侑のサーブから始まった試合は、相手コートにいる影山にボールが上げる。
「オーライッ」
「…!」
しかし、ボールはそのまま返ってきたところを前衛にいた選手がダイレクトで叩く。
「!」
「ナイスキー!」
それを見ていた全日本男子ユース監督の火焼は「ネット越えるくらいないらAパス意識しすぎなくていいよ!」と言った。
「ハイ」
「セッターは、構える位置もうちょいネットから離れていい」
「!ハイ!」
影山は言われた通り、少しだけネットから離れたところで構える。
「ナイスキー」
「どうだ?」
「ん−もっと早く打てると思うんだよな。こうパパッとコンパクトにさ」
「わかった」
影山と森然高校1年千鹿谷の会話を聞いていた古森と侑。
「(すぐ”わかった”って言えるのも、実行できんのも恐ろしいわ…)」
「…」
侑は、影山を見ながら意味深に笑った。
「前前!」
「オッ!」
「ナイス!」
侑の上げたボールをカバーし、鴎台2年の星海にボールが上がる。
星海は助走をつけて跳び、スパイクを打つ。
「高っけえ〜…」
「お見事エンドライン!」
そんな星海の姿を見た影山は、無意識に笑っていた。
「…」
試合形式の練習が終わり、各自ストレッチをして上がる。
「ストレッチ念入りにー」
星海は影山の近くに行くと「おい」と声をかけた。
「おまえ、俺を見たことあんのか」
「?ここに来てから見てます」
「そうじゃねえよ。今までに俺の試合見たことあんのかっつってんの」
「無いっス」
影山がそう言うと、星海は「じゃあもっとビビれよ驚けよ!!」と言った。
「初見からずっと”ヘェー!”みたいな顔しやがって!」
「!?」
「大抵のヤツはこのタッパの俺をナメた後、俺のプレーを見てビビる!そこまでが一連の流れなんだよ!!」
「ビビってます。けど、参考になります」
「ああっ!?」
そんな2人の会話を傍で聞いていた侑は「フッフ」と笑った。
「いやーキモ据わってるねー」
侑は影山に近づくと「ちなみに飛雄くんは、なかなか刺々しい第一印象やったけど、プレーは大分、おりこうさんよな」と言った。
「…は?」
「あの牛島くん倒したセッターやから、どんな感じなんか気になっとったけど、俺の想像とちゃうかったわ」
「…」
「ま、ええわ。明日もよろしくー」
侑はそう言うと、そのまま食堂に向かおうと体育館を出る。
「…おい」
「ん?臣くんや。何しとるん?」
体育館を出たところで、佐久早に話しかけられた侑。
「おまえ…そのキャラやめろ。聞いてて気持ち悪い」
「失礼なやっちゃな」
「キャラ作ってんのか?いつも通りにしろよ」
「臣くんは、もしかして俺のこと好きなん?」
「なんでそうなるんだよ」
「普段の俺とか言うからやん!すまん!俺には心に決めた名前がおるから、臣くんの気持ちには応えられへん!」
「ぶち殺されてえのか?」
佐久早は本気で嫌そうな顔をすると「もういい」と言って、食堂に向かう。
「ノリ悪!」
そう言うと、侑は佐久早の後を追うように食堂に向かった。
次の日、合宿3日目。
朝食を食べ終わった選手たちは、続々と体育館に集まりアップを始める。
しかし、影山は難しい顔をしながら考え込んでいた。
「…」
昨日、侑の言った”おりこうさん”という言葉の意味を考えていたのだ。
「影山、今日何かあったっけ?」
「?体調とかですか?いや、とくに無いかと…」
「ふーん」
そんな影山の様子を見ていた火焼。
「何や悪いこと言うたかな〜フッフ」
そして、同じように難しい顔をした影山を見て笑う侑だった。
「…ほんと性格悪…」
「何か言うたか臣くん?」
「別に」
「小さい声で言うたつもりでも聞こえてんで?」
「猫被ってんだろ?素が出てきてるぞ」
「うっさいわ」
合宿3日目も、一通りの練習が終わり、各自ストレッチをした後ご飯を食べに食堂に行く。
「はぁー、強い相手と練習できるんわおもろいけど、そろそろ名前に会いたいわ…」
「何だよ、苗字が恋しくなっちゃった感じ?」
「もう3日も会おうてへんし、声も聞けてないねんで?地獄やわー…」
「宮って意外と女々しいんだな」
「意外とって何やねん!古森くんの中で、俺ってどないなイメージやねん」
古森と佐久早を見つけた侑は、当たり前のように古森の横に並び、一緒に食堂に向かっていた。
「何でおまえは普通についてくるんだよ」
「行くとこ同じやねんからええやろ」
「ハイハイ、おまえらはすぐ言い合いしないの!あんだけ練習して、まだまだ言い合いする元気あるのがすげーよ」
古森は2人を少し引いた目で見ていた。
食堂に着き、それぞれ夕飯を受け取った後、空いている席に座って食べ始める。
「んで、さっきの続きなんだけどさ。電話とかしないの?」
「電話?」
「おう。今はアプリで無料電話できんじゃん」
「ああ、せやな」
「せやなって、普段電話とかしてるんじゃないの?」
古森の質問に、侑は「基本的に平日は部活あるから毎日一緒におるやん?帰りも送って帰るし、んで土日も自主練したりしとったら絶対に体育館来るから会うやん?そうなるとほぼ毎日会うてるから、電話するって発想にならんかったわ」と言った。
「へー。まあ、でも確かに、まだ付き合ってるわけじゃないなら電話は重いかも」
「重いん!?」
「え、知らない」
「適当なこと言わんといてくれへん!?」
侑の焦る姿を見た古森は「もしかして、宮って今まで誰かと付き合ったことないの?」と聞いた。
「そ、そんなこと…あ、ある…」
「うっそ!マジで?本当に意外なんだけど!」
「古森くん、顔笑っとんで?」
「…プッ」
今まで何も話さず、黙々とご飯を食べているだけだった佐久早が侑のことを小バカにしたように笑う。
「臣くんに鼻で笑われたんやけど…。どうせ自分らやって付き合ったことないやろ!?」
「へっへーん、俺はありまーす!」
「俺は必要性を感じない」
「か、完全に負けた…」
侑はショックを受けた顔をした。
「まあまあ、別に付き合いが早ければいいってもんじゃないけどさ、意外だなーあんなモテんのにな!」
「まあ、今まではバレー一筋やったしな」
「好きになった子とかいなかったの?」
「おらんおらん!恋愛にええ思い出なんてない!」
侑は、昔のトラウマをなかったことにしていた。
「ふーん、そんな童貞の侑くんが惚れたのが苗字なんだな」
「ど、童貞とか言うなや!」
「声がでかいって!」
思わず立ち上がり、顔を赤くしながら大きな声で反論する侑を、古森は必死でなだめる。
「うるせーな…」
「そないなこと言うて、古森くんやって童貞やろ?」
侑は椅子に座り直して古森に近づくと、小さな声で聞いた。
「ん?内緒」
「なんやねんそれ!絶対そうやん!」
「それは宮の想像にお任せするぜ!でさ、宮は苗字のどこに惚れたの?」
「ブッ!」
侑が古森の質問に思わず吹き出すと、古森の横に座っていた佐久早が本気で嫌そうな顔をした。
「おい、黙って食えないならここから消えろ」
「うわー臣くんこわっ!」
「まあまあ。そんで、どうなのさ?」
怒りのオーラをまとっている佐久早を無視して、古森は話を続ける。
「そんなん聞いてどないすんねん」
「単純な興味?恋愛に興味のなかったモテボーイが惚れるって、どんな子なんだろうなって」
「臣くんだけやなくて古森くんも狙っとるん?」
侑がジト目でそう聞くと「俺は違うって!」と古森が否定した。
「俺も違うって言ってんだろ。何度言っても理解できないって、脳みそ腐ってんのか?」
「臣くん辛辣すぎん?もうちょい言葉をオブラートに包もか?」
侑は「せやなぁ〜…」と言うと「うんうんうん」と、古森が興味津々でうなずく。
「人のことを外見で判断せんとこと、俺のバレーが綺麗って言ってくれたとこやな」
「綺麗?」
「おん。最初は、そりゃー嫌な出会い方やったんやで?お互いずっとよそよそしかったしな」
「どうせおまえが一方的に苗字のことを警戒してたんだろ」
「な、何でわかんねん!」
佐久早に図星を突かれて「うっ!」と冷や汗を流す侑。
「せ、せやけど!名前はちゃんと俺の中身を知ってくれたんや!そんで、俺のバレーが綺麗言うて涙まで流して感動してたんやで!そら惚れるやろ!」
「単純な男だな」
「何やと!」
「やめろって!…苗字、いい子だな」
古森がしみじみと言うと、侑も「せやろ?今まで会うたことないくらい、めっちゃええ子やねん」と言って幸せそうに笑った。
「うはー、こっちが恥ずかしくなるくらいの笑顔だな」
「フッフー!」
「その緩んだ顔、今すぐ引っ込めろ」
「臣くん辛辣ー!」