「戸崎さんとですか?」
朝礼が終わった後、名前は戸崎に声をかけられた。
「私とでは不満ですか?」
「そういう事じゃなくてですね!戸崎さんは今後は現場にほとんど出ないっておっしゃってたじゃないですか」
「必要な時は出る、とも言いましたが?」
さらりと言ってのける戸崎に、名前は「警視の戸崎さんは現場に出る必要なんてないんですよー!」とあきれた様に言う。
「現場に出たくなるのは刑事のサガですね」
戸崎は「行きますよ」と言うと、先に歩き出した。
「若い女性を狙った悪質な事件ですね」
「すでに被害者は3人」
「幸い、まだ死亡者は出ていませんが、時間の問題ですよね」
戸崎は助手席で捜査資料に目を通す。
「全員が同じような格好をしていますね」
「本当に。ガン黒ですね〜若いな〜」
信号待ちの間、名前も戸崎の持っている捜査資料を覗き込む。
「苗字さんもこういう格好に憧れが?」
「な、ないですよ!ただ、最近の若い子には人気ですよね」
「なるほど」
名前は「まずは1件目の被害者、水谷涼子さんが襲われた交差点に向かいましょう。事件を目撃している人がいるかもしれませんね」と言った。
「そうですね」
1件目の事件現場に到着し、周辺で聞き込みをした名前達だったが、特にこれといって新しい目撃情報は出て来なかった。
2件目の被害者である遠藤仁見が襲われた公園でも同じように行き込みをするが、目撃者はいなかった。
「やっぱり深夜だとなかなか目撃者がいませんね」
「仕方ありませんね」
名前はふと、公園のトイレに視線を戻す。
「(…公園…か)」
高校時代の事件を思い出してしまうため、名前は公園が好きではなかった。
「苗字さん?」
「あっ、はい!どうしました?」
「それはこちらのセリフです。どうかしましたか?顔色が悪いようですが」
「だ、大丈夫です!何でもないです」
名前がそう言うと、戸崎は少し怪訝そうな顔をするが追及する事はやめた。
「それじゃあ次、昨日起きた3件目の現場に向かいましょう」
「ええ」
2人が車に乗り込むと、そのタイミングで名前の携帯が鳴った。
電話の相手は佐藤だった。
「もしもし?美和子ちゃん?」
『名前さん、今どこにいます?』
電話をもらった名前は「え?今は連続婦女殴打事件の聞き込みで3件目の聞き込みをしに生茂街道使って米花町方面に戻ろうと思ってるけど?」と答える。
『さすが名前さん!』
「えっ?」
『位置情報共有するので、こっちに来てくれませんか?』
「ど、どういう事?」
名前は困惑しながらも隣に座っている戸崎に携帯を渡すと「戸崎さん、今から佐藤から位置情報が共有されるので、ナビしてもらってもいいですか?」とお願いする。
「位置情報?何かあったんですか」
「多分、何かの事件に巻き込まれてるみたいですね」
「分かりました」
戸崎は送られていた位置情報を確認すると「埼玉の方ですね。向かいましょう」と言って、名前に道を指示する。
しばらく走ると、前方に佐藤の運転するRX-7と阿笠の運転するビートル、そして宮本の運転するミニパトが見えた。
「な、なんだか嫌な予感が…」
「知り合いですか?」
「あの黄色のビートル、よく事件に巻き込まれる少年探偵団のみんなが乗ってるんですよね」
「なるほど」
名前は「戸崎さん、すみません。佐藤に電話をかけてもらってもいいですか?」と聞く。
「分かりました」
戸崎は携帯を取り出すと佐藤に電話をかける。
「もしもし、戸崎です」
『戸崎警視!お疲れ様です!』
「追いつきました。この後はどうする予定ですか?」
『私達が追ってる車、パトカーなんですけど、その車には誘拐犯が乗っているんです』
「誘拐犯ですか」
『はい。今、埼玉県警の知り合いに連絡して何台か応援に来てもらっています。あのパトカーを囲んで無理やり止めます』
「…無理やりですか」
『面白い作戦があるんです』
「分かりました」
佐藤から作戦を聞いた戸崎は「分かりました」と返事をした後、電話を切る。
「佐藤は何て?」
「子ども達を乗せたビートルを誘拐犯役としてパトカーを追い越し、佐藤高木がパトカーに応援要請をする。その後、我々の車であのパトカーを囲むそうです」
「我々とは?」
「埼玉県警に知り合いがいるそうで、何台か応援に来てもらうそうですよ」
戸崎がそう言うと、名前は「あー、たしか由美ちゃんこの前の埼玉県警との合コンで幹事やってたから連絡先知ってるんだ」と呟いた。
「合コン…?」
戸崎はメガネを軽く上げると「あなたも行かれるんですね、合コン」と聞く。
「佐藤にどうしてもって頼まれただけですよ!私、合コンって知らなかったんですから!」
名前が慌てて否定すると「あなたが恋愛に前向きになれているようで安心しましたよ」と戸崎が答える。
「えっ?」
そこに佐藤から無線が入る。
『名前さん、追いつきましたか?』
「美和子ちゃん、追いついたよ!いつでも行けるよ」
『それじゃあ行きますよ。ちゃんとついて来て下さいね!』
無線が切れると、阿笠のビートルが一気にスピードを上げて、誘拐犯を乗せたパトカーを追い越した。
追い越した後、元太が車から顔を出して「助けてくれぇえぇ!!」とパトカーに向かって大きな声で叫んだ。
「お巡りさーん!!」
「助けてくださーい!!」
「おーい!!」
うろたえているパトカーの運転手に、サイレンを鳴らしながら佐藤のRX-7が近づくと、高木が警察手帳を出しながら「あのー、すみませーん!」と叫ぶ。
「本庁の高木です!あの誘拐犯の確保に協力してください!!」
応援要請を受けたパトカーは、阿笠のビートルを追い始めた。
「掛かったようですね」
「そうみたいです!戸崎さん、私達も行きます!」
名前は車のスピードを上げてパトカーの右側に回る。
スピードを落とし始めたパトカーの後ろから宮本が接近し、クラクションを鳴らした。
「ちょっと!なにチンタラ走ってんの!?逃げられちゃうでしょ!?」
名前達の方を見た運転手に、名前は笑いながら敬礼をする。
「苗字さん、ふざけないでください」
「焦ってる顔が面白くて」
「全く…」
パトカーの前後には、埼玉県警から応援で来たパトカーがつき、計6台の車で誘拐犯のパトカーを囲んだ。
『それでは、一斉にブレーキをお願いします!』
無線から佐藤の声が聞こえてくる。
『3、2、1…0!』
佐藤の合図で一斉にブレーキを踏むと、誘拐犯のパトカーも同じようにブレーキを踏んで急停止した。
名前達は一斉に車から出ると、パトカーに向かって拳銃を構える。
「観念するんだ!」
高木と佐藤が誘拐犯の男達を捕まえると、宮本が埼玉県警の警察官達にお礼を言う。
「ありがとみんな!助かったわ!」
「いやいや、このぐらい!」
「ちょろいもんですよ!」
「それより、次の合コンの件」
「ええ!本庁のきれいどこ集めとくわ!」
宮本がそう言うと「あ、いえ自分は佐藤さんさえ来てくれれば」と答える男性警察官。
「美和子ちゃん!」
「俺は苗字さんで!」
「俺も!名前ちゃん〜!」
「あらそう…」
名前は「美和子ちゃん、お疲れ様」と声をかける。
「名前さん、ありがとうございました」
「お役に立てて良かったよ〜。それより、誘拐犯って事は人質になってた人がいるんでしょ?誰だったの?」
「背の高い外国人の男性で、ジェイムズ・ラブックさんです」
「それで、その外国人の男性?どこにいるの?」
「えっ?」
佐藤は辺りを見回すと、そこには人質になっていたはずのジェイムズがいなくなっていた。
「ねえ、由美?ジェイムズ・ブラックさん、どこ?」
「うそ、さっきまでそこにいたのに」
「いなくなっちゃったの?」
名前は「本当にいたの?」と宮本に聞く。
「いましたよ!後部座席に、誘拐犯の間に座ってるのを見ました!」
宮本はそう答えると「怪しいわね、あの外国人」と続けた。
「事件に巻き込まれたくなかったのかな」
「事情聴取の前に姿を消したという事は、そういう事ですよね」
「…何もないといいけど」
戸崎は名前達の元に戻ると「それではここは任せます。私達は聞き込みの続きを」と名前に伝える。
「そうですね。美和子ちゃん、由美ちゃん、後はよろしくね」
「はい」
「ご協力ありがとうございました〜!」