「正直コレが一番キツイよな…」
「2人だとずっと動き回らなきゃいけないからな〜」
「(まあでも、誰よりしんどいのは一番経験値が低いアイツか)」
金田一は百沢の方を見た。
「申し訳ないが…”2m”とは組みたくないよな…」
「デカいけど技術はまだ中学レベルだもんな」
「カバーすんの大変なんだよ…」
穴原が集合をかけると、休憩を終えて集まる。
「ルールは変わらず、指の腹を使ったフェイント禁止。10点先取ね。何回も言うけど、常に”次”を考えながらやる事。なんとなくやってたら勝てないよ」
「ハイ!」
2対2の最初の試合は、国見と川下チーム対金田一と黄金川チーム。
国見の周りを見る冷静さと、隙を突くプレーで点数を重ねていく。
「んニャロッ…!」
「ラスト!」
「オッケー!」
そんな国見のことを、コートの外から日向はジッと観察していた。
「(すげえ見てくる…)」
国見たちの試合が終わると、次は百沢が入ったチームの試合が始まる。
「…百沢くん…」
コートの中の百沢は、必死にボールを追っているが、目に見えて動きが鈍い。
自分がチームの弱点になっていることを理解しているが、それでも自分の技術が追いつかず、弱点が弱点のままになっていることを苦しんでいる様子だった。
「ドリンクそい!」
百沢のチームは4対10で交替になり、日向は百沢にドリンクを渡す。
「おまえが…選ばれればよかった」
そんな百沢の言葉を聞いた日向は立ち止まる。
「…!」
「…?いやいや、おれも、選ばれればよかった…じゃね?」
近くで聞いていた名前は思わず日向の方を見る。
「ココに呼ばれた奴は、何かしら凄い奴らで」
「…?」
「百沢は何つってもデッケェだろ?まあ確かに?おれは影山が居ないと、若干?若干な?本領を発揮できないみたいなトコもあるけども」
「…」
「とは言え」
「俺はデカいだけだ」
百沢のその言葉に日向は「ウオォイ!!だけってなんだ!!」と叫ぶ。
「!?」
「おまえ…おまえ、2mってすんげえだろ!?もし必殺殺人サーブか身長2mどっちか今スグ貰えるっつったら絶対2mだね!」
「!?」
「だってサーブはがんばれるけど、身長はがんばるも何も無えし!」
日向の勢いに百沢は圧倒されながらも話を聞く。
「とにかく!2mなんて、一番、最高に、MAX、すげえ才能だろ!!」
「…!」
「ライバル励ますなんてヨユーだねー」
「なにを言ってやがる!おれは怒っている!」
そんな日向の反論に黄金川は「いや、励ましてる様に見えるぞ」と言う。
「え、そお!?いやまあ、結果的にそれでいいです!」
「俺を励まして何のメリットがあんだよ…」
「だって、おまえを倒したい」
そう言って笑った日向に、少しだけ恐怖を感じる百沢。
「なあ、おれ外から見てて気付いた事があんだけど、代わりに百沢ちょっとやってみてくんない?」
「?俺に技術的なことは無理だ」
「カンタン!絶対カンタンなやつ!」
「…?」
「最初のボールをできるだけ高くパスすんだよ、国見みたいに!それで、速くて苦しいリズムが多分ちょっとラクになる。そんで、チョコッとリズムが整うだけで、なんかこう…色々できる!!!」
「…」
名前は日向と百沢に近寄ると「そういう作戦会議はもう少し小さな声でやりなさい」と注意した。
「!確かに!!」
「まあ、もう次の試合が始まってるから大丈夫だと思うけど」
名前は百沢の前に座っている日向の隣に座ると、百沢を見つめる。
「百沢くん。バレーボールは3回以内のラリーでボールを相手側に返球するスポーツだよね。相手や自分の体勢が整わない時ほど焦りそうになるけど、そんなときの高いゆったりとしたパスは選択肢をくれるんだ」
「!」
「日向くんの言ってた色々っていうのは、攻撃の選択肢が増えるっていうこと。色々な攻撃パターンを、相手のコートを見ながら選択できる。それってとっても大事なことなんだよ」
「そ、そうです!!俺が言いたかったのはそういうことです!」
「日向くん周りが見えてきてるねー」
名前は日向に笑いかけると、百沢の方を向き直す。
「大丈夫。技術は絶対付いてくるから、頑張ろう」
「…ウス…」
百沢の2回目の2対2が始まる。
「ラスト!」
「くっ!」
「前前っ」
「(後ろ、スキ有り!)」
国見は隙をつくが、百沢の腕はボールに届く。
「フンッ…!」
「(!届くのかよ、でっけえな!)」
「楽してこうぜ、百沢ァー!!」
日向が大きな声で叫ぶ。
「??」
「!」
百沢は高くボールを上げると、乱れたリズムを整える。
「オッケー」
「…!」
そんな百沢のファーストタッチを、コートの外から見ていた黄金川。
「楽…楽することは悪いことじゃない…?」
「ラスト!」
上がったトスを百沢がスパイクをすると、相手コートに突きささる。
「チッ(真っ向勝負で2mに勝てるかよ…!)」
「くアア〜ッ!でっけえなァクソがぁあ〜!!」
日向は興奮しながらそう言うと、百沢に「ヘイ百沢!ナイスキーヘイ!!」と両手を出した。
百沢はフッと笑うと日向と手を合わせる。
「うんうん、いいじゃん百沢くん」
「苗字…おまえ何か言ったべ?」
「鷲匠先生、私じゃないですよー。日向くんです」
「…そうかよ」
「はい」
そのまま2対2は続いたが、日向の隣に黄金川も立ち、一緒に国見を観察していた。
「…?(…??なんか増えた…!)」
2対2の試合が終わり、合宿4日目の練習が全て終わる。
「後1日かー。なんだかんだあっという間だったな!」
「本当だよな」
百沢はお礼を言うために名前に声をかけようとするが、国見と金田一が傍にいて話しかけにくい。
「百沢ー?どうした?」
「いや…さっきアドバイスもらったからお礼を…」
「名前さん?」
「でも、話しかけにくい…」
「なんで?別に気にせず行こうぜ!」
日向は名前の元に駆け寄ると「名前さん!」と名前を呼んだ。
「日向くん、お疲れ様」
「はい!」
「…名前さんって呼ぶのやめてくんない?」
「おまえは名前さんの何なの?」
「強いて言えば息子かな」
「適当なこと言わないの」
「悪い、こいつ苗字さんのこと他校の奴にとられるって警戒してんだわ」
金田一がそう言うと「別にそうは言って無いでしょ」と国見が否定した。
「いやいや、言ってんだって。今まではそんな感じじゃなかったのに、昨日から急にどうしたんだよ」
「…別に。ただ、及川さんたちの代わりに名前さん守らないとって思っただけ」
「普段は他校の後輩と絡むことなんてほとんどないもんねー。私が他校の後輩と絡んでるのを見て、国見も私への愛に気付いちゃったわけか!」
「…そういうとこ、マジで及川さんに似てきましたよね」
「ちょっと本当にやめて!」
真顔でそう言う国見に名前は慌てる。
「って、そうだ。名前さん、百沢が」
日向は後ろを向いて、百沢を呼ぶ。
「百沢くん、お疲れ様ー。高いトス打つの上手だねー!」
「あ、ハイ…。あの、ありがとうございました」
「私?特に何も言ってないけど」
「自分にとっては嬉しかったんで…。まだまだ技術は未熟ですけど、頑張ろうって思いました」
「そっか。それなら良かった!どんなスポーツを選んでも、きっと百沢くんなら良い選手になるだろうなって思うから、バレーボールを選んでくれてありがとう。上手になれば、もっとバレーが楽しくなると思うから、頑張ってね!」
「…ハイ!」
そう言って笑う名前の横で、国見は嫌そうな顔をする。
「国見…?おまえ、顔すごいぞ…」
そんな国見の顔を見て、金田一はドン引きしていた。
「…名前さんって、無自覚な人たらしだよね。よく今まで無事に生きてこれたよ…」
「及川さんと岩泉さんが守ってたからだろ」
「ということは、この無自覚人たらしはあの2人のせいで誕生したってこと?」
「…まあ、そういうことだな」
「…はあ…」
国見は大きなため息をつきながら「…苦労するよねー」と呟いた。