「それにしても夏美さん」
「はい?」
「どうしてパスワードが世紀末の魔術師だったんでしょう?」
セルゲイが疑問を投げかける。
「多分、曾祖父がそう呼ばれていたんだと思います。曾祖父は1900年のパリ万博に16歳でからくり人形を出品し、そのままロシアに渡ったと聞いています」
「なるほど、1900年といやまさに世紀末ですな」
どんどん中に入っていくが、終わりが見えない。
「ほう…まだ先があるのか。ずいぶん深いんだな」
「すごい地下室ですね…。迷子になりそう」
「まあここまで一本道なんで、大丈夫ですよ」
そんな話をしていると、隣の通路から物音が聞こえてきた。
「ん?」
「どうしたの?」
「今、かすかに物音が」
「スコーピオンか?」
「ボク見て来る!」
「コナン君!」
駆け出したコナンの後を追おうとする蘭を、白鳥が止める。
「私が行きます。苗字さんと毛利さんは、皆さんとここにいてください」
「分かった!」
「気をつけてね!」
名前は少し不安そうな顔でコナンと白鳥の事を待っていたが、2人はスコーピオンではなく子ども達と一緒に戻って来た。
「わー!合流できたよ哀ちゃん!」
「さっすが灰原さんですね!」
「オレ達を置いて行こうたって、そうはいかねえぜ!」
歩美、光彦、元太、そして灰原の4人が合流すると、3人が白鳥の後ろを歌いながらついて行く。
「どういうつもりなんだ?こいつら…」
小五郎があきれた顔をした。
「いいじゃないですか毛利さん。大勢の方が楽しくて!」
「しかし…」
そのまま道なりに進んでいると行き止まりになる。
「えっ?」
「あれ?」
「行き止まり…」
「通路をどこか間違えたのかしら?」
「そんなはずはありません。通路は1本道でしたから」
目の前の壁には絵が描かれている。
「わあ、鳥がいっぱい!」
「あれ?変ですね、大きな鳥だけ頭が2つありますよ」
「双頭の鷲…皇帝の紋章ね」
「ああ。王冠の後ろにあるのは太陽か。太陽…光?」
コナンは名前に駆け寄ると「名前刑事!あの双頭の鷲の王冠に、ライトの光を細くして当ててみて!」と頼んだ。
「えっ?う、うん」
名前が懐中電灯の光を絞って細くしてから王冠に向けると、王冠が光った。
「あ!」
「光ったぞ」
すると地響きが鳴る。
「うわっ、何だ?」
「皆さん、危ないので下がってください!」
壁に隣接していた地面の一部が下に下がっていく。
「入り口が現れた…。そっか、この王冠には光度計が組み込まれてたんだ」
名前の立っていた場所も左右に動いていき、下から階段が現れた。
「すげえ」
「な、なんて仕掛けだ」
階段を降り、中に進んでいくと奥には天井が丸く、大きな棺が置いてある不思議な部屋に繋がっていた。
「まるで卵の中みたい」
部屋の真ん中には何かを置くための台座が用意されていて、その台座の真ん中には小さな穴が開いていた。
小五郎はマッチを使ってろうそくに火をつける。
「棺のようですね」
「作りは西洋風だが桐で作られている」
棺は鍵がかかっている。
「それにしてもでかい錠だな」
「あっ!夏美さん、あの鍵…!」
「えっ?あ、そっか!」
コナンに言われた夏美はカバンから鍵を取り出して棺に駆け寄る。
鍵穴に鍵を入れるとカチャッと回り、鍵が開く音がした。
「この鍵だったのね…」
「開けてもよろしいですか?」
小五郎が夏美に聞くと「は、はい…」と答える。
答えを聞いた小五郎が棺を開けると、中には遺骨と、鈴木家のエッグとは違う、少し大きい赤い色のエッグが置いてあった。
「遺骨が1体…それにエッグだ。エッグを抱くようにして眠っている。夏美さん、この遺骨はひいおじいさんの?」
「いえ。多分、曾祖母のものだと思います。横須賀に、曾祖父の墓だけあって、ずっと不思議に思っていたんです。もしかすると、ロシア人だったために、先祖代々の墓には葬れなかったのかもしれません」
セルゲイと青蘭が夏美に近寄ると「夏美さん」と声をかける。
「こんな時にとは思いますが、エッグを見せていただけないでしょうか?」
「はい」
夏美はエッグを取り出すと「どうぞ」と言ってセルゲイに渡す。
「底には小さな穴が開いていますね」
セルゲイはエッグの周りを見た後に、蓋を開けると「えっ?」と言った。
「空っぽ…」
「そんなバカな!」
「どういう事かしら?」
「それ、マトリョーシカなの?」
歩美がそう言うと、セルゲイと青蘭が驚いた顔をする。
「えっ!」
「マトリョーシカ?」
「私んちにその人形あるよ。お父さんのお友達が、ロシアからのお土産に買ってきてくれたの」
「何だ?そのマトリョーシカって」
青蘭は「人形の中に、小さな人形が次々入っている、ロシアの人形です」と答える。
「たしかにそうかもしれません。見てください」
そう言ってセルゲイは、エッグの中を見せる。
「中の溝は、入れたエッグを動かないように固定するためのもののようです」
「クソッ!あのエッグがありゃ確かめられるんだが…」
小五郎が悔しそうな顔をすると「エッグならありますよ」と白鳥が言った。
「えっ?」
「こんなこともあろうかと、鈴木会長から借りてきたんです」
「ちょ、ちょっと白鳥君、いつの間に…」
そう言うと、バッグの中からもう一つのエッグを取り出す白鳥。
「おまえ…黙って借りてきたんじゃねえだろうな?」
「や、やだなあ。そんなはずないじゃありませんか」
「早速、試してみましょう」
セルゲイにエッグを渡すと、セルゲイはエッグを中に入れる。
「ピッタリだ」
「つまり、喜市さんは2個のエッグを別々に作ったんじゃなく、2個で1個のエッグを作ったんですね」
小五郎はエッグを見ながら「それにしても見事なダイヤですな」と言った。
「いえ、ダイヤじゃないみたいですよ」
「はあ?」
「ただのガラスじゃないかしら、これ」
コナンはエッグの蓋の裏についたガラスと、光を使った今までの仕掛け、そしてこの部屋に設置された台を見てある事に気づいた。
「セルゲイさん!そのエッグ貸して!」
コナンはセルゲイに駆け寄るとエッグを借りる。
「またこいつは!」
「まあ、待ってください毛利さん」
「ああ?」
「何か手伝う事は?」
「ライトの用意を!」
コナンは部屋の真ん中にある台に駆け寄ると「ライトの光を細くして台の中に」と白鳥に頼む。
「分かった」
「セルゲイさん、青蘭さん、ろうそくの火を消して!」
台の周りに集まる。
「一体何をやろうってんだ」
「まあ見てて」
そう言うと、コナンはライトの上にエッグを置く。
すると、エッグが光り、中が透け始める。
「エッグの中が透けてきた…」
「ネジも巻かないのに、皇帝一家の人形がせり上がっている」
「エッグの内部に光度計が組み込まれているんですよ」
中の人形が上がり切り、人形が本のページをめくると、エッグの中につけられたガラスが反射して、頭上のガラスから複数の光の線が出てくると部屋の中の天井付近の壁を360度照らす。
「な、何だ!」
「おおっ!」
「こ、これは!」
「わあ〜!」
「すごい、綺麗…」
壁には写真が映し出されていた。
「ニ…ニコライ皇帝一家の写真です」
「そうか、エッグの中の人形が見ていたのは、ただの本じゃなく…」
「アルバム…」
「だから”メモリーズ・エッグ”だったってわけか」
セルゲイは写真を見ながら「もし、皇帝一家が殺害されずにこのエッグを手にしていたら、これほど素晴らしいプレゼントはなかったでしょう」と感極まる。
「まさに、世紀末の魔術師だったんですな。あなたのひいおじいさんは」
「それを聞いて、曾祖父も喜んでいる事と思います」
「ねえ夏美さん、あの写真、夏美さんのひいおじいさんじゃない?」
コナンが指をさした写真を見る夏美。
「えっ?」
「あの2人で椅子に腰かけて写ってる写真」
「本当だわ。じゃあ一緒に写っているのは曾祖母ね!あれがひいおばあ様…やっとお顔が見られた」
「あの写真だけ日本で撮られたのですね。あとから喜市様が加えられたのでしょう」
光が消え、写真も消えるとエッグはまた元のエッグに戻った。
そのエッグをセルゲイが手に取ると「このエッグは喜市さんの…いえ、日本の偉大な遺産のようだ」と言った。
「ロシアはこの所有権を、中のエッグともども放棄します」
夏美にエッグを渡すセルゲイ。
「あなたが持ってこそ、価値があるようです」
「ありがとうございます。あっ、でも中のエッグは鈴木会長の…」
「鈴木会長には、私から話してあげましょう。きっと分かってくれますよ」