なぜなら、降谷は基本的に諸伏と2人で行動をしているか、松田、萩原、伊達の誰かと一緒にいる事が多い。
つまり、降谷が1人で行動をするのはほとんど無いに等しかった。
「(ただでさえ集団生活で、プライベートな時間なんてほとんどないんだから、そりゃそうだよね)」
そう思いながらも、降谷が1人になる瞬間を見つけようと名前は目を光らせていた。
「…名前、あんた最近どうしたの?」
「え?」
「ずーっと降谷のこと見てるけど、何?とうとう降谷の事好きになったの?」
「な、なんでそうなるの!?」
「だって、ここ最近ずっと降谷のこと目で追ってない?」
林にそう言われ、名前は「お…追ってない、とは言えない…」と正直に答えた。
「やっぱり。今までは男なんて松田以外興味なさげだった名前が、とうとう松田以外の男に興味を持ち始めたんだ!」
「なんだか色々誤解を生むような発言だね!?」
「それで、なんで降谷なの?」
「凛子ちゃん、ちょっと落ち着いて」
ズイッと顔を近づけてきた林から、少し距離を取ろうとする名前。
「名前と恋バナができる日を楽しみにしてたのよ」
「ご、誤解だからね」
「誤解〜?」
「降谷君のことを見てたのは、ちょっと確認したいことがあるからなの」
「そうなの?」
「うん」
名前の返答を聞いた林はつまらなそうな顔をした。
「それだけ?」
「うん」
「本当に?」
「本当に!」
名前のことをジッと見つめながら、林は大きなため息をついた。
「ため息!?」
「名前、あんたに過去、何があったのかは聞かない」
「え?」
「けど、あんたのこと見てたらわかるよ。男が苦手なんだろうなって」
「…うん…」
「松田と萩原以外には自分から話しかけようとはしないし、話しかけられてもほとんど目を合わせないでキョロキョロして、挙動不審だし」
「そ、そんなに?」
林の言葉に、名前は少しだけショックを受けた。
「けどね、降谷だけは違った」
「…え?」
「降谷だけは、あんた、最初から目を合わせて話しができてたよ?」
「…嘘…」
「最初は、昔からの知り合いなのかな?って思ったけど、そんな感じじゃないし、諸伏に対してもわりと話せてるからあんまり気にしてなかったけど、明らかに最初から降谷への態度は違ったよ」
「えー…」
名前は、林からそう指摘されて顔を赤くする。
「あら、顔真っ赤。可愛い可愛い」
林はそんな名前を見て、頭を撫でる。
「だって!凛子ちゃんが急にそんなこと言うから!」
「過去にトラウマがあるんだろうなとは思ってたけど、ちゃんと恋できるみたいで安心した」
「まだ恋って決まったわけじゃないもん」
「ふっふっふっ。早く自分でも気づけるといいね」
「もー!」
名前は「でも…凛子ちゃんよくわかったね。私が、その…」と言葉を詰まらせた。
「ああ。名前ってば知らないでしょ?入校してから私達、あの5人ほどじゃないけどモテてるのよ?」
「…え!?」
全く身に覚えがないと名前は驚く。
「それなのに名前ったら恋愛に興味なさそうだし、松田が基本傍にいるし、だから最初は松田と付き合ってるから他の男子との接触を避けてるのかなって思ってたんだけど」
「私が陣平と付き合ってないって言ったから?」
「そう。松田も、名前には恋愛はまだ早いって言ってたし、これは過去に何かあったなって思ったの」
「名推理だ」
「言いたくないなら言わなくていいし、私も聞かない。けど、前に名前が言ってた、松田は本当は優しくしたくてしてるわけじゃないって言葉、あれは違うなって思ったよ」
林は名前の方を見ながらそう言った。
「どう見ても、松田はあんたのこと大好きでしょ」
「…陣平にも同じようなこと言われた」
「やっぱり?松田がそんな器用なことできるとは思えないからね。なんで、こんな付き合の短い私でも気づくことを、名前は気づかないのかしら」
「な、何も言い返せません〜」
そう言って机に突っ伏す名前を見て、林は笑う。
「まあ、これだけは覚えておいて。私も、あんたの味方だよ!たとえ配属先が遠くなっても、それだけは覚えておいてよ」
「凛子ちゃ〜ん!!」
名前は顔を上げて横に座っている林に抱きついた。
「私も!凛子ちゃんの味方だからね!」
「はいはい、ありがと。それじゃ、早く降谷の所に言って確認したいことしてきなさいよ!」
「で、でも、降谷君なかなか1人にならないし…」
「えーい、いいから!女は度胸!」
「わっ!」
林は名前の背中を思いっきり叩くと、名前に喝を入れた。
次の日。
「よっしゃー、やっと休憩かよ!」
「流石に疲れたな」
「あれ、ゼロは?」
「知らね、どっか消えた」
降谷が1人になったタイミングで、名前は降谷の後を追った。
教官室に入って行った降谷を、部屋の外で待つ名前。
「ありがとうございました」
数分待つと、降谷がお礼を言いながら教官室から出てきた。
「あれ?苗字さん?」
「ふ、降谷君!」
「どうしたんだい?」
「ちょ、ちょっと話があるんだけど大丈夫?」
「いいよって言ってあげたいんだけど、実はこの後外出する用事があってさ」
申し訳なさそうな顔をしてそう言う降谷に、名前は慌てて答える。
「あ!ごめんね!急だったから!」
「いや、僕のほうこそ。せっかく苗字さんから誘ってもらえたのに」
「タイミング悪くてごめん」
「もしよかったら、また今度ゆっくり話さないかい?外出許可をもらって出かけよう」
「うん!ありがとう!」
「こちらこそ。僕も苗字さんと話がしたかったんだ」
そう言ってニコッと笑う降谷に、名前は思わず顔を赤らめる。
「苗字さん?大丈夫?」
「ふ、降谷君…あんまりそういう事簡単に言っちゃダメだよ。みんな勘違いしちゃうよ…」
名前は赤くなった顔を両手で隠そうとするが、その前に降谷に手を掴まれる。
「降谷君…?」
降谷は真剣な顔をして名前を見る。
「勘違いしないでほしいんだけど、僕は、誰にでもこういうことを言ってるわけじゃないよ?」
「ご、ごめん」
「他の人に勘違いされるのはいいけど、苗字さんには勘違いしてほしくないんだ」
「わ、わかったから手を離してくれると嬉しいです…!」
「…怖い?」
「こ、怖いんじゃなくて恥ずかしいんです!」
名前が顔を赤くしながらそう言うと、降谷は笑顔に戻り「…良かった」と言いながら手を離す。
「そろそろ休憩時間が終わるな」
「そ、そうだね」
名前は両手で顔を扇ぎながら答える。
「松田たちは?」
「多分まださっきの公園にいると思う」
「仕方ない、呼びに行くか」
「うん」
2人が公園に着くと、水道の前で松田、萩原、諸伏、伊達の4人を見つけた。
「どうした?もう休憩時間終わりだぞ!早く戻らないと」
「怒られちゃうよー」
「ゼロ!苗字さん!ん?ゼロは携帯持ってるの?」
「この後外出する用があって許可をもらったんだ」
そう言いながら名前と降谷は4人に近づく。
すると、4人の後ろに小さな男の子と女の子がいる事に気づいた。
「って、何?その子達」
「色々あってな」
「さあ吐け!吐いちまったら楽になるぞー!」
「陣平、何やってるの」
名前は、男の子の前に座っている松田の隣に座ると、2人に向かって「ごめんね。このお兄ちゃん、怖くないからね」とフォローに入る。
「怖くないってなんだよ!」
「別に怖がってなんかねーよ!」
「ちょ、ちょっと新一!」
「何かあったのかな?」
名前が2人に向かってそう言うと「ねぇ、新一。このお姉さんなら信頼できそうだよ!」と女の子がそう言った。
「…実は…」
「(こいつ可愛くねーな!)」
名前の顔を見て素直に話し始めた男の子に、松田は大人げなくそう思った。