「大和警部!」
「ご苦労」
ショッピングモールの6階に吉井の姿を確認する。
「よし、打合せ通り、手分けして張り込もう」
そう言うと、全員が配置につく。
名前は山村、千葉と一緒に吉井の近くに身を隠した。
「稔〜!」
吉井が下の階に現れた深瀬を見つけて大きな声で名前を呼ぶ。
『深瀬が現れた。各自、その場で待機。悟られるんじゃないぞ』
目暮が小声で無線に指示を入れる。
深瀬はエスカレーターに乗って吉井のいる6階を目指すが、深瀬の前に子どもが3人乗っている。
『警部、深瀬の傍に子どもが!』
『落ち着け!確保は子ども達が深瀬から離れてからだ』
『了解』
名前達は、そのまま待機して深瀬を監視し続ける。
『5階通過』
深瀬の前に乗っていた子ども達が離れ、吉井と合流した深瀬を確認した目暮は『よし、確保だ』と指示を出す。
『了解』
「了解しました〜!」
大和と上原、そして反対側から名前と山村と千葉が深瀬と吉井の2人に近づく。
山村は走りながら警察手帳を出そうとするが、足がもつれて転んでしまった。
「ああっひゃあ!」
「や、山村警部!?」
山村の警察手帳はそのまま吹っ飛んでいき、深瀬の足下に警察手帳が滑っていった。
「アッ!」
そんな一連の動きを反対側から見ていた大和は「あのバカ!」と言いながら自分の警察手帳を出す。
「深瀬!そこを動くな!警察だ!」
反対側から名前と千葉が追いつき、同じように警察手帳を出して「もう逃げらません!そこを動かないでください!」と叫ぶ。
「クソッ!」
深瀬はエスカレーターで上がって来た一般客の女性を見つけると、ナイフを取り出して人質にした。
「よせ!深瀬!」
「キャー!!」
「来るな!来るとこの女をぶっ殺すぞ!」
「クソッ…」
深瀬は名前達を警戒しながら「動くなよ!動いたらグサリだからな!」と言いながら、ナイフを振り回す。
「やめろ!そんな事をしても逃げ切れやしないぞ!」
「女性を放してください!!」
「うるせえ!来るんじゃねえ!」
深瀬は人質と一緒に後ろに下がると吉井と共にエスカレーターを降りて行く。
その後を名前と大和が追いかけるが「来るな!」と叫ばれて名前達は一度止まり、下の階で待っていた佐藤と高木に気づいた深瀬は「おまえらも下がれ!」と2人に叫んだ。
「ああ…分かったから落ち着いて!」
深瀬が次の階に辿り着く前にどこからかサッカーボールが飛んできて深瀬の顔面に当たり、そのまま転倒した深瀬は持っていたナイフを落とした。
名前と千葉、山村が深瀬の元に追いつき、千葉が落としたナイフを蹴る。
「えいっ!」
「手間かけさせやがって」
名前は人質にされていた女性に駆け寄ると「大丈夫ですか!?ケガはないですか?」と声をかける。
「ええ、大丈夫です」
「良かった…。危ないので、少し離れてところにいてください」
「ありがとう」
上原は深瀬を様子を確認すると「気を失っているようです!でも、どうして…」と言う。
「…離れて…」
「ん?」
「はっ!」
「稔から離れて!」
深瀬の落としたナイフを拾い上げた吉井は、ナイフを構えた。
「稔から離れて!」
「落ち着いてリサさん!ナイフを下ろしなさい」
上原が説得をしようとするが、吉井は「嫌よ!」と言って聞かない。
「そんな事をしても何にもならないわ。ナイフを捨てなさい」
「嫌よ、嫌!稔を放して!」
「あっ!」
吉井はナイフを持ったまま上原に向かって行く。
「うっ…!」
「あ!」
吉井は「ハッ!」と顔を上げると後ずさりをするが、目暮の脇腹にナイフが刺さっている事に気づき、血に濡れたナイフを手放す。
「よ〜し…それでいい。リサさん、君がこれ以上罪を重ねる必要はない…」
「ご、ごめんなさい…」
「うっ…う…」
目暮はその場にうずくまる。
「目暮警部!!」
「大丈夫ですか警部!?」
「心配いらん。ワシの腹は特別脂肪が厚いからな」
心配そうに聞く上原に、目暮は冷や汗をかきながらも笑顔で答えた。
「すみません…」
「本当にすまねえ。俺が油断したばかりに…」
「なあに、うちの管内でよそ様の刑事さんを傷つけるわけにはいかんからな」
白鳥と佐藤は吉井を連行する。
「あれ?」
「何か?」
「いや、人質になってた女性が…あれ?」
名前も振り返ると「いなくなってる…」と、人質になっていた女性がその場から消えている事に気づく。
「…何で?」
気を失っていた深瀬が意識を取り戻し、上原が手錠をかける。
「あ〜!イテテテッ…手荒にしないでくれ!右肩を痛めてんだ」
「あっ?肩痛めてるって…あっ、そういやおまえさっき!」
大和は深瀬が右腕を上に上げようとした時に痛がっていた事を思い出した。
「と、いう事は…右肩を痛めている深瀬が右手でナイフを振り下ろす事は不可能ですね」
「そうだな…」
「犯人は深瀬じゃない…」
深瀬と吉井を連行した後、救急車が到着し、救急隊員による目暮の応急処置が行われた。
そこに目暮の携帯電話が鳴った。
「はい、目暮です。ああ、管理官」
『たった今、新堂すみれという画家から連続殺人の犯人に心当たりがあると電話があった。住所は八王子市…』
「はい、はい、分かりました」
目暮は通話を切ると「佐藤、高木!すぐに八王子に向かってくれないか」と指示を出す。
「はい!」
「苗字君、白鳥君、君達は戻ってもう一度資料を確認して容疑者候補を洗い出してくれ」
「分かりました!」
名前と白鳥は本庁に戻り、捜査資料を確認していた。
「深瀬は違ったね」
「そうですね。やはり、手掛かりはこの麻雀パイですね…」
白鳥はホワイトボードに貼られている麻雀パイの写真を見る。
「赤い印に、この裏の縦線とアルファベット…。1つのパイだけイーピンで後は全部チーピンだし、チーピンの赤い印がついてる場所が違うし…」
「苗字さん、イーピンとチービンが分かるようになったんですね」
「あの後すぐに調べたよ!」
名前が「うーん…それに、小田原市で殺害された竜崎さんが残した”七夕、きょう”の言葉。絶対に何かあると思うんだけどな」とブツブツ言いながら考えていると、携帯が鳴った。
「もしもし?」
『もしもし、佐藤です』
「うん、どうしたの?」
『実は、今八王子に向かっている途中だったんですけど、車がパンクしてしまって…』
「え?大丈夫?」
『はい。このままだと新堂すみれのアトリエに向かう事ができないので、車で迎えに来てもらえませんか?』
「分かった!すぐに行くね」
名前は電話を切ると「ごめん、ちょっと美和子ちゃんに呼ばれたから行ってくるね!」と白鳥に伝えて、2人の元へ向かった。
佐藤と高木を拾い、新堂のアトリエに向かった名前達は、部屋の中が荒らされていて誰かと争った形跡がある事に気づくと松本に報告をした。
「もしもし、管理官。佐藤です」
『どうだった?新堂すみれから話は聞けたか?』
「いえ、それが、部屋の中にいませんでした」
『何?いないだと?留守にしているわけではないんだな』
松本にそう聞かれた佐藤は「ええ。室内に争った跡があり、ホシは新堂さんを車で連れ去ったものと思われます。大至急手配を。それと、鑑識もお願いします」と答える。
『分かった』
「では」
名前は部屋の中を見回すと、乾いた絵の具のに足跡がついている事に気づく。
「(…同じ絵具も2回踏まれてる…。連れ去った犯人とは別に、もう一人、別の人がここに来たのかな…)」
後を鑑識に頼んだ名前達は、本庁に戻る事にした。
次の日、神奈川県綾瀬市光陵運動公園で女性の遺体が見つかった。
「間違いねえ。被害者は新堂すみれだ」
重悟は新堂の写真と遺体の写真を見比べながらそう言った。
「うーん…」
新堂の頭の傍にも麻雀パイが置いてあり、同一人物による犯行という事が分かる。
置かれていたのはピンズの7だが、麻雀パイの裏に書いてあったのはアルファベットではなく三角形だった。
「今度は三角形か…」