07

4月、新しい1年がスタートする。
男子バレー部も、3年生は引退し、新しい主将は北になった。

「信介、おまえが今日から主将や。頼んだで」
「はい」
「まずは夏のインターハイやな。レギュラーに控え、またイチから決めんで。全員にチャンスがあるんや。チャンスを掴み取れ!」



朝練が終わり、2年になった侑、治、角名、銀島は4人でクラス表が張り出されている掲示板に向かう。

「何組かな」
「双子と一緒は嫌や!」
「なんでやねん!ええやろ!!」
「ツムは一緒になりたい子がおるやろ」

治の言葉に、侑と銀島が反応する。

「はあ!?何言うとんねん!!」
「え、そうなん!?誰!?」
「銀って気づいてなかったんだ。結構わかりやすいのに」
「俺だけ!?」
「やめろや!!」

4人で騒ぎながら歩いていると、掲示板の前に名前と中山がいることに気づく。

「練習お疲れー」
「みんな、お疲れ様!」
「おー、2人もお疲れさん」

治は名前に近づくと「クラス見たん?」と聞いた。

「まだー。前に人が多くて、全然見えなくて」
「2人ともちっちゃいからしゃあないな」
「あんたらからしたらほとんどの人間が小人や」
「せやな。ツム、見たり」
「なんでやねん!」
「お、治くん、私たち自分で見るよ?」
「ええから」
「だ、誰も見いひんとは言ってないやろ!!」
「ええー…」

そんな侑の姿を後ろから見ていた角名は「ね、わかりやすいでしょ?」と、銀島に聞いた。

「ぜんっぜんわからん!」
「ダメだこいつ」

侑は掲示板を、1組から順番に見ていく。

「角名…、ツム…、っておまえもかい!!」
「え?」

侑は名前を睨むと「おまえも1組や!!」と言った。

「治くん、また一緒のクラスだね!」
「せやな。また1年よろしくなー」
「名前ちゃんと一緒か、嬉しいな」
「倫太郎くんとは初めてだね!よろしくね」
「うん」

侑はそのまま掲示板を見ると「2組…」とつぶやいた。

「侑と俺が一緒やな!ついでに中山も!」
「なんでついでなん」
「いった!蹴んなや!」
「…サム…これ名前逆やない?」
「はあ?」

侑がそう言うと「絶対!俺が1組でおまえが2組や!」と、治の胸倉をつかんだ。

「どう見てもおまえが2組やな」
「なんでやねん!!」
「欲望に忠実すぎるやろ。周りドン引きしとるやん」
「俺も!!1組が良かったんや!!」
「バレるで?」

治の言葉にハッとした侑は、手はそのままで名前の方を見る。
名前は、侑と目が合うとニコッと笑った後に眉毛を下げながら「そんなに治くんと一緒のクラスが良かったんだね。でも、双子は同じクラスにはなれないんだよ」と言った。

「こんの、ボケ女!!」
「ええ!?」
「侑かわいそ」
「あれで気づかんって、苗字さんやばない?」
「鈍感なんでしょ」
「ん?ん?どういうことや?」
「ここにもボケ男がおったわ」
「悪口!?」

予鈴が鳴り、侑は銀島と中山に引きずられながら2組に向かう。

「侑、あんたわかりやすすぎやで」
「別になんも言っとらんやろ!」
「ハッキリは言っとらんけど、バレバレや。苗字さん以外」
「なんであいつには伝わらんのかわからん!!」
「伝わってええんかい」
「少しは俺のこと意識せえ!!って、別に俺はあいつのことなんとも思っとらんわ!!」

ここでようやく銀島が侑の気持ちに気づく。

「なんや侑、おまえ苗字さんのこと好「それ以上言ったら潰すで?」すまん」

銀島の言葉にかぶせるように侑が言う。

「治も喜んどったで。中学ん時のトラウマ克服して、やっと恋愛できるようになったんやなって」
「中学のトラウマってなんやねん」
「侑の顔だけ狙いの清楚系ビッチに襲われかけたんやって」
「なんでおまえが知っとんねん!!てか、別に襲われてへんわ!」
「稲荷崎グループでは知らんやつおらんやろ」
「女子の方にも伝わっとるんか…」
「おまえホンマ大変やな…」
「侑がアホやからそういう女しか寄ってこんのやろ」
「そこまで言うか!!」

中山の言葉に、侑は頭を抱えた。

「他にもあったな」
「ホンマ?今まで侑がモテとるの見て羨ましいわー思っとったけど、今は同情心しかないわ」
「うっさいわ!」

教室に入る前に侑は中山を「おい」と呼び止める。

「なんや?」
「…あいつは知らんよな?」
「知っとるわけないやろ」
「何も言うなよ」
「何?」
「…言わんといてください!!」
「考えとくわ」
「この女っ!」
「侑やめろや!」

中山はあっかんべーをすると、自分の席に向かった。



侑が中学生のころ、1年年上の先輩から告白された。
バレー一筋の侑は、最初は告白を断ったが、その後も健気に応援してくれる先輩のことを見て、心が揺れ始めていた。
付き合うだけでもいいか、と思い始めてきた時、先輩が他の女子と話しているところをたまたま聞いてしまった。

「なぁ、あんた侑くんともうすぐ付き合えそうなんやろ?」
「せやで、苦労したわー」
「すごいなあ!侑くんめっちゃモテるやん!」
「やろ?性格はアホっぽいけど、顔がええからな!それだけで自慢になるわ」
「治くんやないんやな?」
「治くんでもええけど、治くんは勘付きそうやない?」

侑はそこで、自分を自慢の道具にするために近づいてきたことに気づいた。

「ツム、おまえ何しんとんねん。練習遅れんで?」
「…サム…」
「ん?」

そこで治も侑に告白をしてきた先輩がいることに気づく。

「ホンマはガキくさいやつは嫌いやねんけど、侑くんなら連れて歩くだけでも優越感に浸れるやろ」
「せやなー!将来有望やしな!」
「バレーとか全く興味ないけど、強いやん?先に付き合っとくんわアリやろ?今度会うた時は部屋連れ込むわ」
「大胆やなー!」

治は侑を心配そうに見ると「ツム…行こうや」と言って、侑の腕を掴む。
侑は何も言わず、治に黙ってついて行く。

「…あの女、結局俺やなくて、顔が良ければ誰でも良かったっちゅーことか」
「…サム…、世の中にはああいう女もおんねん」
「クソビッチやないか」
「…早めにわかって良かったやん」
「…せやな」

その後、侑は先輩に2度と話しかけるなと伝え、より一層バレーにのめり込み、先輩に似た清楚系の見た目をした女の子を特に嫌うようになっていった。

それが、名前との出会いで変わった。
名前は自分のことをちゃんと見てくれている。
顔だけに釣られて近づいてくる女の子とは違い、宮侑という存在を見てくれている。
あの時のトラウマが名前によって払拭されたようだ。



昼休みになると、隣の教室から侑と銀島がやって来た。

「新しいクラスはどんな感じや?」
「普通やな、なーんも変わらん」
「楽しい1年になるといいね」

5人はそれぞれ席に座ると、持って来たお弁当を広げる。

「お!苗字の弁当うまそうやなー!」
「本当?自分で作ってるから嬉しいな」
「自分で作っとるん?すごいな!」
「名前は去年もずっと作っとったな」
「うん。両親が仕事で忙しいから、料理は基本的に私が担当してるんだ」
「すごいねー、名前ちゃん良いお嫁さんになりそう」
「え?そ、そうかな?」

角名の言葉に照れる名前。
そんな名前を見て、侑は「んなもん角名のお世辞やろ!!本気にすな!」と言った。

「そ、そうだね」
「ツム…」
「な、なんやねん!」
「…ガキ」

照れ隠しで思ってもいないことを言う侑を見て、治は呆れた顔をした。

「う、うっさいわボケ!」
「名前ちゃんの握るおにぎりは形も綺麗だし、美味しいよね」
「たしかに!名前のおにぎり美味いわー」
「お、おにぎりは誰が握っても一緒じゃない?」
「なんかちゃうねん。力加減か?ふわふわで適度に米の密度があって、めっちゃ美味い!」
「おぉー、治くんが饒舌だ」
「サムはホンマ飯のことばっかやな!」

そんな侑の言葉に、治は「当たり前やろ!飯は大事やで!」と強く言う。

「まぁそれはそうやな」
「みんなに喜んでもらえて良かったよ」
「名前がおにぎり屋始めたら絶対通うわ」
「治ガチじゃん」
「ゴールデンウィークの合宿が、今から楽しみやわ」



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