バス会社から警視庁に連絡が入り、高木達が現場に出てジャックされたバスの様子を確認していた。
「こちらE地点高木!問題のバス見えました!!」
高木は、道路に面した建物の2階から双眼鏡を使って走り去っていくバスの中を確認する。
「被疑者は二名!どちらもスキーウエアを着用!帽子とゴールで顔は分かりませんが、両名共拳銃を所持している模様!…あっ!」
『どうした高木君?』
「バスの中に、苗字さんを発見しました!」
『何ィ!?本当かね?』
「はい!…どうしますか警部?」
高木は目暮に指示を仰ぐ。
『バスはもう一度そこを通るかもしれん!そのままそこで待機だ!』
「ハッ!!」
バス会社に二度目の電話をかけた男は、電話口の目暮から『矢島邦男を釈放する』という言葉を聞き「フフフ…そうか、釈放する気になったか」と笑みを浮かべた。
「それじゃあ釈放した矢島に一時間後、こっちに電話するように伝えろ!奴の口から本当に安全な場所に逃げられたと確認できたら、人質をまず三人解放する」
「(…やっぱり三人目の仲間がこの中にいるんだ…)」
男の言葉を聞いていた名前は、この二人が人質に紛れて逃げる算段だという事に気づいた。
「いいか!くれぐれも下手なマネすんじゃねーぞ!」
そう言って電話を切った男は、持っていたスキー板の袋をバスの通路に縦に並べて置いた。
「(…スキー板の袋?)」
名前が通路に置かれたスキー板の袋を見ていると、コナンがそれに手を伸ばしている事に気づく。
「(わ、わっ!コナン君!)」
「え?」
男がコナンの元に歩いて来ると「またおまえか…」と言いながらコナンの頭に拳銃を突きつける。
「早く殺してほしいんなら、望みどおりにしてやるぜぇ?」
「コ、コナン君!?」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「止めて下さい!!」
名前は立ち上がってコナンを庇いに行こうとするが、そのタイミングでバスが揺れて「わっ!」と態勢を崩した。
倒れそうになる名前を、隣に座っていた赤井が咄嗟に支えて座席に座らせた。
「あ、ありがとうございます…」
「…ゴホゴホッ…」
そして、名前と同じタイミングで席を立った新出が「ただの子どものイタズラじゃないですか!?」とコナンの事を庇う。
「それに、あなた方の要求は通ったはず!!ここで乗客を一人でも殺すと、計画通りにいかないんじゃないんですか!?」
「何だとこの青二才…」
「やめろ!」
そこに、もう一人の男が入って来る。
「弾がそれてアレに当たったらどーすんだ?」
「あ、悪い…」
「ホラ、おまえらさっさと席に戻れ!」
「は、はい…」
名前は「(あれに当たったら…って事は…この中に入っているのは爆弾…か)」と、スキー板の袋を見て確信した。
「(だけど、犯人達はこの爆弾を使ってどうやって逃げるつもりなの…)」
「ムチャはダメね、クール・キッド!グッドチャンスすぐに来まーす!」
ジョディが後ろを振り向いて、コナンに話しかける。
「Oh,怖がらなくても大丈夫!!私達もうすぐ助かりまーす!赤ずきんちゃんお名前は?」
「あ、この子は…たまたま乗り合わせた知らない子だよ!すごく怖がってるからそっとしておいてあげて」
「Oh〜、ごめんなさーい!」
ジョディの質問にそう答えたコナンに、名前は後ろの席で思わず「(えっ?)」と声を出しそうになったが堪えた。
「(コナン君…?何か理由があるのかな?)」
「おいそこ!さっきから何やってんだ!?」
席を立ち上がって話をしているジョディに、男が苛立ったように声をかける。
「ジョディ先生!あまり彼らを刺激しないでください!」
「Oh, yes! Let's talk later.」
「あ、うん…」
名前は「(と、とりあえず、今はもう一人の仲間が誰なのかと、犯人の逃走方法を割り出さないと…)」と、もう一度同じ列に座っている三人を見る。
「(…絶対、この三人の内の誰かだと思うんだけど…)」
「おい、ジジイ!!」
「!?」
「何やってんだゴソゴソ!!」
「あ、いや咳止め薬を…」
阿笠がカバンから薬を取り出して飲もうとしている事に気づいた男が、また注意をしに来た。
「(…どうやって教えているんだろう…)」
名前が横をジッと見ていると、少し上から視線を感じてそちらに目線を向けた。
隣にいる赤井が名前の事を見ていたのだ。
「(ヤ、ヤバ…!さすがに見過ぎて怪しかったかな…)」
名前は急いで顔を前に向ける。
「(…なんだか…この人の目、どこかで見た事があるような…)」
男の携帯が鳴ると「オウ、待ってたぜ矢島さん!どうです?そっちの様子は?」と嬉しそうな顔で電話に出る。
「じゃあ三日後、いつもの場所で落ち合いましょうや」
そう言うと、男は電話を切る。
「よーし運転手、首都高に乗って中央道に入れ」
「あ…」
「小仏トンネルに差し掛かったらスピードを落とすんだ」
「は、はい…」
「へへへ、心配すんなよ。約束通り、乗客はちゃんと解放してやるからよォ」
男はそう言うと「おい!そこの眼鏡の青二才と奥の風邪をひいた男!前へ来い!!」と新出と赤井に命令をする。
「ホラ、どーした。早く来な」
「殺しゃーしねぇって」
そう言うと、男達はスキーウェアを脱ぎだした。
隣に座っていた赤井が立ち上がろうとするが、名前が赤井の腕を掴んで止める。
「い、行っちゃダメです…。わ、私が代わりに行きますから」
「…」
「…国家と国民に奉仕するのが、私の仕事ですから」
「…大丈夫だ。心配するな」
「えっ?」
赤井はそう言うと席を立ち、男の指示通りに前に行く。
赤井の後を新出も追って行く。
名前が後ろを振り向いてバスの窓から外を見ると、バスの後ろに佐藤が乗った車がぴったりとくっついて走って来ているのが見えた。
「(美和子ちゃん…)」
バスが小仏トンネルに入ると、少しずつスピードを落とし始めた。
「ホラ、おまえら!このスキーウェアに着替えて床に座れ!」
「このゴーグルと帽子も忘れるなよ!」
そう言うと、男達は赤井と新出に自分達が着ていたスキーウェアとゴーグル、そして帽子を渡した。
「少しの間、オレ達の身代わりになって時間を稼いでもらうんだよ。解放された乗客の振りをしてバスから降りて逃げるオレ達の時間をな」
「心配しなくてもおまえらが犯人じゃないって事は、他の乗客が後で証言してくれるさ」
男は運転手に「まあオレ達がちゃんと逃げられるかどうかは、運転手!おまえ次第だ!!オレ達がバスから降りたらそのままバスを走らせて警察の目をバスに向けさせろ!」と命令する。
「もちろん、ちゃんと指示に従ってもらうために、人質を一人取らせてもらう…」
そう言うと、男は「一番後ろのガムの女!」と言って富野を名指しした。
「おまえだ、前に来な!」
「え?」
「ちょ、ちょっと待ってください!人質なら私がなりますよ!」
「名前刑事…」
名前が立ち上がってそう言うと「いーや、おまえじゃねぇ。ガムの女、さっさと来い!」と男はもう一度富野を呼んだ。
「(…何で…。あっ!そっか!彼女がもう一人の仲間なんだ!三人で解放された人質になりきって逃げるつもりなんだ)」
「いいか?トンネルを出たらスピードを上げて、後ろのサツの車を引き離してからバスを止めるんだ!オレ達が降りたらガスが尽きるまで突っ走れ!」
「この女の顔を吹っ飛ばしたくなかったらなァ!!」
「ひっ!」
「は、はい!!」
最後の仲間が誰かが分かった名前だったが、それ以上どうする事もできなかった。
「(どうしよう…。このままじゃあ、あの三人に逃げられた後この爆弾で…。爆弾を見てみないと分からないけど、そんな短い時間で解体できるかな…)」
バスがトンネルから出ると「よォし!スピードを上げろ!!」と叫ぶ。
「下手なマネするなよ。オレ達の言う通りやってりゃ助かるん…」
「よく言うよ、どーせ殺しちゃうくせに!」
「な!?」
コナンは「だってみんなに顔を見せたって事はそーいう事でしょ?なんとかしないとみんな殺されちゃうよ。この爆弾で!!」と言って、スキー板の袋を阿笠と一緒に持って見せる。
その袋には、ジョディから借りた口紅で”STOP”という文字が反転して書かれていた。
「こ、このガキ、黙らせてやる!!」
「おいバカ!撃つなよ!!」
「ん?何だァ?その赤い落書きは…?」
「早く!!!」
コナンは運転手に向かって叫ぶ。
バックミラー越しに文字を確認した運転手は、急ブレーキをかけた。
「わっ!」
「おじさん、こっち!」
「え?」
歩美は町田の隣に移動しており、急ブレーキによって通路に放り出されないように腕を掴んで引っ張る。
「放すなよ!光彦!!」
「分かってます!!」
光彦と元太は、床に置いてあるもう一つのスキー板の袋にしがみつき、爆弾が衝撃を受けないように守っていた。
「み、みんな…!」