「砂糖と重曹はスーパーで買おうか」
「そうだね」
スーパーに入り、諸伏がカゴを持つとその姿を見た名前は思わず笑う。
「ふふ」
「あ、笑ったな」
「だって、諸伏君がスーパーのカゴを持ってる姿が面白くて」
「意外と似合うでしょ?」
「良いお父さんになりそう」
「そう?」
「うん。子ども達と話してる様子が、すごい慣れてるなって思ったよ!」
名前はそう言うと「下に兄弟がいたりするの?」と聞いた。
「兄弟はいるけど、下じゃなくて上に兄がいるんだ」
「じゃあ諸伏君は弟なんだ?」
「うん」
「お兄さんはどんな人?」
「オレと違っていつも冷静で、かっこいい…自慢の兄だよ」
「そっか」
砂糖を見つけた諸伏が「後は重曹か。樟脳とエタノールとかは薬局だね」と言いながらカゴの中に砂糖を入れる。
「重曹も薬局にあると思うよ?」
「じゃあ砂糖だけ買って薬局に行こう」
「うん」
レジに並び、今度は薬局に向かう2人。
「そう言えば、さっき公園に来た時ゼロと一緒だったけど何かゼロに用だったの?」
「え!?」
諸伏からの質問に、名前は先ほど降谷に言われた言葉を思い出し、少し顔を赤くする。
「苗字さん、顔赤いけど大丈夫?」
「だ、大丈夫!何でもないから!」
「怪しいな〜。ゼロに何か言われた?」
「な、何でもない!」
名前の様子を見て、諸伏は「(これはゼロの奴、何かしたな)」と思った。
その後、薬局で重曹、樟脳、エタノール、アルミホイル等、実験に必要な物を買った2人は、急いで先ほどの屋敷に戻る。
2人が屋敷に戻ると、ちょうど松田と伊達が、中にいた人間達と玄関で話をしている所だった。
「それにお前、オレらの後ろに鬼が写ってる写真撮って見せて、呪われてるからもう来るなって言ったんじゃんか!」
「さぁ、何の事やら…」
「こんな作り話を真に受ける暇があるんなら、もっと悪い奴を捕まえてくださいよ!」
3人組の内の1人がそう言ったのを聞いた諸伏は「じゃあ実験してみましょう!」と話に入る。
「お、名前、諸伏」
「ただいま」
「買ってきたか?」
「バッチリ」
「作り話かどうか、材料買ってきたんで今から再現してみましょう」
諸伏達が池の方に移動するタイミングで、FDを借りて来た萩原も合流する。
「本当に乗って来ちゃったんだね」
「上手くいったぜ!」
「絶対無傷で返そうね!」
「わかってるって!」
そんな萩原を見て、名前は「(本当にわかってるのかな…)」と心配になる。
「まずは燃えながら泳ぎまわる魚から」
諸伏から袋をもらった降谷は、中身を取り出して準備を手伝う。
「着物とかの防虫剤に使う”樟脳”を、これくらいの欠片にしてアルミホイルで作った板の上に並べて、その欠片一つ一つに火をつけます!」
小さな欠片になった樟脳を置いたアルミホイルの板を降谷が持ち上げると、諸伏はチャッカマンで火をつける。
「アルミホイルの板にしたのは火をつけても燃えなくて、ツルツルして水に滑り込ませやすいから!」
降谷が池に向かってアルミホイルの板を斜めにすると、火のついた樟脳は、そのまま転がっていき、池の中に落ちる。
「2人とも、よく見てて!」
名前に言われた新一と蘭は、池の中を見る。
「おーっ!」
「火が泳いでる!!」
「コレ、コレ!オレらが見たのはコイツだよ!!」
池の中に落ちた火のついた樟脳は、池の中を縦横無尽に動き始めた。
「どーしてこうなるの?」
「水に何かを浮かべると、その何かは目に見えない表面張力って力で色々な方向に引っ張られて止まってるけど」
「水に溶けた樟脳は、その表面張力を弱める力があって、さらに火をつけるとその部分の樟脳が溶けるスピードが上がって進むスピードも上がるんだよ!」
「へー…」
「2人とも理科の先生みたい」
「そ、そーお?」
名前と諸伏の説明が終わると、後ろの方から煙が上がっている事に新一達が気づく。
「あれ?なんかコゲ臭い…」
「煙…?」
2人は後ろを振り向くと、そこには黒い物体が煙をまといながら現れた。
「!?」
「で、出たァ!黒い蛇!!!」
「ジャーン♪」
「コレが黒蛇の正体だ!」
萩原が洗面器を持ち上げて、黒い蛇の正体を説明する。
「用意する物は砂糖と重曹とエタノール!重曹1に対して、エタノールと砂糖を5倍容器に入れて混ぜ、砂とか砂利を敷いた鉄製の洗面器の真ん中に混ぜたそれを盛り付ける!」
「そいつに火をつけたら砂糖が溶けてネバネバしてる所に、炭酸水素ナトリウムの熱分解で二酸化炭素が発生し、ネバネバした砂糖を膨らませ、さらに砂糖から水分が抜けて炭みてーになって…」
松田は萩原の持っている洗面器を指さしながら「このでけェヘビ花火になるてワケよ!」と言った。
「何だかよくわかんないけど、すっごいね!!」
「勉強になったかね?少年!」
「ああ…オメーは先生には見えねえけどな!」
新一にそう言われた松田は、笑顔のまま新一を睨む。
「陣平、やめなさい…ふふっ」
「名前!おまえも笑ってんな!」
2つの実験を見ていた男たちは「それで?今の実験が何だっていうんです?それを我々がその子達にやったっていう証拠はないし、やる意味もない!」と言った。
「そもそも、鬼が写ってる写真なんて、とっさに撮れるワケが」
「撮れますよ!」
「な!?」
間髪入れずに降谷が答えると、男たちは冷や汗をかく。
「暗い場所が必要なので、家の中に入れてくれたらの話ですが。まぁ、家の中に我々を入れたくない理由が何かあるなら、仕方ありませんけど…」
「じゃあどうぞ!」
男たちは、そう言うと降谷達を家の中に招き入れた。
「ちょい待ち!」
新一たちもついて行こうとするが、萩原がそれを止める。
「君達2人は俺とお姉ちゃんと車ん中で待ってようか!危ねぇし」
「うん!わかった!」
「…」
「良い子だね!」
蘭は返事をするが、新一は「オレは行くぞ!探偵だから!!アイツらが何を企んでるか知りてぇしな!!」と言って、家の中に走って行く。
「おいちょっと!」
「新一ィ!!」
「萩原君はこの子と車の中にいて!私が彼を追いかけるから」
「了解!…ったく、男の子だねぇ」
新一を追って家の中に名前が入ると、家の中が暗くなる。
「はい撮れました!これが子ども達が言ってた、奇妙な写真の正体です!」
そう言って降谷が見せたカメラの画面には、松田の顔が逆様に写った写真が表示されいた。
「それ、それ!オレらが獲られた鬼の写真もそんな感じだったぞ!」
新一がついてきた事に気づいた松田は、名前に「おい、ガキは入れんなって言ったろ?」と耳打ちする。
「そのつもりだったんだけど、あの子が”オレは探偵だからー!”って言う事聞いてくれなくて」
「ったく」
「男の子だねぇ。陣平の小さい頃に似てない?」
「似てねーよ!」
名前と松田が話をしている間に、降谷が写真の仕掛けを説明する。
「普段、明るい場所で写真を撮っても”副実像”は写らないんだけど、こういう暗い場所で手前の何かに強い光を当てて写真を撮ると、この通り、奇妙な写真が撮れるワケさ!」
そう言って、降谷はもう一度写真を撮って、新一に見せる。
「すっげぇ!!でもオレらが撮られた写真に写ってた鬼は上下逆様じゃなかったけど」
「それは恐らく、彼らがその写真を撮った時、鬼のお面か何かを逆さにして撮ったからさ!」
そう言うと、降谷は電気をつける。
「そう、例えば…あんな風なお面をね!」
「アレだ!」
新一は壁の柱に飾ってある鬼のお面を見つけると「写真に写ってた鬼!アレとそっくりだったぞ!!」と言った。
「…って事みたいなんですが、まだしらばっくれます?」
「あ、いや…」
「それに、さっきポストのそばに落ちてた電気料金のハガキ見ちまったんだけどよ」
「え!?」
「1か月3万って高すぎるだろ?まさかアンタら…」
「1か月3万?そりゃーかかりますよ。だって我々…」
男は廊下に面している部屋のドアノブを回しながら「デイトレーダーなんでね!」と言って、部屋を開けた。