「うーむ…どうするか」
「被害者の共通点が派手な格好をしたガン黒のギャルという事なので、同じような恰好をして犯人をおびき寄せるのはどうですか?」
佐藤がそう言うと、戸崎が「…おとり捜査という事ですね」と復唱する。
「はい。私か名前さんがおとりになります」
「そ、それなら私が。美和子ちゃんを危ない目にあわせるわけにはいかないから」
「名前さん…」
捜査会議中、何も言わない目暮に、高木が「あ、あのー目暮警部?」と声をかける。
「ん?ああ、なんだ?」
「あ、いえ。おとり捜査なんですが、いかがですか?」
「このままじゃあまた被害者が出ます。その前に、なんとか犯人のシッポを掴みましょう!」
名前がそう言うと、気乗りしなさそうな顔で目暮が「ああ…」とうなずいた。
名前はおとり捜査のため、金髪のカツラを被り、ミニスカートのワンピースを着た。
「うわー…こんな短いスカート、穿いた事ないよ」
少し恥ずかしい気持ちになりながらも、名前はサングラスをかけて3件目の事件現場となった電話ボックスに向かった。
「それじゃあ名前さん、気をつけてくださいね」
「う、うん!」
「我々が見張ってるので安心してください!」
「ありがとう」
名前は電話ボックスの中に入り、電話をかけるフリを始め、少し時間を置いてから、一度、電話ボックスの外に出る。
「(これで犯人が掛かってくれればいいけど…)」
歩いていると、後ろから足音が聞こえてきた。
「(ッ!)」
「あ、ちょっとおねーさん!」
そう言って肩を掴まれた瞬間、名前は相手の腕を掴み、足をかけてバランスを崩させるとそのまま寝技をかけた。
「へ?」
「確保ォ!!!」
「え?」
目暮の叫び声を合図に、見張っていた佐藤や高木など数人の刑事が一斉に男に飛び掛かる。
「あ、ちょっ…ちょっとタンマ!」
叫ぶ男を無視して確保する。
「苗字さん、大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます」
戸崎の手を取り立ち上がると、名前は声をかけてきた男の顔をまじまじと見る。
「…えっ?毛利さん!?」
「な、何ィ!?」
「ス、ストップ!みんな一回ストップして!」
佐藤が待ったをかけると、刑事達は男から離れる。
「も、毛利君!何をやっとるんだね、君は!」
そこにいたのは、小五郎だった。
「名前刑事こそ、そんなカッコで何してるの?」
「コナン君…これは捜査の一環で…。そういう2人も何してるの?」
「と、とりあえず場所を変えましょうか」
名前達は、近くのパスタ屋に移動して、小五郎とコナンに状況を説明する事にした。
「ホー…連続婦女殴打事件のおとり捜査ねぇ…」
小五郎はタバコを吸いながらムスっとした顔で言う。
「そうなんだよ!だから苗字君にあんな格好をしてもらってだなぁ…」
「しかし、公表していた犯人の身長は150前後。私を見れば、犯人じゃないとすぐ分かるでしょうに」
小五郎が不満そうにそう言うと「あ、いえ、苗字さんに迫る毛利さんの態度が、その…」と高木が言いにくそうにする。
「尋常じゃないというか」
「し、失敬な!」
「す、すみません毛利さん…。私、恩人の毛利さんになんて酷い事を…」
戸崎が「しかし、犯人は現れませんね」と言うと、小五郎は「ん?誰だおまえ」と問いかける。
「戸崎です。あなたが名探偵の毛利小五郎さんですね。お噂はかねがね」
「おっ、本当か?」
「毛利君…。言っておくが、戸崎君はワシよりも上司で、警視だぞ」
「な、何ィ!?だ、だって警部殿…だいぶ若くないですか?」
驚いた顔をした小五郎に「私は俗に言うキャリア組なので」と戸崎が答える。
「コナン君は、会った事あったっけ?」
名前が聞くと「前に警視庁に行った時に、顔だけは見た事あるけど話すのは初めてだよ!」と答えた。
「こんにちは、コナン君」
「こんにちは、戸崎警視!」
初対面同士の挨拶が済むと、高木は被害者の写真を撮り出して小五郎に見せる。
「こちらが被害者の3人の女性です。事件当時、派手な格好をしていたぐらいしか共通点がありません…」
「犯行現場もバラバラだし…」
「犯行時刻は夜から深夜ですけど…」
目暮は「幸い、3人とも命に別状はなかったが、派手な格好以外の共通点が全くないんだよ。3人とも、誰かに恨まれるような覚えはないと言っておるし…」と説明する。
「毛利さん、いかがですか?こちらの写真を見て、何か思いつきませんか?」
「そうっスねー…しいてあげれば…3人ともハーフで、ジャングル育ちって事ぐらいっスかね」
そんな小五郎の言葉に、その場にいた全員が「は?」と頭にはてなマークを浮かべた。
「だって、いくら何でもこの3人がただの日本人とは…」
小五郎が言いかけると、後ろから「わー!可愛い〜!」という声が聞こえてきた。
買い物に行っていた蘭の同級生である鈴木園子が戻って来たのだ。
「3人ともすごいガン黒!真ん中の子なんてゴン黒ね」
「はあ?」
「園子ちゃん、だよね?蘭ちゃんから話は聞いてるよ」
「初めまして名前刑事!私も蘭から聞いてます!会えて嬉しいです!」
「そんで、そのガン黒とかゴン黒とか、なんだ?」
意味が分からないという顔をしている小五郎に、佐藤が「山姥ギャルっていって、こういうメイクが若い子の間で流行っているんですよ!」と説明する。
「さすがに私は抵抗があったんでやってないんですけど…」
「や、山姥が…なんで?」
コナンは「あれ?蘭姉ちゃんは?」と園子に聞く。
「トイレ行くから先にパスタ屋さんに行っててって」
「蘭ちゃんも一緒だったんだね」
「そうなんですよ。さっきまで色々買い物しちゃいました!」
園子はそう言って、名前に買い物袋を見せた。
「しかし無差別にそんな子を狙っているとなると、手のつけようが…」
「そうね。こんな事件、今までにあまりなかったし…」
佐藤がそう言うと、小五郎が「いや、前にもあったな」と言った。
「連続して女子高生が車でひき逃げされる、イヤな事件が」
「…」
「ありゃー、たしか俺が刑事になる随分前の…」
小五郎がそう言って、その事件の話をしようとすると「とにかく!我々は捜査に戻ろう!」と目暮が席を立つ。
「あ、はい」
「そうですね」
「じゃあ、今度は私がおとりを」
目暮は「いや、もうおとりはなしだ」と言った。
「え?」
「もう一度、あの被害者3人に共通点がないか洗い直してみよう」
目暮はそう言うと「じゃあ毛利君、スマンかったな」と謝った。
「いえ…」
「それじゃあ行きましょうか」
名前達がそのままパスタ屋を出ようとするが、コナンの大きな声で全員足を止める。
「ねぇ、園子姉ちゃん!その指輪とネックレスとブレスレット、どこで買ったの?」
「え?」
園子は「買ったんじゃなくてもらったのよ。今、寄ってたデパートで。”ミレニアムセール”ていって、出口でレシート見せたら1万円ごとに好きなグッズを選べるようになってたから…」と答える。
名前は「園子ちゃん、腕見せて!」と言いながら園子の腕を掴むと、園子のつけているアクセサリーを見る。
「め、目暮警部!」
「おいどうだ?」
「え?」
「つ、つけてます!一つずつですけど、3人とも園子さんと同じアクセサリーを!」
戸崎は「となると、この3人は同じデパートの買い物客という事になりますね。ガン黒以外の共通点が出てきましたね」と言った。
「今からそのデパートに向かいましょう」
「ああ」
『キャアアアア!!』
蘭と電話をしていた園子の携帯電話から蘭の大きな悲鳴が聞こえてくると、小五郎は園子の携帯を奪い「おい、蘭?どうした!?」と問いかける。
『あ…ああ…』
「おい?おい?」
『し…死体が…デパートの駐車場に…』
「なに?駐車場に?」
『血、血まみれの女性が倒れてる…!』
「血まみれの女が倒れてる!?」
小五郎の言葉を聞いた名前達は、急いで駐車場に向かった。
「目暮警部、鑑識に連絡します!」
「ああ!応援を頼む!」
「ハイ!」
駐車場に着くと、蘭が腰を抜かして地面に座り込んでいた。
「蘭!大丈夫か!?」
「お、お父さん!」
名前は蘭に駆け寄ると「蘭ちゃん!その血まみれの女性ってどこにいる!?」と聞く。
「あ、あっちです!」
頭を殴られたガン黒の女性は、駐車場の壁に寄りかかるように座っていたが、すでに息はなかった。
「4件目でついに殺しか…」
鑑識が到着し、現場写真を撮り始めた。
「やはりこれも同一犯という事ですね…」
「そうですね…。被害者の特徴は公表していないですし、ここは問題のデパートの地下駐車場。まず間違いないです」
小五郎が「となると、これはデパートに恨みを持った何者かの犯行…」と予想していると、後ろから1人の男性が現れた。
「多恵!多恵ー!!」
「彼は?」
「この女性の彼氏で、デパート内で待ち合わせていたそうで…」
「何やってんだ…あんたら何やってんだよ!?」
被害者の藍沢多恵の彼氏である白川紀之は、名前達に「これ、例の連続犯の仕業なんだろ!?」と叫ぶ。
「何で捕まえといてくれなかったんだよ!?この役立たず!!うっ…」
白川の言葉を聞いた目暮は「くっ…」と悶えると、頭を押さえながらその場に片膝をつく。
「め、目暮警部!?」
「ど、どうされたんですが警部!」
「いや…何でもない…」