「警部殿、お待ちしておりました!」
「…ったく、どうして君の行くところ行くところに事件が起こるんだ」
「いやあ、神の思し召しというか…」
白鳥は「毛利さん自身が神なんじゃないんですか?死神という名の」と言った。
「うっ…!」
「白鳥君ったら…。毛利さん、すみません」
「白鳥警部補キツッ〜」
小五郎はそう呟いた高木を見ると「ああ?何だ?その絆創膏」と、絆創膏の貼られている高木の右目の上を見ながら聞いた。
「えっ、いや…いえ、昨日ちょっと犯人とやり合っちゃって…!」
高木はそう言いながら右目を隠した。
「うん?」
「被害者は寒川竜さん、32歳。フリーの映像作家か」
寒川の部屋に入った名前は、荒された様子の部屋を見て「何かを捜していたんでしょうか?」と言った。
「その通り!警部殿!これは強盗殺人で、犯人が奪ったのは指輪です」
「指輪?」
「はい!ニコライ2世の三女、マリアの指輪で寒川さんはペンダントにして首から提げてました」
「指輪を取るだけなら首から外せばいいだけでしょ」
そんな小五郎の話にコナンが割って入る。
「でも、部屋を荒らした上、枕まで切り裂いてるのはおかしい」
「こいつまたチョロチョロと…!」
「目暮警部、床にこれが」
鑑識が目暮に渡したのは、1本のボールペンだった。
「ボールペンか。うん…?」
目暮は蓋の部分をクルっと回し「”M・NISHINO”?」と書いてある名前を読み上げた。
「NISHINOって、あの秘書の西野さん?」
「とりあえず、その西野って人に話を聞こう」
「そうですね」
船にあるダイニングスペースに移動すると、目暮は西野に話を聞く。
「このボールペンは西野さん、あなたの物に間違いありませんね?」
「は、はい。でも、それがどうして寒川さんの部屋に?」
「遺体を発見したのはあなたでしたなあ?」
「そうです。食事の支度ができたので、呼びに行ったんです」
「その時、中に入りましたか?」
目暮が聞くと「いいえ」と答える西野。
「入ってないあなたのボールペンが、なぜ部屋の中に落ちてたんだ?」
「分かりません」
「では、7時半ごろ何をしていました?」
「え〜っと…7時10分ごろ、部屋でシャワーを浴びて、その後一休みしていました」
そこに、高木が走って戻って来る。
「目暮警部!」
「ん?」
「被害者の部屋を調べたところ、ビデオテープが全部なくなっていました」
「何?」
「そうか!それで部屋を荒らしたんだな」
コナンが立ち上がってどこかに行こうとするのが見えた小五郎は「あ〜こらコナン!勝手に動くんじゃ…」と止めようとする。
「あっいいの、私が…」
蘭はそう言うと、出て行ったコナンを追いかける。
「どうしましょう。もし西野さんが犯人なら、その指輪が西野さんの部屋にあるはずですが…」
名前がそう言うと「西野さん、あなたの部屋を調べても構いませんか?」と目暮が聞く。
「はい」
西野の部屋を行って調べていると、高木が西野のベッドの下から、内側に”Maria”と彫られた指輪を見つけた。
「警部!ありました!西野さんのベッドの下に」
「そんなバカな!」
「決定的な証拠が出たようですな」
「待ってください警部さん!私じゃありません!」
西野は目暮の襟を掴むと、必死に否定する。
「あんたが犯人でないなら、どうして指輪があったんだ!」
「分かりません、私にも」
名前は部屋の中を見渡す。
「(もし西野さんが犯人なら指輪があるのは間違いないけど…なんで簡単にバレるようなベッドの下に置いてるんだろう…)」
ふと目に入った枕に手を伸ばすと、名前の隣でコナンも同じように枕に手を伸ばした。
「あっ」
「コナン君、またチョロチョロしてると毛利さんに怒られるよ?」
「え、エへヘ…。で、でもさ、この枕」
名前は枕を触ると、シャンシャンという羽毛枕とは違う肌触りと音が鳴る。
「籾殻の枕…」
「籾殻?」
「コナン!」
小五郎が勝手をするコナンを殴ろうとするが、コナンはそれを避ける。
「ねえ、西野さんって羽毛アレルギーなんじゃない?」
「えっ?そうだけど」
「じゃあ西野さんは犯人じゃないよ!」
「何!」
そう言ったコナンを、白鳥が見つめる。
「えっ…」
その視線に気づいたコナンは、白鳥の方を振り返るが「フフッ…いいから続けて」と続きを促した。
「う、うん…」
コナンは恐る恐る続きを話し始めた。
「だってほら、寒川さんの部屋、羽毛だらけだったじゃない?犯人は羽毛枕まで切り裂いてたし、羽毛アレルギーの人があんな事するはずないよ。だ、だよね名前刑事!」
「えっ?あ、ああ、うん、そうだね。籾殻の枕だし、もし本当に西野さんが羽毛アレルギーなら、あの部屋で耐えられるはずはないよね」
「本当に羽毛アレルギーなのかね?」
ダイニングスペースに戻り、史郎にアレルギーの有無を確認する。
「はい。それは私が証人になります。彼は少しでも羽毛があると、くしゃみが止まらなくなるんです」
「だから、西野さんの枕は羽毛じゃないんだね」
「となると犯人は一体…」
目暮が腕を組んで悩んでいると、コナンが「警部さん、スコーピオンって知ってる?」と聞いた。
「スコーピオン?」
「色んな国でロマノフ王朝の財宝を専門に盗み、いつも相手の右目を撃って殺してる、悪い人だよ」
「おお、そういえばそんな強盗が国際手配されておったな…。ええ!?それじゃあ今回の犯人も!」
「その、スコーピオンだと思うよ。多分、キッドを撃ったのも」
「何だって!」
コナンの言葉に、目暮や名前、高木、そして小五郎が驚いた。
「キッドのモノクルにヒビが入ってたでしょ?スコーピオンはキッドを撃って、キッドが手に入れたエッグを横取りしようとしたんだよ」
「そ、そっか…だから右目を…」
「なんでお前スコーピオンなんて知ってんだよ」
小五郎がコナンに聞くと「あっ、いやでも、あれがつまり…」とコナンは誤魔化そうとする。
「阿笠博士から聞いた」
白鳥の言葉に、コナンは驚いた顔をして振り返る。
「えっ!?」
「そうだよね、コナン君?」
「あっ、うん、そう…」
「しかし、スコーピオンが犯人だったとして、どうして寒川さんから奪った指輪を西野さんの部屋に隠したんだ?」
「それがさっぱり…」
コナンは「ねえ、西野さんと寒川さんって知り合いなんじゃない?」と西野に聞く。
「えっ?」
「昨日美術館で、寒川さん西野さんを見てびっくりしてたよ」
「本当かい?」
コナンに言われた西野は、まるで覚えがないという顔をした。
「西野さんって、ずっと海外を旅して回ってたんでしょ?きっとその時どこかで会ってるんだよ!」
「う〜ん…あーっ!」
少し考えたと思ったら、すぐに大きな声を出した西野。
「知ってるんですか?寒川さんを」
「はい!3年前にアジアを旅行していた時の事です。あの男、内線で家を焼かれた女の子をビデオに撮っていました。注意してもやめないので、思わず殴ってしまったんです」
「じゃあ寒川さん、西野さんの事恨んでるね、きっと」
「分かった!」
小五郎がそう言うと、コナンは嬉しそうな顔をした。
「西野さん、あんたがスコーピオンだったんだ!」
コナンは小五郎のセリフを聞いて呆れた顔をした。
「毛利君、それは羽毛の件で違うと分かったじゃないか…」
「ああ〜そうでしたなあ…」
「でも西野さん助かったね!」
「えっ?」
「だって、もし寒川さんがスコーピオンに殺されてなかったら、西野さん指輪泥棒にされてたよ」
「ああ?待てよ…」
コナンのその言葉に、小五郎はようやく真実に辿り着いた。
「そうか!この事件、2つのエッグならぬ2つの事件が重なっていたんです!」
「2つの事件?」
「1つ目の事件は、寒川さんが西野さんをハメようとしたものです。彼は、西野さんに指輪泥棒の罪を着せるため、わざとみんなの前で指輪を見せ、西野さんがシャワーを浴びている間に部屋へ侵入し、自分の指輪をベッドの下に隠したんです。そしてボールペンを取った。西野さんに指輪泥棒の罪を着せるために」
小五郎の推理に「なるほど!」と名前は納得した。
「ところが、その前に第2の事件が起こったんです。寒川さんは…スコーピオンに射殺された。目的は恐らく、スコーピオンの正体を示す何かを撮影してしまったテープと指輪。しかし、首からかけてあったはずの指輪が見つからないので、スコーピオンは部屋中を荒らして捜したんです」
「すごいやおじさん、名推理だね!」
「フン!俺にかかりゃあこのぐらい!」
小五郎がそう言うと、コナンは「アハハッ…」と苦笑した。
「という事は、スコーピオンはまだ、この船のどこかに潜んでいるという事か」
「その事なんですが、救命艇が1艘なくなっていました」
白鳥がそう言うと「何!」と目暮が驚いた。
「えっ…」
「それじゃあスコーピオンはその救命艇で…」
「緊急手配はしましたが、発見は難しいと思われます」
「取り逃がしたか…」
目暮は悔しそうにそうつぶやいた。