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試合後、軽いミーティングをした後、ご飯を食べて解散になった。

「引継ぎは、来週。今日はゆっくり休みなさい」
「ありがとうございました!!!」

及川、岩泉、花巻、松川、そして名前の5人は、いつものラーメン屋に行こうとすると、金田一と矢巾が5人に声をかける。

「俺たちも行っていいですか!?」
「もちろん」
「俺たちも行きたい!」
「いいよー!もう全員で行こう!」

帰り道が同じ方向の2年や3年など十数人でラーメン屋に行くことになった。

「おじちゃん、替え玉ちょうだい!!」
「マジかよ。さっきも先生に飯オゴってもらったじゃん」

及川のおかわりに、引いた目で見る花巻。

「引退だからって食べ過ぎたらだめだよ?」
「今日は死ぬほど動いたし頭使ったからいいの!」
「名前も意外と食べるよな」
「て言っても一杯だけどね?」
「おまえも飯食ってただろうが」
「一だってめっちゃ食べてるじゃん!」
「俺はいいんだよ!」

カウンターの後ろのテーブル席では、金田一が泣きながらラーメンを食べていた。

「おではっ…まづがわさんまでっづなげずにっ…!!」
「金田一、鼻かめ」
「国見と京谷は?」
「帰った」

名前は食べ終わると「ホラ、あんたたちも早く食べなさい!他のお客さんが入れないでしょ!」と急かした。
全員が食べ終わって外に出るころには、夕方になっていた。

「ハァ〜くそっくそっ!」
「本日53回目のくそ」
「(快便か)」
「だってクソ悔しいじゃんかよ!」

1、2年生とラーメン屋の前で別れ、3年生は歩きながら話をする。

「今回は絶対全国行けるチームになってた…!!」
「まあ、行ったら行ったでボコボコだったかもよ」
「そんなことねーし!!マッキー卑屈モード止めて下さい!!」

及川は花巻の言葉に反論する。

「元気出せよ、一…!眉間のシワがすげーぞ」
「わかっとる…」
「…澤村くんのレシーブも、坊主くんのフォローも、ヒゲくんのスパイクも、渡っちレシーブも、狂犬ちゃんのフォローも、飛雄のダイレクトも、金田一のブロックも、あの時の全員が120%だった」

及川の言葉に、岩泉が顔を上げる。

「それ全部足して!あの時、ちょっとだけ烏野が上だった!!チョットだけな!!!」

そう言うと、及川は岩泉の方を見る。

「それより岩ちゃんは、あのトスに完璧なタイミングで入って来た自分を称賛するべきだ」
「本当に」
「…トスもタイミングも完璧だったから余計悔しいんだ!!!」
「ごもっとも!!!」

岩泉の言葉に及川は「でも、ラスト反応したのに拾えなかった俺の方が凹んでしかるべきだね!俺の方が悔しいね!!」と言った。

「何を競ってんだ」
「おー、通常運転」
「馬鹿2人って感じね」
「名前はハッキリ言うね〜」

目的もなく歩いているつもりだったが、松川は苦笑しながら顔を上げる。

「つうかよ、帰るんじゃなかったっけ?」

目の前には第3体育館。
いつの間にか、3年生たちは学校に戻って来ていた。

「…せっかく来たし、食後の運動でもすっか?」
「えー、マジかよ」
「いいじゃん!ストレス発散しよ!」
「ほんっとバレー馬鹿だな」

そう言いながら、3年生たちは靴を履き替えて体育館の中に入る。
ネットの準備をして、グッとパーで分かれる。



「やばい、ラーメン出る!!」
「脇腹痛えっ」

岩泉は脇腹を抑える。

「及川、本気サーブ打つんじゃねーよ!!」

及川のサーブは、松川の腕を吹っ飛ばす。

「1、2年の誰か引っ張って来ればよかったな。3年だけだと人数微妙だ」
「休ましてやれよ」

そんな花巻たちの言葉に反応した名前は「じゃあ私が入る!」と言って、岩泉たちの方のコートに入る。

「え!?名前ちゃん入るの!?」
「イエーイ!名前はこっちのチームね」
「ず、ズルい!!名前!こっちおいでよ!」
「人数足りてないのこっちだから。それに、私はセッターだからね!」

及川のサーブを松川がレシーブし、名前がトスを上げる。

「一!」
「おお!」

ライトにいる岩泉にトスが上がり、岩泉は痛む脇腹のことは忘れてジャンプする。

「一、ナイスキー!」
「岩泉ナイスキー!」

名前と岩泉はハイタッチをする。

「やっぱ名前のトス綺麗だねー」
「女子と男子じゃネットの高さ違うのに、よく合わせられるな」
「まあね」
「本当、上手だよね。高校でもバレー続けてればよかったのに」

温田に聞かれて名前は「うーん、それも一つの選択肢ではあったんだけど、やっぱり私はバレーをやるより見てる方が好きかな」と答える。

「みんなのバレーを3年間、一番近くで見れて幸せだったよ」
「苗字…!!そんなこと言うなよー!泣くだろ!」
「もう泣いてるね」

泣きながらそう言う温田を見て、名前は思わず吹き出す。

「それに、最後にみんなとこうやってバレーできて嬉しい!」
「名前…」
「よし!名前ちゃんが最高にかわいいからもう1ゲームやるよ!」
「及川マジでそればっかだな!」
「名前の幸せが俺の幸せですから!!」

もう一度グッとパーをしてチーム分けをして、もう1ゲーム始める。

「名前!オープン!」
「ブロック!」
「ブロック3枚!」
「一!打ち抜け!」

岩泉のスパイクはブロックに当たってワンタッチを取られる。

「ワンチ!」
「フェイト無し!」
「フェイント無し!」
「アア〜ッ」
「ずりィ!」
「フェイント無しって言ったべや!」





その後、もう1セットをやったところで名前は「た、体力もたない…ギブ!」と言ってコートの外に座り込んだ。

「男子に混ざってここまでできるんだから、大したもんだよ」
「本当だよ。さっすが優秀なマネージャー!」
「あんたたちのお世話するには体力必要だからね」
「本当に、苗字にはたくさん世話になったわ」
「ちょっと、まだ引継ぎも終わってないんだからそういう雰囲気にするの止めてよ」

温田がいい雰囲気にしようとするのを察して名前が止める。

「ぼちぼち片さないと見回り来るぞ〜」
「片付けるかー」
「めんどくせー」

みんなはブツブツと文句を言いながらも手を動かす。

「…みんな、ちょっといいかい」

及川が片づけをしているみんなに向かってそう言うと、花巻は嫌な予感がして及川を止める。

「…!オイ止めろ!せっかくイイ感じで終わろうとしてんだ!このまま平和に終わろうぜ!」
「名前もさっき止めたでしょ」
「うるせえ!!」
「何っ」

及川は花巻の説得を無視すると「3年間、ありがとう!!!」と大きな声で叫ぶ。
その目には涙が流れていた。

「…言わんこっちゃねえよ!」

そう言う花巻の目にも涙が溢れていた。
及川の言葉を引き金に、その場にいた全員が涙を流していた。
そんなみんなの姿を、名前は泣きそうになりながら見守っていた。



片付けが終わり、及川と岩泉、そして名前は歩き慣れた帰り道を3人で歩いていた。

「…」
「おまえは多分、じいさんになるくらいまで幸せになれない」
「!?何!?イキナリ何の呪いなのさ!?名前がいるってだけで幸せなんですけど!?」
「そういう意味じゃねえよ!!」

岩泉はそう言うと「たとえどんな大会で勝っても完璧に満足なんてできず、一生バレーを追っかけて生きていく、めんどくせえ奴だからな」と続ける。

「こんな時でも悪口挟むね!!」
「でも、迷わず進めよ」

岩泉は、及川のことを真っすぐ見つめると「おまえは俺の自慢の相棒で、ちょうスゲエセッターだ」と言った。

「この先チームが変わっても、それは変わんねえ。でも戦う時は倒す」
「…望むところだね」

及川がそう答えると、2人はこぶしを合わせる。
そして、2人で名前の方を見る。

「?」
「…なーに我慢してんの?」
「…え?」
「俺たちが気づいてないとでも思ってんのか?」
「…ッ」
「俺たちの中で、一番泣き虫の名前ちゃんが、ここまで泣かずに我慢できたのはすごいと思うけど、もう俺たちしかいないよ?」

及川のその言葉を合図に、名前の目から大粒の涙が流れ始めた。

「うっ、え…ッ、2人とも…ちょうちょうちょうちょう、か、かっこよかった…!」

名前は両手で顔を覆いながら「2人が…世界で一番かっこよかったよ!!」と言った。

及川と岩泉は名前のことを2人で抱きしめると「当たり前でしょ!」「自慢のコンビだろうが!」と言って笑った。

「だ、大好きな…2人のバレーを、ずっと見て来れて…本当に幸せだったよ!」
「俺も、名前ちゃんにずっと見守ってもらってたおかげで今の俺がいるんだと思う」
「俺たちのわがままに付き合ってくれてありがとうな」
「これからも、どこに行っても、私は2人の一番のファンだからね!」

名前の言葉を聞いた及川と岩泉は、少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になる。

「それは心強いね」
「だな」

名前が泣き止むまで待ってから、及川と岩泉は名前の手を繋いで家に帰る。
きっと、これが3人で手を繋いで帰る最後の日になるだろう。
名前はそう思いながら、繋いだ手に軽く力を入れた。



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