FILE.1 あの日の事件・前編

苗字名前と松田陣平は幼なじみだ。
松田は、幼少期の頃に起きた父親の誤認逮捕がきっかけで、警察官を目指しているが、もう一つ、彼には忘れられない事件があった。
それは、名前が高校1年生の頃に被害にあったストーカー事件だった。



「陣平ちゃんおはよう!」
「朝っぱらから元気だな」
「部活の練習頑張ったからかなー」
「へーへー」
「陣平ちゃんだって、ボクシングしてる時は楽しいでしょ!」
「そりゃあまあな」

下駄箱で会った2人は、教室に向かうため上靴に履き替える。
名前が下駄箱を開けると、中に白い封筒が入っていた。

「…」
「あ?んだよソレ」
「あ…え、っと…なんでもない!」
「…おまえがそういう反応する時はなんでもなくねぇ時だ。誤魔化してんじゃねーよ」
「…陣平ちゃんには隠し事できないなぁ」
「何年の付き合いだと思ってんだよ」

そう言って、松田は名前の手にある白い封筒を奪い取ると、中身を確認した。

「…なんだよこれ…」
「…悪趣味な人もいるよね」

封筒の中身は、全て名前の隠し撮り写真だった。
制服姿の写真や部活中の写真など、十数枚入っていた。

「…なんで黙ってた」
「だって、写真くらいだし…特になにかされたわけじゃないから…」
「それでも真っ先に相談しろよ!何かあってからじゃおせーだろ!!」

松田の怒鳴り声で、登校してきた生徒たちから注目を浴びる2人。

「じ、陣平ちゃん…声が大きい…」
「ふざけんなボケ!」
「こらこら、陣平ちゃん、目立ってるぜ?」

そこに、登校してきた萩原が合流した。

「なーに騒いでんのさ?陣平ちゃんが名前ちゃんに怒鳴るのも珍しい」
「これが騒がずにいられるかよ!」

そう言うと、松田は持っていた写真を萩原に見せる。

「…なにコレ?」

さっきまで笑顔だった萩原の顔から笑顔が消え、真剣な顔で名前に問いかける。

「…えっと…」

名前が話をしようとしたタイミングでチャイムがなり、話は昼休みに持ち越しとなった。



昼休みになると、松田と萩原は名前を連れて屋上に向かった。

「ここなら邪魔が入らねぇだろ」
「そうだね」
「…うん」

萩原は「それじゃあさっきの続きだけど、さっきの写真って何?明らかに隠し撮りだよね?」と聞いた。

「うん…」
「これが初めてじゃない感じ?」
「…最初は1週間くらい前だったかな?」

名前のその言葉に「おまえは1週間も黙ってたのかよ!!」と怒る。

「だ、だって!何もされてないし、2人に相談して迷惑かけたくなかったんだもん…」

松田は大きなため息をつく。

「名前ちゃん、相談することは迷惑なんかじゃねーよ。むしろ、頼ってもらえなくてショックなんですけど」
「え、ご、ごめん…」
「名前ちゃんに何かあった時の方が嫌だよ。早めに相談してほしかった」
「…うん…」
「1人で怖かったろ?」

萩原の言葉に、名前は顔を歪めると「こ、怖かったー…!」と言って泣き出した。

「あーあ、泣かせるつもりはなかったんだけどなー」

松田は泣いている名前を抱き寄せると「大丈夫だ。放課後、…警察行くぞ」と言って安心させるように名前の頭を撫でた。



丁度、部活が休みだった名前たちは、今までの写真も一緒に警察に持って行き、相談することにした。
しかし、隠し撮りの写真が届くという程度の被害では、警察は動いてくれなかった。
返ってきた言葉はよくある「パトロールを増やします」だった。

「本当に使えねーな!!」
「写真が届くだけって、顔も名前も通学路もバレてっから下駄箱に入れられるんじゃん。結構危ないと思うんだけど」
「…やっぱり、この程度じゃ何もしてもらえないよね…」
「名前ちゃん…」

名前は、想像通りの警察の対応に傷つきながらも「でも、警察の人もパトロール増やしてくれるみたいだし、実際何もされてないんだから大丈夫だよ!」と無理やり笑顔を作った。

「…笑えてねぇから」

松田は名前の右頬をつねると「心配しなくても、俺が毎日一緒に登下校してやっから」と伝える。

「え!?それは大丈夫だよ!陣平ちゃんにだって交友関係とか、ボクシングの日とかあるじゃない!」
「おまえのが心配だからいいんだよ」
「でも…いつまで続くかわからないんだよ?それなのに陣平ちゃんを巻き込みたくないよ!」
「うるせー!黙って守られてろ!」
「だから!」
「ハイハイ、お二人さんストップ!」

言い争いを始めた名前と松田の間に萩原が入る。

「陣平ちゃんが無理な日は俺が一緒にいるよ!それで問題なしでしょ?」
「え?」
「流石に朝は難しいけど、朝は陣平ちゃんいるしね。帰りのが心配だから、帰りは俺と陣平ちゃんで徹底的に守るよ」
「萩原君まで…」
「よっし、決まりだな!ハギ、頼むぜ」
「まっかせなさい!」
「…2人とも…ありがとう」
「おう!」

こうして、松田と萩原が名前と一緒に毎日登下校をするようになった。
2人が名前と一緒に登下校するようになると、盗撮された写真が下駄箱に入れられる頻度が少なくなっていき、一ヶ月もするとほとんどなくなった。



「ふぁあ!」
「陣平ちゃん眠そうだね」
「あ?ああ…朝練ある日は一緒に早起きしてっからなーさすがにねみーわ」
「あの陣平ちゃんが早起きって…愛だねぇ」
「そんなんじゃねぇよ」

萩原は、松田の机に置いてある飲み物を見ると「あれ?陣平ちゃんこんなの飲んでんの?珍しいね」と言った。

「なんかもらった」
「誰に?」
「弓道部の顧問。毎日ご苦労様だってよ」
「毎日ご苦労様?」
「名前のこと送ってるの知ってんじゃねーの?」
「ふーん…」

松田の言葉に、少し違和感を覚えた萩原だったが「おっと、もうこんな時間だ!今日は姉ちゃんにどうしても買って来いって言われた物があるから先に帰るぜ?」と席を立った。

「おー。こんな土砂降りの中千速も鬼だな」
「本当だよなー。名前ちゃんのこと、ちゃーんと送ってやってよ」
「あたりめーだろ」
「じゃ、また明日!」

そう言って萩原は教室を出た。
萩原が教室を出て1人になると、急に眠気が襲ってきた松田。

「なんでこんなねみーんだ…」





「…あれ?陣平ちゃん出ない…」

部活が終わり、名前は松田に電話をしたが、なぜが電話に出ない。
おかしいと思い、一度教室に戻るが松田の姿はなかった。

「おかしいなー?先に帰ったのかな?」

ストーカー行為も落ち着いてきたため、明日からは少しずつ毎日の登下校を減らしていこう、そう話していたので名前は「まあいっか」と思い、1人で帰ることにした。

外は土砂降りの雨。
酷い雨音に重なっているが、名前は後ろから聞こえてくる人の足音が気になった。

「(…同じテンポで歩いてる気がする…)」

名前が早く歩くと後ろの人間も早く歩き、ゆっくり歩くと同じようにゆっくり歩く。

「(…完全に怪しい…)」

名前は携帯を取り出すと、もう一度松田に電話をかけた。

「(お願い…出て…)」

コール音が鳴るか鳴らないかのタイミングで松田が電話に出る。

「じ、陣平ちゃ『おい!!なんで1人で帰ってんだよ!!』

松田は名前にかぶせるようにそう言うと『今どこだ!?』と聞いた。

「なんでって、陣平ちゃんが電話に出ないし、教室見てもいなかったから、てっきり先に帰ったのかと思って」
『帰ってねぇよ!クソ、やっぱりそうかよ!』
「え?」
『説明は後だ!俺も学校出ていつもの道走ってっけど、おまえもそうだよな!?』
「う、うん」
『このまま電話繋いどけ!』
「う、うん…あのね、後ろから…変な人がついて来てる気がするの…」
『わかった!とりあえず、どっか入れそうな所あるか?コンビニとか、人が多そうな所』
「えっと、確か、公園の向こう側に…今、いつもの公園にもうすぐ…ヒッ!」
『名前!?どうした!』

名前は、いきなり左腕を掴まれて、驚いて後ろを振り返る。
そこにはフードを被ってマスクをした男が立っていた。

「やっと捕まえた…ひどいなぁ、毎日毎日おれが見守ってやってたのに裏切るなんて」
「あ…あの…離してください…」
「まるで他人のようだね。まあいいさ、おれたちの関係はこれからだもんね」
「や…やめて…」

名前は思いっきり腕を振りほどくと走り出し、公園の中に入って反対側にあるコンビニに逃げ込もうとした。
しかし、恐怖で足がもつれ、転んでしまう。

「あーあー、泥だらけで可哀想に。ほらおいで。うちで温まろう」

名前は座り込んだまま、ズルズルと後ずさりしながら男から距離を取ろうとする。

「ヤダ…!」
「ヤダ?あぁ…そうか、あの男か。あの男が君を縛っているんだね…大丈夫、すぐに助けてあげるから」

そう言うと、男はナイフを取り出した。

「ッ…!?」
「さぁおいで。君が大人しくこちらに来てくれればいい。おれだって、君のことを傷付けたくない」
「や、ヤダ…」

名前の反応に男は怒りをあらわにし、「なんで言うことを聞かないんだ!!」と叫びながら、名前に向かってナイフを振り回した。

「痛ッ!」

男のナイフが名前の左腕に当たり切れると、名前の左腕がざっくりと切れて血が流れ始めた。

「ああ、可哀想に…手当しないとね」
「じ…陣平ちゃ…」
「その名前を呼ぶなあああああ!!」

男がもう一度ナイフを振り下ろそうとした瞬間、名前たちが入って来た公園の出入り口から「名前!!」という声が聞こえてきた。
その声に反応した男はナイフを落とし、慌てて反対の出入り口に向かって走って逃げて行った。



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