来月には3年生が卒業するということで、来年の新しい主将が侑に決まった。
「大変やけど、副主将の治と協力してやってくんやで」
「…頑張ります」
「あと、ケンカはほどほどにせんとな。名前のこと困らせたらアカンで」
「ど、努力します…!」
侑は体育館に戻ると「何で俺が主将なんかなー」と言った。
「何や、結局主将は侑に決まったんか?」
銀島に聞かれると「おん」と答える。
「随分悩んだ言うてたなー。侑にするか治にするかって」
「誰に聞いたん?」
「赤木さん」
「俺やなくてサムでも良かったんとちゃう?自分に主将が向いてへんのは言われんでもわかるし…」
侑がそう言うと「さすがの侑もそこは理解しとるんやな」と感心した。
「自分で言うのええけど、人に言われるのはムカツクなあ!」
「理不尽!」
侑は「サムもホンマは主将やりたかったんとちゃうんか?」と治に聞く。
「…いや、俺はおまえで良かったと思うで」
「何で」
「…俺は高校でバレーやめるからな」
「!!」
治の言葉に「結局おまえの答えはそれかい」と侑が苛立ちを隠さずに言う。
「一緒にバレー続ければええやん!」
「そんなん言われとうないわ」
「逃げるんか!?」
「逃げてへんわ!」
治も怒鳴り返すとそのままそっぽを向いた。
「ク、クソサム!!」
侑も同じように治に背を向けて床に座る。
「…」
体育館に入って来た角名が、お互い背を向け合って床に座っている侑と治に気づく。
「…何、あいつらどうしたの」
「治が高校でバレーやめるって正式決定やと」
「ああ〜」
治は立ち上がると「…俺は、ずっと”飯”に関わる仕事やるって決めとってん」と侑に話しかける。
「何でバレー続けてる方が”成功者”みたいな認識なん??俺は妥協して道を進むのんとちゃうねんぞ」
侑に近寄ると、治は侑の胸倉を掴み「はちじゅうなった時、俺より幸せやって自信持って言えたんなら、そん時もっかい俺をバカにせえや!」と詰め寄った。
「…上等やないか」
侑は立ち上がると治の胸倉を掴み返し「くたばる時に”どや俺の方が幸せやったぞ”って言ったるわ!!!」と宣言した。
「北さん呼ぶ?」
「いや、大丈夫やな。それより苗字呼んだ方がええんとちゃう?」
「何で?」
「あいつがはちじゅうなる時、一緒におるんわ苗字やろ」
「そういうこと」
そこに男子バレー部の横断幕を持った名前と中山が体育館に戻って来た。
「何?何や不穏な空気やな」
「どうかした?」
名前に聞かれた銀島が「治が高校でバレーやめるの正式決定や言うたら侑が突っかかったんやけど、まあ大丈夫やな」と答える。
「まあ、名前ちゃんは80歳までは確定で長生きしないとだけどね」
「え?何の話?」
名前は意味がわからないという顔をする。
「ところで、何で2人は横断幕持ってるの?」
「北さんからの指示やで」
「北さんからの?」
名前が「北さんが、この横断幕をバックに記念撮影したいんだって!」と笑顔で答える。
「き、記念撮影?」
「いきなしやな」
「ということで、2人も準備して!」
「準備って?」
角名がそう聞くと、名前はニッコリと笑って「ユニフォーム!」と答えた。
「ええ〜…この横断幕をバックに”記念撮影”はおもろすぎひん?ユニフォームまで着て」
北が言い出した”記念撮影”は、ユニフォームを着て横断幕を背景にしたものだった。
ユニフォームに着替え終わった侑たちが、ぞろぞろと体育館に戻って来る。
体育館のキャットウォークの手すりに横断幕を括り付けている名前と中山は、下にいる侑たちの会話を聞いていた。
「ネタになるやん」
「30年後もイジられんぞ」
「北さんがやるって言うんだからやるしかないじゃん」
理石にカメラを渡している北を見て「記念撮影いいよね〜」と名前が言う。
「あとでうちらも撮ってもらおか」
「うん!」
中山の提案に名前は笑顔でうなずいた。
「まあ確かにおちょくってる感じ出てまうわな」
「いやいや、北さんは純粋に記念撮影したいんやないですか」
「いいや、紛れもない悪ふざけやな」
「…」
侑、治、角名、銀島、そして尾白、大耳、赤木、言い出しっぺの北が横断幕の下に並ぶと、少し離れた場所に理石が立つ。
「とりまーす!」
シャッターが押され、取り終わった写真を全員で確認する。
「なんやねんサム、カメラ見ろや」
「外からカレーの匂いせえへんかった?」
「気のせいやな」
「幻臭かよコワ」
「倫太郎こそどこ見とんねん、赤木も!」
「先生呼んで来よか、とか考えとった」
「タイミング」
尾白が「次、全員でとるで〜」と部員たちに声をかけると「エエーッ!?」と侑がツッコむ。
「撮り直します?」
「…ええやんか」
写真を確認した北は「らしくてええわ」と言って笑った。
「名前、中山!2人もはよ降りて来いや」
「え!」
「うちらもええんですか?」
「当たり前やろ、2人も男子バレー部の一員やろ」
北にそう言われた名前と中山は、顔を見合わせると笑顔になる。
「行こか」
「うん!」
人数の多い男子バレー部なので、ぎゅうぎゅうになりながら横断幕の下に並んでいる。
「アハハ、めっちゃ詰め詰めやな」
「人数多いよね〜」
「名前!コッチや!」
真ん中あたりにいる侑に名前を呼ばれた名前だったが「さ、さすがにそこには行けないよー」と苦笑した。
「なんでや!ええやん!」
「せや。名前も中山もコッチ来いや」
「おいでよ。2人のサポートのおかげで頑張れたところも多いし」
「やんな!裏のリーダーやで!」
侑たちが口々にそう言うと「せやな」と尾白も同意する。
「癖の強い2年をよおまとめてくれたしな」
「ほんまありがたかったわ」
「さすがマネージャーやな!」
北たちにもそう言われた名前は「そ、それじゃあお言葉に甘える?」と中山に聞く。
「せやな!せっかくやし」
2人は侑たちの元に向かう。
「名前は俺の前やな」
「ほんならうちは名前の横で」
「あ、侑くん!」
「んー?」
侑は後ろから名前のことを抱きしめるようにして立つ。
「出たよ、侑の独占欲」
「所かまわずやな」
「名前、嫌なら嫌や言うたほうがええで」
「嫌なわけないやろ!」
侑は名前のことを抱きしめながらそう言うと「なー?嫌やないよな」と名前に聞いた。
「い、嫌じゃないけどみんなの前では恥ずかしいよー」
「ほんなら問題ないわ!」
「もお〜!」
恥ずかしそうにする名前を無視して、侑は「はよとりましょー!」と北に言う。
「せやな」
「タイマー20秒やで」
「長ない?」
「ええから、顔作ってや」
「押すでー!」
シャッターの音が鳴ると、理石がカメラに駆け寄って撮った写真を確認する。
「ばっちり、ええ感じにとれてます!」
「ええやんか」
「今度は全員目線カメラやな」
理石から受け取ったカメラを見た、北は「ええ記念になったな」と言って笑った。
「最近北さんよお笑うな…」
「せやな…」
「もう卒業だし、双子の面倒見なくてよくなったからじゃない?」
「なんやと!」
そんな風に騒いでいる侑たちを見て、尾白は「ほんまに最後の最後まで変わらんなー」と苦笑する。
「最後の最後まで双子やな」
「ふっふ、らしくてええな」
写真を撮り終えた後、黒須と大見が体育館にやって来る。
「おっ、何盛り上がっとんねん」
「あの横断幕をバックに記念撮影しとりました」
「俺らもいれてや!」
「後で監督たちも一緒にとりましょう」
「やな!」
黒須は「記念撮影は3年の引退試合の後やな」と言って笑う。
「せや!今日は引退試合やん!」
「はよ準備しましょー!」
引退試合の準備を始めた部員たちを見ながら「これで北さんたちが引退しちゃうのかー…」と、名前はさみしい気持ちになる。
「やなー。ほんま、さみしくなるわ」
「…私も、北さんたちとバレーしたかったな」
そうボソッとつぶやいた名前の言葉を聞いた中山は「北さーん!!名前が、北さんたちと一緒にバレーやりたい言うてます!」と大きな声で叫ぶ。
「何!?」
「ええやん!終わったら苗字と中山も一緒にやろうや」
「球技大会でセッターやっとたもんな。ええで、終わったら2人も混ざりや」
北がそう言うと、名前は「ありがとうございます!ぜひ!」と笑う。
「せやったら名前は俺のチームやな」
「なんでや!?俺のチームに決まっとるやろ!」
「侑セッターじゃん。名前ちゃんとポジション被ってるよ」
「ぐううう〜!!い、今だけはミドルになる…!」
「欲望に忠実すぎるやろ…」
いつまでも騒いでいる侑たちに、北は「おい、そろそろええか」といつもの無表情で圧をかける。
「ウイッス…!」
「ほんなら準備もできたことやし、3年の引退試合始めんでー!3年対1、2年や!盛大に送り出したり」
「ウエーイ!」