エピローグ

北さんたちが卒業して、私たちは3年生になった。
3年生になっても、私は治くんと一緒のクラスで、結局3年間一度も侑くんとは同じクラスになれなかった。

「ほんっま何でやねん!おかしいやろ!教師たちの陰謀を感じるわ!」
「しゃあないやん。多分、同じクラスにしたらアカンって職員室でまわっとったんやろ」
「んなワケないやろ!」
「ま、まあまあ…。隣のクラスだし」
「名前はさみしくないんか!?」

そう言って騒ぐ侑くんを見てると、面白くなって思わず笑っちゃった。

「何笑ろてんねん!」
「ううん、楽しいなって思って」
「ならええわ!」
「ええんか」



部活では新しい主将となった侑くんと、副主将の治くんを中心に、倫太郎くんや銀島くんも意見を出し合いながら練習メニューを組んでいた。

「これ、北さんからもろた練習ノート」
「細かいなー。これ1人で書いてたのを想像すると、やっぱり北さんってすごいね」
「せやなー。さすが双子の大将やった人なだけあるわ」
「俺らの大将やろ!」

北さんたちは全員それぞれ大学に進学して、時間のある時はたまに部活に顔を出してくれた。
北さんが部活に顔を出すと、それまで練習に集中しすぎていた侑くんたちが一瞬で止まるからすごい。
さすが北さん。



インターハイ予選前の合同合宿で井闥山学院が稲荷崎に来た時には、侑くんと佐久早くんの間でひと悶着があったらしい。

「臣くーん、聞いた話やと俺の大事な大事な彼女に何か言うたんやってなあ」
「聞いた?無理やり聞き出したの間違いだろ」
「な、何でわかんねん!?」
「苗字が自分から積極的に言うはずない」
「う、うっさいわ!」

侑くんは「もうちょっかい出すの止めてや!てか、名前のこと恋愛的な意味で好きやないって言っとったやん!」と指摘する。

「苗字に言う前におまえに言うワケないだろ」
「か〜!!腹立つ!!」
「安心しろ。略奪とかそういうのには興味ねえ」
「てかもうあきらめてくれへん?名前とは一生一緒におるんで、臣くんの入るすき間はないねん」
「…」

佐久早くんはハッと鼻で笑うと「プロになったおまえが週刊誌にすっぱ抜かれて愛想つかされる可能性もあるんだけど」と言った。

「そんな、未来は、来ん!!」

私はその場にはいなかったけど、近くで聞いていた治くんと倫太郎くんが後で教えてくれた。

「名前ちゃん愛されてるね」
「佐久早も好きやったんやな」
「治気づいてなかったんだ?」
「俺は色気より食い気やからなー」

そんな風に答えた治くんに「俺が聞いたのがバカだったよ」と言って倫太郎くんが笑う。

「ま、佐久早が言っとったようにツムが名前に愛想つかされる可能性もなくわないな」
「大丈夫だよー」

私がそう答えると「何でなん?」と治くんが聞いてくる。

「だって、あんな風にバレーボールを愛して、真摯に向き合ってる人だよ?それこそ、色気よりバレーボールでしょ?」
「!」
「名前ちゃんも流石だねー」

治くんは驚いた顔をしていたけど、すぐに柔らかい笑顔になって「ほんま、ツムの恋人が名前で良かったわ」と言ってくれた。



「そろそろインハイやなー。去年のリベンジしてくれるんやろ?」
「もちろんです!絶対勝ってみせますよ!せやから応援来てくださいね!」
「当たり前やん。俺の自慢の後輩の試合やで」
「北さん…!」

烏野高校にリベンジができる、と思って楽しみにしていたインターハイ。
だけど、宮城県代表は烏野高校じゃなくて伊達工業高校だった。

「どちら様ですかー!?」
「それはこっちのセリフだけど!」

そんなやり取りを見ていたゆっこちゃんは「今年は烏野来うへんかったな」と悔しそうな顔をしていた。

「ってことは、烏野にリベンジできるのは春高だね!」
「せやな!ホンマに最後の試合やな」



インターハイが終わると、進路相談が本格的に始まった。
治くんは飲食店経営のための専門学校や大学を志望していて、治くんがテキストを読んでいる姿を見るたび、侑くんが少し寂しそうな顔をするから、私も寂しくなってくる。

「名前の進路は?考えとるん?」
「私は…管理栄養士とかそういう資格を取りたいと思ってるから、管理栄養士要請課程がある大学志望かな」
「それは…俺のためなん?」

侑くんに聞かれて、私はドキッとしてしまった。

「お、重いかな…?管理栄養士の資格があれば、その後の仕事にも役立てそうだなって思ったんだけど…」
「重ないで!そう思てくれてんのは嬉しいけど、それはホンマに名前のやりたいことなん?」
「え?」
「…サムも言っとった…。妥協して道進むのんはちゃうやろって…。せやから、俺のせいで名前のやりたいことができへんのやったら、それはアカンな思てん…」

真剣な顔で侑くんにそう言われて、少し恥ずかしくなったけど、ちゃんと侑くんに私の気持ちを伝えようと思って顔を上げた。

「…私は妥協して決めたわけじゃなくて、元々料理するのも好きだし、持っていて損じゃないなって思ったんだ。でも、それを活かして侑くんの支えになれたらいいなって思ったのは事実だから、それが侑くんの重荷になるなら…」

私がそこまで言ったら、侑くんが「ストップ!」と言って私の言葉を遮った。

「せやから、重荷やないで!むしろ、そこまで真剣に考えてくれてたんやなって感動してん」
「侑くん…」
「俺…多分プロなったら名前に我慢させたり、不本意やけど嫌な思いをさせることも増えると思うねん。不本意やけど…」
「2回言った」

私がフフっと笑うと「笑わんといて!ホンマに不本意やねん!」と侑くんがもう一度そう言う。

「せやけど、どんなことがあっても名前のことは絶対手放してあげられへん。一生一緒におりたいねん」
「うん…。ありがとう、私も同じ気持ちだよ」
「せやから、俺の隣におるだけで満足やってこと!俺のことよりも自分のやりたいこととか気持ち優先にしてな!」

そう言われて「わかった!それなら、やっぱり私は管理栄養士を目指したいな」と改めて侑くんに伝える。

「〜〜〜っ!!好きや!」

侑くんが勢いよく抱きついてきて、倒れそうになったけど、侑くんがしっかり支えてくれたおかげで倒れずにすんだ。

「名前、ほんま大好きやで!」
「ありがとう。侑くんのこと大好きだよ!」
「名前〜!!」

2人でじゃれ合っていると「何やっとんねんバカップル。さっさと教室戻らんと予鈴鳴んで」と、とっても嫌そうな顔をした治くんが呼びに来てくれた。

「サム!邪魔すんなや!」
「邪魔なんわおまえや。名前、はよ行かな次移動やで」
「あ、そうだった!侑くん、また部活でね!」
「おん!」



そして月日は流れて1月。
稲荷崎は見事に今年も春高への切符を手にして、東京体育館にいた。

「サム!」
「何や?」
「…絶対優勝すんで!」
「何やねん」

侑くんは「…おまえのバレー、今日で終わらせん。ここに参加しにきよった誰よりも長く、おまえと一緒にバレーやるんや!」と治くんに伝えた。

「…せやな」

そう言って笑った治くんの笑顔は、少し寂しそうに見えた。



稲荷崎男子バレー部は、順調に勝ち上がって行き、3回戦で烏野高校と対戦することに。

「飛雄くん、翔陽くん、久しぶりやな〜!」
「宮さん、ちわっす」
「お久しぶりです!」

侑くんは「何で自分らインハイ来ないねん!インハイで叩き潰す言うたやん!」と2年生になった日向くんと影山くんに話しかけに行く。

「潰すとは言われましたけど、叩き潰すとは言われてませんね」
「めっちゃ記憶力ええな!おんなし意味やんか!」
「今回も負けません!」
「おうおう、言うてくれるやん」
「本当、ナマイキだなー」

そこに銀島くんと倫太郎くんも参戦。

「サム!おまえもなんか言うたれや!」
「んー…。まあ、せやな。今回は勝たせてもらうで」

気合十分の侑くんたち。
みんなの宣言通り、今年は烏野に勝利して、無事に準々決勝へとコマを進めた。
そして、準々決勝もストレートで勝ちあがると、準決勝。

「まさか、ここで当たるんが井闥山かいな」
「ラスボス感出してくるじゃん」

コートの向こうには佐久早くんと古森くん。

「まあ、去年のインハイのリベンジさせてもらうで」
「そういうこっちゃな」

準決勝も気合十分で挑んだ侑くんたちだったけど、井闥山には負けてしまって春高はベスト4という結果で終わってしまった。
最後、ブロックにはじかれたボールを追いかけたけど間に合わなかった侑くんが、試合終了の笛が鳴った後も床に倒れ込んだまま全然動かないから、ベンチから見ていた私も心配していた。

「…ツム、終わったで。集合や」
「…終わったんか…」
「…せや」
「…これで、おまえのバレーは終わったんか…」

治くんは、侑くんの腕を引っ張り上げて立たせると「バレーは終わりやけど、それ以外はなんも変わらん。くたばる時まで俺とおまえは最高の双子やろ」と言って笑った。

「あ、当たり前やろ!クソサム!」
「おーおー、元気やんか」

2人が肩を組みながら整列しに行く姿を見て、私は思わず泣いてしまった。



春高が終わると、本格的な受験シーズン。
治くんも倫太郎くんも銀島くんもゆっこちゃんも、私たちは全員第一志望の大学や専門学校に合格した。
そして侑くんも、たくさん来たスカウトの中から株式会社ムスビィのチームであるMSBYブラックジャッカルに決めたと報告してくれた。

「東大阪やけど、名前の大学も大阪やん?ちょうどええやろ」
「そうだね」
「せっかくやし、近い距離で家借りようや〜」
「それは、ちゃんと会社との距離を考えて借りてほしいな」
「冷たない!?」

私の言葉にショックを受けた様子の侑くん。

「だって、慣れない仕事に新しいチームでの練習で大変なのは侑くんだよ?私も初めてのひとり暮らしになるから、最初はあんまり侑くんの助けになれないと思うし」
「そんなん気にせんでええねん!せやったら中間地点で探せばええやろ」
「はいはい」
「名前〜!」

私の両親は、転勤が決まり来年からまた東京に戻ることになった。
もう大学生になるからということで、ついてくるかどうかは私の判断に任せると言ってくれたので、私は引き続き関西に残ることに決めて、大阪の大学を受験した。

「楽しみやな〜!」
「そうだね。私も、来年からMSBYで活躍する侑くんの姿が見られるの楽しみ!」
「期待しとってな!」
「うん!」



3月の卒業式を終えると、私たちは引っ越しをした。
私の引っ越しには、侑くんと治くん、それに倫太郎くんと銀島くんも手伝いに来てくれて助かっちゃった。

「中山は?」
「ゆっこちゃんは大学の入学前のオリエンがあるみたいで、今日は大学に行ってるよ」
「この時期にオリエンなんてあるんだね」
「にしても、ええ部屋やな!新築、オートロックのマンションやん!」
「両親が心配性で」

荷ほどきをして、引っ越しの手伝いをしてくれたみんなにお礼の意味も込めてお寿司を出前した。

「ほんま、あっちゅう間の3年間やったな」
「本当だね」
「侑が先に社会人になるとは思わなかったよね」
「バリバリ働いて、仕事もバレーもできるイケメンになったるわ!」
「名前、何かあったらいつでも相談に来てええんやで」
「ありがとう、治くん」
「何やとコラ!」

高校を卒業しても、変わらない4人の雰囲気に、思わず笑ってしまった。

「何笑てんねん!」
「ううん、みんな変わらないなーって思って!」
「仲良し?」
「うん!」

これから大学生、社会人になっていく私たちだけど、きっとこの雰囲気はずっと変わらないんだろうな。
そう思うと、これからの人生も楽しそうだなと思ったよ。



思い出なんかいらん、今を、これからの未来を思いっきり楽しみたいな!



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