「さっさと歩く。あんたには色々聞きたい事があるんだから、覚悟しなさいよ」
「…」
名前に気づいた佐藤が「名前さん…」と名前を呼ぶ。
「名前さん、手錠をお願いします」
「…」
佐藤が連れて来た犯人の手には、手錠がかかっていなかった。
佐藤は、名前に手錠をかけさせるために犯人の両腕を後ろで拘束していただけだったのだ。
名前は戸崎の手を借りて立ち上がると、犯人の方に歩き出す。
「…」
犯人と向かい合うように立つと、名前はこぶしを振り上げると犯人の顔を思いっきり殴った。
「!?」
「名前さん!」
犯人が体勢を崩してしりもちをつくと、名前は犯人の胸倉を掴んで「…返してよ…」と犯人に聞こえるように言う。
「あんたが奪った、私の大事な幼なじみ2人の命を…返してよ!!」
名前が泣きながら叫ぶと、犯人は何も言わずに名前から目を逸らす。
「私はあんたを絶対に赦さない…奪った命の重みを…ちゃんと理解して、一生後悔しながら反省してください!!」
「…っ」
名前が手錠を取り出して犯人の手首にかけた事を確認すると、高木が犯人を立ち上がらせてパトカーに連れて行く。
その場から動かない名前を、佐藤は「名前さん…」と名前を呼んで、両肩を支えるようにしながら立ち上がらせた。
「美和子ちゃん…」
「…」
名前は犯人がパトカーに乗せられて、そのまま本庁に連行されていくのを見つめながら「…終わった…」とつぶやいた。
「…名前さん」
「…終わった…んだね、これで…」
「終わりました…」
「私達も本庁に戻ろうか」
「…はい」
名前達が本庁に戻ると、松本に声をかけられる。
「苗字」
「松本管理官…」
「やっと、逮捕できたな。だが、犯人を殴ったと聞いたぞ。警察官は、どんな時でも公私混同をしてはいけない」
「…はい。申し訳ございませんでした」
松本は「まあ、今回ばかりは目を瞑ろう」と言って笑った。
「ご苦労だったな」
「ありがとうございます」
そこに戸崎が合流すると「苗字さん、犯人の事情聴取を担当しますか?」と名前に聞く。
「…多分、今の私だと公私混同してしまうので、別の方に担当してもらってもいいですか?」
「…分かりました。それでは私が」
「ありがとうございます」
名前は一礼をすると、捜査一課に戻る。
「名前さん、お疲れ様でした」
「美和子ちゃんも」
「お疲れ様です、苗字さん!」
「お疲れ様。いや〜、長い2日間だったね」
名前がそう言って笑うと、佐藤と高木も「そうですね」と同意した。
「…本当に終わったんだね」
「はい」
「…私、このまま抜けてもいいかな?陣平と研ちゃんに報告しに行きたいんだ」
「もちろんですよ!後の事は任せてください!ね!佐藤さん!」
高木がそう言うと、佐藤も「ええ。ゆっくり報告してきてください」と微笑んだ。
「ありがとう!」
名前は本庁を出ると、渋谷に向かった。
「(そうだ、千速さんにも連絡入れておかないと)」
名前は、千速にメールを送ろうと思い携帯を取り出すが、充電が切れている事に気づく。
「あれ?なんでだろ。後で連絡しよう」
充電のない携帯をカバンに仕舞い、名前は萩原家のお墓のある月参寺に向かう。
月参寺に到着すると、名前は萩原のお墓に急いだ。
お墓の前に到着すると「研ちゃん、報告だよ…!やっと、やっと逮捕できたよ!」と、涙を流しながら萩原に報告をした。
「7年も…待たせてゴメンね。敵を討つ前に、陣平を犠牲にしちゃってゴメンね。2人は、そっちで楽しく過ごしてるかな?私も、今日そっちに行くかもしれなかったんだよ」
名前がそう言った瞬間、後ろから「名前…!」と名前を呼ばれた。
「…零君」
振り返ると、息を切らした降谷が泣きそうな顔をして立っていた。
「名前…名前…!」
降谷は名前に駆け寄ると、力いっぱい抱きしめた。
「れ、零君…苦し…」
「い、生きてるよな…生きてるな…」
名前は、昼間に降谷に送ったメールの内容を思い出し「零君、ごめんね…。あのメール…」と説明しようとする。
「あんな、あんな…最期の別れみたいなメールを送ってきたっきり連絡が取れなくなって…俺がどれほど心配したか、おまえに分かるか?」
「ごめんね。いつの間にか充電切れちゃってて…」
「…よかった…。おまえが生きていて…本当に…」
名前は抱きしめ返すと「色々あったけど、零君ももう知ってるかな?やっと、逮捕できたんだ。あの爆弾犯…」と伝える。
「…ああ。ニュースを見たよ。東都タワーのエレベーターに仕掛けられた爆弾が爆発しなかった時点で、名前は生きていると分かっていたが…あれっきり連絡もないし、電話もつながらないから、生きた心地がしなかった」
「それは本当に申し訳ないです」
「…名前…」
降谷は、名前の存在を確かめるように何度も名前の事を抱きしめる腕に力を入れる。
「多分、おまえの事だから2人に報告に行くだろうなと思って…来てみて正解だったな」
「さすが零君、私の事分かってるね」
「当たり前だろう。何年の付き合いだと思ってるんだ」
「フフッ」
抱きしめていた腕を放すと、降谷は「名前、お疲れ様」と言って微笑んだ。
「…うん…ありがとう。やっと、やっとだよ…」
名前の瞳から流れ落ちる涙を、降谷はやさしく拭う。
「私ね、犯人を逮捕する前に1発殴ってやったんだ!スッキリしたよ!」
「名前…」
「手錠をかけた時…”ああ、これで終わったんだ。2人の敵を取ったんだ”って思ったんだけど…でも、一瞬…これからの生きる意味みたいなものが分からなくなっちゃったんだ」
「…」
名前はそう言うと、顔を伏せて「この7年間…私の生きる意味は”陣平と研ちゃんの敵を討つ事”で、それが叶ったのは嬉しいんだけど、それでも…2人は返ってこないから…」と続けた。
「…そう思ったら、ちょっと力が抜けちゃった」
「…名前…」
降谷はもう一度名前の事を抱きしめると「…これからは、僕と一緒に生きていく事を生きる意味にしてほしい」と名前に伝える。
「零君…」
「一緒に生きて、たまにあいつらの事を思い出しながら酒でも飲んで…、2人で笑って残りの人生を生きていこう」
「フフッ、零君ありがとう。私、零君の前では弱音ばっかり言っててゴメンね」
「僕の弱音も聞いてくれてるだろう。お互い様だ」
名前は、降谷の背中に腕を回すとギュッと抱きしめる。
「零君、大好きだよ。零君がいるのにこんな事思ってゴメン」
「いいよ。それだけ名前が松田と萩原の事が好きだって事だろ」
「…」
名前は降谷の背中に回していた腕を放すと、自分の手で両頬を叩いた。
「よしっ!」
「名前?」
「気合入れたの!明日からも頑張ろうって!」
「ああ」
降谷が「大丈夫か?」と聞く。
「うん!陣平だって、私の幸せを最後まで願ってくれてたから、幸せにならないとね!」
「そうだな。僕も、名前の事をちゃんと幸せにしないと、萩原にも申し訳ないからな」
「え?」
「男同士の約束だ」
「何それ〜」
そう言って笑う名前の姿を見て、降谷は安心した。
「送って行く」
「え?大丈夫だよ?零君、仕事は?」
「風見に頼んだから大丈夫だ」
「風見?」
「僕の部下だ」
降谷がそう言うと、名前は「前に、私がお腹撃たれた時に零君に報告してた刑事さん?」と聞く。
「ああ。ヤツも公安の刑事だ。名前と同じ警部補だよ」
「へー。いつか会う事もあるかな?」
「どうだろうな?同じ警視庁だから、どこかで会う可能性はあるかもしれないな」
降谷は目を細めて「なんだ?名前は風見の事が気になるのか?」と聞いた。
「えっ?そ、そりゃあ零君の仕事をしている姿を知ってるんでしょ?話聞いてみたいな〜なんて」
「…なるほどな」
「風見刑事の事自体が気になるわけじゃないよ?」
「そうみたいで安心だ」
降谷は名前に手を差し出すと「帰ろう」と言って微笑む。
「うん!」
名前は返事をすると、笑顔で降谷の手を取った。