すると、ヘリコプターがゆっくりと上昇する。
「ヒツジが一匹…ヒツジが二匹…」
小五郎がヒツジを数えていると「それって落ちないおまじない?」と助手席に座っている名前の膝の上に座ったままコナンが後ろを振り向いて顔を出す。
「コナン君!?」
「おまえいつの間に…!というか、何で名前君の膝に座ってるんだ!」
「まあまあ毛利さん」
コナンは小五郎達の事を無視して「えへへ!ボク、一度でいいから操縦席の隣に座ってみたかったんだ!」と嬉しそうに言う。
「ようこそ!我がコックピットへ!君が住んでいる米花町の上も飛ぶ予定だよ」
「わ〜い!やったね!」
「しょうがない。今更戻るわけにもいかんしな」
「その代わり!騒いだら放り出すぞ!」
小五郎がそう言うと、辻はレバーを操作してヘリコプターを一気に傾ける。
「うわああ!!あーっ!!」
ヘリコプターの機体が安定すると、小五郎はネクタイを緩めて「ハァハァハァ…」と息を整える。
「フフフッ!」
コナンにグッとサインを出す辻。
「辻さん、ほどほどにお願いしますね」
「了解」
名前は初めて乗ったヘリコプターに、緊張しつつも外の景色を楽しんでいた。
「何見てんだ?せっかくヘリコプターに乗ったんだ。外を見てみろよ!」
辻が小五郎に外を見るように勧めるが、小五郎は目をつぶって微動だにしない。
「んっ…」
曇り空だった空が、少しずつ明るくなってくる。
前を見て操縦している辻は、目に違和感を覚えて目をこする。
「どうかしましたか?」
「いや、別に…」
そんな辻を見て、名前は少し胸がざわついた。
「ねえ、さっき目薬さしてたよね?あれ、いつもさしてるの?」
「ああ。車を運転したり、ヘリコプターを操縦する時にはね」
「ふ〜ん…」
「もうじき米花町だぞ」
「えっ?ホントだ!」
コナンが下を見ると、米花駅を見つける。
「(辻さん…汗かいてる?)」
「毛利君、君の家も見えるぞ」
「見たくありません!」
「ん?」
雲の間から太陽の光が出てきて、先ほどよりもさらに空が明るくなってきた。
「うっ…!」
雲に隠れていた太陽が完全に顔を出すと、辻が「うわああああ!!」と大きな声を出す。
「辻さん!?ど、どうしました!」
「まぶしくて、目を開けてられない!」
辻は目をつぶったままうつむいた。
「何だって!」
「(ま、まさか、あの目薬…!)」
「という事は…うわあああっ!!」
操縦が上手くできず、機体が大きく斜めになる。
「つ、辻さん!」
「おじさん!左へ流れてる!」
「ううっ…あっ…!」
コナンの言葉を聞き、辻は何とか期待を安定させようとする。
「も、毛利君…君は操縦できんのか?」
「できるわけないでしょ!」
「苗字君は…?」
「わ、私も操縦はさっぱりです…」
コナンは立ち上がると、下を見ながら着陸ができそうな場所を探す。
「帝丹小学校!」
「コナン君?」
コナンは操縦席の方に移動すると、操縦桿を掴む。
「何!?」
「校庭へ着陸するから、おじさんはペダルとコレクティブ操作を!」
「なっ!バカ!や、やめろ!俺達を殺す気か!」
「大丈夫!ガキの頃、何度も模擬操縦してっから」
「い、今だってガキじゃねえか…」
コナンは「辻さん!このままじゃ墜落するだけだ!協力して!」と言う。
「ううう…分かった…やろう」
「マ…マジ?」
「ほ、本当にコナン君が操縦するの…?」
コナンが「高度300フィート、速度40ノット。いいよ」と指示を出すと、辻は「い…いくぞ…」と答える。
辻がレバーを下げると、ヘリコプターの高度が下がる。
「高度200フィート、速度30ノット。右ペダル10度踏んで」
辻が右ペダルを踏むと、帝丹小学校の校庭が見えてくる。
「校庭へストレート・イン!距離500フィート!」
コナンは探偵バッチを取り出すと、元太に通信する。
「おい元太!聞こえるか?元太!」
『コナンか?』
「今からヘリコプターを緊急着陸させる。みんなを避難させろ!」
『ヘリコプターって?』
『ん?』
『うわーっ!みんな逃げろ!ヘリコプターが落ちてくるぞ!』
校庭の真上にくると、ヘリコプターが回る。
「左へ回転してる!右ペダルを強く!」
そのままヘリコプターは校庭に落ちていく。
「ヤバイ!ダウンウォッシュに入った!」
ヘリコプターはそのまま校庭に墜落するが、校舎にぶつかる前に停まる。
「うぐ…」
「ううー!!」
倒れた機体の扉を蹴り破ると「助かった…!」と小五郎が降りて来る。
続いて目暮もヘリコプターの外に出る。
「コ、コナン君大丈夫?」
「な、なんとかね…」
「辻さん?」
「あ、ああ…」
名前は扉を押し開けると、先に外に出ていた目暮が手を出す。
「苗字君」
「目暮警部、ありがとうございます」
目暮の手を借りてヘリコプターから降りると、名前は振り返ってコナンの名前を呼ぶ。
「コナン君」
「ありがとう、名前刑事」
両手を広げてコナンを抱き上げると、その後ろから辻が現れる。
「大丈夫ですか?辻さん!」
「ハッ!燃料が漏れてる!」
「何!?」
燃料が漏れている事に気づいた名前達が急いでその場から離れるために駆け出すと同時に、燃料に引火して大きな爆発が起こる。
「ああ!」
「ああっ…」
5人はなんとか爆発前にヘリコプターから離れたが、爆風にあおられて吹き飛ばされた。
「〜ッ!!」
「だ、大丈夫か!」
「は、はい…!」
擦り傷だらけの名前は「い、生きてて良かった…」とホッとする。
「辻さん、大丈夫ですか?」
「ああ…」
校庭にいた歩美、元太、光彦がコナン達に駆け寄って来る。
「コ、コナンくーん!!」
「大丈夫ですか?」
「す、すっげーな!」
「おまえら…」
歩美は「ヘリコプター、爆発しちゃったね…」と言うと「まあ、命があっただけマシだな」とコナンが答える。
「それにしても、誰が操縦してたんですか?」
「オレだよ」
「えー!!コナン君、ヘリコプター操縦できるの?」
「まあな」
「ズリーぞコナン!オレだって操縦したかったのによォ!」
そんな話をしていると、救急車と消防、そしてパトカーが帝丹小学校に到着した。
「辻さん、救急車が到着しましたよ」
「ありがとう…」
名前は辻を救急車に乗せると、救急隊員に「目薬をさしたのですが、多分、散瞳剤だと思います」と伝える。
「散瞳剤?分かりました」
辻を乗せた救急車が走り出すと「苗字君、後は任せて我々は一旦署に戻ってから聞き込みだ」と目暮が声をかける。
「分かりました」
名前はコナンに目線を合わせるようにかがむと「コナン君、ケガはしてない?」と聞く。
「大丈夫だよ」
「それなら良かった。コナン君、ありがとう」
「え?」
「コナン君が操縦してくれたおかげで助かったよ!」
「どういたしまして!」
目暮は「それじゃあ毛利君、聞き込みが終わったら連絡する」と言う。
「お待ちしております、警部殿!」
聞き込みが終わった名前と目暮は、小五郎達の待つ阿笠の病室に向かった。
「しかし、みんな無事で良かった」
「でも博士、ズルいんだぜコナン。自分だけ本物のヘリコプター操縦しちゃってよ」
「そういう問題か!死ぬとこだったんだぞ!」
「その事なんだが、やはり辻さんがさした目薬は、ビタミン剤から散瞳剤にすり替えられていた」
目暮がそう言うと、名前もうなずく。
「散瞳剤?」
「仮性近視の治療などに使われとる、瞳孔を開かせる薬のことじゃな?」
「なるほど…それで太陽の光に目がくらんだのか」
「ただし、辻さんがさしたのは虹彩炎という病気の治療用だ」
「虹彩炎?」
「どう違うんですか?」
蘭が聞くと、目暮は警察手帳を取り出す。
「うむ…仮性近視用のは差してから5分ほどで効きだして、元に戻るのも早い。逆に虹彩炎の方は、効きだすのに数十分かかって元に戻るのに時間がかかるんだ」
「時間がかかるって?」
「個人差もありますが、10日から2週間、瞳孔が開いたままらしいです…」
「そんなに?」
「それじゃあ木曜から始まる全米オープンは…」
「キャンセルするしかないだろう」
「ああ…」
それを聞き、小五郎は自分のせいだと落ち込む。
「ねえ、犯人はいつ目薬をすり替えたの?」
「その事なんだが、辻さんは今朝、車庫から車を出した後、車の中で目薬を差したそうだ。その直後にガラスの割れる音が聞こえ、目薬をセンターコンソールに置いたままいったん家の中に戻ったんだ。どうやら石が投げ込まれて窓ガラスが割れたらしい」
「石?阿笠博士の時と同じだ!」
「ところが辻さんが、子どものイタズラだろうと思い、お手伝いさんに後を任せて戻り、出かけたんだ」
「石を投げ込んだのは間違いなく犯人です!目薬は、辻さんが家の中に戻っている間にすり替えられたんだ」
「ああ。恐らくな」
話がひと段落したタイミングで、白鳥が病室に入って来る。
「警部!」
「犯人は村上丈に間違いありません。こんなものが発見されました」
白鳥は胸ポケットからトランプの10のカードを取り出す。
「スペードの10…」
「毛利君!次に狙われるのは9だ!君の知り合いで、九のつく者はいないのか?」
目暮が聞くと「それが、思いつかないんです。八ならいるんですが」と答える小五郎。
「八?」
「ソムリエの沢木さんです。彼は名前を公平さんと言いまして、”公”の上の部分は”八”なんです」
「よし。その沢木っていう人に会いに行こう」