「毛利さん!私だってボウガンで狙われたじゃないですか!」
「ありゃあなたが前もって仕掛けていた物です。昨夜、このアクアクリスタルで旭さんを殺害した後でね」
小五郎がそう言うと「では、テーブルの下に落ちてた置手紙も…」とフォードが聞く。
「俺達に電話してきた秘書もか?」
「全て沢木さんです。もちろん、奈々さんに夜光塗料入りのマニキュアを贈ったのもね」
目暮が「動機は?動機は何なんだ?」と聞くと、小五郎は「恐らく、味覚障害に関係が…」と答えた。
「ミカク…ショウガイ?」
フォードが意味が分からないという顔をすると、宍戸が「食べ物や飲み物の味が分からなくなるあれだろ?」と説明する。
「はい。彼はその味覚障害にかかっているんです」
「ええ!?」
「ん?」
「味覚障害は、精神的ストレスや頭部外傷などが原因でなる事があるそうです」
小五郎の言葉を聞き、名前は「頭部外傷という事は、小山内さんが起こした交通事故の相手が沢木さんだった、という事でしょうか…」と理解した。
「ちょちょちょ…ちょっと待ってくれ!」
目暮は信じられないと言った表情で小五郎に聞く。
「君は、味覚障害と言うが、彼は奈々さんが持ってきたワインの銘柄を当てたじゃないか!」
「彼は、ワインの色と香りだけで銘柄を当ててしまったんです」
「そ、そんな事ができるんですね…」
名前達は驚いた顔で沢木の事を見た。
「沢木さんは残された視覚と嗅覚だけを頼りに、その後もソムリエを続けていました。だがそれは、完璧なソムリエでありたいという沢木さんの美学に反する事だった。だから沢木さんは、ソムリエの仕事を捨て、田舎へ帰る事にした。その前に、奈々さんを含む、自分を味覚障害に陥れた者達への復讐をしてね」
沢木の復讐の相手は、旭、小山内、辻、仁科の4人だった。
「よほど悔しかったんでしょうな。自分がレストランを開く時のために、ずっと大事に取っておいた宝物のワインを割ってしまうくらいですから」
「フローリングの床の傷、あれは沢木さんがワインを叩き割った時にできたものだったんですね…」
「しかし、どうして君はそんな事まで分かったんだ?」
沢木を見ていても、味覚障害があるとは分からない目暮が小五郎に質問をす。
「ええ。彼が調味料の味見をしていたからです。彼が味見をしていたのはチリ・パウダー。つまり、トウガラシの粉なんです」
「たしかに、ソムリエのように舌を使う仕事をする人は、刺激物などは口にしないですね」
「そう。彼が味覚障害にかかっている事は、私がコナンに持ってこさせたミネラルウォーターで確かめる事ができました」
沢木が不思議そうに「ミネラルウォーター?」と復唱する。
「コナンがあなたに渡したグラスにだけ、塩が入っていたんです」
「フッ…それを私は気づかずに飲んでしまったのか。確かに私は味覚障害にかかっています。でも、だからといって私が奈々さんを殺した証拠にはならないでしょう」
そう言いながら、沢木は小五郎に近づいて行く。
「証拠ならあります。あなたの上着、左右どちらかのポケットに」
そう言われた沢木は、上着のポケットの中に手を入れる。
「あっ…ハッ!」
ポケットの中には、小山内が落書きをしたワインのコルクが入っていた。
「それって!」
「奈々さんがイタズラ描きしたコルク!」
「奈々さんが殺される直前まで手にしていたそのコルク、なぜあなたのポケットにあったのです?」
沢木は悔しそうな顔をしながらコルクを握りつぶす。
「それはあなたに後ろから刺された奈々さんが、振り返りしがみついた。その時、コルクがポケットに入り込んだのです。床に落ちていたつけ爪は、この時剥がれたのでしょう。ソムリエのあなたが、ワインのコルクで犯行を証明されるなんて皮肉なもんですな」
沢木は眉間にしわを寄せる。
「さらにもう一つ!恐らく、あなたのポケットの中に…」
小五郎の後ろに隠れているコナンがポケットからトランプのカードを取り出すと、沢木の方に向かって投げる。
「まだ眠っているはずだ」
沢木の足下には2から6のカードが散らばった。
「その柄と同じ、使い残したスペードのエースが…工藤新一のカードがね!」
小五郎がそう言うと、沢木は内ポケットからカードを取り出す。
「スペードのエース!」
沢木は、小五郎の隣のベンチで座って休んでいる蘭に向かって、スペードのエースのカードを飛ばす。
「毛利さん、全てあなたがおっしゃったとおりだ。3か月前、私は店から帰る途中、彼女の車と接触しそうになって転倒した」
全ての罪を認めた沢木が話し始めた。
「それからしばらくして、突然味が分からなくなった。医者からはストレスが原因の可能性もあると言われた。絶望した私は、もはやソムリエである事を諦め、事故の原因を作った小山内奈々とストレスの原因となっている旭、辻、仁科への復讐を決意した」
沢木はそう言うと、旭、辻、仁科にされた事を話し始めた。
「そんな事で辻さんを殺そうとしたのか…」
「そんな事だと!?貴様らにあの時の私の気持ちは分かるまい!私が天職として目指したソムリエの品格、名誉、プライド!その全てをあの男は汚い足で踏みにじったんだ!」
名前は「…村上丈も殺害したんですか?」と聞く。
「ああ…。村上とは、あいつが仮出所した日に、偶然毛利探偵事務所の前で会った。私はうまい事村上を利用できないかと思い、毛利さんの知り合いだと言って誘った」
沢木はその日の事を思い出しながら語り始めた。
「村上は、事件当時こそ毛利さんを恨んでいたが、今はただあの時の事を謝りたくて会いに来たと言っていた。その時だよ、トランプの数字を使って自分の犯罪をカムフラージュしようと思いついたのは。酔い潰れた村上を殺すのは、簡単だった」
「ひ、酷い…」
「それじゃあ毛利さんや目暮警部には、何の恨みもなかったのか!?」
「その通り」
目暮の問いかけにそう答えた沢木の言葉を聞き、フォードと宍戸も質問をする。
「ボクと宍戸さんを呼び寄せたのは」
「足りない6と4をそろえるためか!」
「そうだ。5と3の毛利さんと白鳥刑事は、私が旭さんに呼ばれた話をすれば、当然ついてくると思った。本当は、1の工藤新一も来る事を期待していたんだが…それは残念ながら叶わなかった」
「関係のない者が死んだらという事は、考えなかったのかね!?」
「海中レストランを爆破したのも、ただ仁科を殺すためだ。他の連中は、死のうが生きようがどうでもよかった」
沢木はポケットに手を突っ込んだまま、偉そうに言う。
「後はここが崩れ落ちて、村上の行方はつかめず迷宮入りになるはずだった」
「ここが崩れ落ちて?」
目暮が沢木に近づくと「沢木さん、もう逃げ場所はない。観念するんですな」と言った。
「(まさか…!)」
名前は沢木を取り押さえるために走り出そうとした。
「白鳥刑事!沢木さんを取り押さえるんだ!」
「何?」
「へっ?」
沢木は内ポケットから起爆装置のスイッチを取り出すとボタンを押して、仕掛けていた爆弾を爆発させた。
「おおっ!?」
「ううっ!」
爆発の衝撃で全員が床に転ぶ。
「うわっ!」
「な、何だ!?」
その衝撃で小五郎がベンチから落ちると「な、何だ!?」と大きな声を出す。
「でやーっ!」
「ヤバい!」
沢木は持っていたナイフを取り出すと、疲れ果てて座っている蘭の腕を掴んで走り出した。
「来い!」
「しまった!」
「蘭ちゃん!」
沢木は階段を駆け登ると階段の途中で立ち止まり、蘭の首筋にナイフを突き当てる。
「はあ?どうして沢木さんが蘭を?」
「何を言っとるんだ!君が奴の犯行を暴いたんじゃないか!」
「えっ!?私が?」
状況を理解していない様子の小五郎に、目暮が説明をする。
「フフフッ…みんな動くな!動くとこの子の命はないぞ!」
建物が爆発の衝撃でどんどん崩れていく。
「おおっ!?」
「うわーっ!」
「さっきの爆発で、建物全体のバランスが崩れ始めてます!」
先程まで階段にいた沢木と蘭の姿がない。
「蘭!どこだ蘭!」
「蘭ちゃん!」
「あそこだ!」
コナンは階段を駆け登っていく沢木と蘭の姿を見つける。
「どこへ行く気だ?」
「ヘリコプターで逃げるつもりなんだ」
「何?」
上空を見上げると、ヘリコプターが建物の屋上付近を飛んでいた。
「ここからの脱出用に、秘書の名前を使って呼んであったんだよ」
「そうはさせるか!」
そう言うと、小五郎は蘭達の後を追う。
「おい!毛利君!あとは我々に…!」
コナンも小五郎の後を追う。
「ああっ!コナン君!」
「君達はすぐに避難するんだ!」
目暮が3人にそう言うと「わ、私は泳げないんだ…!」と仁科が力なく言う。
「心配すんな!板切れでも探して、しっかり岸まで連れてってやるよ!」
宍戸がそう言うと、目暮は「行くぞ、苗字君、白鳥君!」と言って小五郎達の後を追う。
「はい!」