06

「なあ、最近ツムの様子変やない?」
「そう?」

練習の後、部室で着替えをしている治が角名にそう言った。

「部屋におる時とか、昼飯中とか、なんかボケーっとしとる」
「たしかにお昼の時は、わりと静かかも」
「なんやろな。変なモンでも食ったか?」
「まさか、治じゃないんだし」
「ボケーっとしとるけど、時々思い出し笑いしとる。ニヤニヤしてて気持ち悪いねん」
「それは気持ち悪いね」

2人がそんな話をしていると、侑が部室に入って来た。

「なんやねん」

治と角名がジーっと侑を見ていると、侑はうっとおしそうな顔をした。

「最近おまえ変やなって話」
「喧嘩なら買うで?」
「何かあったの?」
「なんか…?」

角名にそう聞かれ、侑は考える。
あったと言えばあったが、それをわざわざ2人に言うつもりはない。

「別にないわ」
「嘘やな。今の感じは、なんかあったんや」
「な!何もない言うとるやろ!」
「治に隠し事はできないねー、さすが双子」

侑は2人を無視して着替え始める。
そこに、同じ1年生部員がやって来た。

「おまえらはよせえや。外で中山さんと苗字さん待っとんで?」
「たまには俺らで送ろか?」
「せやな、いつもおまえらやと申し訳ないわ」
「そう言って、2人と仲良くしたいだけだったりして」
「下心丸見えやな」
「な!んなわけないやろ!そんなん言うたらおまえらかてそうやろ!」
「はあ?違うし」
「どやろな!」
「うっさいわボケ」

騒いでいると、部室のドアが開く。

「おまえらうるさいで」
「き、北さん!?アランくん!!」

北と尾白は部室に入ると「こんだけ騒ぐ元気があるんやったら、もっと練習量増やしても問題ないって監督に伝えとこか?」と言った。

「い、いえ…!」
「せやったらはよ着替えてはよ帰り。飯食って、明日に備えてはよ寝ろ」
「うっす!」
「す、すんません!」

治、侑、角名以外の1年はダッシュで部室から出て行った。

「苗字さんと中山さんが外で待っとんで?これ以上待たせたらアカンやろ」
「は、はい!」

3人は北と尾白に頭を下げると、部室から出て名前と中山が待つ体育館前まで急ぐ。

「北さんこえ〜!」
「機械みたいで感情の起伏がない人だよね。隙が無い」
「でも、北さんみたいな人がおると、ピリッと締まるんよな」
「チームには大事だよね」



名前と中山を見つけた治は「お疲れさんー」と声をかける。

「3人ともお疲れ様!」
「なんでそんなダッシュで来たん?」
「北さんに、はよ行けって怒られたわ」
「なんやそれ」

侑はチラッと名前を見る。

「…」
「ツム?何見とんねん」
「な、なんも見てへんわ!!さっさと帰るで!」

侑はそう言うと、名前の腕を掴んで歩き出した。

「え?ん、宮くん?」
「さっさと歩け!」
「ちょ、あ、また明日!」

名前はそのまま侑に引きずられるように歩き出す。
そして、その場に取り残された治、角名、中山の3人は目を丸くしていた。

「…え、何あれ」
「人さらいや」
「最近のツムが変な原因は名前かいな」
「そういうことか」
「何?なんの話?」
「最近侑が色ボケしてるって話」
「そうなん?侑って中学ん時のあれがトラウマで恋愛はもうせんと思っとったわ」
「俺もや」
「やばいファンの子の話?」
「せや」

治はもうすでに見えなくなった侑と名前の背中に向かって「ええ変化で嬉しいわ」と笑顔でつぶやいた。



侑と名前は、無言のまま帰り道を歩いていた。

「(あ、歩くのが早いー…)」

なぜか掴まれたままの手を凝視する名前。
掴んだ侑本人は、テンパっており掴んだままということを忘れていた。

「(俺は何しとんねん!!)」

名前を見ていることを指摘されて、思わず名前の腕を掴んで連れてきてしまった。

「あ、あの…宮くん!」
「…ん?」
「ちょ、ちょっと歩くの早い…!」
「す、すまん!」

早歩きで歩く侑と、それに合わせると歩幅の関係で小走りになる名前。
さすがに疲れた名前は、侑に声をかける。

「宮くん、ど、どうしたの?」
「な、なんでもないわ!もう遅いし、はよ帰ろ思うただけや!!」
「そ、そっか」

名前はそう言うと、「あ、あの、宮くん…手…」と言った。

「ん?」

名前にそう言われ、侑は自分の手を見る。
そこで、ようやく自分が名前の腕を掴んだままだということに気づく。

「う、うわーー!!す、すまん!!」
「ううん、大丈夫だよ」

侑は名前から手を離すと、その場に座り込んだ。

「そ、そこまでショック受けなくても…」
「ショックを受けとるんやないわ!」
「そうなの?」
「もっとはよ言うてや!」
「ご、ごめん」

なぜ自分が怒られているんだろう、と思う名前だったが、余計なことは言わないでおこうと思い直した。

「も、もうすぐ合同合宿だね」
「せ、せやな!」
「合宿が終わったら、次は春高だね」
「おん」
「観客席から応援してるね」

名前のその言葉に、侑は顔を上げる。

「…ベンチにはおらんのか」
「え?」
「ベンチ」
「あ、ベンチは3年生の先輩マネージャーが座るよ」
「…さよか」

そう言うと、侑は立ち上がる。

「来年」
「ん?」
「来年は、多分俺やサム、角名が主力になると思うわ」
「うん、きっとそうだね!」
「せやから…来年は、おまえがベンチにおってくれ」
「え…?」
「…」
「あ!うん!2年生の先輩マネージャーはいないから、多分来年からは私か中山さんのどっちかが座ると思うよ!」

名前の返事に、侑はズッコケる。

「(このボケ女、なんも伝わっとらん!!)」
「やっぱり同級生が座ってる方が心強い?」
「そ、そうやなこのボケ女!!」
「え、ええー!?」

侑の気持ちに何も気づいていない名前。
そんな名前に、侑は「(どっかズレとるなこの女!)」と思った。
名前は、なぜ侑がこんなに怒っているのかよくわからなかった。

「あ、でも」
「なんや!」
「ベンチって、コートから一番近いよね。そんな特等席から宮くんの綺麗なバレーが見られるなんて、とっても幸せだよね」

そう言って笑う名前を見て、侑は思わず顔を伏せた。

「(な、なんやねんホンマに!!)」
「み、宮くん?」
「な、なんでもないわ!さっさと帰んで!!」
「う、うん!」

侑は立ち上がると、名前の腕掴んで歩き出した。







春高前、バレー部では稲荷崎グループのメンバーが集まって合同合宿をする。
合宿が終わると春の高校バレー大会の始まりだ。

「控えかー」
「ユニフォームもらえるだけええやろ!」
「銀はまだユニフォームもらえてないもんね」
「そうやけどぉ!!」

侑、治以外で1年はレギュラーにはなれていない。
角名は今回、初めて控えとしてベンチに入ることになり、ユニフォームをもらった。

「良かったやん角名!」
「はよレギュラーなれるよう頑張りや」
「うわー、双子ムカつく」
「ええ笑顔やなあ」

今年の稲荷崎高校は強い。
全国優勝を目標に東京へ向かった男子バレー部だったが、3位という結果に終わった。

東京から兵庫に帰る新幹線の中で「どうやった、最初の春高は?」と中山が名前に聞く。

「うん、すごかった!インターハイもすごかったけど、春高は、また違った意味ですごかったよ」
「せやろ」
「先輩たちがバレーしてる姿を、もっと見ていたいなって思った」
「やな。今回は3位やったけど、来年は優勝やな!」
「う、うん!」

後ろの席で2人の話を聞いていた侑は「なんでおまえらだけで気合入れとんねん!」とツッコんだ。

「俺らも入れてや」
「あ、俺も」
「来年は絶対レギュラーなるで!」

治と、その隣に座っていた角名と銀島も続けた。

「あんたら2人はレギュラーになるとこからやな」
「2人とも頑張ってね!」
「もちろん」
「来年は俺らで全国優勝や」
「優勝見せたるから、期待しとけや!」
「うん!」

6人の話を後ろで聞いていた北と尾白は「頼もしい後輩やな」と言って笑っていた。



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