美術商の乾将一がそう言うと「はい。安心しました」と、その場にいた全員が口々に言う。
鈴木家の船には、パティシエールでもう一つのエッグの持ち主である香坂夏美、香坂家の執事の沢部蔵之介、ロシア大使館一等書記官のセルゲイ・オフチンニコフ、ロマノフ王朝研究家の浦思青蘭が乗っていた。
「しかし、スコーピオンがもう1個のエッグを狙って香坂家の城に現れる可能性はあります」
「えっ?」
「いや、もうすでに向かっているかも…。目暮警部!」
「んっ?」
白鳥は「明日、東京に着き次第、私も夏美さん達と城へ向かいたいと思います」と目暮に言った。
「分かった、そうしてくれ。苗字君、君も一緒にだ」
「分かりました」
「おい、聞いた通りだ。今度ばかりは、絶対に連れて行くわけにはいかんからな」
小五郎がコナンにそう言うが、白鳥が「いえ、コナン君も連れていきましょう」と提案した。
「何?」
「えっ?」
「彼のユニークな発想が、役に立つかもしれませんから」
「こいつの?」
「ええ」
そう言うと、白鳥は笑っているがどこか不気味な表情でコナンに笑いかける。
次の日、香坂家の所有するエッグがある横須賀のお城に向かう名前と白鳥。
その車の中で、名前は白鳥に「ねえ、白鳥君」と声をかけた。
「何ですか?」
「…なんだかいつもと様子が違くない?」
「そうですか?いつも通りですけど」
「なーんかコナン君の事、いつも以上に気にしてない?」
名前がそう聞くと「そんな事ないですよ。ただ、彼に少々興味が湧いただけです」と白鳥が答える。
「それならいいけど…変な私情とか挟んじゃダメだよ?」
「もちろんですよ」
お城に到着すると、先に車から降りていた蘭が「わあ…本当にきれいなお城!」と感想をもらした。
「ドイツのイノシュバンシュュタイン城に似てますね」
白鳥はそう言うと「シンデレラ城のモデルになったといわれる」と続けた。
そこに阿笠の運転するビートルが到着し、子ども達が一緒に車から降りて来た。
「あ…ゲッ!」
「ようコナン!」
「コナンく〜ん!」
「元気ですか?」
蘭は「博士どうしてここへ?」と質問をする。
「いやあ、コナン君から電話をもらってな。ドライブがてら来てみたんじゃよ」
「まるでおとぎの国みたい!」
歩美がお城を見ながら言う。
「この中に宝が隠されてんですね」
「うな重何杯食えっかな?」
小五郎は「いいかおまえ達!中へは絶対入っちゃいかんぞ!」と釘を刺した。
「は〜い!」
「分かってま〜す!」
そんな子ども達を見て、名前は「元気だね〜」と微笑む。
「乾さん遅いですね?」
「ええ。何か寄るところがあるとか言ってましたけど」
そんな話をしていると、タイミング良く乾が到着する。
「いやあ、悪い悪い!準備に手間取ってな」
乾はリュックを背負ってやって来た。
「何です?その荷物。探検にでも行くつもりですか?」
小五郎がそう聞くと「んん〜…何、備えあれば憂いなしってやつですよ」と言って乾は笑った。
全員が揃ったところで沢部が入り口の鍵を開けて、順番にお城の中へと入る。
「あっ、鍵をかけてください」
「はあ?」
小五郎に言われた沢部は一瞬訳が分からないという顔をしたが「子ども達が入り込まないように」と理由を聞いて納得し「はい」と返事をして扉の鍵をかけた。
中に入ると、沢部が城の中を1階から案内する。
「ここは騎士の間です。西洋の甲冑とタペストリーが飾られております」
2階に上がると、絵画が壁一面に飾られた部屋に案内される。
「ここは貴婦人の間です。大奥様はよくここで、1日中過ごしておられました。この部屋が一番、気が休まるとおっしゃられて」
隣の部屋は、貴婦人の間とはまたガラッとイメージが変わった部屋だった。
「こちらは皇帝の間でございます」
「なあ、ちょっとトイレ行きたいんだが」
乾が沢部に聞くと「トイレなら廊下へ出て右の奥です」と教える。
皇帝の間を見て回っていると、どこかの部屋からジャラジャラという大きな音が聞こえて来る。
「な、何の音だ!?」
「きっと、貴婦人の間からでしょう」
沢部がそう言うと、名前達は「何かあったのかもしれません!」と急いで貴婦人の間に向かう。
「あっ!」
「こりゃ一体…」
「す、すごいですね」
白鳥が貴婦人の間の扉を開けると、そこには宝が隠された絵画のトラップに捕まった乾の姿があった。
「ハァハァハァ…」
「80年前、喜市様が作られた防犯装置です」
沢部はそう言いながらポケットから鍵を取り出して、乾の腕に掛かっている手錠を外した。
「この城にはまだ他にもいくつか仕掛けがありますから、ご注意ください」
「つまり、抜け駆けは禁止って事ですよ、乾さん」
白鳥は、乾のリュックの中身を厳選していき、その中から懐中電灯を選んで乾に投げる。
「道具は懐中電灯だけあれば十分でしょう」
「チッ…」
コナンは「ねえ、このお城に地下室は?」と沢部に聞く。
「ありませんが」
「じゃあ1階にひいおじいさんの部屋は?」
「それでしたら執務室がございます」
1階の執務室に向かう。
部屋の明かりをつけると「どうぞ」と中に招き入れる。
「こちらには、喜市様のお写真と当時の日常的な情景を撮影されたものが展示してあります」
壁には白黒の写真や、たくさんの本が飾ってあった。
「ねえ夏美さん、ひいおばあさんの写真は?」
「それがね1枚もないの。だから私、曾祖母の顔は知らないんだ」
「ふ〜ん…」
乾は壁に飾ってある1枚の写真を指さして「おい!この男、ラスプーチンじゃねえか?」とセルゲイに言う。
「ええ。彼に間違いありません。”ゲー・ラスプーチン”とサインもありますからね」
セルゲイは写真を確認すると、乾の言葉にうなずいた。
「ねえお父さん。ラスプーチンって?」
「い、いや…俺も世紀の大悪党だったという事くらいしか…」
「ヤツはな”怪僧ラスプーチン”と言われ、皇帝一家に取り入ってロマノフ王朝滅亡の原因を作った男だ」
乾は「一時、権勢をほしいままにしたが、最後は皇帝の親戚筋に当たる、ユスポフ公爵に殺害されたんだ。川から発見された遺体は、頭蓋骨が陥没し、片方の目が、潰れていたそうだぜ」と説明した。
「乾さん、今はラスプーチンよりもう一つのエッグです」
小五郎はおもむろにタバコを取り出すと、火をつけた。
「フゥ〜、そうは言ってもなあ。こんな広い家の中からどうやって捜しゃいいんだ」
コナンは小五郎に近づいていくと「おじさん、ちょっと貸して!」と言って、小五郎が持っていたタバコを奪い取る。
「こ、コラ!」
「下から風が来てる!この下に秘密の地下室があるんだよ!」
「何!」
「えっ?」
蘭は灰皿を持ってコナンに近づくと、コナンはタバコの火を消す。
「とすると、からくり好きの喜市さんの事だから、きっとどこかにスイッチがあるはず」
そう言いながら、床を見るコナン。
「あっ!」
1箇所だけ凹んでいるフローリングを見つけたコナンは、そこに指を入れて開けると中からアルファベットのような文字とスイッチが現れた。
「何だそりゃ!」
「ロシア語のアルファベットですね」
「それで秘密の地下室へのドアが開くのか!」
興奮した様子の乾に「パスワードがあると思うよ」とコナンが言う。
「セルゲイさん!ロシア語で押してみて」
「ああ」
セルゲイは持っていたカバンを床に置き、ボタンの前に移動する。
「”思い出”!”ボスポミナーニェ”に違いない!」
小五郎がそう言うと、セルゲイは”ボスポミナーニェと入力してからスイッチを押す。
「”ボスポミナーニェ”」
しかし何も起こらない。
「あれ?」
「じゃあ”キイチ・コーサカ”だ!」
「”キイチ・コーサカ”」
しかしやはり何も起こらない。
「何も起きねえぞ」
「夏美さん、何か伝え聞いている言葉はありませんか?」
「いいえ、何も…」
「”バルシェ・ニクカッタベカ”…」
コナンがそう呟くと「えっ?」と夏美が言う。
「夏美さんの言ってたあの言葉、ロシア語かもしれないよ」
「夏美さん”バルシェ”何ですか?」
「”ニクカッタベカ”」
「”バルシェ・ニクカッタベカ”?」
「もしかしたら、切るところが違うのかも」
セルゲイは色々な言い方で”バルシェ・ニクカッタベカ”を呟く。
「バル・シェニ・クカッタ・ベカ…う〜ん…バルシェニ…」
「それって”ヴァルシェーブニック・カンツァー・ベカ”じゃないかしら」
そう言ったのは青蘭だった。
「えっ?」
「そうか!”ヴァルシェーブニック・カンツァー・ベカ”だ!」
「それってどういう意味?」
「英語だと”The Last Wizard Of The Century”。え〜っと、日本語では…」
「”世紀末の魔術師”」
「アッ!」
小五郎が「世紀末の魔術師?どっかで聞いたような…」と言うと、蘭は「キッドの予告状よ!」と間髪入れずに答える。
「そうだ!こりゃ、とんだ偶然だな」
「とにかく押してみましょう」
そう言うと、セルゲイは「”ヴァルシェーブニック・カンツァー・ベカ”」と押す。
惜し終わると歯車が動く音が聞こえてきた。
「な、何だ?この音」
床が動き、階段が現れる。
「ああ!」
「こんなものが…」
「でかしたぞ坊主!」
「フッ…」