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「まさか白鳥沢が負けるとはね」
「ウシワカ野郎はもっと悔しそうな顔しろっつーんだよ」

コートの中では、選手たちが挨拶をして、ベンチに戻る。

「…影山、良い仕事しやがるな…」
「本当ね」
「…岩ちゃんたちも気付いた?恐らく、戻って来た眼鏡くんから何らかのブロックの指示が出た。多分、対ウシワカの”ストレートを閉めろ”とかかな?」

その時の場面を思い出して、名前は「今日はずっとストレート開けてたもんね」と言った。

「そう。だから、飛雄はサーブ後、クロスに居たチビちゃんと咄嗟に場所を代わった。西谷くんが居なかったからね」
「日向くんより飛雄くんの方がレシーブ上手だもんね」
「あと、土壇場での嫌な返球な。さすがおまえの弟子だわ」
「弟子じゃねーし!!」

岩泉の言葉を聞いて、及川は顔をしかめる。

「そんで極めつけ…いつもと違うことをやりに来たチビちゃんにちゃんと合わせた。ムカツク程見えてやがる」
「最後飛び出さないで紛れてたねー」
「まあ、その”良い仕事”の前提にあるのは、1年眼鏡のブロックだけどな」

名前はコートの中にいる月島を見ながら「見かけによらず、ちゃんと負けず嫌いで嬉しいよ」と笑った。

「…それにしても、チビちゃんはトスを上げてみたくなるスパイカーだね…飛雄が振り回されるワケだよ」
「そんなこと言ったら一が悲しむよ?」
「なんでだよ」
「安心して!俺の中では岩ちゃんが一番すげえスパイカーだよ!」
「聞いてねえわ」

及川は立ち上がると「さー、さっさと帰んべ帰んべ!!」と言って、名前と岩泉を急かす。

「表彰式は見てかないの?」
「見るわけないでしょ!」
「はいはい」







春高の代表決定戦が終わって初めての部活。
朝練には3年生の姿はなく、放課後の練習で引継ぎ作業をしたら3年生は完全に引退となる。
1、2年生たちは朝から練習があったが、3年生の居ない練習は、やはりいつも違う雰囲気だった。

「矢巾、ちょっといいか」
「ハイ!」

溝口に呼ばれた矢巾は、溝口と入畑の傍に駆け寄る。

「次の主将だが、おまえに任せようと思ってる」
「じ、自分ですか!?」
「おう!3年ズたちからのご指名ってのもある」
「俺が…」

春高代表決定戦の前に時期主将を誰にするか、及川たちが話し合った結果、矢巾が適任なのではないかという結論に至った。

「実力もそうですけど、周りとしっかりコミュニケーションが取れて言いたいこともちゃんと言えるから、矢巾がいいんじゃないんですか?」
「京谷にも物言えるのはアイツだけですね」
「まだまだ未熟な部分はありますけど、それでも矢巾ならできると思います」
「及川よりはうまくやるんじゃないですか?」
「ちょっとマッキー!俺に失礼でしょ!」

入畑は、3年たちの想いを矢巾に伝えると「俺もおまえが適任だと思う。やってくれるか?」と聞いた。

「正直…及川さんたちのいない青城をまとめるのは…自分では力不足だと思います。けど、及川さんたちにかけてもらった期待を裏切らないように頑張ります!」
「そう言ってくれると思ってたよ」
「それじゃあ放課後みんなには伝えるとして、簡単な挨拶だけは考えておいてくれよ新キャプテン!」
「ハイ!」

矢巾は大きな声で返事をすると、練習に戻って行った。



放課後、少し遅れて3年生たちが体育館にやって来た。

「これで引退かー」
「受験勉強しないとね」
「やめて…!現実突きつけないで!」

名前の言葉に花巻は泣きまねをする。

「そんなこと言っても受験は待ってくれないわよ」
「そうだそうだ」
「マッキーはちゃんと勉強しないとヤバそうだよね」
「おまえに言われたくない」
「俺はもう決まってるからいいんですー!」
「おまえは英語勉強しろよ!」
「残念!アルゼンチンはスペイン語ですぅー!」

いつもの雰囲気の3年生たちに、少しだけホッとする1、2年生たち。

「集合ー!」

及川が声をかけると、全員が集まる。

「よし、それじゃあ引継ぎをしていこうか。新しいキャプテンは…」
「ハ、ハイ!俺です!」

そう言って矢巾は手を挙げる。

「うん。それじゃあ矢巾にバトンタッチする前に、俺たちから一言ずついっとく?」
「一杯いっとく?みたいなノリで言うなよ」
「しんみりした空気にしたらまたマッキーが泣いちゃうからね!」
「おめえも泣いてただろうがクソボゲェ!」
「痛っ!最後の日くらい暴力反対!」

そんな3年生たちの姿を見て、矢巾は泣きそうになる。

「及川、そろそろいい加減にして」
「う、ういっす!」

名前がニッコリと笑顔で注意をすると、及川は真面目な顔をする。

「正直、俺は主将としてちゃんとできてたかわからない。自分自身にいっぱいいっぱいになってた時もあったし、周りが見えてないときだってあった。だけど、みんなが俺のことを、俺たちのことを信じて付いて来てくれたから、今の青城があるんだと思う」

そう言うと、及川は笑って「全国出場の夢は叶わなかったけど、ここでバレーができて良かったよ!みんなありがとう!!」と言った。

「お、及川さ〜〜〜ん!!」
「こちらこそです!!」
「ありがとうございました!!」

及川の挨拶を聞いて、矢巾や金田一たちは涙を流していた。

「岩ちゃんも副キャプテンらしく挨拶する?」
「こんな空気にしやがって…やりづれえべや!!」
「みんないい子たちで良かったよねー!」

岩泉はそう言いながらも、1、2年生の方を向く。

「おまえたち、勝てよ!!そんで、ダメだって思った時は周りを頼れよ!一人で背負い込むな。ちゃんと吐き出せ。信じてるからな!」
「ハイ!!」
「勝ちます!次こそは打倒烏野高校!!」
「白鳥沢にも負けません!」

岩泉は花巻や松川たちの方を見る。

「いやー、もうお腹いっぱいです」
「これ以上はないでしょ」
「そうだな!俺たちの言いたかったことは2人が言ったわ」

他の3年生たちもうなずく。

「じゃあ、最後に名前にも一言もらおうか?」
「え!?」

及川がそう言うと、名前は驚いて及川の方を見る。

「私もいいよ」
「なーに言ってんの!みんな、名前の言葉を待ってるよ?」

名前が前を向くと、部員たちはもちろん、後ろにいるマネージャーたちも大きくうなずく。

「えー…」

名前は、まさか自分に話がふられるとは思ってもいなかったので少し考え込むが、今までの3年間を思い出しながら、少しずつ想いを言葉にしてみんなに伝える。

「私は…、中学までバレーをやってて、高校では支える方に回ろうと思ったけど、入学した当初はバレー部にマネージャーはいませんでした」

名前は、入学した当時のことを思い出す。
北川第一の女子バレー部で一緒だった先輩に聞いた「男子バレー部にマネはいないよ?」の一言にショックを受けた。
中学時代の名前を知っていた入畑と話をした後、溝口に直談判をして入ったはいいものの、当時の3年生には及川目当てのミーハー女だと思われていた。
そんな3年生からの嫌がらせもあったが、名前は、球技大会のバレーで優勝することでバレーが好きで入って来たのだと認めさせた。

「本気でバレーボールを愛して、楽しんでるみんなを全力で支えたいって思って3年間駆け抜けてきたけど、私が想像していた以上にとっても楽しい3年間でした」

名前の目からは涙が流れていたが、名前は気にせず話を続ける。

「みんなの、最高にかっこいいバレーを見せてくれて本当にありがとう!これからも、私はみんなのことを応援してるから、これからもバレーボールを楽しんでね!あと、マネちゃんたちのこと困らせないように!」
「ハイ!!」
「名前さんありがとうございました!」
「名前さんの作るおにぎり、大好きでした…!!」
「いつも見ていてくれて、ありがとうございました!」

涙を流しながら口々にそう言う1、2年生たちを見て、名前は笑顔になる。

「それじゃあ、矢巾。新キャプテンとして、これからの青城を頼んだよ」

及川は矢巾にそう言うと、矢巾は大きな声で「ハイ!!」と返事をした。

「よし。それじゃあ練習をしようか」
「3年たちはどうすんだ?今日は一緒に練習してくか?」
「溝口くん、受験生を誘っちゃダメでしょ」
「苗字は大体どこでも行けんだろ!」
「私はいいけど、他が…。特に花巻はヤバイですよ」
「だからやめってって!」



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