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バレンタインの数日後、私立大学の合格発表が続々とされた。

「名前!!どうだった!?」
「合格したよ!」
「やっぱり!おめでとう!名前なら絶対大丈夫って思ってたけど、これで一安心だね」
「ありがとう。良かったよ」

及川は携帯を取り出すと「岩ちゃんの合格発表はまだかな?」と落ち着きのない様子で時計を確認する。

「もうすぐかな?」
「岩ちゃん早く連絡ちょうだいー!」

2人でソワソワしていると、及川の携帯が鳴る。

「わ!岩ちゃんだ、も、もしもし!」
『おー』
「岩ちゃん!」
『声がでけえよ及川!名前も隣にいんだよな?』
「いるよー!スピーカーにするね!」

そう言うと、及川はスピーカーにして名前にも聞こえるようにする。

「一、お疲れ様」
『おう。名前も合格だったんだな、連絡見た』
「うん。も、ってことは一も合格した?」
『無事にな』
「わー!2人ともおめでとう!」
『花巻と松川も合格したし、これで5人全員進路決まって一安心だな』
「だね!今日はお母ちゃんたちに言ってパーティーしてもらお!」
「いいね〜!一も早く帰って来て!」
『おう!学校寄ってからそっち行くわ』

及川は電話を切ると、名前の方を見て手を広げ、そのまま名前のことを抱きしめた。

「よかったー!マッキーも心配だったけど、俺は岩ちゃんが一番心配だったから安心したー!」
「それ、一に言ったら怒られるわよ」
「だから今言ってるんじゃん!岩ちゃんが頑張ってたの知ってるから、合格できて本当に良かった!」

そう言って嬉しそうに笑う及川の頭を名前は撫でる。

「もう、子ども扱いしてるでしょ?」
「してないよ。あんたが一のこと大切に想ってるのが伝わってきて嬉しくなったの」
「俺は名前と岩ちゃんが大事だよ」
「ありがとう」

名前は「そしたら、私も学校に行って先生に合格の報告してくるね」と伝えた。

「俺も一緒に行くよ!」
「なんで徹が一緒に来るの」
「岩ちゃんも学校寄るって言ってたから、俺だけ仲間外れにしないで!」
「ハイハイ。そしたら早く行って早く帰ろう」
「うん!」



名前と及川は2人で学校に行くと、担任の先生に報告をした。

「先生、無事に合格しました」
「おお!おめでとう!苗字なら問題ないとは思ってたけど、合格の報告が聞けて安心した」
「ありがとうございます」
「さっき岩泉も報告に来てたぞ。多分、まだ近くにいるんじゃないかな?」
「本当ですか?」
「ああ」
「ありがとうございます」
「気を付けて帰れよ。外にいる及川にもよろしくな」
「はい。ありがとうございます」

職員室を出ると「お疲れ様ー!」と及川が出迎えた。

「一、さっき報告に来たって」
「本当?なら近くにいるかな?」
「追いかけようか」
「だね」

2人は、先に学校を出た岩泉を追いかけるために外に出て連絡を入れる。

「あ、返信きた。”一回家に帰ってから名前ん家行く”だって」
「じゃあいっか」

名前は小走りで歩いていたが、岩泉からの返信を見て速度を落とした。







夕方になり、名前の家に及川、岩泉、そして2人の母親の4人が集まると、名前と岩泉の合格を祝った。

「一、名前ちゃん、合格おめでとうー!」
「おめでとう!3人とも進路が決まって一安心だよ」
「本当に!良かったねー!」
「ありがとう!」
「一安心だな」
「俺もこれで安心してアルゼンチンに行けるよ!」

名前の母親は「徹くんがアルゼンチンに行くって聞いた時は驚いたけど、名前も一くんも東京だもんね。みんな巣立って行っちゃって、さみしくなるわね」と少し寂しそうに言う。

「本当に!子どもってあっという間に大きくなるから驚きだわ」
「一も将来的にはアメリカに行くって言ってるし、グローバルよね」
「まあでも、徹も一くんも海外なら旅行に行きやすいから嬉しいわ」

及川の母親がそう言うと「ちょっと!俺たちは別に遊びに行くわけじゃないんだからね!俺はバレー、岩ちゃんはアスレティックトレーナーになるために真剣なんだから!」と、及川が言った。

「わかってるわよ!でも遊びに行く機会はあるでしょ?」
「徹くん、さみしくなって一と名前ちゃん呼びたくなるわよ」
「そうそう。環境が変わってホームシックにもなるだろうし」
「徹は2人とずっと一緒にいたから、余計さみしくなりそうね」
「日本の裏側なんだからそう簡単に呼べないよ!」

母親たちの言葉に及川がそう反論する。

「なんで?」
「え?」

そんな及川に名前が問いかける。

「な、なんでって…」
「簡単に呼びなよ。一人で苦しんでる徹を独りにするような薄情な幼なじみじゃないけど?」
「〜っ!!」

そう言って笑う名前に、及川は言葉を詰まらせる。

「ま、俺は行かねえけどな」
「っ!岩ちゃんは酷いね!!予想通りだけど!」
「暇なときなら考えてやるよ」
「結構です!アルゼンチンで有名になって”及川さんの試合見たい”って思わせるから、その時に来てよね!」
「ハイハイ」
「考えとく」
「そこは”行く!”って即答しろよ!」

及川のツッコミに名前と岩泉が笑うと、及川もつられて笑う。

「本当、3人はずっと仲が良いわね」
「高校卒業までこんな感じだとは思わなかったわ」
「ウチの子のわがままに付き合ってくれてありがとうね」
「一は自分の意思だけど、名前ちゃんは白鳥沢でも行けたのにね」
「何言ってんの。あの子、”徹と一のバレーボールが世界一だから、傍で見ていたいんだ”っていつも言ってたよ。ずっと徹くんたちの傍で2人のバレーボールを見れて幸せだったんじゃないかしら」

3人の母親たちは、小学生のころから変わらない3人を見て静かに微笑んだ。

「でも、結局名前は高校3年間も彼氏ができなかったわねー!」
「私は部活に忙しかったの!恋愛なんかしてる暇なかったよ」

名前は母親の言葉にそう反論する。

「徹くんと一くんが傍にいたら、そりゃあ彼氏できないわね。2人以上にいい男なんて、なかなかいないものね」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「このまま結婚もできないんじゃないかって心配よ」

及川は勢いよく立ち上がると「おばさん!そんな心配いらないよ!名前はちゃんと俺が責任を持って世界一幸せなお嫁さんにしてあげるから!」と言った。

「付き合ってもいねえくせに何言ってんだよ!」
「こんだけ一緒に居て、もう付き合ってるようなもんじゃん!」
「それなら俺もだろうが!なんでおまえが名前と結婚することになってんだよ!」
「だってだって!たとえ岩ちゃんでも俺は名前を譲ってあげられないもん!」
「名前の気持ちもあるだろうが!」
「名前の事は俺が幸せにするの!したいの!」
「徹、一、…気持ちはわかったけどこんな所でやめてくれる?…お父さんが帰ってきた」

名前がそう言うと、及川と岩泉は言い争いを止め、リビングの扉の方を見た。

「徹くん…一くん…」
「お、おじさん…おかえりなさい…」
「…っス」
「ただいま…一くん合格おめでとう」
「あざっス…」

名前の父親はゆっくり上着を脱ぎ、ネクタイを外す。

「今、なんだか幻聴?かな?結婚とか、お嫁さんとか、そういう言葉が聞こえてきたような気がしたんだけど…?」
「えっと…」

名前の父親は、ゆっくり2人に近づくとニッコリと笑って「聞き間違いだよね?」と言った。

「…ウイッス!」
「聞き間違いです!」
「そっか。なら良かった」
「お父さん、顔が怖いわよ。お父さんが余計な圧をかけて名前が一生お嫁にいけなくなったらどうするの」
「名前はずっと家にいればいいさ」
「…本気で言ってる感じが怖いわ」

父親の言葉を聞いて苦笑する名前。

「それじゃあお父さんは着替えてくるからね」
「早く行って」

そう言うと、名前の父親は寝室に向かった。

「おじさんは相変わらずだねー」
「圧が強い…」
「私が東京の大学を志望してるって言った時から、さらに過保護になった感じがする」
「そりゃあかわいいかわいい一人娘だもん。心配なんでしょ」
「そういうもん?」
「そういうもんだろ」

名前は、心底意味がわからないという顔をした。
その顔を見て「まあ、当事者の名前にはわからないよねー」と、及川がため息をつく。

「そうだ。2人は東京のどの辺に住むの?」
「一応、大学の近くの物件いくつか見てたけど、土曜日に見に行く予定だよ」
「俺もそんな感じだな。早く決めないと、意外と時間ねえんだよな」
「だよね」

名前は及川のことを見ると「徹は寮だっけ?」と聞いた。

「うん。チームの寮があるから、独身の間はそこに住む感じかなー」
「どんな感じの部屋なの?」
「えっとねー、確か写真があったはず」

そう言うと及川は携帯を取り出して、チームから送られてきた資料を探す。

「そうだ。岩ちゃんはなるべく名前と近い距離に住んでね」
「あ?」
「だって同じ東京じゃん!名前に何かあったときに、すぐに行けるのは岩ちゃんだけなんだもん!」
「心配性だなー。一には一の生活があるんだよ」
「そ、それはそうだけどさ!」
「近くに住んでなかったとしても、名前が呼べばすぐに行くから心配すんな」
「一…!」
「ぐううう!その役は俺がやりたかったのに…!」
「ざまあみろ」

岩泉のセリフに、悔しそうな顔をする及川。

「俺が日本にいない間、名前のこと頼むよ!」
「言われなくても」



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