名前はホテルのレストランでご飯を食べながらキッドの予告状について考えていた。
「うーん…本当に午前3時なのかな?」
キッドの予告状で、どうしても納得できない部分があり、一人で考えていてもまとまらないため、最終手段に出ることにした。
「出るかなー…」
部屋に戻り、携帯を取り出すと、降谷に電話をかける名前。
何回かコール音が鳴った後、通話が繋がった。
「あ、もしもし零君?」
『どうした?』
「今大丈夫?」
『ああ』
名前は「今、大阪に来てるんだけど、怪盗キッドからの予告状が届いて捜査二課の刑事さん達と一緒になったんだ」と手短に状況を説明する。
『怪盗キッド?ああ、最近まだ出てくるようになった怪盗か』
「うん。それでね、予告状の時間を示す一文が、どうしてもしっくりこなくって」
『なんていう文章なんだ?』
「”秒針のない時計が、12番目の文字を刻む時”」
『秒針のない時計…12番目の文字…』
降谷は名前の言葉を復唱し、少し考え込むと『予告状の内容を教えてくれ』と伝える。
「予告状は”黄昏の獅子から暁の乙女へ。秒針のない時計が12番目の文字を刻む時、光る天の楼閣からメモリーズ・エッグをいただきに参上する。世紀末の魔術師、怪盗キッド”だよ」
『黄昏の獅子から、暁の乙女へ…。秒針のない時計が、12番目の文字を刻む時…』
「毛利さんは、アルファベットで数えた12番目の文字が”L”だから午前3時って言ってた」
降谷は少し黙り込むと、名前から聞いた文章を頭の中で繰り返し思い浮かべる。
『…12番目…。黄昏の獅子から暁の乙女へ。…名前、キッドの予告した時間は午前3時じゃなくて午後7時20分だ』
「えっ!?」
『この予告状の文章、黄昏の獅子から暁の乙女への”へ”は、頭から数えて12番目だ』
「うそ!?」
名前は予告状の最初の文章を数える。
「ほ、本当だ!」
『”へ”は時計にすると午後7時20分だ。この後すぐキッドが現れるぞ』
「で、でも…光る天の楼閣が天守閣で合ってるなら、そこにはすでに捜査二課の刑事さん達と警察官が待機してるから問題ない、かな?」
『…本当に光る天の楼閣が天守閣なのか?』
「…まさか」
名前は財布を持ってホテルの部屋を出ると、その瞬間、街の明かりが消えた。
「えっ!」
『どうした?』
「ま、街中が停電したの!」
『何?』
そして天守閣の周りから花火が上がり始める。
「天守閣から花火が…」
『…自分が現れようとしている場所に、わざわざ注目が集まるような事はしないはずだ。天守閣の反対側には通天閣があったよな』
「うん。そういえば、通天閣にはネオンの光で次の日の天気を知らせてる光の天気予報があるね」
『なるほど。だから光る天の楼閣なのかな。キッドは通天閣から現れるって事だ』
降谷の推理を聞いた名前は「で、でも、キッドが狙ってるエッグは中森警部が別の場所に隠したって言ってたんだ。だからキッドはエッグの場所が分からないはず…」と言った。
『だからその停電なんだ』
「この停電?」
『ああ。キッドは刑事がエッグを別の場所に隠すと、予告状を出す前から予想していた。だから街中を停電させて、自家発電に切り替えさせる。そして、病院やホテル以外で明かりがつく場所がエッグの隠し場所になると考えたんだ』
「な、なるほど…。たしかに、通天閣の上なら明かりがつくのを見渡すのに最高な位置取りだね」
『外部から気づかれないように、外の警備は手薄のはず。怪盗キッドもなかなかやるな』
「感心してる場合?」
名前はあきれたように言う。
「でも、零君のおかげでキッドの狙いが分かったよ!ありがとう」
『君は捜一だろう?キッドの事件とは関係ないんじゃないのか?』
「そうなんだけどね。コナン君達がこの事件に関わってるから、少し心配で」
『ああ、あの小学生の』
「わりと危ない事に首を突っ込むタイプの小学生だからさ」
降谷は『それで君まで危ない事に巻き込まれるのは、僕としてはやめてほしんだがな』と言った。
「エへヘ、努力します」
『今、どこに向かおうとしているんだ?』
「とりあえず、今から通天閣の方に行っても間に合わないから風上に。キッドの使うハンググライダーは軽い向かい風が必要だから」
『それがいい』
「零君、ありがとう。仕事中にごめんね」
『役に立てて良かったよ』
名前は通話を切ると、大通りに出てタクシーを拾う。
「大阪湾の方に向かってください!」
「向かいたいのはやまやまなんやけどなぁ、この渋滞じゃあ走った方が早いかもしれへんで?」
信号機も停電しているので、道路は大混雑していた。
「た、たしかにそうですね」
名前はタクシーを降りて大阪湾に向かって走る。
「ハァ…ハァ…見えた!」
前の方に、キッドのハンググライダーを確認した名前。
「やっぱり、大阪湾の方に向かって高度を落としてる!」
名前は上空を飛んでいるキッドが高度を下げ始めている事に気づき、走るスピードを速めた。
しかし、飛んでいたはずのキッドの体が何かに当たり、そのまま力なく落下するように落ちて行く姿を見て「え…?」と驚いた声を出す。
「な、何…?」
大阪湾に到着すると、名前は辺りを見回す。
「キッドに…何かが当たったように見えたけど…」
大沢湾沿いに歩いていると、水の中から這い出て来る怪盗キッドの姿を見つけた。
「か、怪盗キッド!?だ、大丈夫?」
「ッ!」
名前に名前を呼ばれたキッドは、驚いて振り返る。
「血、血が…」
キッドが右目を押さえており、傷の具合は確認できないが、血が流れている事に気づいた名前は急いでキッドに駆け寄った。
「あ、あなたは…?」
「…警視庁捜査一課の刑事です」
「なるほど…。私を逮捕しに来た天使、という事ですね…」
「そんなセリフが言えるなら、傷はそんなに深くなさそうだね」
名前はキッドの傍に座ると「傷を見せて」と言った。
「大丈夫です」
「いいから!」
「さすがに素顔を見せる事はできません。お気持ちだけ頂いておきます」
「…手当てしてくれる人はいるの?」
「…」
名前がそう言うと、キッドはポカンとした顔をした。
「え?」
「あ、いえ…。逮捕するんじゃないんですか?」
「そりゃあ逮捕したいけど、私だけで逮捕できる相手なら、とっくの昔に捕まってるでしょ?どうせ逮捕しようとしても、簡単に逃げられるでしょ?」
「…まあ」
キッドが答えると、名前は「でしょ?だから今日のところは見逃してあげる。エッグも持ってないみたいだし」と言う。
「ありがとうございます」
「でも、次はないよ?次は中森警部や茶木警視が相手だからね!」
「…フッ」
「ちゃんと手当てしてね!絶対だよ!」
キッドは立ち上がると「次にお会いできる日を楽しみにしています」と言って、その場を去って行った。
「…キッドを逃がしたって、私怒られたりしないよね?」
名前はキッドの後ろ姿を見送りながら苦笑いを浮かべた。
次の日、名前は予定通り朝イチの新幹線で東京に戻った。
大阪湾の近くでキッドが落としていったエッグはコナンが無事に回収し、傷がないかを調べるために鈴木家の船で東京に持ち帰る事になった。
「おはようございます、目暮警部」
「おお、苗字君。研修どうだった?」
「とても勉強になりました!参加させていただき、ありがとうございました!」
「それなら良かった。それにしても、キッドの事件にも巻き込まれたんだろ?中森が言っておったぞ」
目暮にそう言われ、名前はドキッとした。
「あ、アハハ。巻き込まれたと言うほどのものでは…」
そこに佐藤と高木がやって来た。
「名前さん、おはようございます」
「美和子ちゃん、おはよう。それに高木君も…って、あれ?そのケガどうしたの?」
名前は高木の目の上の絆創膏を見た。
「聞いてくださいよ〜!これ、昨日犯人とやり合っちゃって…」
「そうだったの?気をつけてね」
「ハイ、ありがとうございます」
「白鳥君は、昨日から軽井沢だっけ?」
「そうですよ!いいですよねー軽井沢!私も行きたいですよ」
そんな話をしていると、東京に向かっているはずの史郎の秘書、西野から連絡が入った。
「何ィ?船の中で殺人事件!?分かった、すぐに行く」
「まさか鈴木家の船で事件だなんて…」
「と、とりあえず急ぎましょう!」
「そうだな」
ヘリポートに向かおうと捜査一課を出ると、荷物を持った白鳥が前から歩いてきた。
「あれ?白鳥君?」
「おや?休暇で軽井沢じゃなかったのか?」
目暮がそう聞くと「別荘にいるのも飽きてしまって」と白鳥が答える。
「事件ですか?」
「丁度いい。君も来たまえ」
名前達はヘリに乗って鈴木家の船に向かった。