「ハイ!帰ります」
「じゃあ一緒に帰ろ」
「及川さん、怒ってましたね」
「ねー…あー、帰りたくない…」
名前が嫌そうな顔をすると「電源切ってた名前さんが悪いですよ」と国見は言った。
「ですよねー」
「…」
「金田一?」
3人の前を日向、黄金川、そして五色が歩いている。
「五色ー!連絡先交換しようぜ!」
「…仕方ないな」
「イエーイ!そんな嫌そうな顔すんなよ!」
金田一は、日向に声をかける。
「おい」
「?」
「…なんでもない。じゃあな」
「なんだよ!」
日向に聞かれた金田一は「か、影山は元気か」と聞いた。
「?おう。テスト期間以外は!」
「…そうか」
「何で??」
「…なんつーか、昔とは大分プレースタイル変わってたしよ…」
「??」
名前が「(金田一ったら…)」と思っていると、国見が「…おまえは中学の事気にしすぎ」と言った。
「!」
「おまえは精一杯やったろ」
「!別に、ただの雑談だろ」
「…影山のトス、誰も打たなかったってヤツか?」
「!…」
日向の問いかけに、金田一は何も答えない。
「でも、ケンカするくらい普通だろ」
「?…ケンカ?」
「ゆずれなくてケンカすんの普通だ。だから、影山も大丈夫だ!」
日向の言葉に、金田一は少しだけ泣きそうになる。
そんな金田一の背中を、国見はグッと押すと「べつに影山なんかどーでもいいし、次の公式戦で潰してやる」と言った。
「なんだと!負けねえぞ!」
「…おい」
「!」
「またな」
「おう!」
名前は日向の横に立つと「日向くん、またね」と言った。
「ハイ!また!」
「名前さん、行きましょう」
「うん」
名前が歩き出そうとすると、後ろからリュックを掴まれて倒れそうになる。
「え…」
名前の体は、後ろに立つ人物によって支えられた。
「…白布くん…」
名前は後ろを見て、それが白布だということに気付く。
「…」
「…どうしたの?」
「あの…」
「ん?」
何も言わない白布に、名前も何も言わず、ただ白布のことを見つめた。
「…ちょっといいですか?」
「いいよ」
「名前さん」
国見に呼ばれた名前は「ゴメン、先に帰ってていいよ。後、及川に少し遅れるって連絡しておいてくれるかな?」と言った。
「…待ってますよ」
「早く帰って休みなさい」
「でも…」
「いいから」
白布は名前のリュックをつかんだまま歩き出す。
「ちょ、白布くん!歩きにくいから!」
「…すみません」
そう言うと、白布は手を離し「こっちです」と言って体育館の裏に向かって歩き出した。
「さっきまであんなにうるさかったのにねー」
先ほどまでとは違って誰もいない静かな体育館の中を覗きながら、名前はそう言った。
「…それで、白布くんは何の用?」
「引退したのになんでここに来てたんですか?」
「え?合宿ってこと?穴原先生に手伝いをお願いされたからだけど?」
「…そうですか」
「何何?私が来たら迷惑だった?」
「べ!別に、そんなこと言ってません」
いつもと様子が違う白布に、名前は頭にはてなマークを浮かべる。
「それが聞きたかったこと?」
「違います」
「そう?」
白布は握った拳に力を入れると、伏せていた顔を上げて名前をジッと見る。
「?」
「な…なんで俺だけ褒めてくれないんですか!!」
「…へ?」
名前は、白布に言われた言葉を理解しようとしたが、まったく理解できなかった。
「ナンデオレダケホメテクレナイ??」
「俺だって、同じセッターなのに!オイカワトオルがそんなにいいんですか!?」
「ちょ、ちょっと待って、白布くん?きみは何を言ってるんだい?」
白布の勢いに名前は焦りながらも、説明を求める。
「俺が初めてあなたを見たのは、俺が中1の時、北川第一の試合です。たまたま隣のコートで試合をしていた北川第一の女子バレーチームの中に、あなたがセッターとしてコートに立っていました」
白布の言葉に、名前はその時のことを思い出す。
中2の県大会、初めてスターティングメンバーとしてコートに立った試合で、私は必死にボールを上げていた。
コンビミスも何回かあったけど、それでもその時の試合は勝つことができた。
「あなたのセットアップを見たとき、とても綺麗で、時間差攻撃などの巧みなコンビネーションで点数を獲っていって勝利に導いたのがすごいなって、強烈に思いました」
「ありがとう」
「まあ、1年後に見た牛島さんのプレーの方がすごかったですけどね」
「おいコラ、感動を返せ」
白布の余計な一言に名前はツッコミを入れる。
「セッターとして、最初に憧れたのはあなたです。でも、あなたが中学を卒業して、高校生になったらあなたはバレーの大会に出て来なくなりました」
「あー…私は高校ではバレーを辞めたからね」
「あなたが青葉城西に行ったことは、風の噂で知ってました。青城には女バレがあるんで、きっとあなたもバレーを続けてると思っていたのに、大会を見に行ってもあなたはいなかった」
「…うん」
「受験勉強もあったので、なかなか大会を見に行くことができず、次にあなたに会えたのは俺が白鳥沢に入った後、初めての練習試合の時でした」
「…あれね」
白布が及川に突っかかった時の練習試合か、と名前は思った。
「オイカワトオルがあなたのバレーの邪魔をしたんだと思いました」
「それは違うよ」
「俺にはそう見えたんです。俺が憧れたセッターが、マネージャーをやっているという事実が受け入れられなかった」
「…」
「…それに牛島さんも、あなたも…。俺の憧れた人は、全員オイカワトオルに取られるんです…。だからあの時、オイカワトオルに酷いことを言いました。反省しています」
「…瀬見くんに言われた?」
白布は顔を少ししかめると「…いいえ」と言った。
「バレバレだから!」
名前はそう言って笑う。
「いいよ。元々そんな怒ってないしね」
「…すみません」
「白布がそういう風に思っててくれたなんて知らなかったよ。思い出が美化されすぎてる気もするけど」
「…中1男子なんてそんなものです。綺麗なものは綺麗、憧れ、好き。そんなものです」
「開き直ってるね」
白布の言葉に、名前は苦笑する。
「私がバレーを辞めたのは自分の意思だし、マネージャーをやってたのも自分の意思だよ。私が、及川徹のバレーが大好きだから」
「…それは、あなたのことを見てきたんでわかってます」
白布はそう言うと「だって…あなたはセッターが大好きですよね…」と続けた。
「烏野のセッターも、瀬見さんも、好きですよね…」
そう言いながら、白布の目には涙が流れていた。
「ちょ!なんで泣くの!?」
「でも…俺のことは褒めてくれないじゃないですか!俺だって…セッターなのに!」
白布は袖で涙を拭う。
名前は泣いている白布にあたふたしながらも「白布のセットアップだって好きだよ!」と言った。
「…嘘つき」
「え、あ、いや…正直、今の自己主張のなさすぎるセットアップは、面白みに欠けるかなーとは思うけど…」
「…正直者すぎますよね」
「でも!!昔の、中学の時の白布のセットアップは、ガンガン速攻を使ってキレがあってすごい良かったよ!今は、白鳥沢にいるからそのセットアップなんだろうし。環境によって自分のスタイルを変えられるって、なかなかできないことだからすごいと思うよ」
名前がそう言うと、白布は伏せていた顔を上げる。
「…俺のこと、知っててくださったんですね」
「当たり前じゃん!私がセッター大好きだって知ってるでしょ?」
「…はい」
「白布のセットアップ、好きだよ。頑張ってる白布のこと、尊敬するよ」
「…ありがとうございます」
「来年からは、牛島くんじゃなくて五色くんに合わせてあげなよ」
白布はとても嫌そうな顔をしながら「…はい…」と言った。
「顔よ!」
「…まあ、でも、俺は来年のインターハイが終わったら引退するつもりなんです」
「え?そうなの?」
「はい。医学部に行きたいんで、受験勉強に専念したいんです」
「医学部…はあーすごいね」
「俺くらいのバレー選手がプロに行けないことは理解してるので、だったら医学の道に進んで牛島さんたちのような世界に挑戦する人たちを支えたいなって思ってます」
「1人の優秀な医者を爆誕させる牛島くんすごいな」
白布は「…なので、来年のインターハイは見に来てくださいね」と言った。
「まずは予選でしょ。ウチのコたちも出るから見に行くつもりだよ」
「…俺たちのことも応援してください」
「ウチと当たらない時だけね!」
そう言って名前はニコッと笑った。
「…今日、話せて良かったです」
「私も。白布くんの気持ちが知れて嬉しかったよ」
「…呼び捨てでいいです。くん付けいらないです」
「…わかった!」
名前がそう言うのと同時に、体育館の窓の方からガタンッという大きな音が聞こえた。
名前と白布は近くにある体育館の窓を見ると、そこには天童と瀬見の顔があった。
隣の窓には牛島と大平の姿もある。
「さっきの音は、きみの先輩たちみたいだね」
「…あの人たちは…」
「まあまあ。白布のことが心配だったんでしょ」
「…そうですね」
名前と白布は体育館の入り口に向かうと、中から4人と川西が出てきた。
「仲直りしたー?」
「したよー」
「だから大丈夫って言ったろ!」
「だって心配だったんだもーん!」
「余計なお世話です」
牛島が名前に近寄ると「すまない」と言った。
「いいよ。愛されてんじゃん、白布」
「ウチの優秀なセッターだからな」
「間違いない!」