バスに乗ると、後ろの方の座席に見知った顔が座っている事に気づいて、思わず「あっ」と声を上げた。
「あー!名前刑事だ!」
「あ、歩美ちゃん!声が大きいよー」
「本当だ!名前刑事ですよ」
「久しぶりだなー!」
名前は急いでバスの後ろに進むと、コナンと灰原が座っている席の後ろに座る。
「こんにちは」
「この間ぶりじゃな」
「こんにちは、名前刑事」
「コナン君も、こんにちは。今日はどうしたの?」
「みんなでスキーに行くんだぜ!」
名前の問いかけに、元太が答える。
「へー!いいねぇ、スキーか!」
「そうなの!でもね、博士ったら風邪ひいちゃったみたいで、ずっとくしゃみしてるんだよ」
「え、大丈夫ですか?」
「なーに、心配いらんよ」
「無理しないで、スキー場に着いたら休んでてくださいね」
「そうするよ」
名前は少しだけ立ち上がると、前に座っているコナンと灰原に「二人はスキーした事あるの?」と聞いた。
「まあ、何回かね」
「私は記憶にはないわね」
「そっかー。コナン君の隣の子も、少年探偵団の子かな?初めましてだね!この前、みんなが警視庁に来た時はいなかったよね?」
「ええ。私はあの日、風邪気味だったから欠席したの。別に、私一人がいなくても問題はないでしょ?」
「そ、そっか」
名前は、大人びた雰囲気の灰原のリアクションを見て目を点にすると「ご、ごめんね名前刑事。この子は灰原哀。ボク達と同じクラスの子だよ」とコナンが代わりに紹介する。
「哀ちゃんか!素敵な名前だね」
「…あら、ありがと」
「私は捜査一課の苗字名前だよ。よろしくね」
「ええ、よろしく」
灰原が返事をすると、名前は席に座り直す。
しばらく走っていると、バスは米花公園前駅に停まった。
「コレ!お客さんが乗って来るから、ちゃんと席に座らんか」
「ほーい!」
米花公園駅では何人かが乗って来た。
「あ!新出先生!」
「あれ?みんなも乗っていたのかい?」
バスに乗って来たのは、蘭達が通っている帝丹高校の校医をしている新出智明と、帝丹高校の英語教師であるジョディ・サンテミリオンだった。
「Hi!クール・キッド!また会いまーしたねー!!」
2人は腕を組んだままバスに乗り込んできた。
「知り合いか?」
「あ、うん…。蘭姉ちゃんの高校の英語の先生で」
「私の名前はジョディ・サンテミリオン!今日は、Dr.新出と上野美術館でデートですー!」
「あ、いや、偶然バス停で会ってね」
「Oh,レディに恥をかかせちゃいけませーん!」
二人はコナンと灰原の前の席に座った。
「高校で変な噂が立ったら、お互い困るでしょ?」
「Oh,Yes!」
二人の会話を聞いていた名前は、コナンに「すごいアメリカンな先生だねー」と耳打ちした。
「あ、ああ、うん」
二人の後にバスに乗って来たのは、ニット帽を被り、マスクをした長身の男性だった。
男性は一番後ろまで歩いて名前の隣に座ろうとするが、名前の顔を見て、男性は一瞬目を見開いた。
「?」
視線に気づいた名前が男性の方を見ると、男性はすぐに表情を戻して席に座り「ゴホゴホ…」と咳をした。
「おい見ろよ!あいつらこんな所からもうスキーのカッコしてるぜ!」
「せっかちですねぇ…」
名前は、最後に乗り込んで来た二人組の男を見る。
「(…いくら何でもゴーグルまで着けてるのはおかしい気がする…)」
不審に思い、男達を凝視していると、二人はスキー板の袋の中から拳銃を取り出して乗客と運転手に向かって構えた。
「騒ぐな!!騒ぐとぶっ殺すぞ!!」
「(バ…バスジャック!)」
乗客達が叫び声を上げると、男が天井に向かって発砲した。
「聞こえねーのか!?」
運転手に向かって拳銃を構えた男は「”回送”にして都内を適当に走れ!信号でひっかかったら、てめえのバス会社に電話するんだ」と命令した。
「は、は、はい…」
「よーし、いい子だ…。さあ、あんたらが持ってる携帯電話を全てこっちに渡してもらおうか。隠すなよ…隠すと電話を一生かけられなくなっちまうぜェ?」
そう言って男は乗客の携帯電話を回収し始めた。
「あ、小林です…。じ、実は今…」
男は、運転手から電話を奪うと「たった今、あんたんトコのバスを占拠した!!要求はただ一つ!今、服役中の矢島邦男の釈放だ!!」と告げる。
「できなければ一時間おきに乗客を一人ずつぶっ殺すと警察に伝えろ!!20分後にまたかける!それまでに準備を整えておけ!!」
「(矢島邦男って…先月、宝石店を襲った強盗グループの主犯の男だよね…。あの二人は逃亡中の矢島の仲間なの?)」
名前は先月起った強盗事件を思い出していた。
「(でも、あの事件で矢島の仲間は三人いたはず…。という事は、犯人の仲間がまだ他の一人いる…!)」
名前は、怪しまれないように車内を見渡した。
「(誰だろう…誰がもう一人の仲間なんだろう…)」
「おい、そこのおまえ!早く出せ!!」
名前が考えていると、男が名前の隣に座っている男性に向かって叫んだ。
「あ、すみません…。携帯、持ってないんですよ」
「…それじゃあ隣の女!おまえもさっさと出せ!」
「…はい」
名前は携帯電話を取り出すと、大人しく男に渡した。
「そこのオヤジ!なんだその耳につけてる物は!?」
「ほ、補聴器です。わ、若い頃、耳を悪くして…そ、それで…」
「おいそこ!クチャクチャうるせぇぞ!」
「当たり前でしょ?ガムかんでんだから」
バスジャックの男は、名前の隣に座っている赤井秀一、そして赤井の隣に座っている補聴器の男性、町田安彦と、その隣に座っている富野美晴に順番に声をかける。
「それに、こんな事しても、どーせあんたら捕まっちゃうんだから早いトコあきらめて逃げた方が身のため」
ドンッ!という音と共に、富野の頭の横のソファーに一発の弾丸が撃ち込まれる。
「わ、分かりました…大人しくしてます…」
「ああ。最初からそうしてりゃいいんだよ」
男が座席の後ろから一番前に戻ろうと歩いていると、ジョディの足に引っかかり、その場に転倒した。
「ジョ、ジョディさん…!」
「こ、この外人女…」
「Oh〜sorry!!I didn't do it on purpose. Please forgive me. Are you okay?」
ジョディは立ち上がって、男の手を取ると英語で謝る。
「ああもういい…席に座ってろ!」
男にそう言われたジョディは、席に座り直すと後ろを振り向いて「It's very very exciting!!」とコナンに笑いかける。
「(おいおい、大丈夫か、この先生…)」
そんなジョディを呆れた顔で見るコナン。
名前は後ろの席から「ジョ、ジョディさん…!あ、あまり変な事はしないでくださいね!一般市民の方を危険な目に遭わせるわけにはいきませんので…!」と声をかける。
「Oh, Aren't you just an ordinary citizen?」
「はい。なので、危ない事はしないでください」
「OK!」
コナンはイヤリング型携帯電話をポケットから取り出すと、目暮に電話をかけようとする。
「え?」
しかし、男が戻ってくると「何してんだこのガキ!!」と言って、コナンの事を投げ飛ばした。
そして、コナンの持っていたイヤリング型携帯電話を奪うと「今度下手なマネしやがったら殺すのはおまえからだ!!」と言いながらバスの前方に戻る。
「コ、コナン君!!」
名前は席を立ち上がってコナンの様子を見る。
幸い、大きなケガはないようでホッとした。
「(でも、きっとこれで、コナン君ももう一人仲間がいる事に気づいたはず…)」
コナンは名前の方を見ると、一回軽くうなずいた。
「(やっぱり!)」
名前も同じように頷くと「(あとは…誰が仲間で、どうやってコナン君の不審な行動を伝えたのか…だけど)」と、自分と同じ列に座っている乗客の方を見た。
「(コナン君の行動が見えるこの三人が怪しい…)」
名前は、他の人にバレないように順番に三人を観察する。
「(私の隣の男性は、咳をしている…。けど、阿笠さんの咳とほとんど同じ音だし…聞き分けるのは難しそう)」
次に町田の事を見る。
「(補聴器がワイヤレスマイクなら伝えられるけど、犯人は耳に何もつけていないし、声を出した瞬間両隣の二人が気づくはず…)」
最後に富野を見ると「(彼女はガムを噛んでるけど…ガムの音じゃあさすがに前までは聞こえないだろうな…)」という結論に至る。
「(…バックミラー越しに何かを見ているの可能性も…?うーん…)」
名前が悩んでいるのと同じように、コナンも悩んでいた。