漆黒の追跡者05

「名前さん、一緒に来てくれませんか?」
「ん?どこに?」

佐藤は名前と高木を車に乗せて、八王子方面に向かう道を走る。

「美和子ちゃんどうしたの?捜査会議、3時からだよ?」
「はい、分かってます。…高木君、毛利さんに今日の捜査会議は3時からだって電話で伝えて。それに麻雀パイの事も」
「わ、分かりました」

高木は小五郎に電話をかける。

「ここって…」
「はい。昨日、私達の乗っていた車がパンクした場所です」
「こうして見ると、よく大事故にならなかったなって、今でも冷や汗が…」

3人は、パンクした道路を陸橋の上から眺めていた。

「おかしいと思いませんか?」
「えっ?」
「両輪同時のパンクなんて…ありえないわよ」
「じゃあ、釘でもばらまかれたのかな?」
「そんなわけないでしょ」

佐藤は少し考えながら「…狙撃…」とつぶやいた。

「えっ?」

佐藤の言葉に驚いて名前と高木は顔を上げる。

「誰かにタイヤを狙撃されたのかも。この陸橋から…。たしか、車が停まってました」
「え?ま、まさか…」
「狙撃…」

佐藤は名前と高木の方を見ると「名前さん。突飛な発想かもしれないけど、今度の事件、犯人とは別に何か得体の知れない人達が動いているような気がするんです…」と言う。

「”得体の知れない”って…?」
「どうしたそう思うの?」
「新堂さんのアトリエで、同じ絵具が二度踏まれていました。絵の具のチューブが踏まれて中身が飛び出し、さらに飛び出て乾いた絵の具が踏まれていた」

佐藤は、アトリエで感じた違和感を名前と高木に伝える。

「これって、犯人が新堂さんを連れ去った後で、別の誰かが来たって事じゃ?」
「うん…」
「そうかなあ。絵の具が乾くまでいたんじゃないんですか、犯人が」
「もう一つ、米花町のモールから姿を消した女性も気になるわ。もしかしたら、彼女もその人達の仲間で、わざと人質になったんじゃ…」
「え…ええ?な、何のために?えっ、佐藤さん、考えすぎですよ」

高木にそう言われた佐藤は、一瞬黙るがすぐに笑顔になり「そうね、考えすぎね」と言った。

「美和子ちゃん…」

名前は「(もし、狙撃が本当なら…黒の組織の人間が関わってるって事…?)」という答えに辿り着く。

「名前さん…もしかして、警察の中に内通したスパイがいるんじゃないでしょうか。それも、会議に参加したメンバーの中に」
「…新堂さんのところに先回りされたって事は、そういう事だよね」
「…心当たりはありますか?」
「…ない。でも、早くスパイを見つけないと、大変な事になりそう」
「…はい」

名前と佐藤が怖い顔をしながら小さい声で話をしているのを、高木は「あ、あのーお二人とも、どうしたんですか?」と冷や汗をかきながら見ていた。



本庁に戻る途中、高木は信号待ちをしていると外を見て「わー、見てくださいあの看板!七夕まつりですって」と、大きな看板を指さす。

「七夕まつりと言えば、仙台が有名よね」
「ですよねー!行ってみたいなぁ」
「あら、誰と行くのかしら?」
「そ、そんなの佐藤さん以外にいないでしょう!」
「私は別に行かなくてもいいんだけど」
「そ、そんな〜」
「ね、名前さん」

名前は2人の会話を聞いておらず、七夕まつりの看板に釘付けになっていた。

「(七夕…きょう…京都?)」
「名前さん?どうかしましたか?」
「…ちょ、ちょっと急いで高木君!!調べたい事があるの!」
「えっ、あ、はい!」

高木はアクセルを踏み込むと、車のスピードを上げる。

「ど、どうしたんですか?」
「多分なんだけど、竜崎さんが残した言葉って”七夕、京都”だったんじゃないかな」
「”七夕、京都”?”きょう”じゃなくて”京都”だったって事ですか?」
「うん。多分なんだけどね。七夕の日に京都で何かが起こった可能性があるから、それを調べたくて」
「分かりました。高木君!急いで!」
「は、はい!」

名前は携帯を取り出すと、新聞記事が読めるアプリを開き、検索窓に”七夕、京都、事故、事件”と入れて調べる。

「…七夕…七夕…京都…あ、あった!」

新聞記事の見出しには”ビジネスホテルで火災!逃げ遅れ二人死亡、六人が重軽傷”と書かれていた。

「一昨年の七夕の晩、京都にあるビジネスホテル”ベガ”で宿泊客が2人亡くなる火事があったみたい」

佐藤も一緒に名前の携帯を覗き込むと「原因はタバコの火。5階の宿泊客のタバコの不始末で、非常階段も使用不能…。他に6階の宿泊客が1人、煙にまかれて死亡」と続きを読む。

「亡くなったのは三鷹市神代在住の本上ななこさん…」
「そ、その火事と今回の事件と、何か関係があるんですかね?」
「…多分あるんだと思う。それを調べたいから早く本庁に戻って!」

名前に怒られると高木は「(きょ、今日の苗字さん、佐藤さんみたいでこわ…)」と心の中で思った。





捜査会議が始まるまでの時間を使って、名前はホテル”ベガ”で起った火災を調べていた。

「そっか、被害者の7人はこのホテルに泊まっていたんだ…。全員が6階の部屋…」

名前はホテル”ベガ”に電話をかける。

「もしもし?私、警視庁捜査一課の苗字と申します」
『警察の方?どういったご用件でしょうか?』
「実は、2年前の七夕の夜に発生した火事の事をお聞きしたいのですが」
『は、はあ?またですか』
「また?」

ホテルのスタッフの態度に、名前ははてなマークを浮かべた。

『先ほども、同じ火事の事を高校生探偵と名乗る男の子にお伝えしたばかりなんです』
「高校生探偵…?もしかして工藤新一君ですか?」
『いえ。色黒で、関西弁を喋る男の子でした』
「(という事は服部君か…)そうだったんですね。それで、聞きたい事なんですが、そちらのホテルにはエレベーターは何機ありますか?」
『1機です』
「定員は?」
『7名です』
「7人…」

名前はさらに質問をしようとするが、その前に佐藤が呼びに来た。

「名前さん、そろそろ時間ですよ」
「あ、うん、分かった!」

名前はホテルのスタッフにお礼を言って電話を切ると、捜査会議に向かった。

「何か分かりましたか?」
「うん。少しずつ、真実に近づいてきている気がする」



7人の被害者が2年前の7月7日に京都に行っていた事が分かったと、白鳥が報告をする。

「何?2年前の7月7日?その日に、被害者が全員京都へ行ってたのか」
「ええ。聞き込みの結果、判明しました」
「って事は…」
「目撃者が聞いた”七夕、きょう”は…」
「”七夕、京都”のことだったってわけだ」
「やっぱり…」

松本は「その日、京都で何があったのか調べてもらっているが、問題は麻雀パイに残された犯人のメッセージだ」と言って、資料に視線を落とす。

「赤い丸は、ピンズの7の左下がまだ残っていて、もう1人殺害するという可能性が高いですね」
「しかも、今日が7月7日だって事も、偶然じゃねえだろう」
「じゃ、じゃあ最後の1人は今日…」
「一体どこで誰を…」

佐藤は会議に出ているメンバーを慎重に見渡す。

「ああ!分かった!」

小五郎は勢いよく立ち上がって「この7つの現場は、ある動物の形を表してたんです!」と言った。

「動物…ですか?」

小五郎はホワイトボードに貼られた殺人現場が記載された地図の前に立つと、ペンを持つ。

「いいっすか!それぞれの現場を、こうやって線で繋いでいくと…」
「おっ?」
「おっ、ああ!」
「これでお分かりでしょう!」

黒いペンで線を描いた小五郎は、出来上がった絵を全員に見せる。

「…?」
「この長い線が首、ここが胸、前足、背中、そして後ろ足」
「も、毛利さん…?」

小五郎は一つずつ丁寧に説明をするが、全員ポカンとした表情で聞いていた。

「つまりこれは、ネス湖のネッシーならぬ、芦ノ湖の”アッシー”なんです!クワックワッ!」
「アッシー!?うっ、ててて…」

目暮が驚いた声を出すが、その拍子に刺された腹部が痛んだ。

「そんなのがいるんですか?」
「いや、俺は聞いた事ねえぞ」

荻野が聞くと、重悟は眉をひそめながら否定した。

「ワシにはどうもよく分からんが…」
「では、こうすればいかがでしょう」

小五郎は首の先に顔のような三角形を描き足してみせた。

「う〜ん…たしかに、そう言われれば…」
「見えちゃってます!アッシーに!あっ、でもどうしてアッシーなんですか?山中湖の”ヤッシー”でも」
「湖の形を見てみろ。山中湖はクジラ、芦ノ湖は、フフンッ…!」
「分かりました毛利さん!次の犯行現場は、アッシーの鼻先ですね!」

参悟の言葉を聞いた小五郎は「フフッ…甘いな横溝警部」と言った。

「そう思わせて、実はここ!」

小五郎が三角形の真ん中に目を描き足すと「そうか、目の位置!群馬県安中市!」と参悟が言う。

「安中市なら、僕よく知ってます!」
「俺も現地に行く!案内しろ!」
「はい〜!」



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