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強化合宿が終わり、名前は受験勉強に専念していた。
家、学校の図書館、ファミレス、カフェなど、気分を変えるために色々な場所で勉強をしていたが、3日に1回の頻度で及川と岩泉だけではなく、花巻と松川も一緒に来た。

「こんなに勉強してる俺たち、マジで偉くない?」
「喋るんだったら手動かせよ」
「動かしてるよ!」
「名前、ここの問題なんだけどさー」
「どれー?」
「ちょっとまっつん!名前の勉強の邪魔しないでよね!」
「おめえが一番邪魔なんだよ!」
「岩ちゃんひどい!」

今日はファミレスで勉強している5人。

「及川の集中力、完全に切れたな」
「一旦休憩してお昼ご飯食べようよ」
「それもそうね。さすがにお腹空いた」
「でしょ!」
「まあ、この状態で続けても無駄だわな」
「何食べよっかなー!」

及川はメニューを取ると、中を見る。

「甘い物食べたい」
「先にご飯食べなよ」
「えー」
「えーじゃないの!甘い物食べたらご飯食べられなくなるでしょ!」
「及川ママが冷たい」
「ママじゃねえし!」

名前は及川のことを無視してメニューを見ると「やっぱりハンバーグかな」と言った。

「俺のおすすめはチーズインハンバーグだよ」
「知ってる。いつも松川が食べてて美味しそうだなって思ってたから」
「じゃあ一緒の食べよ」
「同じの頼むー」

名前はメニューを花巻に渡すと「花巻はどうする?」と聞く。

「俺は適当に…パスタでも頼むかな」
「マッキーパスタ!」
「俺がパスタみたいに言うな」
「おまえがパスタだろ」
「なんか意味が違うんだよ!」

無駄話をしながらも注文する商品を決めた5人は、呼び出しチャイムを鳴らして店員を呼ぶ。
注文が終わり、商品が届くまで雑談をする5人。

「そういえば、及川はいつあっち行くか決まったのか?」
「えーっとね、3月後半かな。なるべく早く向こうに行って環境に慣れたいし、チームメイトとも信頼関係作りたいしね。レギュラーシーズン中だから、できることは少ないだろうけど外から見てるだけでも勉強になるだろうし」
「そうだよな。チーム名なんだっけ?」
「CAサンフアン!いい加減覚えてよね!」
「アルゼンチンのチームまで覚えられるかよ」

岩泉のセリフに納得のできない表情の及川。

「別にいいもんねー!いつか、及川さんと言えばCAサンフアン!って思うようにしてあげるから!」
「おー、期待してる」
「本当にしてるの!?」
「当たり前だろ」
「おまえが活躍しないわけないだろ」
「本当だよねー」
「え?」

茶化されると思った及川は、3人があまりにも当然のように肯定してきたことに驚く。

「おまえは、こんなとこで終わるような男じゃねえべや」
「なんてったって、俺たちのキャプテンだったろ」
「性格はあれだけど、実力は認めてるからね」
「一言余計だな!」

及川のなんとも言えない表情を見て「徹、嬉しそうだね」と名前は笑った。

「も、もう!!急にそういうこと言うのやめてよね!」
「照れんな、気持ち悪い」
「酷い!」

そんな話をしていると、注文していた商品が続々と運ばれてくる。

「美味しそう!」
「お腹空いたー」
「これ誰が頼んだ?」
「俺だ」
「ハイ岩ちゃん」
「それ俺だわ」

全員分が揃ったところで、みんなで食べ始める。
食べている間も、進路や今後のことで話は尽きない。

「名前は良いとして、他の3人はどうなの?」
「どうって?」
「勉強だよ!ちゃんと第一志望に合格できそうなの?」
「まあな」

花巻がそう答えると「俺も大丈夫かなー」と松川も続く。

「岩ちゃんは?」
「…ギリ…」
「夏頃に聞いた時も同じこと言ってなかったっけ!?」

岩泉の返答に及川は思わずツッコむ。

「あん時よりは合格よりのギリだわ!」
「そうじゃないと困るでしょ!受験来月だからね!」
「名前は国立受けないの?」
「そうだね。私の学びたいことを考えると、今の志望校が一番だからなー」
「まあ名前ならどこの大学出ても問題ないでしょ」
「それもそうか」

松川はハンバーグを食べながら「花巻も岩泉も、名前も大学は東京になりそうだから、俺だけ地元だねー」と言う。

「同じ日本だし、いつでも会えんだろ」
「それはそう」
「及川さんだけ仲間外れにしないで!」
「勝手に仲間外れになったんだろうが」

そんな岩泉の言葉に、及川は泣きまねをする。

「しくしくしく…俺の相棒が冷たい」
「180越えた大男が泣きまねすんな」
「岩ちゃんはもう少し俺に優しくして!」

そんな及川と岩泉を無視して、花巻は「にしても、名前がポルトガル語専攻志望なのは意外だったなー」と言った。

「そう?」
「なんかフランス語ってイメージ」
「どんなイメージよ」
「それは俺もわかる。なんでポルトガル語なの?」
「ブラジルの公用語がポルトガル語だからだよ」
「ブラジル?」

名前がそう言うと、2人は少し驚いた顔をした。

「バレーが強い国の言葉を勉強して、その国のバレーをその国の言葉で理解したいの。それで、自分の言葉で伝えられるようになりたいなって思ったの」
「なるほどねー」
「こいつ、そのためにスペイン語も勉強してんだと」
「へー、すごいな」
「アルゼンチンはスペイン語だっけ?」
「そう」
「アルゼンチン行く本人よりも先に喋れそうになりそうだな」

花巻がそう言って笑うと、及川は「現地に行く俺の方が喋れるようになるに決まってるでしょ!」と反論した。

「岩泉はアメリカだしな」
「俺は大学卒業したらだけどな」
「俺たちの主将と副将はワールドワイドな男になっちまったな」
「これからは世界にも目を向けていかないとね!」
「こっちに残る俺への嫌味かな?」
「及川くんサイテー!」
「そんなこと言って無いでしょ!」

3人のやり取りを聞きながらも名前は松川おすすめのチーズインハンバーグを食べ終え、甘いものを注文しようとメニューを取る。

「ちょっと、名前?まだ食べるの?」
「勉強のし過ぎで甘いものを欲している。脳が」
「食べ過ぎじゃない?」
「引退してからアホみたいに食べてる徹に言われたくないんだけど」
「俺はこれでも抑えてるよ!」
「何が食いてえんだ?」

岩泉に聞かれた名前は「うーん、やっぱりプリンか…パフェにするか…」と悩む。

「このパフェは絶対大きくて最後まで食べられないでしょ!」
「食べれるよ」
「ぜーったい無理!」
「もう!徹は私のお母ちゃんですか!?」
「なっ!」
「お母ちゃんっていうか、口うるさい小姑みたいだよな」
「わかる」
「どういう意味だよ!」

騒いでいる及川を無視して、岩泉は「全部食えなかったら食ってやるから、好きなの頼めよ」と名前に言う。

「わーい!さすが一!」
「これが正解だよな」
「さすが岩泉、男前」
「俺よりも岩ちゃんがモテている…!」

及川は悔しそうな顔をした。
名前は店員を呼ぶと、イチゴのパフェを頼む。

「モテると言えば、バレンタインと卒業式っていう告白イベントが待ってんな」

花巻がそう言うと「俺たちには縁のない話でしょ」と松川が言う。

「自虐すんなよ!俺たちにだってワンチャンある!部活を引退した今こそ、俺たちに告白するチャンスだろ!」
「ずっと部活一筋ってイメージだったもんね、あんたたち」
「だろ!」
「誰よりも部活一筋のイメージだったはずなのに、なんでこいつだけはずっとモテてんだろうな」
「解せぬ」
「それは及川さんがイケメンだからでしょ!自然の原理だね!」
「埋めたい」
「どこに!?」

花巻が「名前も告白されそうだよなー」と呟くと、及川が「それ!!本当それ!」と同意した。

「なんでよ」
「卒業前にワンチャン狙うアホな奴らがいるんだって!」
「俺らのこと言ってる?」
「まあ、名前は俺のって知ってる奴ばっかりだと思うから、大丈夫だとは思うけどね!」
「おまえんじゃねえよ」
「名前!呼び出されてもちゃんと断るんだよ!」
「わかったよ及川ママ」
「ブッ!」
「もう及川ママってあだ名にしようぜ」
「やめて!」

名前の注文したイチゴパフェが届き、名前は嬉しそうに食べ始める。

「はぁ〜…強化合宿から帰って来た国見ちゃんに”名前さんを無自覚の人たらしにした責任は大きいですよ”って言われたけど、ほんと心配…」
「近くに俺がいんだから安心しろ」
「岩ちゃん〜!」
「それに名前が無自覚人たらしなのはバレーが関わってるときだけだから大丈夫だろ」
「たしかに」

及川は「俺が日本に居ない間、名前のこと頼んだよ」と岩泉に言う。

「おう。最悪は、拳でなんとかすんだろ」
「だからそれは絶対ダメなやつだからね!」



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