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名前が帰ろうとすると、白布が「送ります」と言った。
しかし名前はそれを断った。

「及川が待ってるから大丈夫だよ」
「俺のせいで遅くなったんで、責任を持って俺が送ります」
「話聞いてる??」
「あららー、賢二郎は頑固だからネー」

そんな話をしながら校門に向かって歩いていると、校門に人影が見えた。

「…ヤバイ…」
「え?」

白布や天童たちが一斉に校門を見ると、そこには鬼の形相の及川が立っていた。

「ウハハ!めっちゃ怒ってるー」
「…帰りたくない」
「帰らなくてもいいですよ。ウチの寮なら空いてる部屋たくさんあるんで」
「そういうことじゃねえな」

及川は名前に気付くと、一瞬笑顔になるがすぐに顔をしかめる。

「白鳥沢全員大集合だね!!いつの間にそんな仲良くなったんだよ!」
「元々仲良しだよーん!」
「火に油を注ぐ…」

及川は名前に駆け寄ると手を繋ぐ。

「名前!!さっさと帰るよ!」
「ハイハイ」
「じゃあなウシワカ!次会った時は、絶対凹ますかんな!!」
「ああ、期待してる」
「ケッ!!」

そう言うと、及川は名前と一緒に白鳥沢を出て行った。

「あーあ、名前ちゃん行っちゃったね。賢二郎はちゃんと伝えなくて良かったの?」
「…はい。あんな風に、一人の人間を愛し続けてる人に恋心を抱いていても虚しいだけですからね」
「名前ちゃんの及川くんへの想いって、そういうんじゃないと思うけどなー。なんて言うの、家族愛?的な?」
「…」

そう言う天童を白布は勝ち誇ったような顔で見た。

「ちょっと何その顔!”俺の方が名前ちゃんのこと知ってますよ”とでも言いたげな顔!」
「天童さんには一生わからないと思いますよ」
「辛辣ー!」

そんな2人のやり取りを聞いていた五色は「し、白布さんって、苗字さんのこと好きだったんですか?」と、川西に小声で聞く。

「見てわかんなかった?」
「会えばいつもケンカしてたんで、嫌ってるんだと思ってました」
「白布は素直じゃねえからな」

瀬見がそう言うと「そんなこともわからないようじゃあ、工はまだまだ若利くんに敵わないんじゃなーい?」と、天童が続ける。

「な!う、牛島さんは気づいていたんですか!?」
「?ああ」
「!!」

牛島がうなずき、五色は少しだけショックを受ける。

「よし!じゃあ今日は賢二郎が一つ大人になった記念にみんなで恋バナでもしようかー!」
「脈略が無さすぎんだろ」
「いいですね。行きましょうか」
「おお!めずらしく白布がノリ気だ」

そんな話をしながら白布たちは寮に戻る。







名前と及川は、手を繋ぎながら駅に向かっていた。
及川は何も言わず、前を見て歩いていた。
そんな及川に、名前は声をかける。

「…徹」
「…」
「…徹、ごめんね」
「…何に謝ってるわけ?」
「電源切って、連絡しなかったこと」
「…場所が白鳥沢だってこと、黙ってたことは悪くないと?」
「だって、白鳥沢だって言ったら徹は嫌がったでしょ?」

名前にそう言われて、及川はうっと言葉に詰まる。

「私だって、遊びに来てたわけじゃないよ。鷲匠先生の指導方法とか、穴原先生の話とか聞いて盗んで、ウチで生かせることは生かしていきたいと思ったから合宿に参加したの。だから、白鳥沢だって黙っていたことについては悪いとは思ってない」
「…はあ〜…」

及川は盛大なため息をつきながら、その場にしゃがみこんだ。
手を繋がれているので、名前も引っ張られるような形で一緒にしゃがみこむ。

「…馬鹿」
「…うん」
「ほんっと…俺以上にバレー馬鹿なんじゃないの?」
「それはさすがに。徹の方がバレー馬鹿に決まってる」
「はいはい!」

及川はそう言うと、名前のことを抱きしめる。

「ちゃんと連絡はとれるようにしておいてよ」
「うん。そこに関しては、本当ごめん」
「言っとくけど、連絡がとれなかったことに関しては岩ちゃんも怒ってるんだからね!」
「うわー、やだなー帰りたくない…」
「あきらめてちゃんと怒られなね!」
「はーい」

及川は名前を解放すると、名前の手を取って立ち上がる。

「そう言えば、2年生セッターと仲直りしたの?」
「なんで?」
「さっき集団の中にいたから」
「うん。謝ってくれたから許したよ」
「ふーん。別にケンカしたままでも良かったけど、俺のせいで名前が誰かに嫌われてるのは申し訳ないなって思ってたから良かったよ」
「気にしてたの?徹のせいじゃないよ」
「それはそうだけどさ!名前は人から嫌われる人じゃないからね!」
「ありがと」
「どういたしまして!」

駅について電車に乗ると、向かいの席に座っている白鳥沢の制服を着た女子生徒が及川のことを見て、顔を赤くした。

「あの人かっこいいねー」
「背高いし、綺麗な顔してるよね」
「イケメンだー」

及川のことをチラチラと見ながら小声で話している。
及川は気づいていないが、名前には聞こえていた。

「…」
「?どうしたの?」

名前は、繋いでいた手を自分の膝の上に置き、女の子たちに見えるようにした。

「あー、やっぱり隣の女の子が彼女かー」
「そりゃあそうでしょ。あんなイケメンほっとかないって」
「彼女の方も、シュッとしてて綺麗だよね」
「うらやましいー」

名前は女の子たちの会話に満足し、フフンと笑った。

「一人で何笑ってんの?」
「べっつにー」
「?変な名前」
「徹は知らなくていいの」



家に着くと、これまた鬼の形相をした岩泉が待っていた。

「おかえり」
「た、ただいま…」
「…なんで怒ってっかわかってんな?」
「…ハイ」
「それならいい。携帯の電源は切るな。なんかあったらって心配になるだろうが」
「ごめん」

名前が素直に謝ると、岩泉は名前の頭に手を置いて、乱暴に頭を撫でた。

「合宿はどうだったんだよ」
「俺も聞きたい!」
「うん、良かったよ。将来有望な1年生たちが頑張ってる姿が見れて、これからの日本のバレーが楽しくなりそうだなって思った!」
「どんな練習してたの?」
「まずは対人パスで、スパイク練習、サーブ練習」
「やっぱどこも同じことやってんだな」
「うん。その後2対2の試合やるんだけど、これ、結構良いかも」
「2対2?」

名前は「2対2で試合するの。条善寺高校がやってる練習だけど、コートの中での責任感がさらに生まれて良さそう」と続けた。

「なるほどな」
「鷲匠先生も気に入ってそうだった。個人技を鍛えるのに良さそうだしね」
「コンビネーションの練習も必要だけど、個人のレベルアップとか意識上げにも繋がりそうだねー」
「先生に言っとくか」
「だね」
「他にも色々聞かせてよ。この3連休、名前がいなくてさみしかったんだからね!」

及川がそう言うと、名前は「オッケー。色々あったよー」と笑いながら話を続けた。



夕飯を名前の家で食べた3人は、名前の部屋に戻る。

「名前ってもう志望校決まったの?」
「決まったよ。というか、この時期に決まってなかったら多分ヤバイ」
「それはそうだ。どこ?」
「東京の大学。外国語学部志望」
「外国語?」
「うん」
「おまえは昔から語学に強いもんな」
「2人は海外を視野に入れてるでしょ。それもあるし、海外の試合とかをちゃんと理解したいと思って」

及川は「そうなの?」と名前に聞いた。

「うん。海外の選手の練習方法とか、試合の実況とかをちゃんと自分で理解したいの。そのためにはやっぱり語学がマストだなって思って」
「そっか」
「それで自分の言葉で発信したいの。バレーはこんなに面白いんだよ!って」

名前の言葉に「それが、名前の夢なんだね」と及川が聞く。

「そう。海外の試合とかプレーとかを自分の言葉で伝えて、少しでもバレーボールに興味を持ってくれる人が増えたら嬉しいな」
「なるほどな。おまえならできんだろ。教え方も上手いしな」
「ありがとう」
「俺も東京の大学志望だから、4月からも安心だな」
「まずは受かってからでしょ!」
「私はA判定もらってるけど、一はどうなの?」
「…ギリ」
「じゃあ岩ちゃんは頑張んないとね!」
「大丈夫。一緒に勉強しようね」
「おう」

名前がそう言うと、岩泉がうなずく。

「俺もー!!俺も一緒に勉強するー!」
「徹は語学を頑張らないとね」
「英語はなんとかなるにしてもスペイン語がねー」
「英語通り越してスペイン語かよ」
「仕方ないでしょ!公用語がスペイン語なんだから!」

名前は本棚から1冊の本を取り出すと、及川に見せる。

「スペイン語ならこの本がわかりやすくて私も勉強に使ってるよ」
「あ!俺も持ってる!」
「おまえもスペイン語勉強してんのか」
「うん。とりあえず英語とスペイン語と、大学はポルトガル語を志望してる」
「なんで!?」
「ブラジルはポルトガル語が公用語でしょ?ブラジルもバレー強いじゃない?だから」

名前がそう言うと、及川と岩泉は口をポカンと開けて「…す、すげー…」と感心した。

「バレーのためですから」

そう言って名前は嬉しそうに笑った。



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