なくとも、今、ここでは俺の居るチームが最強のチームだろうが?」と言った。
その牛島の言葉を聞いて、及川はなんとも言えない表情になる。
「ハッ!!!相変わらず面白いくらいの自信だな!」
及川は「…”取るに足らないプライド”…確かにね」と同意した。
「聞けよ、牛島。俺は自分の選択が間違いだと思ったことは一度も無いし、俺のバレーは何ひとつ終わってない」
「…」
「取るに足らないこのプライド。絶対に覚えておけよ」
「…?」
「ああ、それとね。俺ばっか注視してると、思ってもない方向からブッスリ刺されるからね」
「?どういう意味だ」
「俺の後輩、頭悪いしまだぜーんぜん俺に敵わないけど、それでも独りでなくなったあいつは強いよ」
及川はそう言うと、影山の顔を思い浮かべる。
「カラスは、群れで大きな白鷲さえ殺すかもね」
満足した及川は、体育館に戻る。
体育館の入り口で、荷物を持ったまま中を見つめている名前を見つけると、名前に駆け寄って声をかける。
「名前ちゃん!」
「徹…」
「どうしたの?まっつんとマッキーは?もうバス来たからそろそろ行かないと」
「トイレだって」
「了解。名前も早く行こ?」
「…うん」
及川の言葉に返事をするが、名前は体育館の入り口から動かない。
「名前?」
「…お世話になったなって思って」
名前につれらて、及川も体育館の中を見る。
「…そうだね」
「…」
名前はもう一度、体育館の中をジッと見つめると、及川の方を向いて「行こう」と言った。
「名前」
「ん?」
「手、繋いでいい?」
「一に何か言われるよ?」
「いいの!俺が、手繋ぎたいって思ったの!」
そう言いながら、及川は名前の手を取る。
「名前…」
「どうしたの?」
「…俺の傍で、俺のバレーを好きでい続けてくれてありがとう」
「…どういたしまして」
名前は繋いでる手に少し力を入れると「これからも、徹のバレーが大好きだよ」と言った。