郵便強盗を捕まえた後、本庁に戻った名前は、佐藤から高木とのデートを断った事を知らされた。
「はい、あの後高木君と話しました。…私が大切に想ってた人はみんないなくなってしまうんで…」
「美和子ちゃん…」
「もう、あんな辛い思いはしたくないんです」
「…本当にそれでいいの?」
「…はい!今まで通り、高木君とは同じ警察官仲間として付き合っていきます」
名前はそう言った佐藤を見て「…美和子ちゃんがそれでいいなら、私は何も言わないよ」と言って笑う。
「ありがとうございます」
「それじゃあ、子ども達呼んでくるね」
「分かりました」
名前は実況検分をするため、別室で待っていた子ども達を呼びに行く。
「みんな、お疲れ様」
「名前刑事ー!」
「今から実況検分ですか!」
「早く行こうぜ!」
部屋に入って来た名前を見て、歩美、光彦、元太が嬉しそうに立ち上がる。
「はいはい、みんな相変わらず元気だねー」
子ども達を見ながら「美和子ちゃんも一緒に行くから、合流しよ」と言って先程の部屋に戻る。
「あ、凛子ちゃんと由美ちゃん」
「お疲れ様ー」
「お疲れ様です!」
林は「今から実況検分?」と名前に聞く。
「うん。美和子ちゃんと一緒に」
「美和子ー!」
宮本が佐藤の名前を呼ぶが、佐藤は上の空で返事をしない。
「ちょっと美和子!?」
「え?」
「ホラ、名前さんと子ども達待ってるよ!あなたこれから名前達と一緒に実況検分するんでしょ?」
「え、ええ…」
名前は佐藤の方に戻ると「大丈夫?」と聞いた。
「はい、大丈夫です」
「それじゃあ行こうか」
「いってらっしゃい」
「凛子ちゃんありがとう」
先に歩き出した名前の後を追いかけるように佐藤も歩き出すが「あ、そうだ!」と言うと、宮本の方を振り返る。
「カラオケ何時からだっけ?」
「夜9時よ!ちゃんと携帯にメール入れたでしょ!もぉー、メール読んですぐ消すクセやめなよ!」
「ゴメン、ゴメン。消していかないと、イタズラメールでメールボックスがいっぱいになって、大事なメールが消えちゃうのよ」
「あら、私のメールは大事じゃないってわけ?」
「まあまあ…」
林は「名前もやっぱり一緒に行かない?今日のカラオケ」と名前に声をかける。
「…私は大丈夫。今日は1人でいたい気分なんだ」
「…りょーかい」
「んじゃ、9時ね!」
「遅れんなよ!」
林は名前の背中を心配そうな顔で見守った。
現場に到着すると、光彦が「ここです!ここです!」と言いながらポストの辺りを指さした。
「丁度この辺りで誰かに突き飛ばされて、僕のビデオカメラが…」
「で、その誰かはそれを拾って人混みに消えたのね」
子ども達の話を聞いていると、佐藤の携帯が鳴る。
「あ、目暮警部!はい、あと15分ぐらいで終わるかと…はい!分かりました!」
電話を切り、携帯のディスプレイに表示されている11月7日という日付を見た佐藤は、メールボックスを開き、松田からのメールを読み返していた。
松田からのメールには、もう一つの爆弾が仕掛けられていた病院の名前だけではなく、下の方に続きの文章があった。
そこには、松田の佐藤への想いが残っていた。
「どうしたんだろ佐藤刑事」
「固まっちゃってるわね…」
「…うん」
そんな佐藤の姿を見て、名前は佐藤と同じような顔をした。
名前達が実況検分をしている頃、高木と白鳥は爆弾を仕掛けたという予告電話を受けたという通報を聞き、電話を受けた店内を調べていた。
二人は手分けして店の中をくまなく捜したが、爆弾らしき物を見つける事はできなかった。
「ありませんでしたね」
「そうだな」
「まあ、そうそう爆弾なんて用意できないですよね」
「…」
「白鳥さん?」
高木は何も言わない白鳥を不思議そうに見る。
「君は、気にならないのかい?」
「何をですか?」
「この前、君が変装をした時に、佐藤さんがあれほど怒っていた理由をさ」
「そりゃあ気になりますけど…。苗字さんの様子もいつもと違っていましたし」
高木がそう言うと、白鳥は「…3年前の今日、ある連続爆弾犯による二度目の爆弾事件が起こったんだ」と、松田が亡くなった連続爆弾事件の事を話した。
「へー…3年前にそんな事があったんですか…」
「ああ…。佐藤さんがまだ彼の事を引きずっているなら、我々に勝ち目はないよ…」
「で、ですよね…」
「まぁ、我々も殉職すれば少しは対抗できるかもしれないがね」
「ちょ、ちょ、ちょっと!縁起でもない事言わないでくださいよ!!」
高木が焦ったように言うと「まぁ、そういう事さ。そして、松田さんは苗字さんにとっても大事な人だったんだよ」と白鳥が話を続けようとするが、名前と佐藤が子ども達を連れて二人の前に現れた。
「あ、苗字さん、佐藤さん!」
「あら?」
「お疲れ様!通報があったのって、このお店だったんだね」
「はい!」
高木は「終わったんですか?実況検分?」と聞く。
「ええ。あなた達はどうだった?」
「一応店内を調べたんですが」
「どうやらガセネタだったようで」
「だったら後で由美とカラオケに行くんだけど、あなた達も行く?名前さんは来られないみたいだけど」
「ごめんね!また誘ってね」
「ええ、いいですよ!」
高木は佐藤の誘いに乗るが、白鳥車に何も言わずに車に乗り込もうとドアを開けた。
「じゃあ君だけで行きたまえ。今日は、そういう気分になれないんで、僕も遠慮しておくよ」
そう言うと、白鳥は車のドアを閉める。
4人の話を聞いていたコナンは、高木に「ねえ、何の捜査でここに来てたの?」と聞いた。
「爆弾を仕掛けたって、変な予告電話があってね。今日は、7年前と3年前の爆弾事件と同じ11月7日だから、一応来てみたんだけど…」
「爆弾はなかったんだね」
「はい。二人で店内をくまなく捜しましたが、それらしき物はどこにも…」
高木が答えたタイミングで、ドンッ!!という大きな音が鳴り、白鳥の車から炎が上がる。
「白鳥君!?」
「し、白鳥君!!」
名前と佐藤、そして高木は一斉に白鳥の車に駆け寄り、白鳥の名前を呼ぶ。
「白鳥君!?白鳥君!!」
名前が運転席の中を見ると、そこに白鳥の姿はなかった。
「え?」
「き、危険です…は、早くその車から…は、離れて…」
「し、白鳥君!?」
名前達が後ろを振り返ると、白鳥が頭から血を流して道路に倒れていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、ああ…き、君の様にうまく逃げきれなかったようだがね…」
「高木君!すぐにこの道を封鎖して救急車を!!」
「は、はい!!」
「でも、喋れるんなら大丈夫そうね…」
佐藤がそう言うと、名前は白鳥の手を掴んで「ううん…これは多分急性硬膜下血腫…」と言った。
「え!?」
「右側頭部から出血して左の手足が麻痺してる…」
「早く病院に連れて行かないと、ヤバイわよ…」
名前に続けて灰原がそう言うと、佐藤は青い顔をして「そ、そんな…」とうろたえる。
「とにかく、ガソリンに引火したら二次爆発が起きかねん!救急車が来るまで、白鳥警部を車から離そう」
「そ、そうね…」
別の警察官が現場に到着すると、消火器を使って燃えている車の消火活動をする。
「けどよォ…ひでぇよな…」
「ええ、いったい誰がこんな事を…」
「犯人はわからねーが、狙いは警察官だって事は確かだぜ」
コナンの言葉に光彦が「え?」と聞く。
「店の中に爆弾を仕掛けたっていうガセネタで警察をおびき出し、刑事が店内の爆弾を探している間に、本物を車の中に仕掛けたんだよ。店の外に避難させられた大勢の客の影に隠れてな」
「…さっき見た感じだと、起爆装置は多分、車のドアを開けると安全ピンが外れて、もう一度開けて外に出ようとすると着火する仕掛けだよね…。白鳥君が車に乗ってすぐ降りようとしたのは…ま、まさか…」
名前は白鳥の方を見ると、白鳥の手には紙が握られていた。
「…紙」
白鳥が紙を名前に渡す。
「そ、それを…その紙を、すぐにあなた達に見せたくて…」
名前は白鳥から受け取った紙を見て目を丸くした。
「苗字さんの…絶対に捕まえたい、敵ですから…。佐藤さんを悩ませている…消せない記憶…それを吹っ切るチャンスですから…」
名前は、白鳥から受け取った紙に書かれている文章を読み上げる。
「”俺は剛球豪打のメジャーリーガー…さあ延長戦の始まりだ。試合開始の合図は明日正午、終了は午後3時。出来のいいストッパーを用意しても無駄だ…、最後は俺が逆転する。試合を中止したくば俺の元へ来い…。血塗られたマウンドに、貴様ら警察が登るのを、鋼のバッターボックスで待っている…”」
「…あ、あいつですよ…」
思わず手に手に力が入り、名前の持っていた紙の端はくしゃくしゃになった。