05

「なっ…」
「にぃ!?」
「ヨーコ!!」
「ご、ごめんなさい山岸さん。でも、わたしには隠し通せません!」
「ま、まさか君は、昔の男関係を清算するために殺した…」

目暮がそう聞くと「そ、そんな事してません!!それに、彼の方なんです。高校時代、わたしをフッたのは…!」と答える。

「なのに、わたしがアイドルで有名になったらヨリを戻そうって、しつこく言い寄ってきて…だから、彼から逃げるためにこのマンションに引っ越したんです」

ヨーコは「死体を見た時、はっきり彼だと分かりましたが、彼の事はマネージャーの山岸さんに口止めされていたので、つい…」と答えた。

「でも、なぜ彼がここで殺されていたかは、わたしには…」
「ヨーコ…」
「教えてください!!彼を殺したのはいったい誰なんですか!?」
「だ、誰って言われても…」

名前がもう一度死体があった場所を調べていると、隣にコナンがやって来た。

「コナン君?」
「ア、アハハッ!」
「あんまりウロウロしていると。また毛利さんに怒られるよ?蘭ちゃんの傍で大人しくしてなね」
「ご、ごめんなさい…。そ、それよりも名前刑事、何か気になる事でもあるの?」
「えっ?あ、うん。あのフローリングの凹みなんだけど、さっきは被害者の体に隠れていて見えなかったんだよね。だから気づかなかったけど、何だろうと思って」

そう言うと、名前はフローリングにできた凹みを指さす。

「何か見落としてる気がするんだよね…」
「!?」

名前がそう言うと、コナンはハッとした表情をした。

「どうしたの?」
「う、ううん!何でもない!」

そう言うと、コナンは小五郎達の方へと戻って行った。

「フフフッ…今度こそ、今度こそ分かったぞ!」

小五郎はそう言って笑うと「犯人は…マネージャーの山岸、貴様だ!!」と山岸を指さした。

「!?」
「おまえは、この男がヨーコさんに付きまとうのが邪魔だった。なんたって、ヨーコさんの高校時代の恋人だ!マスコミに知れたらスキャンダルになる」

そう言うと、小五郎はタバコを取り出して火をつけた。

「そんな折、この部屋に潜んでいた被害者とバッタリ会って口論となり、そのあげく…殺してしまったんだ!!」
「わ、私は…!」
「違いますかな?」

小五郎が山岸に詰め寄る。

「それに、男の背中に包丁を刺すなんて、女の力では難しい。つまり、山岸さん、犯人はあんたしかいないん…」
「!!」

名前は小五郎の話を聞いて「(そっか!女性の力で背中に包丁を刺すのは難しい…!暖房、水の跡、そしてあの凹み…!)」と、今回の事件の真相に気がついた。

「だ…!!」

小五郎は、言い終えたのと同時にヨロヨロとソファーに座った。

「お、おい、どうした?」

様子がおかしい小五郎に、目暮と蘭が声をかける。

「お、お父さん?」
「と、言いたいところだが…実はそうじゃない」
「えっ?」

小五郎のセリフにその場にいた全員が驚きの声を上げた。

「山岸さん、あなたはこの部屋の合鍵を持っていましたね」
「は、はい…」
「当然、容疑はあなたにもかかる。もし、あなたが犯人で、私に死体を発見させるためにわざわざ依頼に来たとしたら、自分の無実を証明する証拠やアリバイを用意しているはずだ。だが、そんな物は残されていない」

小五郎は「そして、沖野ヨーコさん…」と続けた。

「は、はい!!」
「あなたにも同じ事が言えます。真っ先に疑われるのは、家主のあなたですからね」
「じゃあ、犯人は…池沢ゆう子か!?」
「ちょっ…!」
「目暮警部、違いますよ!」

焦った池沢を見て、名前は思わず否定する。

「そうだ、それも違う」
「な!?」
「ゆう子さん、あなたはこの部屋に入った事を隠していた。だが、殺された男に襲われた事は、自分から話しましたね。もし、あなたが犯人なら、たとえはずみで殺したとしても、男と出会った事は言わないはずだ。なぜなら、あなたが部屋に入った事は証明できても、男と接触したかどうかは、あなた以外には分かりませんからな」

小五郎がそう言うと、目暮は「し、しかし、君の言ってる事は…」と納得できていない様子だった。

「そう、あくまで心理的な推測です。その3人が犯人じゃない証拠にはなりません」
「なら君も苗字君も、どうして3人が犯人ではないと分かるんだ?」
「その推測を裏付ける証拠があるからです」
「何?」

小五郎は「山岸さん、あなたが隠した髪の毛だ!」と言った。

「何!?本当かね?」
「私は髪の毛の事は気づきませんでした」
「名前君が見ていないのも不思議ではない。あの角度からでは私にしか見えなかった…。足が滑ったふりをして、あなたが死体の指から髪の毛を抜き取るのはね!」
「貴様…」
「あ、あ…」
「やっぱりこいつが犯人か!!」

目暮は山岸の胸倉を掴むが、小五郎はそれを否定する。

「違いますよ。私が問題にしてるのは、なぜ山岸さんがそんな事をしたかではなく、どうして死体の指に髪の毛があったかだ。後ろから刺されて即死の人間が、なぜか刺した人間の髪の毛を掴んでいた…不思議だと思いませんか?」
「そ、そういえば…」
「犯人は、他殺に見せたかったんですよ。それも、ヨーコさんに殺されたようにね」
「た、他殺に…!?ま、まさか!」
「そうです。犯人は、死んでいた藤江さん本人です!!」
「じ、自殺!?」

目暮は「苗字君!君もそう言いたいのか!?」と名前に聞く。

「は、はい。髪の毛の事は知りませんでしたけど、部屋の暖房と水の跡、そしてあそこに残ったフローリングの凹みを見たら氷を使ったのかな?と思いました」
「氷?氷を使って、どうやって自分の背中に包丁が刺せるんだ!?」
「思い出してください。荒された部屋の中で、死体の足下の椅子だけ立っていた事を」

小五郎はそう言うと「おそらく、藤江さんは氷に穴を空け、包丁を立て、椅子の上からそれにめがけて背中から飛び降りた。部屋の温度が上げてあったのは、この時飛び散った氷を溶かすためだったんですよ」と続けた。

「多分、あちらのフローリングの凹みと包丁の柄の形が一致すると思います」
「これか!」

そう言うと、目暮は死体のあったフローリングの凹みを確認した。

「でも、藤江さんは、ヨーコさんを犯人に仕立て上げるために策を弄しすぎた…」
「髪の毛か!」
「そう…彼女の髪の毛を握って飛び降りたんです。それを最初に発見した山岸さんは、昔の男をヨーコさんが殺してしまったと思い込み、咄嗟に隠した…」
「山岸さん…」
「す、すまんヨーコ。俺はてっきり…」

山岸は、ヨーコに謝った。

「まあ、ヨーコさんの髪の毛を取ったクシか何かから、藤江さんの指紋が出れば、私の推理は証明できるでしょう」
「でも、どうして藤江君がそんな事…」
「それは、多分…彼がまだあなたを愛していたからですよ」
「な…」

小五郎の言葉を聞いて、ヨーコは驚いた声を上げる。

「気づかれませんか?あなた達2人の後ろ姿がそっくりなのを。だから彼は、部屋に入ったゆう子さんを、ヨーコさんと間違えて襲った…いや、話をしようとしたんだ」

小五郎がそう言うと、ヨーコと池沢は顔を見合わせる。

「見知らぬ男の出現に驚いたゆう子さんは、大声を出して抵抗し、逃げた…。でも、それをヨーコさんだと思っている彼は、彼女のそんな態度を見て愕然とした…。追い詰められた愛情が、絶望と憎しみに変わり、おそらく…」
「でも、彼はわたしをフッたんですよ!!なのに、どうして?」
「ち、違うんだヨーコ…」

山岸は「実は、俺が彼に頼んで別れてもらったんだよ…」と真実を伝えた。

「そ、そんな…そんな事って…」
「警部!!被害者の家からこんな日記が!」
「何!?」

藤江の家を調べていた警察官が戻って来て、日記を目暮に渡した。
その日記には、藤江の苦しみで溢れていた。

「結局、嘘と誤解と偶然が重なり合った起きた悲劇だったというわけか…」
「悲しいですね」

目暮は、座っている小五郎の両肩を叩くと「毛利君!君の推理通りだよ!見直したぞ、名探偵!」と称賛した。

「ふえ?」

名前も小五郎の方を見て「毛利さん、すごいです!さすがです!名探偵!」と言った。

「あ、いや、私にかかればこれくらい!」
「苗字君も、よく気づいたな!」
「私は、毛利さんの言葉をヒントに自分なりに考えてみただけなので。やっぱり毛利さんがすごいですね!」
「(本当はオレの推理だっての!)」

名前と目暮が小五郎を絶賛している姿を、コナンは面白くなさそうな顔で見ていた。



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