「すごかったねー」
「名前ちゃんにフラれて、少しは崩れるかなって思ったけどそうじゃなかったね」
「うっ…!本当、良かった…」
「まあ、そのくらいで崩れる様だったら3本のエースにはなってないだろうし」
そう言って角名が笑う。
「うん…。さすがだね、佐久早くん」
「あんまり褒めると侑が拗ねるからほどほどにね」
「そうだね」
昼食を挟んで、午後の準々決勝を途中まで見た名前は中山と一緒に集合場所に戻る。
「すまんかったな」
「全然です!運びますね」
「あっちにおる1年も使ったって」
「わかりました!」
名前は、中山と手分けして荷物をバスに運び入れ、忘れ物がないかを確認した。
「北さん、終わりました。大丈夫だと思います」
「よし、ほんならもう少し時間あるから試合見に行ってええよ」
「ウチはここで休んどこかな。名前はどうする?」
「…最後に烏野の試合を見に行こうかな。侑くんと治くんも、多分見てると思うし」
「せやったら一緒に行くか?あいつら呼びに行こかと思っとったところや」
「ぜひ!」
名前と北は、烏野対鴎台の試合を見ているであろう侑と治の姿を探す。
「今日は全然喋っとらんな」
「え?」
「侑と。ケンカでもしとるんか?」
「そ、そんなことないですよ。ただ、昨日のことがあって、侑くんと一緒にいるのが少し恥ずかしくてってだけです」
名前がそう答えると「せやったらええわ」と北が笑う。
「まあ、侑がさみしそうにしとったから早よ慣れたってや」
「はい」
通路から試合を見ている侑と治の後ろ姿を見つけた北は「おったで」と名前に伝える。
「しっかり見てますね。後ろ姿がそっくり」
「せやな。ちょっと驚かせるか?」
「え?」
北はそう言うとニヤッと笑った。
「先に俺が声かけるから、タイミング見て侑の背中にがばっと抱きついたらええ」
「北さん!?」
「慣れるための荒療治やな」
まさかの提案にうろたえている名前を無視して、2人に気づかれないようにそっと近づいていく北。
「なんやねん、もっと調子崩したり逆に追い詰められてパワーアップしたりせえやー」
侑のぼやきが聞こえてくる。
「こいつらずーっと”普通に強い”だけやんかー」
「”だけ”って何やねん、日本語おかしいやろ」
北が侑のぼやきにツッコミを入れる。
「俺は好きやな、鴎台」
北が現れたことに気づいた2人はビクッとすると「も、もう集合すか?」と聞く。
「いや、まだええよ」
試合は第3セットが始まったところで、鴎台が先制した。
「…でもアレやろ。おまえらみたいな奴らは、そういうちゃんとしたモンをひっかき回したなるんやろ?」
コートの中では、田中が鴎台のブロックにワンタッチをとられていた。
「ほんまに厄介なブロックやなあ」
「ええ。ほんっっまねちっこいっすわ」
「…」
侑は「(こいつらなんや苦手なんは星海とか昼神とかのせいもあるけど、北さんみたいやからや…!)」と心の中で思った。
そんな北は後ろに視線を向けると、名前に目で合図をした。
それに気づいた名前は、意を決して侑の背中に近寄ると、北に言われた通り、侑の背中にぎゅっと抱きついた。
「!」
「…っ」
後ろから抱きついてきたのが名前だということに気づいた侑は、コートに視線を向けたまま「…昨日の試合後からずーっと俺んこと無視しとったのに何やねん。もうええんか?」と拗ねた声で聞く。
「だ、だって…あれは試合終わって、みんないるのに侑くんが放してくれないから恥ずかしくて…」
名前がそう答えると「今の状況と変わらんやろ!」とツッコミを入れる。
「何なんもー!俺のこと散々やきもきさせたくせに、こういう可愛いことするんですかあ!」
「ご、ごめんね」
「可愛すぎるから許したるわ」
「ありがとう」
侑の答えを聞いた名前は、ホッとした顔をして侑から離れた。
「ほんなら、コッチな」
「え?」
名前の腕を掴んだ侑は、名前のことを自分と壁の間に引っぱると名前を後ろから抱きしめるようにして手すりを持つ。
「あ、侑くん…」
「ん?」
「こ、この体勢は少し恥ずかしいんだけど…」
「後ろから見たら俺の身体ですっぽり隠れとるやろ。右にはサム、左には北さんがおんねんから周りからは見えへんやろ」
名前は助けを求めるように治を見るが「壁になったるよ」と期待外れの返答が返ってくるだけだった。
「い、今だけだからね!」
「おん!」
諦めた名前は、そのまま試合を見る。
「翔陽くんは大人しすぎて気持ち悪いな」
「大人しくはないやろ」
侑の言葉を治がバッサリと否定した。
「ちゅーか、鴎台相手には1人で飛び出さん方が絶対有利やんか。あいつ、野生動物みたいな雰囲気しといてかなり考えて動いとる」
「…せやから気持ち悪いんやんか」
「(日向くん、すごい言われよう…)」
試合は、鴎台が優先に見えるがくらいついて行く烏野。
昼神のプレイを見た北は「うまいなー」と感心する。
「…俺ら中学ん時、あいつとやったことあるんですけど、なんちゅーかもっと鬼気迫る感じやったんですよ。高校なってから最初気づかんかたもんな」
「うん。強いけど余裕がないって感じやったのに」
「みんな、変わってるんだね」
名前がボソッとつぶやくと「せやな」と侑が同意する。
「チャラくなったんやな、昼神」
「それや」
治に侑が同意すると「おまえらに言われたないやろ」と北がツッコむ。
「俺らはずっとチャラいんで」
「せやな。でもそれ名前の前で言ってええんか?」
北にそう言われ、侑は慌てて名前を抱きしめると「見た目だけやで!見た目の話やからな!」と訂正する。
「わ、わかってるから大丈夫だよ」
「ほんまやからな!誤解せんといてや!」
「侑くんが一途なのはバレーしてる姿を見れば伝わるから安心して」
名前がそう言うと、侑は一瞬固まる。
「侑くん?」
「ほーんま、好きやわー」
「帰ってからやれや」
「羨ましいんか!」
「兄弟のそういうのを見せられる側に立ってから言えや」
北は「侑と名前のこと心配しとったけど、大丈夫そうやな」と言って笑う。
名前は恥ずかしくなり「も、もういいから試合を見ましょう!」と話を変えた。
「おっ!」
コートの中では日向が鴎台のブロックを完全にかわしてスパイクを決めた。
「鴎台のブロックの頭ン中、今グッチャグチャやでえー!」
「大喜びか」
「ふふふ」
「すごいねー」
侑はワクワクとした気持ちを全面に出した笑顔で「ええなあ飛雄くん!翔陽くん使ってブロックブン回すん楽しいやろなあっ…!」と言った。
「フフッ」
後ろにいる侑の顔を見るために振り向いた名前は、楽しそうな顔で笑う侑を見て微笑む。
このまま烏野の流れになるかと思った時、コートの中にいた日向が発熱で選手交替となった。
「日向翔陽!!俺は!!おまえを待っている!!!」
星海がコートを去っていく日向に大きな声でそう言った。
「…おれたちと”ネコ”と”カモメ”で、やっとあの妖怪を倒したな」
日向のいない烏野は決定力が欠けてしまい、そのまま少しずつ点差が離れていき、第3セットは23対25で鴎台が獲った。
セットカウント2-1で、鴎台が準々決勝を勝ち上がった。
「…」
「”結果が全て”や言うなら、負けた俺らはもう無やんなあ。俺なんかは高校でバレー終わりやし…なあ、空気にでもなるんかな???プシュッと」
「そっ、そんなことは、言うて、へんし…」
どんどん小さくなっていく侑の声に、名前は思わず笑い出しそうになる。
「勝負しに来てる以上、結果が全てで何の文句もない。勝てへんなら”良い試合”も無価値かもな。けど、雑巾かけの一往復、ボール拾いの1本、スクワット無限回。その後の美味い飯で俺らの身体はできとんのや」
北は「筋肉ならいっぱいつけてきた。この先、怖いモンなんかないわ」と言いながらその場を後にした。
「…俺らはこの先も北さんが怖い」
その治の言葉に、侑も頷いた。
「…それじゃあ、私たちも行こっか」
「せやな。帰るかー俺らのホームに」
「あっちゅう間やったな」
帰り際、トーナメント表を見た名前は「…井闥山も負けちゃったね」と残念そうに言った。
「せやな」
「これで今年の三大エースは全部消えたなあ」
「まずはインハイ、次は春高…。俺らの最後の春やで」
「…最後の春やな」
こうして高校2年の春高が終わった。