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12月9日、合宿最終日。
ポジションを変えての試合形式の練習を行っていた。

「フェイント!」
「オッ!」
「ナイス」

前に落とされたボールを、古森が器用に拾う。
古森は、バックアタックに入る影山の助走の邪魔にならないよう、すぐに後ろに下がった。

「影山ァ!!」

セッターの星海が影山にトスを上げ、影山のスパイクが相手のコートに落ちる。

「ナイスキー!」
「ッシ!」
「ウエーイ!!」

そんな2人をコートの外から見ていたコーチは「や、影山レフト良いですね!星海セッターも!」と監督に声をかける。

「うん、どこでもできるね〜!」
「やっぱポジションシャッフル面白いっスね!」

侑はリベロのポジションについていた。

「宮!」
「ハイハイ」

リベロの侑はフロントゾーンではオーバーハンドトスを上げる事ができないので、センターラインの手前でジャンプをしてトスを上げる。

「(さあ、どうぞ)」

レフトから走って来た影山がスパイクを打つ。

「ナァイスキィー!」
「上手いセッターはスパイカーに錯覚さえ起こさせる。自分は上手くなった・強くなったといいう錯覚を。だから、侑や影山のセットアップで打ったスパイカーが、チームに戻ってから”あれ?”ってならないといいけど」
「今年はセッター豊作っスねー!」

試合形式の練習が終わり、全日本ユース強化合宿の全日程が終了。
侑は、ストレッチをしている影山の傍に座ると話しかけた。

「どやった?スパイカー」
「!面白かったっス。宮さんのトスも、すげえ打ちやすいっス」
「せやろ〜?俺のセットで打てへんやつはただのポンコツや」

侑は嬉しそうにそう言った。

「飛雄くんはセッターよりスパイカーのが向いてるんちゃう?」
「なんでですか?」
「セッターやってる時は小難しーい顔しとったけど、レフトやってんの楽しそうやったで」
「そうですか。でも俺はセッターです」
「うん、まあせやろな」

そう言うと、侑は立ち上がった。

「あの宮さん。”おりこうさん”てどういう意味ですか」
「?そのまんまの意味。まじめで素直でエエ子やねって」

侑の返答に、納得をしていないような表情の影山を見たが、侑はそれ以上何も言わずにその場を後にした。
ストレッチが終わり、全員が着替え終わると最後にもう一度体育館に集合となる。

「慣れない場所・メンバーでの合宿、お疲れ様でした。今回はユース始動の合宿ということで、手探りが多かったかもしれませんが、ここでの練習とチームに戻ってからの練習を別物として考えないでもらいたい。互いにレベルアップしていけるのが理想です。これからがんばって行きましょう」

監督の挨拶が終わると、解散となり各自帰路につく。

「飛雄くん、また春高でな〜」
「ハイ」
「星海くん東京駅やろ?」
「俺は大宮だ」

侑は「え!?何でなん!東京駅から新幹線やろ?」と聞き直す。

「だから、ここ赤羽だから大宮まで行ってそっから新幹線乗った方が近いんだよ!」
「ホンマに!?せやったら俺一人やん」
「行きも一人だったんだから、帰りも一人で帰れよな」
「臣くんたちは、どうせこのまま学校戻るんやろ?」

侑が聞くと、古森が「さすがに疲れたからこのまま帰るよ」と答える。

「せやったら俺と一緒に東京駅まで行こうや〜」
「断る」
「俺もめんどいかな」
「迷いなく断るやん!」

佐久早がめんどくさそうな顔をしながら「さっさと帰れよ」と言った。

「そうそう。愛しの苗字が待ってるんだろ?」
「せやで!一週間ぶりやー!」
「盛るな盛るな!5日だろ」
「体感は1ヶ月やな」
「おまえらまだ付き合ってないんだろ?それでその感じなの、ヤバくね」
「ヤバいのはこいつの頭の中だろ」

佐久早はそう言うと、2人を無視して歩き出す。

「ちょ、臣くん相変わらず辛辣やな!もうええわ!一人で帰りますー」
「おう!お疲れ!」
「古森くん!?」

古森の反応に侑はショックを受けるが「もう知らん!二人とも春高でボコボコにしたるからな!」と宣言し、星海を見て「星海くんもまた春高でな!」と叫ぶ。

「おう!」
「さっさと帰れ」
「またなー」

味の素ナショナルトレーニングセンターを出ると、侑は東京駅に向かって歩き出す。

「せっかくやから、なんかおもろいお土産でも買うてくか」

そう言うと、侑は携帯を取り出し、東京駅で買える人気のお土産を検索することにした。





稲荷崎高校では、通常通り練習が行われていた。
ドリンクボトルを洗いながら、中山が「そういえば、今日やったな?」と名前に聞く。

「ん?何が?」
「侑」
「あ、うん!そうだよ!やっと帰って来るよ」
「なんや名前、あんた寂しかったん?」

中山がニヤッとした顔で名前に聞くと「そ、そりゃあ…ほぼ毎日会ってたのに5日も会えなかったから」と恥ずかしそうに答える。

「なんやかわええやん〜!侑も愛されとるな。侑からの一方通行の愛やなくて安心したわ」
「も、もう!ゆっこちゃん!」

洗ったボトル片付けると、2人は体育館に戻る。

「合宿中は連絡きてたん?」
「うん、そんなに多くはないけどね。やっぱり疲れてるから、少しやり取りしたら寝落ちしちゃうの繰り返しだったよ」
「でもそれでも連絡するって、律儀やなー。愛されとるな、名前も」
「も〜!」

体育館に戻ると、部員たちがクールダウンを行っていた。

「名前、これ直しといてや」
「はい!」

北から受け取った日誌を部室に持って行こうとすると「そや、今日侑が帰って来る日やろ?」と北に聞かれた。

「そうですよー!」
「やっとうるさいのが帰って来るんだね」
「おるとやかましいけど、おらんと寂しいな!」
「俺はおらん方が一人で部屋使えるんで最高でしたけどね」

名前たちの周りに治、角名、銀島たちが集まって来た。

「何時にこっち着くん?」
「たしか、6時くらいだったと思います」
「さすがのバレーバカも、合宿終わってからこっちには顔出さへんか」
「体力有り余り過ぎやろ」
「バケモンやん」

名前は「もう少し早く着いたら、こっち顔出すつもりだったみたいですよ」と言うと、みんながギョッとする。

「どんだけバレー好きなんだよ」
「バレーもやけど、名前に会いたいんやろ」
「それもそうやな」
「名前、一緒にうち来るか?」
「え!?」

治は名前にそう言うと「サプライズや」と言ってニヤッとする。

「さ、さすがに今日は疲れてるだろうからゆっくりさせてあげて」
「何やつまらんなー。今帰ったら、頭ぼっさぼさでだらしなく寝とるツムが見られるんやで?」
「治性格悪〜」

そう言って角名が笑う。

「休息も必要やで?今日は侑のこと、ゆっくり休ませたり」
「はい!そうします。治くんも、そういうこと言わないの」
「はいはい」

治はつまらなそうな顔をするが、そんな治を見て名前はあきれた顔をした。

「よし、後一ヶ月で春高や。その前にクリスマスやらお正月やらあるけど、あんまり気ぃ抜いたらアカンで」
「はい!」
「後は体調管理やな」
「特に双子」
「双子の体調管理、要注意やな」
「何で名指しやねん」

角名と銀島に名指しされた治は、不服そうな顔をした。

「前に侑が風邪ひいた時あったでしょ。双子はいつも一緒なんだから、片割れが風邪ひいたら、もう片割れも風邪ひく可能性上がるんだから」
「せやで!十分に注意しろや!おまえら二人がおらんかったら…いや、別におらんでも平気か」
「聞き捨てならんセリフやな!」
「最悪どっちかが生き残っとれば問題ないわ!」
「頭カチ割んぞ」

銀島と治のやり取りを聞いていた名前は「な、なんだか今日の治くん、侑くんみたいだね」と中山に耳打ちする。

「せやな。治、口悪いバージョンやな」
「な、なんか新鮮だー」
「何何?侑に会いたくなった?」

中山にそう聞かれた名前は、素直にうなずくと「うん、会いたいなー侑くん」とはにかみながら答えた。



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