36

「集合や。侑、治、ええ加減にしいや」
「…ウイッス!」

メンバーが応援団の前に整列すると、観客や応援団から拍手が起こる。

「罵れや。敗者に拍手なんか要らんねん」
「喧しいわ侑クラァッ!!」
「!!?」

応援席からコートまで距離があるにも関わらずそう返ってきて侑は驚いた。

「顔に出とんねんお前はァ!!良い試合にはいつだって称賛じゃボケェッ!!」
「そんなんやと名前ちゃんに嫌われてまうで!!」
「もう遅いかもなァ!」

侑は「な、何言うてんねん!そんなわけないやろ!!」と焦った顔で返す。

「ありがとうございました!!」

北の言葉を合図に、全員がもう一度頭を下げた。

「ほんなら俺はインタビュー受けに行くから、撤収する準備しときや」
「ハイ」

北、そして黒須がそれぞれインタビューを受けている間に、侑たちは荷物をまとめる。

「…お疲れ様でした」
「おん、苗字もサポートありがとな」
「いいえ。尾白さん、大耳さん、赤木さんのバレー、とってもすごかったです」
「苗字にそう言われたら嬉しいなァ!」
「やな」

3年生に声をかけた後、名前は侑たちにも声をかける。

「みんなもお疲れ様」
「…」
「名前ちゃんもおつかれー」
「北さんが戻って来る前に、早く片付けちゃおうね」
「せやな」

角名と治は返事をしたが、侑はうつむいているだけで何も言わなかった。
そんな侑を見て、名前は何も言わずに荷物をまとめて控えのメンバーに荷物を渡して撤収し始めた。

「北さん戻って来たよ」
「撤収やな」
「侑も行くよ」
「…おん」

先を歩く北の後ろを、侑たちはついて行く。
その後ろを名前も追うが「(…侑くん、大丈夫かな…)」と心配そうに侑の後ろ姿を見つめた。

「…あのー」

侑は北を呼び止めると「す、すんませんでした」と治と一緒に謝ろうとする。

「謝って少しでもスッキリしようと思とんのか?」

そう言った北を、尾白は苦笑しながら見る。

「!?」
「そんなんとちゃいます!!」
「わかってるって、すまんな」
「!?」

北はそう言うと「けど、謝んのはホンマに悪いと思とる時にしいや」と続けた。

「!」
「俺もさっきの速攻が間違うとったと思えへんねん。決まると思たもん。練習でやってへんことを本番でやろうとすんのは嫌いやけどな」
「…」

北がそう言うと「ラストのあれは、相手が悪かったんやろなあ」と尾白が話に入る。

「せやな。おまえらがノリノリのとき、他の奴は大抵おいてきぼりになるんやけど」
「(ノリノリ…)」
「今回に限っては、むこうも同じくらいノリノリやったんやなあ」

北はラストプレイを思い出しながら「高揚したやろ」と聞く。

「!」
「そんな試合そうそうできんのと違うか。ええなあ」

そう言って笑った北を見て「…今、北さん笑とったな…?」と侑が言う。

「うん」
「試合中も何回か笑ろてはりましたよ」
「!?」
「何回も…まじか」

北は「けど、やっぱり悔しいなあ」と言いながら階段を下りるのを止めた。

「?」
「今までちゃんとやってきたし、俺には後悔なんかないって言い切れる。俺にとって”勝敗”は単なる副産物なのも変わらんのに…なんやろなあ」

北は侑たちの方を振り返ると「どや俺の仲間すごいやろって、もっと言いたかったわ」と笑いながら言った。
そんな北の言葉を聞いた尾白と銀島は涙を流し、赤木と大耳も悔しそうな顔をする。

「言ってくださいよ」
「孫の代まで自慢できる、後輩になりますから」

治と侑が答えると、北は「それは楽しみやなあ」と言ってもう一度笑う。

「まあ、孫ができるんは俺やなくておまえのが早そうやけどな」

北はそう言うと、侑の後ろにいる名前のことを見る。

「来年も頼りにしてんで、名前」
「北さん…」

名前は北に向かって頭を下げると「はい!」と大きな声で返事をした。
名前の返事を聞いた北は「ほれ、はよ着替え」と笑って階段を下りて行った。

「ほら、俺らも着替えに行くで」
「せやな」

尾白に言われて動き出すが、侑だけはその場から動かない。

「ツム?」
「早く行くよ」

治と角名が侑の名前を呼ぶが、侑は返事をせず後ろを振り返って名前のことを見る。

「?」

首を傾げた名前に近付いていくと、侑は名前の背中に腕を回して力いっぱい抱きしめた。

「あ、侑くん?」
「…日本一になれんでスマン…カッコ悪」

そう言った侑に、名前は「フフッ」と笑った。

「今日の侑くん、すっごくカッコよかったよ。誰よりもバレーを楽しんでいたように見えたんだ」
「…でも勝てへんかったら意味ないねん…」
「侑くんは頑固だなー」
「…嫌いになったん?」

侑の言葉に名前は「嫌いになるわけないよ。侑くんのこと、大好きだよ」と答えた。

「お、俺も好きや〜!!」

わりと大きな声で侑が愛の告白をしたため、稲荷崎以外の他校の生徒たちがざわついた。

「大型犬みたいだね」
「狐やろ」
「ここどこだと思てんねん」

周りから注目されていることに気づいた名前は「あ、侑くん…そろそろ放してくれると嬉しいなー」と頼むが、侑は「いやや〜!」と駄々をこねる。

「お、治くん!」
「な、なんで他の男の名前呼んどんねん!」

治に助けを求めた名前をとがめる侑に「ツム、ええ加減にしいや」と入る治。

「邪魔すんなサム!やっと名前が俺と付き合う言うたんやで!」
「付き合うとは言うてへんやろ」
「な!?」

侑は名前のことを見ると「付き合うよな!?」と聞く。

「も、もういいから早く着替えてきてー!」

名前は恥ずかしそうに顔を赤くすると、侑の腕から逃げ出してその場から走り去っていった。

「な、な…何で邪魔すんねん!」
「時と場所を考えろや」
「ホテル戻った後とか、学校戻った後とか、言う場所はいくらでもあったでしょ」
「せやのに試合終わった直後の東京体育館て…。侑、おまえフラれたな」

治、角名、銀島に立て続けに言われた侑は「そ、そんなわけないやろ!!」と大きな声で否定するが、内心焦っていた。

「あ、あれは照れ隠しやんか」
「ご愁傷さま」
「短い春やったなー」
「まあ、またすぐ春は来るよ」

そんな風に4人でふざけていると、北が戻って来て「はよ着替えろや」といつもの無表情で圧をかけた。



宿泊先のホテルに戻って来た名前は、中山と2人で部屋に戻る。

「まさかやったなー」
「そうだね」
「まあ、こういう展開があるからおもろいんやけどな。やってる本人たちにとっては怖いわな」
「…これで北さんたちは卒業しちゃうんだもんね」
「せやな」

中山は荷物をまとめながら「明日帰ることになるとは思わんかったな」と言いながら苦笑した。

「強かったねー」
「あれはビックリ玉手箱やな。相手のセッターもバケモンかっちゅーくらいうまかったし」
「あれでまだ1年生なんでしょ?すごいね」
「来年リベンジやな」
「…うん!」

中山は「それはそうと名前、あんた試合終わった後、週刊誌もビックリのラブシーンかましたんやって?」とニヤニヤしながら聞く。

「そ、そんなことないもん!」
「熱烈やな〜。あっついハグやったんやろ?高校No.1セッターを支える同級生マネの恋物語って話題になるんちゃう?」
「も〜!ゆっこちゃん面白がってるでしょ?」
「ええやんか!好き同士なんやし、公表しとったらお互い変な虫がつかんやろ!」

名前は「ま、まだ付き合ったわけじゃ」と言う。

「何恥ずかしがってんねん。もう春高も終わったんやし、心置きなく侑と付き合えるやん」
「…私でいいのかなー」

自信がなさそうにそう言う名前を見て、中山は少しあきれた様に笑う。

「どっからどう見てもあんたやないとアカンやろ。愛されとる自覚ないんか?」
「うっ…!そ、それは…もうたくさんあります」
「せやろ?」
「…でも、これから侑くんは世界を相手に戦っていくんだよ。私が支えられるか…ちょっと不安」

そう言った名前に「せやったら、支えられるとこで支えたったらええねん。名前、あんた料理得意やろ?」と聞く。

「得意というか、好きだよ」
「プロアスリートやったらバランスの取れた食事が大事やん?そっち方面の道に進んだらええやん」
「…目からうろこだよ、ゆっこちゃん!」

名前は「それなら、私でも侑くんの支えになれそう」と言って笑った。

「そういうとこも大事やけど、一番は名前が侑の傍におることや。それが一番の侑の支えやと思うで?」
「ゆっこちゃん…ありがとう。なんだか自信が出てきたよ」
「全力で好きなことする侑を支えんのは大変やと思うけど、それは名前にしかできんと思うから」

中山は「頑張りや。未来のオリンピック選手の奥さん」と言いながら名前に向かってピースサインを作った。

「気が早いな〜」

名前もつられてピースサインを作る。



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