08

ゴールデンウイークに入り、男子バレー部の合宿が始まった。
合宿初日、まずはロードワークとストレッチから始まり、午後は試合形式の練習が続く。
最初の試合が終わり、10分間の休憩に入る。

「合宿の最終日にレギュラー発表やろ?今からドキドキやな」
「今回こそスタメン入りしたいよね」
「おまえらはユニフォーム確定やろ!問題は俺や!」
「銀も大丈夫やろ?」
「わからんで!」

治、角名、銀島の3人が合宿最終日のレギュラーメンバーの発表について話をしている。
侑も同じ場所にいるが、3人の会話には入らず、ある一点を見ていた。

「…ホンマわかりやすいな」
「最近露骨になってきてるよね」
「あれでなんで苗字は気づかへんの?」
「わからん。多分相当鈍感なんやな」
「侑の最初の態度のせいでしょ。侑から好意を向けられるなんて一ミリも思ってないと思うよ」
「そらしゃーないな。ツムが悪い、自業自得や」
「さっきから聞こえてんで!!」

侑は3人の方を向くと指をさし、「俺はなんも言ってへんやろ!!」と言った。

「目は口程に物を言う、だよ」
「で、何を気にしとんねん」
「〜〜っ!」

治がそう聞くと、侑は嫌そうな顔をしながら名前の方を指さす。

「…近いやろ」
「は?」

3人は、侑が指をさした方を見る。
そこには名前と、新しく入部してきた新1年の姿があった。

「何が?」
「距離が!!あんな至近距離で話す必要ないやん!」
「…おまえは名前のなんなんや」
「ぐっ!」
「彼氏でもないのに彼氏面すんな。むしろおまえ、俺らん中で一番名前と距離あんで」
「ぐっ!」
「一番距離あんで」
「2回言った」
「や、やめたれ!侑のライフはゼロや!」

治の言葉に、侑はその場に崩れ落ちる。

「まあ、まずは名前の名前呼ぶとこからやな」
「…名前…」
「今更感はあるよねー」
「あん時意地はらずに素直に名前で呼んどったら、苦労せえへんかったのにな」
「う、うっさいねん!!」

侑が体育館の床に崩れ落ちていると、それに気づいた名前が侑に駆け寄って来た。

「おっ」
「なんや」

「み、宮くん大丈夫?」

名前の声に気づき、侑は急いで顔を上げる。

「べ、別に大丈夫やで!!」
「そっか。急に倒れたから驚いちゃった。なんでもないなら良かった」
「元気に決まっとるやろ!」
「うん。次、サーブ練習だから、また宮くんの綺麗なサーブ見せてね」
「お、おん!何本でも見せたる!」
「ふふふ。治くんと倫太郎くんと銀島くんも頑張ってね」
「おー」
「ありがと」
「任せろ!」

名前はそう言うと、軽く手を振ってマネージャーの仕事に戻って行った。

「練習再開や。行くで」
「…」
「侑?」
「なんや、どないしたん?」

治たちの呼びかけに侑は答えず、名前の方をじっと見ていた。

「ツム?そんなん見てるとヤバイやつ認定されるで?」
「おーい。…え、無視なんだけどウケる」
「…あいつ…急に倒れた言うてたな…」
「はあ?」
「せやから、さっき!俺が急に倒れたからー言うてたやろ!」
「…せやな」

治は怪訝そうな顔をしながら侑を見る。

「あいつも俺のこと見とったってことやろ!なんや、あいつもかわええとこあるやんか!」
「…」
「うわー、ポジティブ」
「たまたまやろ」
「な!なんでわかんねん!」
「自意識過剰やな」
「嫉妬か?」
「んなわけないやろ」
「ちょ、おまえらええ加減にせえ!!北さんに怒られんで!」

銀島が2人を止めようとするが、その前に無表情だが確実に怒りのオーラをまとった北がやって来た。

「おまえら、休憩時間はおまえらの喧嘩のためやないことはわかるやろ?」
「…う、うぃっす」
「休憩は休む時間やで?適度な休憩が効率のええ運動に繋がるから休憩しとんねん。ただ休む、こんな簡単なこともできんのやったらさっさと帰り」
「す、すみませんでした!!」
「次、サーブ練やで」
「はい!」

そう言うと、北はサーブ練習のために部員に声をかけ始める。

「さすが北さん。双子を黙らせる正論パンチ」
「怖いけどホンマのことやもんな」
「だから正論パンチなんじゃん」
「サーブ練や!はよ行くで!」
「わかっとるわ」







合宿1日目が終わった。

「合宿中はマネージャーたちも学校に泊るんだよね?」
「せやな」
「侑、変なことしないでよ」
「変なことってなんやねん!するわけないやろ!俺はバレーしに来てんねん!」
「あ、そういう常識はあるんだね、良かった」

練習後のストレッチをしながら、角名は侑にそう言った。

「当たり前やろ!」
「そこまでアホやないやろ」

ストレッチが終わり、部室に戻って着替えた後、食堂に向かう部員たち。
食堂に入ると、食堂のおばちゃんたちとマネージャーたちがご飯の準備をしていた。

「お疲れ様です!」
「お疲れ様ですー」
「お疲れ。準備すまんな」
「いえいえ、私たちにできることは、皆さんのサポートだけなんで」
「助かっとるよ、ありがとう」

北はお盆を取ると、自分でご飯をよそう。
その後ろに、尾白、大耳、赤木などの3年生たちが続く。

「名前が作ったん?」
「違うよー。作ったのはおばさんたちだよ!」
「さよか」
「あ、でも、練習途中のおにぎりは私たちマネージャーが作ってるよ」
「そうやと思ったわ。美味かった」
「それは良かった!夕飯も美味しそうだね」
「せやな」
「サム!おまえいつまで話とんねん!はよ進めや!」
「わかっとるわ」

治が次に進むと、今度は侑が名前に話しかけた。

「明日は何のおにぎりなん?」
「明日も今日と同じだよー」
「そうなんか」
「食べたい具あった?明日は買い出しに行く予定だから、食べたい具があるならその時買ってこようか?」
「ええんか?」
「うん!同級生贔屓ってことで、先輩たちには内緒だよ?」
「せやったら「俺はたらこ食べたいわ」かぶせんなや!」

侑の言葉にかぶせるように話す治。

「侑だけ特別はアカンやろ!」
「な!べ、別にええやろ!俺だけ特別!」
「え、っと…宮くんだけじゃなくて、治くんたちにも聞こうと思ってたよ?」
「!!」
「残念やったな」

名前の言葉にショックを受ける侑。

「え?宮くん?」
「名前ちゃんほっといていいよ。自分だけに聞いたわけじゃないって気づいてショック受けてるだけだから」
「え、ご、ごめんね」

「侑!!あんたはよ進み!後ろの1年がつっかえとんで!」

侑がなかなか進まず、後ろの1年生がご飯に辿り着かないので、見かねた中山が注意をしに来た。

「うっさいねん!今喋っとるやろ!」
「とっとと座れ!」

中山が侑の背中を押し、名前の前からどかす。

「な!おま!触んなや!」
「うっさいわ!」

グイグイと押された侑は、仕方なく空いている席に座る。
そして、侑の隣に治、前に角名、銀島がそれぞれ座った。

「ほんっま暴力的やなあの女!」
「あんまり言うと中山さんにまた怒られるよ」
「はあああああー俺のおにぎりー…」
「治みたいなこと言うとるな」

落ち込む侑の横に、スッとご飯の載ったお盆が置かれた。

「宮くんが治くんみたいなこと言ってるね!」

名前の声に気づき、侑は急いで顔を上げて横を見る。

「北さんが、マネージャーも一緒に食べていいって。ここ、座ってもいい?」
「す、好きにせえ!」
「ありがとう」

名前はそう言うと、治とは逆サイドの侑の隣に座る。
一緒に来た中山は名前の前に座った。

「みんなすごい量だよね。よく食べるなー」
「これが運動部の普通なんやで」
「そっか!」
「名前ちゃんは少ないね。それで足りる?」
「うん!全然足りるよ!」
「なんでうちには聞かんの?」
「おまえは盛りすぎや」
「食べ盛りやからね」
「中山さんは細いのに、どこに入ってるんだろ」

名前は中山を不思議そうに見る。

「苗字さんもちゃんと食べんと、合宿最終日までもたんよ?」
「が、頑張る!」

そう言うと、名前はご飯を食べ始めた。

「てか、おまえらまだ苗字で呼び合っとるん?」
「!」
「ええやん別に」

侑が2人にそう聞いた。

「たしかに!な、中山さんが良ければ名前で呼んでもいい?」
「別にええけど。友達からは雪子やからゆっこって呼ばれててん」
「じゃあゆっこちゃんって呼ぶね!」
「ほんならうちも名前って呼ぶわ」
「うん!」
「お、俺も!」
「はあ?なんで侑?あんたにあだ名で呼ばれたないわ」
「おまえやないわ!」

侑は名前のことを見ると「お、俺も名前で呼んでもええ?」と聞いた。

「え、うん!もちろん!」
「せやったら俺のことも名前で呼んでや」
「わかった!侑くん」

名前に名前を呼ばれると侑はにやけそうになる。

「ツム、おまえ顔が気持ち悪いで」
「今の俺は最高に気分がええから悪口もスルーしたる!」
「金髪ポンコツ野郎ー」
「人でなしー」
「ろくでなしー」
「チャラいんわ見た目だけー」
「ええ加減にせえ!!限度があるやろ!」

侑のツッコミに、名前は思わず吹き出す。

「ほんと、みんな仲良しだねー」



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